これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

強制脳トレ

2016年05月29日 21時23分56秒 | エッセイ
 Facebookで見知らぬ女性から友達リクエストが来た。
「宮城香織? 知らないなぁ……」
 しかし、その人の友達一覧には学生時代の仲間が何人も含まれている。大学も学部も一緒だし、やはり知り合いの確率が高い。
「そういえば、カオリって呼ばれていた子がいたような、いないような……」
 卒業アルバムを引っ張り出す。商学部は女子が少ないので、見つけるのは簡単だ。ページをめくって順に名前を追っていくと、香織という名で見覚えのある顔が視界に入ってきた。旧姓は上野というらしい。
「ああ、思い出した。料理が得意だったカオリだ」
 さんざん時間がかかったくせに、しれっとした顔でメッセージを送る。
「香織、久しぶり! リクエストありがとうね。またこっちでもよろしくぅ~」
 笑い事ではないくらい、物忘れがひどくなった。かろうじて40代に入れてもらえるうちから、ボケるわけにいかない。なんとかせねば。
「ひとまず、簡単な計算くらいはやっておこうかしら」
 といいつつ、ドリルを開いてもいないくせに……。
 平日はフルタイムで働いているので、土日にスーパーでまとめ買いをする。出かける前に買い物リストを作っておけば、店に着いたとき、手際よく品物を選べる。カゴに入れた商品は二重線で消し、まだの商品と区別して買い忘れを防ぐ。リストなしのときと比べて、かなり効率的だ。
 今日も、レシートの裏に必要な商品をリストアップしておいた。スーパーの自動ドアを抜け、紙片を取り出そうとしたとき、持ってこなかったことに気がついた。

 忘れちゃったんだ、ひえ~!

 ときどき、この手の失敗をする。リストアップに使った時間は何だったのか。非常にシャクだが、手元になければ仕方ない。記憶を頼りに、売り場を順に回っていけばよい。
 乳製品売り場ではヨーグルト、飲料売り場では水、精肉売り場では豚コマと合いびき、鮮魚売り場ではエビ……。結構覚えているものだ。タケノコ水煮やキウイフルーツ、おっと、ギネスとハイネケンもリストアップしたんだっけ。ドレッシングにショウガに、蕎麦の乾麺……。
「これで全部のはず」と自信を持ってレジに行く。もし、夕食に使う食材がなければ、もう一度店に来なければならないが、その心配はない気がした。
 代金を払い家に帰ると、キッチンのテーブルの上に、先ほど書いた買い物リストが残されていた。
「どれどれ、買い忘れはないかな?」
 リストに書かれた商品は、全部で14種類。品切れだったモロヘイヤ以外、すべて購入してきたので、予想通りである。



「やった! 今日は冴えてるじゃん」
 無事に脳トレ終了だ。
 たまには、こういう具合に頭を働かせたほうがいいのかも。


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オリジナル・シャア

2016年05月26日 21時06分34秒 | エッセイ
 5月21日から「機動戦士ガンダム THE ORIGINⅢ 暁の蜂起」が公開されている。
「いつ行く?」
「大学がある日の帰りがいいな。水曜なんてどう?」
「いいよ。じゃあ、25日で」
 娘と日程を合わせて、観に行く日を決めた。池袋の劇場は近いが、仕事帰りでは21時台しかない。日本橋まで出ることにした。



 相変わらず、劇場内には中高年のサラリーマンが目立つ。ガンダムは37年前に誕生したコンテンツであるが、人気が衰えるどころか、関連市場も年々拡大し続けている点が珍しい。
 今回は、人気キャラであるシャア・アズナブルの士官学校時代に焦点を当てている。



