これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

初ホットヨガ

2016年09月29日 21時08分45秒 | エッセイ
 スポーツクラブに入会した。スパ目当てではあるが、入ったからには運動もしたい。
 スタジオのプログラムを見ていたら、ホットヨガが目についた。体質的に私はほとんど汗をかかない。でも、ホットヨガならいい汗を出せて、余分な脂肪とともに、イライラやストレスも流れ落ちていく気がした。
 開始は10時20分。スタジオに駆け込むと、ムッとする熱気が立ち込めていた。
「現在の室温は33度です。脱水しないように、必ず水分の補給をお願いします」
 30代の女性講師が笑顔で注意を促した。日差しはないけれど、真夏日と同じ条件で体を動かすのだ。クーラー漬けの日常からはほど遠い状況であることには違いない。
「では両手両足をついて四つん這いになります。左足を伸ばし踵は垂直に」
 講師は見本を見せてくれないので、指示だけだと初心者にはわかりづらい。周りは経験者ばかりと見えて、迷わずポーズをとっていた。真似すればいいやと左の人を見たが、だいぶ体が硬いらしい。「くっくっく~」と歯を食いしばり、膝が曲がっている。
 参考にならんと前の人を見たが、こちらは踵が垂直になっていない。その隣の人は背中を大きく反らせているし、それぞれ微妙にポーズが違っていた。「誰が正しいんだよ~」と心の中で叫び、適当にやることに決めた。
 激しい動きはないが、暑い中で腹式呼吸をしていると汗が噴き出してくる。ほんの数分で背中、腹、額などが濡れてきたのには驚いた。
「じゃあ、水分補給しましょう」
 15分おきに休憩が入る。水を飲むとさらに汗が出て、ヨガマットにポタポタと滴り落ちてくる。目の中にも流れ込み、タオルでふいてもふいても切りがない。
「弓のポーズでーす」
 また、わけのわからん指示にキョロキョロキョロとカンニングに励み、腹這いになって両手で両足をつかむ姿勢だと理解した。言葉の説明だけでなく、映像などがあればいいのだが。
「ヨガで大事なのはリラックスです。呼吸を忘れないで下さいね。はい吸って吐いて~」
 これには同感だ。大きく息を吸うと熱気が飛び込んできたが、体の力が抜けて解放感が味わえる。女性ばかりでなく男性参加者が目立つのも納得である。吸って吐いて吸って吐いて、水を飲んで脱力。その繰り返しで、ウエアがしぼれるくらいの重さになった。
 60分経つと、350mlの水筒は空っぽに。
 いい汗かいて満足したのだが、夕方から喉がガラガラして痛い。咳や鼻水も出て、明らかにアレルギー症状のようだ。以前、医師に処方してもらったアレルギーの薬を飲んだら、少しずつ症状が軽くなってきた。室温の高い場所で何度も深呼吸を繰り返したのがいけなかったのだろうか。
 体重計に乗ると1kg増えていた。汗をかいて減った量より水分補給で増えた量の方が多いとは、まったく割に合わない。
 キイッ!
 ここで一句。
  生涯に 一度で十分 ホットヨガ    砂希


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ワタシの朝活

2016年09月25日 21時11分40秒 | エッセイ
 9月に入ってから、新たな朝活が加わった。
 起床は5時。まずはタオルを水に浸し、ビニール袋に入れてレンジで40秒温める。ホッカホカのタオルを顔にあてている間、おへその周りを時計回りにマッサージ。これで便秘も解消だ。
 お腹のマッサージが終わるころには、蒸しタオルも完了。両目も温まったところで、目のマッサージをする。この方法は、『目は1分でよくなる』に載っている。



 実際に視力がよくなったかというと……。
 たしかに、目の凝りをほぐした直後はよく見える。しかし、出勤する頃には元に戻っている気がする。継続してやってみないと何ともいえない。
 でも、これを試してから「目が疲れてツラい」と思わなくなった。朝から心地よい気分になれるので、視力はさておき、日課に取り入れている。ちなみに、寝る前も同じように凝りをほぐしてから布団に入る。
 夢もクリアに見えるかもしれない。
 次に『旅行読売』なる雑誌を取り出し、ページを開く。



