これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

侵入者

2021年01月31日 20時54分51秒 | エッセイ
 先週は勤務校の推薦入試があり、仕事量が増えて忙しかった。
「やっと土曜が来たぁ~。ゆっくり休もうっと」
 いつもより遅く起き、パジャマのまま本を読んだり、洗濯をしたりする。解放感があって、かなりリラックスできるのだ。宅配便がきたら、夫に頼めばよい。



 ちょうど、東野圭吾の『流星の絆』を読み終わったところだ。面白くてよかったと、しばし余韻に浸る。
 だが、この日は9時半過ぎに電話がかかってきて、事情が変わってしまった。
「もしもし笹木です」
「すみません、職員のタカハシです。お休みのところ申し訳ありません」
 休日に職員から連絡があるときは、大抵ろくなことではない。私は警戒モードに入った。
「授業の準備が終わっていないので、今、学校に来たのですが、警備会社と警察の方が何人もいます」
「なんと」
「侵入者が確認されたそうで、校内を調査するようです」
「あらま」
 昔は学校で警備員を雇っていた。でも、20年ほど前から機械警備になったので、何か問題が起きると警備会社が対応してくれる。内容によっては、警察も来るのだとわかった。どうも、のんびり過ごしている場合ではないらしい。
「じゃあ、私もこれからそちらに向かいます。ちょっと待っててください」
「すみません」
 と言ったものの、すぐに出発できる状態ではない。まずは洗濯物を干し、着替えて顔も洗わないと、とても他人様の前には出られない。
「ひええええ」
 さきほどまでの優雅さとは打って変わって、超特急で動き始めた。洗濯物を干すのに5分、洗顔に10分、着替えに5分という具合だ。えーと、帰りにスーパーに寄るのだから、買い物リストも持っていかないといけないし、スマホのバッテリーが残り30%だから、充電器もいるか。
 あとはコートを着るだけというときに、またタカハシさんから電話がかかってきた。
「校内の確認が終わりました。荒らされた形跡がないので、生徒が忘れ物を取りに来ただけなのではと言われました」
「ふーん」
「みなさん、もうお帰りになりましたから、笹木先生もいらっしゃる必要ないようです。警備会社の報告書には、1階の非常口が未施錠のため、そこから侵入と書いてありました」
「えええ? ちゃんと閉めたんだけどな」
「そうですか? 私も授業の準備が終わったら帰ります。お騒がせしてすみません」
「はあ。ありがとうございました」
 結局、行かずに済んだのは助かったが、どうも解せない。私はたしかに非常口を閉めてから帰ったし、たまたま出くわしたバスケ部の顧問もそれを確認している。おそらく、生徒は財布やスマホといった、急を要するものを取りに来たと思われる。非常口が閉まっているからといって、簡単にあきらめるとは思えない。カギを閉め忘れた窓を探し、そこから侵入したのではないか。
 たとえ窓から入っても、同じ窓から出るわけないだろう。出るときにこそ、非常口を開けたのだ。
「あああ、クソッ! 間に合えば説明できたのに!」
 なんだか、すごく悔しい。
 まずは、戸締りを徹底するようにしよう。
 それから、パジャマでいる時間を短くしなくちゃね。


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歯科医が勧めるコロナ対策

2021年01月24日 20時47分59秒 | エッセイ
 知人が舌がんの手術をした。幸い経過は良好で、転移もしていなかったようだ。今ではすっかり元気になったが、定期的な通院や検査が必要らしく、気が抜けないとぼやいていた。
「怖いなぁ。私は大丈夫かしら」
 鏡で口の中を確認してみる。舌の表面や側面には異常がないけれど、裏面には黒い小さなホクロのようなものがあった。
「うわうわうわ、これはひょっとして……」
 ちょうど、歯医者の予約日が近づいていた。医師にズバリ尋ねてみるのがよかろう。
「笹木さん、その後、お変わりありませんか」
 緊急事態宣言のせいか、歯科はガラガラで、医師とも話しやすい。私は治療を受けながら、話の切れ目を待っていた。
「歯茎の状態はいいですよ。安定しています。この調子です」
「犬歯のところは、歯周ポケットが深めなので気をつけてください。今は大丈夫です」
 医師の話はなかなか途切れない。コミュニケーション能力のない人だと、相手の話を遮ってでも自分の話を聞いてもらおうとするのかもしれないが、それは得策ではない。辛抱強く待っていたら、かなりためになる話を聞くことができた。
「歯周ポケットは、ウイルスやバイ菌が繁殖するのに最適な場所なんです」
「へええ」
 適温ということを考えると納得できる。
「コロナウイルスも、ここで繁殖するんですよ」
「え」
「コロナで亡くなった方は、死因のほとんどが肺炎か誤嚥性肺炎です。口の中で増えて、そのまま肺に行くわけです。だから、増やさなければいいんです」
 医師が一番言いたかったのは、これであろう。かなり熱がこもっていた。
「外出から戻ったら、まずお風呂に入ってウイルスを洗い流しましょう、なんて言っていた人がいましたが、まったくのナンセンス。帰ったら真っ先に歯間ブラシですよ。あとは、うがいと手洗い、人混みの中ではマスク。インフルエンザと同じです」
「はい」
「歯周ポケットを浅く保つ工夫をすれば、コロナは怖くありません」
 患者一人ひとりに同じような話をしているのではと察した。歯科医が啓発する感染症対策は、なかなかの説得力がある。