 さて、どんな展開になるのか。
 冒頭のシャア・アズナブルは、金色の髪に茶色の瞳を持った少年である。ただし、人気キャラのシャアではない。まぎらわしいので、オリジナル・シャアと呼ぶことにする。彼にそっくりなエドワウという少年もいるが、こちらは瞳が青。つまり、瞳を見なければ、2人を見分けることができない。
 エドワウは追われる身である。命を狙われていることは重々承知の上で空港に来た。勝算はある。何も知らないオリジナル・シャアと入れ替わればいい。どさくさにまぎれて士官学校の入学許可書をくすね、シャア・アズナブルとして生きることにした。人気キャラは、入れ替わったあとのシャアなのだ。
 では、オリジナル・シャアはどうなったかというと……。
 ハッピーエンドのはずがない。顔がそっくりというだけで、人生を台無しにされるのだから、いい迷惑だ。
 復讐のためには手段を選ばない非情なシャアに対して、素直なガルマ・ザビが可愛かった。



 ザビ家の末子として、将来を期待されるガルマ。その重圧は大きい。見えないところで努力はしているが、悲しいことに限界がある。「僕もこうだったらよかったのに」と願う運動神経、頭脳、カリスマ性を持った人間がシャアだった。負けず嫌いの血が騒ぎ、無理してシャアと張り合った結果、裏目に出て終わる。喜怒哀楽を隠さず表現するところに、人間的な魅力を感じた。
 ファーストガンダムでは、前髪ばかりいじって女々しかったし、決して好きなキャラクターではなかった。でも、暁の蜂起では育ちのよさが人柄に反映され、周囲の期待に応えようと必死に頑張るところが微笑ましい。父親から溺愛される理由がわかったような気がした。
 シャアはガルマを見下す一方で、その天真爛漫さに惹かれていたのだろう。
 映画のあとは食事だ。
「映画の半券で10%オフだって」
「ここにしようか」
 私たちは、映画館の近くにあるベルギー・ビールの店に入った。大好きなギネスはアイルランドだし、ハイネケンはオランダ。ベルギーのビールはほとんど飲んだことがない。
 右が「カスティール・ルージュ」、左が「プリムス」。



「カスティール・ルージュ」はカクテルのような味わいで、とてもフルーティーだった。ブラウンビールとサワーチェリーが入っているという。これなら何杯でもいけそうだ。

 ブラウン。オリジナル・シャアの瞳の色ね……。

 次々と運ばれてくる料理にも、茶色のものが多かった。
 オリジナル・シャアの瞳の色のムール貝。



 オリジナル・シャアの瞳の色のタルタルをかけたシュリンプのサラダ。



 オリジナル・シャアの瞳の色のスモーク・チーズ。



 次のベルギー・ビールもブラウンだったりする。



「ふー、もうお腹いっぱい」
 映画も料理も、十分に楽しめた。
 家に帰ってから気づいたことだが、飲み食いするのに夢中で、チケットの半券を提示するのをすっかり忘れていた。
 何をやっているのだろう。
 ああ、幻の10%オフ……。