 これは年間購読している雑誌だが、名水の記事を読んでいるとき、「ここの水はこういう味で、このくらい美味しい」という表現に惹きつけられた。ライターは何人もいる。それぞれに個性があり、さらりとした水をいろいろな角度から見て描写されているので、文章表現の勉強になる。
 これは書き写さなくては!
 私も定年後は、日本各地を旅行して、「ここのこれが美味しい、そこのそれが見ごろ」などと紹介できるライターになりたいものだ。そのためには、もっともっと文章力を磨かなければならない。
 書き写す作業は時間がかかる。読み流しているときには気づかなかったことにも目が向く。たとえば、「麓という漢字はこうやって書くのか」とか、「ここに店主の表情を入れることで、情景が見えるような文になるのか」などという発見だ。
 時間にして5~8分ほどだが、自分にはとても書けない名文に触れると、実に得した気分になれる。
 それから弁当を作り、娘がフタを開けたときに喜んでくれるように盛り付ける。ついでに、自分の弁当箱にも詰める。料理は好きだ。キャラ弁はできないけれど、好物の入った昼食があると思えば、面倒な仕事も頑張れる。
 ラジオのニュースを聞いて朝食を作り、世の中の出来事を頭に入れる。ラジオ体操のあとは身支度。7時になったら出発する。
「そんなことしてる暇があったら、私は寝るわ。なんの役に立つの?」
 そう言う人もいるが、ちゃんと役に立っている。心が安定するし、お昼の心配をしなくていいし、健康も維持できるのだから、それで十分だ。一日のスタートで充実感があると、イライラせず寛容な気持ちになれるから、周りの人にとってもプラスになるのではないだろうか。
 問題は睡眠時間。
 寝不足にならないように、SNSはほどほどにしようっと。


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三世代女子会忘れ物

2016年09月22日 21時02分35秒 | エッセイ
 秋分の日の今日は、あいにくの雨だった。
 恒例となりつつある三世代女子会墓参りは、日程の都合で17日にすませている。曇り空だったが、雨に降られることもなく、この日を選んで正解だったと思う。
 しかし、母も私も忘れ物が多かった。
「あっ、雑巾忘れちゃったよ。砂希は持ってきた?」
「ごめーん、私も忘れた……」
 二人して、墓石を磨くための雑巾を忘れるとは何たるこっちゃ。
「あっ、お供え。何も持ってこなかったよ。お母さんは?」
「……アタシもすっかり忘れてた」
 そんなやりとりを見て、呆れた娘が説教をする。
「もう、お母さんもお祖母ちゃんも何やってんの。どうせ、温泉のことばっか考えてたんでしょ」
「へへへ、バレたか」
 そう、はるばる高尾まで来たのだから、ちょっと遊んで帰ろうと計画を立てていた。
 高尾山口駅には、2015年10月27日にオープンした温泉施設がある。なぜ、こんな細かいことをおぼえているのかというと、私は去年のオープン前日に高尾山に登ったのだ。
「あっ、極楽湯だって! いいな~。オープンは明日? キイッ、悔しい!」
 そんな経緯もあり、リベンジのチャンスをうかがっていたのである。
「高尾山口の極楽湯に行かない?」
「温泉なの? いいね」
 母も娘も乗り気でよかった。タオルやターバンなどに気を取られ、雑巾もお供えも吹っ飛んでしまったことは計算外だったが、墓参りが終わったあとのお楽しみだ。



 入館料は1人1000円。すでに、ハイカーたちが何人も来ていた。
 ちゃちゃっと昼食をすませ、足早に風呂に向かう。ここで男がいると別行動になるが、女ばかりなので、どこまでも一緒である。ロッカーでも、湯船でも、3人揃って移動できるから便利だ。
「順番に入っていこうね」
 お風呂が何種類もあってウレシイ。湯音はまずまず。私も母も、熱いお湯が苦手である。
「ミキはサウナがいい」
 娘はサウナが好きだけれども、私と母はそっぽを向く。暑い場所も苦手なのだ。
 母が気に入ったのは、檜風呂であった。