 ちなみに、本校の産業医が啓発する感染症対策は「自分がコロナウイルスを持っていると思って行動すること」だ。家族であっても、コップやタオル、衣類などを共用しない、食事中にペチャクチャしゃべらないなどを守ることで、いざというときは役に立つ。できることは何でもやらないと。
 ハッと気づいたら、話が途切れていた。すかさず、医師に、これは舌がんではないかと質問してみた。
「いえいえ、何ともないですよ。舌がんは蜘蛛の巣みたいになっているから、見たらすぐにわかります。内臓と違って見えるだけいいですけどね」
 よかった、違ったみたいだ。
 でも、今は違うというだけで、この先も大丈夫という保証はない。
 がんもコロナも、対策立てていきましょう。


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風船バレー

2021年01月17日 21時34分36秒 | エッセイ
 先日読んだ文に、「スポーツにはストレスを解消する働きがある。コロナ禍の今こそ運動を」とあった。
「それはよーくわかる。でも……」
 私は2016年からジムに通い、スカッシュを続けてきた。しかし、四方を壁に囲まれている上、狭いスカッシュコートは感染リスクが高い。更衣室等がクラスター発生の原因となったニュースもあったし、安全になるまで控える方が無難である。最初の緊急事態宣言とともに退会し、今は筋トレぐらいしかしていないのが現状だ。
「家で手軽に体を動かせないかな」
 とはいっても、うちが大豪邸であるはずもなく、狭い部屋の中でできることは限られている。家具や電化製品を傷めず、楽しくできるスポーツはないかと頭をひねった。
「そうだ、風船なんてどうよ」
 もし、10人の人に「風船はスポーツか」と聞いたら、10人全員が「違う」と答えるだろう。私もそう思う。子どものときに姉や妹と風船バレーにハマり、汗をかきかき対戦したものだ。気楽に遊びながら運動できることは間違いない。
「よし、100均だ」
 まずは風船を調達しに、駅前の店に向かった。地味な昔風の風船はなく、装飾の多い商品が並んでいた。一番シンプルと思われる風船をレジに持っていく。
 あとは膨らませるだけ。肺活量も落ちたようで、結構ツラかったけれど、何とか膨らんでくれた。



 下から叩けば真上に上がる。蛍光灯に当たらないよう、慎重にウォーミングアップ。
 対戦相手がいればよいのだが、夫ではちょっと……。
 壁の方がマシだと思い、跳ね返ることを期待して真横に打った。風船でも、力を入れて叩けば、結構な速さで戻ってくる。そして顔に当たった。危ないので、少々山なりの角度にしたら、落とさず何度も続けることができた。これなら相手なしでも楽しめる。
「まさか、部屋の中で風船壁打ちをする日が来るとは思わなかったな」
 食後ということもあり、15分ぐらいは座って壁打ちをしていた。体が温まり、ベストを脱いだ。床暖房のスイッチも切った。意外にカロリーを消費するようだ。
「あー疲れた。ご飯の支度もあるし、もうやめようっと」
 ほんの20分程度、体を動かしただけでも気分が明るい。スポーツであろうが、なかろうが、ストレスが解消できればそれでいいのだ。
 夕食後は筋トレが待っている。スクワットのあとに腹筋を始めたら、何だかお尻が痛い。どうしたのだろう。原因はわからないが、座布団を敷いたら気にならなくなった。
 筋トレのあとはお風呂。ところが、湯船に入ったら、お尻がピリピリしみる。さっき、腹筋で痛かったところではないか。何事かと鏡で確認したら、すり傷ができていた。
「わかった、座って風船をしたからだ」
 つまり、童心に返り夢中で遊んだ結果、尾てい骨付近を負傷したのに、まったく気づかなかったらしい。
 何という間抜けな……。
「痛い、痛~い」
 メンソレータムを傷口に塗ったら、これまたしみることしみること。
 痛いけど、時間があったらまた風船で遊びたい。


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寒い朝

2021年01月10日 23時09分34秒 | エッセイ
 二度目の緊急事態宣言が発出される前から、週末は、ひたすらステイホームで過ごす。
 もちろん来客はない。
「なんか、アサリが食べたくなっちゃった。お昼はボンゴレにしようかな」
「いいね! ボンゴレか」
 夫も喜び、メニューが決定した。スーパーでは殻から身を出し、元気そうなアサリを買い、冷蔵庫に保管する。いざ調理しようと、取り出してみて驚いた。
「あれえ、アサリが動かないよ」
 冷え切った水の中で、どのアサリもダランと体を伸ばしたまま、固まっている。これはマズい。死んでしまったのだろうか。砂抜きしようと、塩水に浸けても、姿勢はそのまま変わらない。