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3世代女子会墓参り

2016年05月22日 21時45分59秒 | エッセイ
 母方の祖母が亡くなったのは、昭和49年の今日だった。
 祖母の墓は高尾の某霊園にあるが、夫の父もたまたま同じ墓地で眠っている。一度に2件の墓参りをすませようと考え、母と一緒に出かけることにした。
「え、墓参り? ミキも行ってみようかなぁ」
 義父の納骨の際、娘もかの霊園に同行したが、幼かったため記憶がないそうだ。義母が認知症になって以来、義父の墓参りは滞っている。ランチを餌に誘ったら、娘も来ることになった。
「でも、明日の1限に提出する課題ができてない……」
「帰ってきてからやったら?」
「結構難しいよ。問題が変だし。休講になればいいのに」
「そう上手くいかないでしょ」
「まあいいや」
 今日は天気もよくてラッキーだった。
 中央線に揺られながら、祖母の記憶をたぐりよせる。祖母が亡くなってすぐに、父の弟から電話がかかってきたという。
「今、靴ひもが急に切れて、胸騒ぎがしたんだけど、何かあった?」
 いわゆる「虫の知らせ」である。なぜ娘や息子ではなく、娘の夫の弟などという縁の薄い相手なのかは不明だが、父は背中に氷を入れられたようなゾクゾク感を味わったらしい。祖母を看取った母が病院から帰ってくると、誰も通っていないはずの門や玄関が開けっ放し。理屈では説明のつかないことが、いくつか起きていた。
 生前の祖母は、笑った顔しか見せない人だった。孫に甘くて、母がダメということも祖母ならOKになる。お菓子も買ってくれるし、いつでも公園に連れて行ってくれる。私にとっては、願いを叶えてくれる魔法使いのような存在だった。
「高尾、高尾。終点です」
 高尾駅には花と線香の販売所があり、とても便利だ。母と落ち合い、まずは義父の墓へ行く。3人で墓石をピカピカに磨き上げ、娘は満足そうだった。
 次に、祖母の墓に向かう。この墓には祖母だけでなく祖父、夭折した母の姉も眠っているので、お供えは3人分用意しておいた。
「ひいおばあちゃん、はじめまして」
 こちらもキレイに掃除してから手を合わせる。ひ孫が来たから、祖母は喜んでくれたかもしれない。結婚して家を出てから長い間、ろくに墓参りをせずに申し訳なかったと詫びた。母も年々老いてくるので、これからは命日や彼岸のたびに同行するつもりだ。
「じゃあ、お昼にしよう」
 新宿まで戻り、小田急百貨店の14階へ行く。初めて行く店だが、ネットで見た雰囲気がよかったので予約を入れた。
「ライスとパンのどちらになさいますか」
 私と娘は「パン」と即決したが、母はなかなか決められない。年とともに優柔不断になったようだ。
「じゃあ、最初はパンで、お肉料理のときは少な目のライスということでいかがですか」
「ああ、それいいわね」
 店員さんが、とっさに機転を利かせた。両方食べられるということと、気をつかってもらえたということで、母は大いに満足したようだ。こういう店ばかりだとありがたい。



「じゃあ、今度は9月ね。また連絡するよ」
「はいよ。じゃあまたね」
 手を振って母と別れた。次は姉も誘ってみよう。
「ああ、課題やらなきゃ……」
 家に着くと、娘がブーブー言いながらパソコンを開いていた。ついでに休講情報などもチェックしたらしい。すぐにドタドタと音を立て、台所に駆け込んできた。
「お母さん、明日の1限が休講って書いてある!」
「マジ!?」
 なるほど、願い事があったら、墓参りをするのがいいかも……。


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しゃもじ、大地に立つ

2016年05月19日 21時33分26秒 | エッセイ
 家電の寿命は10年なんていうけれど、アタシは笹木という家で、25年もご飯を炊き続けているのさ。
 この家族は炊き立てが好きでね、朝の分を2合、夜の分を2合という具合に、一日2回も働かされるもんだから、内釜がほら、こんなボロボロにハゲちまったよ。



 アタシは8合炊きなのにさ。
 もっと大家族の家に買ってもらえばよかったよ。
 さすがに、最近じゃ外ブタまで歪んできてね、右からも左からも蒸気が漏れるようになったもんだから、人間たちも焦ったみたいだよ。
 急いでカタログを見て、新しいのを探してた。

 ん?
 アンタ、見たことない顔だね。
 そうか、アンタがアタシの代わりに働いてくれる炊飯器?
 ―ええ、そうです。
 何合炊きなんだい?
 ―5.5合です。
 やけに半端だね。
 ―最近は、これが普通ですよ。
 そうかい。時代は変わったね。頭が黒くて、イカしてるよ。
 ―恐れ入ります。



 でも、容量が小さい割に、体の大きさはアタシと大して変わらないじゃないか。
 ―お恥ずかしいんですが……。私はおねえさんより重たいと思います。
 えっ、そうなのかい?
 ―おねえさんの内釜は何グラムあります?
 えーと、たしか360gだったよ。
 ―私の内釜は、986gもあるんです。
 へえっ、そんなに重いなんて思わなかったよ。見かけによらないね。