(ホームページから)

 私はぬるいお湯が好きだ。37度の露天炭酸石張り風呂に長いこと浸かっていた。


(ホームページから)

 この風呂は、炭酸という名の通り、体中に細かい泡がまとわりついてくる。血行や新陳代謝を促進し、美容にもいいらしい。気泡のプチプチ感が何とも心地よく、あわただしい毎日から現実逃避できる。
 ただし、女湯ならではの長い髪の毛が浮いていて、ときおり腕に絡みつくところがいただけない。みんなが気持ちよく入れるように、髪はしっかり上げましょう!
 母の「もう出る」という言葉を合図にロッカーに戻る。お肌もツルツルだし、肩こりや目の疲れが取れて十分リラックスできた。
「ソフトクリームでも食べようか」
「食べよう」
 だが、食事処でビックリした。昼食時とは比較にならないくらい、大勢のハイカーが押し寄せていたからだ。
「席あるかな?」
「奥の座敷が空いているよ」
 かろうじて席を確保し、冷たいデザートにありついた。
 4時頃には退館したが、ハイカーたちはこれからが本番なのかもしれない。夕方の混雑はあなどれない気がした。
 次回は11月。義父の命日に合わせて墓参りをする。
 今度は、雑巾を忘れないように。
 お供えは、今回の穴埋めで2倍の量を用意しようっと。


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キャベツとアフタヌーンティー

2016年09月18日 23時08分16秒 | エッセイ
 血糖値が気になり、甘いものをとらなくなってひと月以上経った。体重は激減というわけでもないが、便秘をしなくなったし、ウエスト周りがスッキリした。これは、来月の健康診断が楽しみである。
 普段は、すりおろした山芋を白飯にたっぷりかけ、血糖値があがらないようにしている。でも、週に1~2回はパンを食べる。丼物も食べる。山芋の出番がないときは、食前にキャベツの千切りをとることで、食物繊維が糖の吸収を抑え、血糖値の急激な上昇や下降を防止してくれるらしい。気づいたら体重が47kgを超えていたという悪夢はなくなったし、腹部の膨張感もどこへやら。まったく、キャベツ様様である。
「てことは、キャベツを忘れなければ、アフタヌーンティーもオーケーかな?」
 メルボルンのイギリス式庭園でアフタヌーンティーをいただいて以来、すっかり気に入ってしまった。
 日本橋三越のフォートナム&メイソンのアフタヌーンティー。



 池袋東武のサロン・ド・テ シェ松尾のアフタヌーンティー。



 どちらも、上手に撮れなかったのが残念だ……。
 パレスホテルのアフタヌーンティーなら、重箱入りだから、キレイに写る気がする。今度試してみよう。
 ちなみに、コンラッド東京では、ハロウィンのアフタヌーンティー開催中で、大皿にとても可愛らしいチョコレートや焼き菓子が並んでいた。こちらも被写体としては、そそられるものがある。
 今月の職場の福利厚生誌には、帝国ホテルのアフタヌーンティーが載っていた。



「なにっ、4752円が2800円に!?」
 アフタヌーンティーはサンドイッチやケーキ、スコーンなどにプラスして、コーヒー・紅茶が飲み放題となっていることが多いが、値が張るという問題がある。だが、今月号では、41%引きの2800円で飲み食いできる割引券が当たるというのだ。これは応募するしかない。
「えーと、ミキと行くから2枚でいいかな」
 希望枚数を入力する画面で、私は娘の顔を思い浮かべた。どうしたことか、そのあとに夫がお腹をすかせたときの顔も浮かんできた。
「どうする、3枚にしてみる?」
 夫は出不精だ。日比谷の帝国ホテルまで行く気になるかどうか。
「でもアイツ、くじ運いいんだよね。もしやもしや」
 実のところ、映画やエステの割引券などで、福利厚生誌の抽選には何度も応募しているが、一度たりとも当たったためしがない。職員数は全体で16万人を超えているから、全員が応募するわけでないとしても、わずか500枚の割引券が当たる確率は、目やに程度の微々たるものであろう。深く考えずに応募してみた。
 ところが、先日、「当選しました」の連絡メールを受信したものだから、「うっそぉ」と叫んでしまいそうなくらい驚いた。福引に行けば、生活雑貨を当てて帰ってくる夫の幸運にあやかったのかもしれない。3枚にしておいてよかった。
 届いた割引券を眺めてニンマリ。



