これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

霧の谷川岳

2023年08月27日 22時52分25秒 | エッセイ
 コロナが5類引き下げとなってから、親友の幸枝と出かける機会が増えた。
「今度、天神峠に行ってみない?」
「どこにあるの、それ」
「上毛高原からバス。割に近いよ」
「ふーん。行ってみたい」
 よくわからなかったので、ネットで調べてみたら、麓の土合口駅まではバスで行き、そこからロープウェイに乗って天神平駅に上がり、リフトか徒歩で天神峠に到着するようだ。それはともかく、天神平から分岐するもう一つの道を行けば、あの谷川岳に登れるということもわかり驚いた。
「えっ、すごい。せっかくだから、ちょっとだけ谷川岳も登ってみたいな~」
 アウトドア派の幸枝は何度も谷川岳を制覇している。どんなものかと聞いてみたら、予想に反して彼女はいい顔をしなかった。
「初心者コースって書いてあるけど、岩場が多くて危ないよ。下りられなくなって泣いている女性もいたし、毎回のように救助のヘリが飛んでるからね」
「ふーん」
「しかも、登ったと思ったら下りになって、また登り直し。それの繰り返しだけど大丈夫なの」
「……大丈夫じゃないかも」
 ちぇ~っと思ったが、足手まといになってもいけないので、今回は素直に諦めることにした。山は逃げないから、もっとコンディションのよいときにしよう。
 当日、東京都心の最高気温は37度だった。汗をかきかき電車に乗り、大宮から新幹線に乗って上毛高原に着く。まずは、標高746mの土合口駅からロープウェイに乗った。
 料金表を見ると、「ペット800円」との表示に気づき、クスリと笑う。犬などは喜んで走り回ることだろう。



 しばらくすれば、標高1319mの天神平駅に着く。一気に573mも上がってきたわけだ。ロープウェイから外に出ると、空気がひんやりしていた。
「うっ、寒ッ!」
 それもそのはず、霧が深くて景色が霞んでいる。





「遠くが見えない」
 展望の頂と書いてある案内板を目にして、どこがだよと毒づいた。



 そんなときでも幸枝は楽しんでいる。
「じゃあさ~、まず、あの鐘を鳴らしてみよう!」



 カランカラーンと乾いた音が響き、トレッキングが始まった。行く手は霞んでいるけれど……。



 幸いなことに雨は降りそうにないが、山も見えない。
 めげずに、上り坂を歩いていく。





 途中で、石の上に載っている犬の糞にギョッとした。踏んでしまったら大変じゃないかと顔をしかめる。街中でも山の上でも、糞の処理はしっかりしていただきたいものだ。
 標高が高くなるにつれ、徐々に景色が変わってきた。





「おお~、何か山らしい景色が見えてきた!」
「霧が晴れてきたね」





 まもなく天神峠。天神平駅からリフトに乗れば、山道を歩かずに来られるので、スカート姿の女性や軽装の男性も見えてくる。苦しい思いをしたくはないが、山の空気や景色を堪能したいという方にはいいだろう。
「着いたっ!」
 標高1500mジャストの天神峠に到着だ。181m上がるのに約40分かかった。



 しかし、霧しか見えない……。
 1977mの谷川岳が見える絶景スポットも、ひたすら白い。



「うーむ」
「むむむ」



 展望台に上って、「そのうち霧が晴れるのでは」と期待し待ってみたが、一番よく見えたときでもこの程度。



 私に登られたくなくて、谷川岳は姿を見せてくれないのかも。拒否されると「なんでよ~!」と余計に燃えてくる。
「今日は無理だね」
「うん。神社でお詣りして帰ろう」



 諦めて下山を始める。帰りはゲレンデから下ってみた。こちらは割に明るい。





 谷川岳は一部しか見えなかったけれど、他の山が見えたから気分も上がる。山には人の気持ちを高揚させる何かがあるから、山岳信仰なるものが生まれたに違いない。毎日、仕事で小さいながらもトラブル多発でストレスを抱えているが、「そんなものは、どうでもいい」と割り切れるようになるのが不思議だ。
 ロープウェイに乗る前にランチをいただく。シチューのパングラタンにした。