「寒くて仮死状態なのかも。様子を見てみよう」
 1時間後にザルに上げたときは、警戒して体を殻に引っ込める動作をしたので、死んではいなかった。ホッとしてフライパンに並べ、無事にボンゴレが完成した。



「いただきまーす!」
 このところ、日本海側は大雪だし、東京でも最高気温が6度とか7度とかで、やたらと寒い。こういうときは、真冬に羽化したキアゲハを思い出す。
 小学生だった頃だ。庭で見つけたキアゲハの幼虫を、姉や妹と飼っていた。エサはパセリ。スーパーで買ってきて、せっせと食べさせたものだ。数匹いたが、成長のスピードには個体差があった。
「あ、もうサナギになってる」
 リズミカルな動きをするイモムシも、だんだんスローになっていき、朝起きたら一匹また一匹とサナギ化していく。ついには、全部の幼虫がサナギとなり、これまた順番に羽化していく。
 蝶になったら庭に放し、どこかに飛んでいくのを見送った。ところが、最後のサナギだけ、なかなか羽化しないまま、冬を迎えてしまった。
「寒いからかな。春になったら蝶になるのかも」
 姉とそんな推測をしていたのだが、ちょうど年明けの寒い頃、暖房をつけて暖かくなった部屋で、サナギに変化が表れた。
「え? 蝶になってるよ」
「春と間違えたんじゃない?」
 何と、最後のサナギは真冬に蝶となってしまい、私たち姉妹を大いに困惑させた。外に放すわけにもいかず、狭い虫かごの中で砂糖水をエサに、キアゲハをどうにかして飼わなければならない。夜になり、人気のなくなった居間に虫かごを置いて、私たちは部屋に引き上げた。
 ところが、翌朝、居間に様子を見に行くと、キアゲハが死んでいる。
「かわいそうに。寒かったんだね」
「あとでお墓を作ってあげよう」
 そんな相談をして朝食を終えた頃には、室温が上がっていた。虫かごにも太陽の光がさんさんと降り注ぎ、ちょっとした小春日和になっている。すると、さっきまで死骸のように見えたキアゲハが、大きな羽を動かし、窮屈そうにかごの中を飛び始めたのだ。
「あれっ、生き返った」
「死んでなかったんだ」
 おそらく、寒さで仮死状態になっていたのだろう。その後も、朝は死んでいるが、暖かくなると動き出すことが続いた。やがて寿命を迎えたのか、暖かくなっても、ついに動かなくなる日が来た。ひと月までは生きなかったけれど、よく頑張ったと思う。
 冬至から2週間が過ぎた。これからは、どんどん日が長くなるはずだ。
 コロナ禍で制限された毎日が続くけれど、春になれば虫たちも元気に家までやってくる。
 来客のない今は、それを楽しみにしようかな。


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年賀状のないお正月

2021年01月03日 21時53分07秒 | エッセイ
 義母が昨年10月に亡くなったため、わが家は喪中である。
「年賀欠礼状は何枚いる?」
「うーん、200枚ぐらいかな」
 夫と手分けをして、11月に「喪中につき新年のご挨拶をご遠慮申し上げます」のハガキを出した。
 小学校からの幼馴染であるナオコは、福岡に引っ越してもう20年になるのではないか。6年に進級した最初の音楽の時間、私は間違えて5年生のときの教科書を持ってきてしまった。
「あ」
 赤面しつつ、隣の席のナオコを見た。ナオコもまた、同じ教科書を持っていたので、二人して噴き出したものだっけ。類は友を呼ぶってヤツね。
 前の前の職場で一緒だったミホさんにも。上司だったノゾミさんにも。近況報告はできないが、一人ひとりの顔を思い浮かべて欠礼状を書いた。
 しかし、2通は戻ってきてしまった。1通は学生時代の仲間だったナツコだ。いつのまにやら住所が変わっていたらしい。しかし、ナツコとはFacebookでつながっているから、メッセージを送ればよい。
「そうなんだ、ご愁傷様でした」との返事が返ってきて、自分の役割が終わった気になった。
 年が明けたら、喪中であってもおせちは食べたい。



 今年はやけに美味しく感じた。雑煮も上手にできたし。
 新年会はやらなかったが、家族で寿司をとり、ささやかに一年の展望を語る。



 うま~い。
 食べ物は大きく変わらないが、年賀状が来ないと、実にもの足りない気分になる。
 しかし、今日は数枚の年賀状が配達されたのだ。うち、1枚は私宛てだった。
「うっそ。ナツコからじゃないの」
 彼女らしく、豪快なデザインが清々しい。



「やっぱ、SNSじゃ伝わらなかったか……」
 実は、去年、高校時代の友達から「母が亡くなり年賀状は遠慮します」とのLINEをもらっておきながら、すっかり忘れて彼女に送ってしまったことがある。デジタル世代でない私たちは、紙媒体で年賀欠礼状をいただかないと、身につかないのかもしれない。
「ナツコったら、アタシと同じ失敗して」と苦笑したあと、ちょっと考え直した。
 もしや、1通もないと淋しかろうと思い、送ってくれたのかも?
 どちらでもいい。
 コロナ禍ではあるけれど、今年こそ絶対、ナツコに会いに行かなくちゃ!


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