「ねえ、帝国ホテルのアフタヌーンティーの割引券が当たったの。3人で行く?」
 写真を片手に、夫に話しかけると、「うん、行く」との返事が返ってきた。
「すごいね。美味しそうだ」
「でしょ」
 これからも、夫の分もプラスして応募しようと誓った瞬間であった。
 健康診断が終わったら、帝国ホテルの予約を取らなくちゃ。
 出かける前にはもちろん、山盛りモリモリのキャベツを食べていくわよ!


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池袋にあるパリ

2016年09月15日 22時30分02秒 | エッセイ
 昨日、池袋西武に行った。用事があるのは8階だったが、ふと7階の催事場をのぞいてみようかと思いつく。
 いわゆる「嗅覚」である。
 何か掘り出し物があるかしら、と小さな期待を抱いて、下りエスカレーターに乗った。
「パリで味わう美食街道」
 これが今回の催し物のテーマであった。その日はたまたま初日だったが、結構な人出ではないか。フランスパンやクロワッサンを販売しているショーケースの前には何人もの客が並び、活気が渦を巻いている。
 フラッと歩いてみると、ワインありシャンパンあり、デリカテッセンにシュークリーム、チーズ、クレープ、チョコレートなどなど、欲しいものがいくつも並んでいて驚いた。パリの街並みには程遠いけれど、祭りの屋台の高級版といった感じで、賑やかさが心を浮き立たせる。
「ちょっと待って、案内図、案内図」
 これは全体像を確認した方がいいようだ。チラシと会場案内図をゲットし、座れる場所を探す。
「ワイン&シャンパンバー」
 キラリと目が光った。決してダイヤモンドではなく、割れた牛乳瓶の破片のような輝きであったが、ここらで作戦タイムを取った方がよさそうだ。600円で飲めるグラスシャンパンを頼み、じっくりチラシを眺めた。
「今回はトリュフに焦点を当てているのか。トリュフオムレツにトリュフスープ。美味しそうだな」
 次に、いつ、これを食べようかと画策する。展示は19日まで。時間がたつにつれて混みそうな雰囲気だから、連休の前がよさそうだ。
 というわけで、今日は夫と娘を連れて、催事場で夕飯をすませることにした。
「ル カフェ ドゥ ジョエル・ロブションだって!『フォアグラとパルメザンチーズのリゾット トリュフとともに』ってヤツは外せないね」



 3人でチラシの写真に顔を寄せる。これが一番美味しそうだ。
「でも、このトリュフオムレツも美味しそうだから、先にこっちを食べて、次にフォアグラでいいんじゃない」
「そうだね、そうしよう」
 待つこと十分。アルチザン・ド・ラ・トリュフの「トリュフオムレツ」がお目見えした。



「わあっ、すごい! いい香り」
 香りだけではない。濃厚なマッシュルームソースがオムレツに絡み、トリュフと並走しているのだ。二人三脚の美味しさで、あっというまに平らげた。
 夫は足りなかったらしく、トリュフピッツァも注文していた。



 こちらは、ピザ生地にも価値がある。サクサクで見事な仕上がりなのだ。
「でもさあ、何でパリなのにピザなの?」
「知らん」
 それから、本命のフォアグラをいただく計画だったが、予定外のことが起きた。
「えっ、SOLD OUTだって」
「うっそ~」
 何と、一番食べたかった料理はすでに売り切れていた。これでは腹の虫が収まらず、胃袋の隙間に詰め込むものはないかと、スリのような目つきで会場内を探して回った。
「ここはどう?」
 ブイヤベースカレーなるものを見つけ、「ウホウホ♪」と店内に乱入した。