 ちなみに、おみやげは幅4cmのこのうどん。



 埼玉県鴻巣市の川幅うどんよりは細いが、家族には「おもしろい」と好評だった。まだ食べていないけど。
 さあ、次こそ、谷川岳につながる道に行ってみよう。

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むくみが悩み

2023年08月20日 21時35分27秒 | エッセイ
 むくみやすい体質は損だ。
「ああ、また靴下のあとがついてるよ。指輪も抜けないし、キーッ!」
 夏は特にいけない。汗腺が発達していないのか、あまり汗をかかない割に、喉が渇くものだから、どうしても水分を多くとりがちだ。仕事を終えて履き替えた靴がきつくなり、翌朝は顔が腫れぼったくなる。運動しても、出た水分より飲んだ水分の方が多くて、かえって体重が増えると虚しい。
 唯一の救いは熱中症になりにくいことだろうか。体に水分をため込んでいるので、暑い部屋で掃除をしても、料理をしても、具合が悪くなることはない。
「もしかして、暑い部屋にいるから、むくんでしまうのかも?」
 どちらが先なのだろうか。体脂肪計に乗ると、16%とか17%という数値が表示されるので、やはり、余計な水分で重くなっているようだ。
 友人から「ラクダみたいだね」と言われたときは苦笑するしかなかった。猛暑、酷暑の毎日に適応しようと、体が変化したのかもしれない。でも、ラクダではちょっと……。
「むくみを撃退する食べ物ないかな」
 心当たりがないこともない。たとえば、血行をよくする玉ねぎなどは、間違いなくプラスに働くだろう。生食の方が効果大と知り、ネットでレシピを見て「酢玉ねぎ」を作ることにした。
 まずは玉ねぎを薄切りにする。



 これに酢・水・ハチミツを煮立てたものをかけ冷ます。
 保存容器に入れ、6時間たったら食べられる。



「うん、酸っぱくて美味しい。これだったら簡単だから続けられるわ」
 玉ねぎは一度に4分の1個、約50gを食べないと効果が期待できないという。毎日せっせと食べていたら、尿量が増え、体が軽くなってきた。これはいいと思っていたのに、1カ月ほどで問題が起きた。
「いたたたた、歯が、歯が」
 私は歯が弱い。虫歯の治療跡だらけで、知覚過敏になっている箇所も多いせいか、酢との相性が悪かった。硬いものを噛むと痛みが走り、料理方法を変える必要に迫られた。
「じゃあ、焼き玉ねぎかな」
 次にチャレンジしたのは玉ねぎのソテーだ。
 薄切りにするところは同じだが、油を敷いたフライパンに入れる点が違う。



 そのまま火をつけ、フタをして弱火で蒸し焼きにする。



 10分ほど経ったらかき混ぜて、さらに10分焼けば甘味が出て食べやすくなる。
 これに醤油をかけ、かつおぶしをまぶせばでき上がりだ。



 粗熱がとれたら容器に入れる。といっても、結構な量なので、それなりに大きくないと入りきらない。それでまた、酢玉ねぎの瓶を使った。



「液体じゃないのに、何かおかしくない?」
 家族からは不評だったけれど、他に選択肢はない。知らん顔をしてやり過ごした。
 かくして、むくみは順調にとれている。体重もかなり減ってきた。お腹周りもスッキリして体が軽い。血行がよくなると、肌も若がえり、40代に見られることもある。
 私と同様に、むくみやすい方はぜひお試しを!
 それにしても、この暑さはいつまで続くのだろう。
 もし、クーラーが壊れたりしたら、玉ねぎをやめてラクダに戻ろうっと。

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日傘の買い替えどき

2023年08月13日 20時32分17秒 | エッセイ
 夏の日傘は必需品。
 紫外線が気になる年代から使ってきたが、しばらく経つと破れたり折れたりして買い替え、今のものは6代目ぐらいだ。



 刺繍が気に入り、できるだけ長く使いたいと思っている。



 傘だけでなく、収納袋の防水性も高く、濡れた状態でバッグにしまっても安心できる。



 ところが、結構、トラブルが起きて、私に買い替えを迫ってくる。
「あれえ、柄が畳めない……」
 最初の問題は伸ばした柄が縮まらないというものだった。布の部分は畳んであるのに、バッグから鶏の骨のような柄がニョキッと顔を出し、どうにも見苦しい。
「滑りが悪くなってるからいけないんだ。オイルを塗ってみよう」
 解決策がひらめく。さすがに天ぷら油はやめた方がいいだろうと、スクワランオイルを塗ってみる。すると、スムーズに動くようになり、伸びた柄を押し込もうと悪戦苦闘することはなくなった。
 次に、伸びた柄を固定できないというトラブルに見舞われた。
 ある日、傘を閉じたときに「ポロッ」と落ちていく何かを見た。すぐにはわからなかったのだが、伸ばした柄を固定するための金具だったらしい。