 こんなに厚手でガッシリした釜なら、美味しいご飯が炊けるだろうよ。
 ―ご飯には自信があります。それと、しゃもじにも。
 しゃもじ?
 ―私のしゃもじは、自立するんです。



 へええ、こりゃ大したもんだ!
 ―よく思いついたと感心しますよ。コロンブスの卵ですね。
 あれ? ピッピッピッって音がするよ。
 ―今、炊き上がりました。ふっくらとして弾力性のある仕上がりなんです。ご覧になる?
 見せとくれ。



 ああ、いい匂い!
 ―これからは、私が炊飯しますから、おねえさんは休んでくださいね。
 じゃあ、そうさせてもらおうか。
 ―長いこと、お疲れ様でした。


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寒くて熱い「ルノワール展」

2016年05月15日 21時20分08秒 | エッセイ
 話題の展覧会を観るなら、金曜日がおススメだ。
 平日の昼に行かれる方ならいざ知らず、土日となれば美術館はかなり混む。せっかくの絵画をじっくり鑑賞するには、夜8時まで開館している金曜日に限る。
「お待たせ~」
「お母さん、遅いよ」
 仕事を終えてから、大学2年の娘と国立新美術館で待ち合わせたが10分遅刻。ルノワール展は1月から楽しみにしていた展示で、前売券発売の1月27日には早割ペアチケットをゲットしている。
「じゃあ、荷物をロッカーに入れて、入口に行こう」
「うん」
 今日は小さな手提げを持ってきた。ロッカーがあるのに、財布などを入れる袋がなくて、結局重いバッグごと持ち歩く失敗はしないですむ。私なりに、気合いは入っているのだ。
「あ、チケットもロッカーに入れちゃった……」
「あーあ……」
 ドジも踏むけど、まあ、こんなもんだ。



 冒頭から、自分がいかにルノワールという画家を知らないかということに気づいた。
 彼は、13歳で磁器の絵付け職人となったそうだ。
「貧しかったのかな?」
「学校制度はどうなっていたのかしら」
 4年間修業をしたあと、絵の道に進んだらしい。
 私はいつも、会場内では鉛筆を借りて、作品リストに説明や感想を書きこんでいる。今回は、娘も鉛筆を借りて、同じように記録していたのがうれしかった。
「書きにくい。下敷きが欲しいな」
 文句を言いつつ、あれもこれもと書き留めていた。大好きなルノワールだから、特別なことがしたくなったのかもしれない。
 ルノワールは19歳からルーブルで模写を始め、28歳で印象派の先駆け作品を生んでいる。29歳で普仏戦争の兵役に就くが、無事に戻ってこられてよかった。
 31歳で画商に購入してもらえるようになり、33歳には第1回印象派展で7点もの作品を発表した。
 39歳で妻となるアリーヌと出会い、44歳で長男ピエールが誕生している。晩婚だったのは、絵を描くことが最優先事項だったからではないか。子どもは3人で、全部男子だったようだ。
「三男がクロードか。次男の名前は何だっけ」
 娘が鉛筆を動かしながら尋ねてくる。
「ジャン」
「ふーん」
「焼肉のタレだよ」
「へ、何で? 焼肉といったらエバラでしょ」
 チッ、モランボンを知らないのか……。
 61歳でリウマチの激しい発作に見舞われるようになるが、変形して思うように動かなくなった手に、絵筆をくくりつけてでも描く。描く、描く、描く。
 74歳で、妻アリーヌに先立たれる。彼女は56歳だったそうだ。
 それでも、老画家は描き続ける。映像を見たが、やせ細った体を椅子に据え、真剣過ぎる視線をカンヴァスに向けて、迷わず絵筆を滑らせていた。仕立てのよい服に、威厳のあるヒゲ。