 魚介類のうまみが凝縮されたようなカレーであった。味は相当上のランクであるが、見た目が寂しい。ボイルしたエビでも載せて、もっと盛ればいいと思うのだが。
 夫はピザでお腹いっぱいになり、ここではアイス最中を頼んでいた。



 人のものを見て、自分も欲しくなる。母からはよく「見るもの乞食」と言われたが、今でも変わらないようだ。冷たいデザートなら、ユーゴ・アンド・ヴィクトールの「チョコレートソフトクリーム」がいいだろう。



 ビターで甘さ控えめのチョコが、口の中で香ばしく広がり、「食べたっ」と実感する味に仕上がっている。無言で食べた。
「あー、満足満足」
 3人して、重たくなったお腹を抱え、家に向かってえっちらおっちら歩き始めた。
 普段からすれ違いの多い家族だが、食べ物が絡むと急に仲良くなる。
 さて、次は何のイベントが待っているのかな。


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名探偵? 笹木砂希

2016年09月11日 21時46分14秒 | エッセイ
 学校勤めのメリットは、図書室でベストセラーが読めることである。アドラー心理学やビブリア古書堂シリーズ、火花、教場、半沢直樹シリーズなどなど、手当たり次第に読破した。
 たしか、8月の終わりだったはずだ。読みかけの本が終わってしまい、私は「何か」を求めて図書室に行った。運よく、伊坂幸太郎の本が人気本の棚に、仰向けになって寝そべっている。バカンスを楽しんでいるところだったかもしれないが、右手でひょいとつかみ「貸し出し、お願いします」と司書さんに声をかけた。
 そこからなぜか記憶がない。
 やっと時間ができて「さあ、伊坂本を読もう」と探した。しかし、職場の机にも、自宅にも見当たらない。「借りたと思ったのは記憶違いだったかしら」と図書室に行った。
「えっと、8月26日に『死神の浮力』という本を借りていらっしゃいますね。9月12日までです」
「ああそうでしたか。やっぱり借りているんですね」
 実のところ、著者名はおぼえているが、本のタイトルを忘れていた。だが、いよいよ本腰を入れて探すときが来たようだ。借りた本をなくすなど、もってのほかである。
「どこかに置き忘れたのかも……」
 ものをなくす原因として、それを一時的にどこかに置いて、忘れてしまうことが挙げられる。まずは、机の周りを探してみた。
「笹木さん、何か探しているの?」
 隣の席のオジさん先生が話しかけてきた。
「図書室で借りた本がどこか行っちゃって。もしかして、席に紛れ込んでいません?」
 オジさん先生は国語科だ。本は大好きなはず。しかも、机の上は教科書や問題集、プリントやらがうず高く積みあがっている。もしや、この中に紛れていないだろうか。
「え、伊坂幸太郎? どこかで見たなぁ。面白そうだと思ったんだけど、僕は取っていないはず」
 どうやらオジさん先生は潔白のようだ。では、彼はどこでそれを見たのか。
「何ていう題名ですか」
 オジさん先生の隣のおかあさん先生も話に加わってきた。こういうときは、なるべくたくさんの人を巻き込んだほうがいいと、過去の経験から知っている。
「えっと、死神の……死神の……何だっけ」
 さっき、聞いたばかりのタイトルが思い出せない。
「調べてみます。伊坂幸太郎、死神」
 彼女はパソコンを操作して、本を検索しているようだ。
「表紙は何色でしたか」
「青だったと思います」
「青だと、『死神の精度』ですかね。もうひとつ、『死神の浮力』っていうのもありますけど」
「あ、それそれ。『死神の浮力』のほうです」
「表紙は青じゃないですよ」
 彼女はパソコンの画面をこちらに向け、本の画像を見せた。そこには見たこともない本が映っていた。



「オレンジだ~」
 タイトルも表紙の色もおぼえていないとは情けない。対照的に、彼女の記憶は冴えていた。
「たしかこれ、副校長の前の空席に置いてありました」
 そこで、ようやくピンと来た。たしか、その席に座って休暇簿に記入したおぼえがある。おそらく、図書室から本を持って席に着き、端に置いたままにしたのだろう。
「じゃあ、僕、取ってきてあげるよ」
 オジさん先生が立ち上がった。意外とフットワークが軽いのだ。
 本を受け取ると、私は彼に礼を言い、返却期限のページを開いた。
「28.9.12」
 司書さんの言葉通りだ。間違いない。
 かくして、どうにかこうにか、本が戻ってきた。
 ワタクシ、名探偵になれるかしら!?