 ボール状のパーツがついていた場所に丸い穴が空いていたので、「これはまずい」とわかった。駅に着き、傘を差しても、「ひゅうぅ~」と柄が縮まってしまう。このぐらいの、冗談みたいな長さになってしまい、非常に困った。



 きっと、すれ違った人から「何だアレ、あはは」と指を差されるだろう。うーむ。
「そうだ、金具があったところを持てばいいんじゃない?」
 取っ手ではなく、少々上の部分を持てば、この問題もクリアだ。はっはっは。
 しかし、最大の問題を知ってしまい、ちょっと困っている。
「笹木先生、UV加工には寿命があるので、日傘は毎年買い替えるものなんですよ」
 若手の女性職員からやんわりと、紫外線対策について指摘を受けた。調べてみたら、たしかにそんなことが書いてある。1年とは書いていないが、2~3年でUV加工の効果がなくなるため、買い替えのタイミングを迎えるものだという。
「えー、今年でもう3年目だから、効果ないかも。まだ使えるのにどうしよう」
 ひとまず、9月まではこれでいこう。
 来年は……同じ傘を死に物狂いで探してみようかな。

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しょっぱいマンデリンフレンチ

2023年08月06日 21時37分00秒 | エッセイ
 毎朝、職場に着くとすぐにコーヒーをいれる。
 マンデリンフレンチの豊かな風味が口いっぱいに広がり、幸せな気分になったところで楽しくない仕事に取りかかる。仕事が嫌いなわけではないが、休日に家でのんびり過ごす方がよいに決まっている。特に月曜日は気合いが必要だ。
「ぶつくさ言ってないで、さあ頑張ろうか」
 その日も、エンジンがかかったはずだったが、何やら左の奥歯がジンジン脈を打っていた。
「いたたたた」
 どうやら熱いコーヒーが歯に沁みたようだ。上の奥歯、ちょうど犬歯の隣あたりが痛い。虫歯だったら厄介だが、気をつけて様子を見なくては。
 モチベーションはイマイチ上がらなかったが、その日はそれ以上悪くならなかったからまだよかった。
 問題は次の日だ。お約束のモーニングコーヒーを三口ほど飲んだところで、上の奥歯だけでなく、下の奥歯まで痛くなってきた。
 ズキズキ、ズキズキ。
 痛みと連動して左目から涙がブワッとにじむ。頬を伝って口に入り、しょっぱい味がした。これはただ事ではない。
「ひー」
 涙だけではなかった。左耳付近のリンパも腫れているし、肩も凝っている。これは医師に診てもらわないとダメだろう。私は涙目で電話を掛け、歯科の予約を取った。
「笹木さん、これは知覚過敏ですね」
「あらまあ、またですか」
「磨くとき、どうしても左側に力が入っちゃうんでしょう。何本も削れています」
「ああ……」
 心当たりはある。歯ブラシを替えたせいだ。「やわらかめ」と表示されているものを買ったのだが、なぜか、それまで使っていた「ふつう」表示のものより硬かった。そのときは、疑問を感じながらも「まあいいや」と思ってしまった。力を抜いて磨けば平気だろうと考えていたが、朝の慌ただしい時間だと雑になる。そこで傷ついたのかもしれない。
「薬を塗っておきますから、来月また見せてください」
「はい」
 医師が塗ってくれたものは、白いコーティング剤のようなものだった。完全に沁みなくなったわけではないが、通院前に比べれば9割減といったところか。あとは時間の経過とともに軽くなっていくはず。
「あー、腹立つわぁ。あの歯ブラシは掃除用にしてやる」
 硬い分、さぞかし汚れが落ちるだろう。
「で、新しい歯ブラシはどうしよう」
 もしや、買い置きがあったかもと引き出しを漁ってみる。
「あったあった」



 パッケージには「ふつう」と書かれたものが見つかったが、これは夫に使ってもらおう。
「他のないかな」
 別の引き出しを開けて探してみると、それらしいものが目に入る。
「ややっ」



 ラッキーなことに、以前使っていたものと同じメーカーで「やわらかめ」のものが見つかった。
 買い置きをすっかり忘れ、「ヘッドの小さいやつにしようかなぁ」と安易に買い替えたことが間違いだったわけだ。
「最初から、これを使えば痛い思いをしなくてすんだのに」
 唯一の利点は、痛くて食欲が抑えられ、余計なものを食べずに済んだことかもしれない。
 ようやく涙がとまってきた。
 明日はきっと、熱いマンデリンフレンチが美味しく飲めるはず!

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