 この方は、存在自体がアートなのだ。
 77歳で「浴女たち」の制作に着手し、78歳に完成。



 そして、その年に亡くなっているから、最後の力をすべて注ぎ込んだ大作であることは間違いない。絵に対して、尋常ではない情熱と愛情、執着を持った画家だったと理解した。
 画家を支えた妻のアリーヌが、「田舎のダンス」という絵に登場している。



 木綿の晴れ着は、おそらく彼女の一張羅。もっと素敵なドレスを着ている人がいたとしても、彼女は夢見心地の表情で、世界一幸せだと思っているのでないか。そして、絵を見る人にも、幸福感を分けてくれるような気がする。
「あった、ムーラン・ド・ラ・ギャレットだよ」
 娘が目当ての絵を見つけ、喜んでいた。



 数年前にオルセーで観たときも感激したが、今度は日本に来てくれたことで心が躍り出す。
 この絵は、ルノワールが35歳のときに描いた作品である。ダンスホール兼酒場の娯楽施設に集う大衆が、仕事の憂さを晴らし、非日常の解放感を味わうひとコマを描いている。
 絵もさることながら、私は説明文に舌を巻いた。
「ポルカの音楽、笑い声、ざわめきまでも聞こえてくるようです」
 うーん、こういう表現もあったか。賑わっている様子を切り取る言葉として、ピッタリはまっている。私も、こんな文章が書けるようになりたいものだ。
 作品は全部で103点。決して多くはないが、出口にたどり着くまでに2時間かかった。
「さ、寒い」
 館内は異常に冷えている。貸し出しのストールもあったのに、「あとちょっとだからいいや」と考えて借りなかった。しかし、足の裏がつって痛い。借りればよかったと後悔した。最後にまた失敗。
 ルノワール展では、暖かい服装で、じっくりメモを取ってはいかがだろうか。
 まだまだ書きたいことはあるけれど、今日はこの辺で……。


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「ルーム」すべり込みセーフ!