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赤と黄のボタン

2016年09月08日 21時46分17秒 | エッセイ
 このところ、毎週のように台風がやってくる。
 勤務校では、大雨・洪水・雷などの警報が発令されたら休校となる。休校になっても、教員の勤務はなくならない。しかし、授業がなければ、たまっている仕事を片付けたり、打ち合わせをする時間ができるのでありがたい。出勤前に日本気象協会のホームページにアクセスし、警報を示す赤がないかをチェックするのが習慣だ。
 今朝もいそいそと、台風13号の影響で警報が出たかどうかを見てみた。外は曇り。大雨で洪水が起きそうな気配もなく、黄色の注意報が行儀よく、ボタンのように整列しているだけだった。ガッカリする一方で、水害に苦しめられた地域に思いを馳せる。大きな被害がなかったことを、何よりも喜ぶべきであろう。
 イヤイヤ出勤すると、同じような顔をした教員たちが、シブシブ授業の準備をしていた。
「今日は休校だと思ったから、ろくに準備をしていないんですよ。まいったなぁ」
「私も、これから提出物に目を通さなきゃ」
 休校でないことに失望しながらも、彼らはキビキビと動いていた。空はすでに明るくなり、陽が差している。しかし、いきなり灰色の分厚い雲が駆け足でやってきて、ババババと機関銃のように雨粒を打ち込み、足早に去っていった。



 温帯低気圧に変わったとはいえ、元台風は雨雲大臣だ。
「教室に行ったら、生徒が半分しかいませんでしたよ」
「3年ですか? 1年はもうちょっといたかな。欠席は8人でしたから」
 教員がやる気になっても、生徒はまた別だ。自主休校を選んだ者の多かったこと、多かったこと。
 かくして、台風がこちらに向かってくる時点で、翌日の授業がパァになる。
 実のところ、休校になったらなったで、もっと面倒なことが起きる。ネットで警報を確認せず、普通に登校する生徒がいるからだ。
 たとえば、30人のクラスだったら、5人くらいは何の疑いもなく学校に来てしまう。
「えっ、警報が出てるとダメなんですか? 注意報が自宅学習かと思ってました」
「料金滞納で携帯が止められているから、確認できませんでした」
「休校だなんて、誰も教えてくれませんでした」
 理由は人それぞれだが、荒天で警報が出ている間は学校で待機せねばならない。天気が回復した隙に帰宅させ、家に着いたら必ず電話をさせるなど、生徒の安全確保が大事なのだ。
 ところが、フジオという男子生徒はこれに耐えられなかった。ろくに確認もせず登校したくせに、天気が落ち着くまで待ちなさいと言われたことが不服だったらしい。待機場所の図書室を無断で飛び出し、勝手に家に帰ってしまった。慌てたのは担任だ。様子を見に行くとフジオの姿がないものだから、校内を隅から隅まで探し回り、何度も家に電話をかけてやっと安否が確認できた、なんてこともあった。
 やはり、台風は来ないほうがいい。
 警報の赤も、注意報の黄も、出番がありませんように。


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ビール工場見学の心得

2016年09月04日 22時03分41秒 | エッセイ
 サントリー武蔵野ビール工場を見学してきた。
 ここは南武線分倍河原駅から徒歩圏にある。親切なことに、無料のシャトルバスもあるから、気軽に出かけられていい。
「代表者の方は、こちらで受付をお願いします」
 受付ではいくつかの注意事項を守るよう確認される。見学後、車の運転をする場合の飲酒はできないとか、一度退館したあとのシャトルバス乗車はできないとか、ごく当たり前のことに見えたのだが……。
「係員との写真撮影やセクシャル・ハラスメントはおやめください」
 これには驚いた。
 試飲時にはアルコールが入る。おそらく、過去には酒癖の悪い、けしからぬ客がいたのだろう。最初に釘を刺すことで、大きな効果が期待できるのかもしれない。
 さて、見学では美味しいビールの作り方を教えてくれる。
 まずは水。どこぞのフランス料理店でも言っていたが、同じ食材を使っても、水によって仕上がる味が違うそうだ。サントリーは徹底して水にこだわる姿勢を前面に出している。武蔵野工場の美味しい地下水をくみ上げ、東京ドーム8個分に相当する大きな敷地で、せっせとビールを作っていた。
 その水を温め、砕いた麦芽を加える。



