青空、ひとりきり

鉄路と旅と温泉と。日々の情景の中を走る地方私鉄を追い掛けています。

いつまでも 壊れるだけじゃ やるせなし。

2022年08月11日 17時00分00秒 | アルピコ交通(松電)

(アルピコ交通・田川橋梁@西松本~渚間)

諏訪盆地と安曇平を分ける塩尻峠を源流として、松本市街から奈良井川・梓川に流れ込む田川。どこの街にでもありそうな何の変哲もない小規模河川ですが、昨年の8月、豪雨による増水で橋梁の真ん中の橋脚が洗堀により沈下。橋のガーター部分が折れ、上高地線は長期に亘って運休を余儀なくされました。経営の盤石ではない地方のローカル私鉄において、橋梁の損壊というものは土木設備の大きな損失。同じ長野県では、令和元年の台風19号で千曲川橋梁を失った上田交通が大きく報道されましたが、このアルピコ交通も田川橋梁も被災から復旧まで10ヶ月を要し、その間は松本駅~渚駅間を代行バスが結ぶという不便を強いられることとなりました。

復旧なった田川橋梁。橋の復旧とともに護岸工事も再度行われたと見えて、川の周辺は新しいコンクリートの擁壁で丁寧に整備されています。長さとしたら100mもないだろうこの橋、果たして復旧するのに10ヶ月もかかるのかな・・・突貫工事で直せばもうちょっと時間短くならないか?と思ったりするのだけど、松本市市街地の河川との事で、治水計画を見直した上で護岸工事と並行して進めないといけないだろうし、橋を直す費用だって地方自治体や国の支援を仰いだのだろうしね。このクラスの橋梁を修繕するのにどのくらいの費用が掛かったのか知る由もありませんが、収益性の高くない地方のローカル私鉄が、自力で橋梁設備を復旧する費用はさすがに負い切れないと思いますんでねえ。

復旧なった田川橋梁を渡るアルピコ交通の電車。今年も7月後半から、東北地方を中心とした日本海側に線状降水帯を伴う集中豪雨が続いていて、報道されるだけでも磐越西線の濁川橋梁(喜多方市)、米坂線の小白川橋梁(飯豊町)が落橋、そして奥羽本線の北部や五能線でも橋梁の軌道ズレや洗堀による橋脚の変異があって、北東北の交通網はズタズタになってしまいました。これも復旧には相当な時間を要すものと思われますが・・・磐越西線や米坂線のような古く明治~大正時代から走り続けていた路線の橋梁が「落ちる」という事、要は線路が敷設されて1世紀以上なかったレベルの雨と洪水が設備を破壊したという事になる。気候変動が叫ばれて久しい昨今、「数十年に一度」が毎年毎月起こるような状況に麻痺しがちになるのだけど。

特に地方私鉄・地方ローカル線については、老朽化した橋を架け替えたり線路を付け替えたりというような抜本的な災害対策は収益面からはほぼ行われず、長らく補修・修繕によって維持されて来たのが実情と思います。それこそ橋梁などは例えば下路トラスにして思い切り径間を広げ、ある程度の長さでもワンスパンで渡り切るみたいな、「洪水で流されないよう、そもそもの橋脚を減らす」ような抜本的な改良をしないと、このままではいずれみんなやられてしまうのではないだろうか。

最近叫ばれる国土強靭化ってのは、ただ橋や線路が壊れたり流されたりするのを待つだけじゃない「攻めの防災」の取り組みを、地道に進める事なのではと。ただ、公共投資を将来性も収益性も見込めない地方鉄道に注入するのかという議論が絶対に起こるので、そこを覆して行く「地方鉄道を守らねばならない理由」をみんなで考えないとならんのかなあと思います。うーん、交通インフラなんて赤字でもしょうがないと思うのですが、そうは問屋が卸さないのが昨今の地方の疲弊でもあります。

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新車デビュー これからよろしく ニュー松電。

2022年08月06日 17時00分00秒 | アルピコ交通(松電)

(アルピニストを待つ@新島々駅)