2016年05月12日 21時43分56秒 | エッセイ
 映画「ルーム」のあらすじを見たのは、ゴールデンウィークに入ってすぐのことだった。



「7年間も密室に監禁された女性が、そこで生まれ育った5歳の息子のため命懸けで脱出に挑み、長い間世間から隔絶されていた彼らが社会に適応していく過程を描く」
 えっ、監禁?
 ここで私のパソコンは、一番に「換金」と変換した。持ち主に似るのだろう。
 そこで息子が生まれ育つ? 誘拐犯との子どもというわけか。
 でも、脱出? どうやって?
 がぜん、興味をそそられ、劇場に足を運んだ。その映画館では、「公開は5月6日まで」と事務的に表記していたが、終了間際でも劇場内はほぼ満席。人気の高さがうかがえる。
 冒頭は、5歳の息子・ジャックがママと暮らす狭い部屋で、植木鉢やイスなどに話しかけるところから始まる。何気なく見ていたが、ここはラストにつながる重要な場面だ。
 ママは優しい。ジャックをこの上なく愛していることが全身から伝わり、まさか犯罪の被害者とは思えない。でも、ジャックが5歳の誕生日を迎えたときに、「よく聞いて」と息子に打ち明けるのだ。
 テーマは重い、重すぎる……。
 誰の視点で撮られた映画かによって、視聴者の精神的負担はまったく変わってくるだろう。
 たとえば、ママであるジョイの視点だったらどうか。
 17歳で誘拐され、普通の生活を楽しむ自由が奪われた。誘拐犯に性行為を強要され、その結果、男児を出産。息子は可愛いけれど、あの男だけは許せないと、日々、憎しみが募っていく。
 うーん、とても見る気になれない。
 じゃあ、ジョイのママ、つまりグランマからの視点で作られたら?
 ある日、学校に行ったはずの娘がこつ然と消えてしまった。夜になっても、朝になっても、また夜になっても帰ってこない。どこに行ったの? 私の大事なジョイ。
 子どもがいないと、家族の仲がギクシャクする。夫とは疎遠になり、一緒に暮らす意味がわからなくなって離婚。新しいパートナーはいるけれど、心の中には大きな穴が開いたまま。
 これも、ちょっと遠慮しておきます、と言いたくなる内容だ。
 だが、「ルーム」は5歳のジャックの視点で描かれているから、一生懸命ケーキを作ってみたり、「臭いのはママのオナラだよ!」と叫んでみたりで、実にラブリー。ジョイはジャックを邪魔に思うどころか、彼からエネルギーをもらって生きていたのだ。子どもの無邪気さに、視聴者もスクリーンに釘付けにされる。大人だったら、こうはいくまい。
 ジャックとジョイが脱出に成功し、グランマの家で暮らし始めたシーンが好きだ。
 ジャックは、これまでママと誘拐犯しか見たことがないから、グランマやグランマのパートナー・レオを警戒して心を開かない。でも、レオはジャックに聞こえるように独り言をつぶやき、朝食を食べさせることができた。遊び相手の犬も連れてきた。「この子には何の罪もないんだ」と言わんばかりに世話を焼き、実にイイ奴。グランマは目が高い。
 監禁されたジョイ役を演じたブリー・ラーソンは、実際に誘拐された経験があるのかと信じてしまうくらい、真に迫っていた。ジャックしか眼中にないときのジョイ、世界に戻り安心したときのジョイ、心が押しつぶされて混乱したときのジョイという具合に揺れ動き、彼女の衝撃が伝わってきた。アカデミー賞を受賞したのは当然だろう。
 ジャックは腰まで髪を伸ばしている。髪にパワーが宿ると信じているからだ。
 私も数か月前から髪を伸ばし始めた。今ではブラウスの襟に入り込むほど長くなった。髪が伸びるにつれ、なぜか直感が働くようになった。「これはこうしたほうがいい」「あれを忘れているよ、気をつけて」「今がチャンス、すぐ動いて」などなど、転ばぬ先の杖となってくれる。
 映画を見たあとは、「もっと伸ばそう」と決心した。ワタクシ、単純なもので。
 公開終了前に見られて本当によかった、と実感できる映画だった。


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アールグレイは罪な味

2016年05月08日 20時54分14秒 | エッセイ
 朝起きたら、ティーポットにアールグレイの茶葉を入れ、紅茶をいただくのが日課となっている。
 ところが、うっかり硬いものをぶつけたものだから、ティーポットの注ぎ口が欠けてしまった。
「キャーッ!」
 早く新しいものを買わねばと思ったが、ときは5月。母の日があるではないか。
 まずは勝手に下見をする。池袋は品ぞろえがイマイチ、銀座もダメ。新宿伊勢丹が一番充実していた。
 次に、「何が欲しい?」と聞かれてもいないのに、娘の部屋におねだりをしに行く。いや、たかりと言った方が正しいかもしれない。
「ねえ、母の日のプレゼントはティーポットにしてえ」
「え? 母の日っていつだっけ」
 すっかり忘れられていたのが残念だ……。
「8日だよ」
「で、ティーポットっていくらするの?」
 オシャレなティーポットは高い。安いものは500円くらいで買えるが、私がいいと思ったものは2万円前後であった。
「へ? そんな高いの、学生に買えるわけないでしょ」
「じゃあじゃあ、父の日はなしでいいから」
「それ、おかしいでしょ」
 そういえば、キッチンの引き出しに、百貨店共通商品券があることを思い出した。数えてみると、1000円券が25枚ある。
「ミキが出せるのは1万円までだよ。あとは、商品券で払ってね」
「うん」
 そんなわけで、今日は新宿伊勢丹まで、ティーポットを求めてお出かけした。
 小さめのものでよかったのだが、洗いにくいと困る。可愛くて、使い勝手がよくて、清潔に保てるものを探したら、リチャード・ジノリにたどり着いた。