「これが麦芽です。ちょっと食べてみてください」



 おつまみのナッツ類に近い歯ごたえだが、淡白な味がする。これがビールの素となるとは興味深い。
 麦芽中のでんぷんが糖に分解されたら、ホップを加えて煮沸し麦汁を作る。



 ここに麦汁が入っているらしい。



 それから発酵、貯酒、ろ過の工程を経て、黄金色の澄んだビールができるというわけだ。
 見どころは何といってもパッケージングだろう。
 酸化せぬ工夫をして缶にビールを詰める。



 蓋をしてコンベアーで運ばれていく。



 缶を箱に詰める。



 梱包をして、コンベアーの出口に向かっていく。



 製造過程を見学したあとは試飲会だ。



「試飲はお一人様3杯までとさせていただきます」
 時間にして20分くらいだろうか。思ったよりもグラスは大きい。ソフトドリンクをもらっている人もいた。
「最初の一杯はプレミアムモルツを召し上がっていただきますが、2杯目、3杯目は香るエール、マスターズドリームなどの飲み比べもなさってください」
 係のお姉さんが、ひときわ声のボリュームを上げる。ここが一番大事なところと心得ているらしい。



 行列はマスターズドリームに集中した。あの苦さがいいのだろうが、香るエールのフルーティーな味わいも捨てがたい。
 今まで、「ビールはギネスかキリンラガー」と公言してきたが、今後は改めなければいけないと頭をかいた。
「本日はありがとうございました」
 試飲タイムが終わり、帰る時間となったが、迷惑行為をする客はいなかった。やはり、最初に刺した釘は効果抜群のようだ。いい作戦である。
 すっかり満足してお土産を買う。



 プレモル、香るエール、マスターズドリームの飲み比べセットだ。
 これも、買わせる作戦なのだろうが、あえてはまった方が楽しい。


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持たない?暮らし

2016年09月01日 22時17分32秒 | エッセイ
 ミニマリストと呼ばれる人たちが注目を浴びている。
 いわゆる「持たない暮らし」を実践している人々で、公開されている部屋はベッドだけ、ソファーだけといった具合にシンプルだ。対する我が家はモノに占領され、家具や家電がデカい面をして居座っているものだから、ヒトが窮屈な思いをしている。何という違いであろう。
 さすがに冷蔵庫は必要だし、クーラーもパソコンも手放せないが、広々とした空間には憧れる。定年退職したら、少しずつモノを手放していきたい。

 先週の今頃は、那須の両親の家にいた。
 5年ぶりなのに、近所のゴルフクラブの名前が変わったくらいで、以前と同じく緑だらけの景色が広がっていた。



 視線を右に動かすと、舗装されていない砂利道が見えてくる。昨日の雨で水たまりができたようだ。



 私はこの景色が好きだ。
 最寄駅まで歩いて20分かかるし、ゴミの収集車が来ないくらい辺ぴな場所だけど、ミュートボタンを押したように静かで落ち着くところがいい。
 都内には建物が多すぎる。色も高さも揃っていない住宅が乱立し、ところどころに、のっぽのビルがニョキッと生えている。決して美しくない。
 余分な建物を引っこ抜いてスッキリさせ、アスファルトを引っぺがし、植物を植えたら、こんな感じになるだろうに。
 そこまで考えたところでつながった。
「ああ、これもミニマリストの発想なのかも……」
 仕事に追われる今は、便利な道具が手放せず、ミニマムな生活は無理だ。
 持たない暮らしを実践するのは難しい。
 モテない暮らしなら、得意かも?


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