富山からの帰り道、安房峠を抜けた前川渡の道の駅で仮眠。朝4時頃に目が覚めて山を降りたら、新島々の駅で夜が明けた。駅前にずらりと並ぶアルピコグループの路線バス。上高地を始め、乗鞍高原、白骨温泉、そして平湯・高山と北アルプスの山岳地帯へ分け入るアルピニストや観光客の重要な足。安房峠道路が開通し、信飛間の公共交通での行き来はだいぶ楽になりましたが、かつての旧道安房峠のつづら折れの坂道こそなくなったものの、奈川渡ダムの前後に残る幅員の小さい連続トンネルと大型バスが入線するにはかなりシビアな隘路。熟練のドライバーの腕が試される山岳路線でもあります。

大量の大型ハイブリッドバスが居並ぶ新島々駅前。まだ始発電車の時間ではありませんが、新島々のホームで滞泊中の上高地線の電車。ここも京王3000系。浅電の3000系と違ってパノラミックウインドウの後期型ですが、何だか少々煤け気味。アルプスの山に分け入るアルピニストたちを、JRの松本駅からここ新島々まで運ぶのがアルピコ交通・上高地線ですが、アルピコ交通ってーと何となくバスの印象が強くて、旧・松本電気鉄道(松電)の言い回しで説明した方がイメージは湧きますね。松本電気鉄道・川中島バス・諏訪バスの3社がくっついたのがアルピコ交通で、長野県における同社のバス部門の大きな営業網に比べると、元々の松本電気鉄道の鉄道事業の規模は微々たるものです。

そんな上高地線の電車を、新島々の次の駅である渕東(えんどう)駅で撮影してみることに。徐々に明るくなっていく梓川流域。田んぼの中にポツンと佇む雰囲気の良い駅。上高地線、昨年夏の豪雨で松本市街にある田川の鉄橋が落ちてしまい、6月にようやっと全線で運転を再開したばかりなのですよね。久し振りに復旧した「松電」の姿を、朝のいい光線で撮影する愉しみ。

七月の早い時期の朝、朝露にしっとりとガクアジサイが濡れる。安曇野の朝の空気の中、松本行きの始発電車としてやって来たのは今年の春に新車として投入された20100形でした。東武の日比谷線直通車として働いていた東武20000系を改造して、まずは1編成目が上高地線に投入されています。この車両によって、現在使われている元京王井の頭線の3000系は徐々に置き換え、ということになるのだそうで。

この前日に見て来た北陸鉄道の浅野川線と、アルピコ交通上高地線には大きな車両上の共通点があって、どちらも現在京王3000系を使用しており、それを最近になって東京メトロの日比谷線に関連する車両で置き換え始めています。北鉄浅野川線の営団03系に対してこちらは東武20000系ですが、おそらくどちらも京王重機整備に車両導入を依頼しているために、タネ車が似通ってしまうのでしょう。東急7000系やその後進の1000系、日比谷線3000系と03系の実績でも分かるように、オールステンレス(またはアルミ)で大量に作られ、なおかつ長年18mの3ドア車で営業して来た日比谷線の車輛は、基本的に地方私鉄が求める物を全て備えた極めてパフォーマンスの高い車両のようです。(日比谷線も後継車両は20m4ドア車が入ってしまったので、これからはサイズ感が合わなくなってくるのかな)

暁の空に向け、始発電車が松本へ向かって坂道を降りて行きます。東武の20000は大半が館林の津覇車輌で日光線ローカルの20400系に改造されたんですが、松電向けには都合4編成が導入される事が内定しているそうです。おそらく20000系→20400系への短編成化に伴って余剰となった中間電動車改造なので、後付けの運転台の妻面の表情がのっぺりしているのがやや味気ない。表情は何となく仙石線とか鶴見線の205系っぽさがありますが、サイドビューはモロに東武車が残っているのが面白いですね。おそらくは寒地用の霜取り用補助パンタが両サイドにあるので、寒い時期に前パンが上がった際なんかも見てみたいですねえ。

コメント (1)
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