 予定通り、娘が1万円を出して、不足額は商品券から払った。おつりの800円を娘に渡す。
 娘と別れて、夕飯の買い物をしてから家に帰った。
「母の日ありがとう~!」
 待ちかねた夫と娘が、一緒にプレゼントを渡してくれた。
 どうやら、娘は「何でアタシが全額払わなきゃいけないの」と考え直したのか、夫にプレゼント代を請求した模様だ。内訳が知りたくて、娘の部屋に忍び込んだ。
「ねえねえ、お父さんにいくら出してもらったの?」
「1万円」
「商品券使ったこと、黙ってたんでしょ」
「当たり前じゃん」
「レシート見せて、これだけかかったんだよ、なんて言って」
「そうそう。ミキはおつりの800円分得した」
「詐欺だな」
「いいんだよ」
 たかりに詐欺。どういう母の日なんだか。
 たまには、何も知らない夫に紅茶をいれてあげようかな……。


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2016 ハタチの誕生日

2016年05月05日 14時44分25秒 | エッセイ
 娘が20歳の誕生日を迎えた。
 両親や姉夫婦、妹一家のイツメン(いつものメンバー)が、狭いわが家にやってくる。
「今日からお酒が飲めるから楽しみ」
 グラスを1つ多く準備して、宴会開始の6時を待った。
 5時50分頃、まずは両親がやってきた。続いて姉夫婦も。
 ケーキを持ってくるはずの妹からは、「ゴメン、ちょっと遅れる」とのメールが届く。その日は最高気温が26度を超えており、私は喉が渇いていた。
「どうする? 先に乾杯の練習しちゃおうか」
 両親や姉たちに、こっそり悪事の片棒を担がせようとしたが、娘は練習の意味がわからない。
「つまり、いる人だけで先に飲んじゃって、全員揃ったときには『練習しておきました』って言えばいいんだよ」
 義兄が説明すると、ますます訳がわからないようだった。子どもは全員揃うまで行儀よく待つが、大人は意外と我慢できない。私はビールを取りに、冷蔵庫へ走った。
「ピンポーン」
 タイミングよく妹一家がやってくる。これで全員集合。抜け駆けせずにすんだ。
「あれっ、料理が来ない」
 今回は、フランス料理のケータリングを頼んだのだが、指定時間に10分ほど遅れるという連絡があった。でも、すでに15分過ぎている。こちらに向かっていることは確実なので、待つしかないのだが。
「てことは、結局、練習するしかないんじゃないの?」
「そうだね。シャンパンは料理が来てからにして、ビールとチーズで練習しよう」
「練習、練習♪」
 プシュッとハイネケンを開け、グラスに注ぐ。「ミキ、20歳の誕生日おめでとう。かんぱーい!」とグラスを合わせれば、宴会の始まりだ。間が持てば何でもいい。
「お待たせしました~!」
 40分遅れで料理も到着した。
「じゃあ、今度はシャンパンね。はい、グラスを空けて空けて」
 本日の飲み物は、3月のワインテイスティング会で購入した「ノクターン」というシャンパンである。甘すぎず辛すぎず、シャープな味わいがうれしい。
「本番いきまーす! ミキ、20歳の誕生日おめでとう。かんぱーい!」
 夫が乾杯の音頭をとったのだが、練習とまったく同じ言葉じゃないか。どういうこと!?
 お料理は9品注文した。人気があったものを紹介したい。
 まずは「蝦夷鹿肉のテリーヌ」。



 ポークともビーフとも違う、クセのない鹿のテリーヌは、軟らかくて食べやすかった。カリカリに焼いたフランスパンと、リンゴのコンポートと一緒にいただく。
「これ美味しい」
 偏食大王の甥が、執拗に箸を往復させているのには驚いた。そういえば、彼はオーストラリア土産のカンガルージャーキーも気に入っていたっけ。ジビエ料理にハマる素質は十分だ。
 それから、「富士山麓のマスのマリネ」も人気だった。



「あらっ、それ、スモークサーモン?」
「違うよ、マス」
「ふーん」
 74歳の母に食材の説明をする。淡白で、この日のように暑い日にはピッタリの料理だ。ノクターンは2本用意したのだが、からっぽになってしまった。
「スモークサーモン、もっとちょうだい」
 母が皿を差し出して頼む。マスだっちゅうに……。
「白身魚のパイ包み焼き」は、再度オーブンで温め、アツアツを提供する。



「すごーい」
「大きいね」
 尻尾の中まで身が詰まっていて、シェフのこだわりが感じられる。ここでは77歳の父がボケた。
「何だ、その魚はずい分大きいな。本物か……?」
 マジすか!? たしかにリアルだけど、どう見てもパイでしょ。
 最後に、「キノコのピラフ」。



 バターライスにキノコを載せて運んだら、それまで「お腹いっぱい」と言っていたはずの来客が、喜んで取り分けているではないか。あっという間に売り切れた。
 甘いものは別腹というが、ご飯も別腹なのではないだろうか。
 ケーキの前にプレゼントを渡す。20歳という区切りに、生まれ年のワインと名入れグラスのセットを用意した。



「わあっ、ありがとう!」
 喜んでくれたが、すでに娘はシャンパン、赤ワインを5~6杯飲んでおり、目の周りを赤くしている。生まれ年ワインを開ける必要はなかった。
「頭があるといいね~」
 これまた酔っ払いの妹が、ボトルで人形ごっこを始めていた。黒のシュシュをボトルに巻くと、それなりに人に見えたりして……。



「後ろはこんなになってるんだね。エプロンみたい」
 見えないところにも、布が欲しかったのだが、まあ仕方ないか。
 ケーキのあとは、娘からお礼の言葉があり、お開き。盛りだくさんの一日だった。
 片づけをしながら、初めてのアルコールでは何が一番美味しかったか、娘に聞いてみた。
「ハイネケンだね。ワインやシャンパンは重すぎた」
 それって、練習用なのでは……。


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2016 メーデー

2016年05月01日 22時26分32秒 | エッセイ
 5月1日はメーデー、労働者の日である。
 組合には加入しているが、わざわざ日比谷まで出かけるのが面倒で、一度も行ったことがない。しかし、今年は分会長の役が回ってきたので、一転して声掛けをする立場になった。
「今年はメーデー行かれますか?」と聞いて回ってみる。反応はさまざまだ。
「このところ、ずっと参加していないんですよね。どうしようかな」
「私なんて、一度も行ったことないんですよ。でも、今年は参加しなくちゃ、あはは」
「そうなんですか。じゃあ行こうかな」
 てな具合に、インチキな勧誘が功を奏して、11人もの組合員が参加してくれた。しかも、去年より参加率がいいのが不思議である……。
 午前9時の日比谷公園。すでにビラ配りが始まっており、ほんの100m歩くだけで、10枚以上のビラが集まった。早くからご苦労なことだ。



 会場となる野外音楽堂は、まだスカスカ。5月らしい陽気で、ジャケットを着なくても寒くない。天気予報では、最高気温が26度まで上がると言っていたが、太陽も準備中のようだ。きっと、充電しているのだろう。



 開会の9時50分が近づくと、人口密度が高くなる。10時過ぎには空席がなくなり、立ち見の人も増えてきた。太陽も充電完了のようで、屋根のないところには容赦なく日差しを浴びせるものだから、腕も顔もジリジリとソテーされた。雨よりはいいが。
 来賓で光っていたのが、ピンクのジャケットを着こんだ福島みずほである。都労連委員長や、メーデー実行委員会の挨拶は、聞いていても頭に残らないのに、演説で鍛えた政治家は違う。声の大きさ、滑舌、スピードが聞き取りやすく、伝えたいことを上手くまとめていた。強調したいフレーズは短めに、何度も繰り返す。仕事柄、私も人前で講話をすることがあるから、参考にしよう。
 それぞれの団体の主張を見るのも一興。







「JALは不当解雇を撤回せよ」など、誰かが声を上げないと、働きにくい世の中になる。労働者の権利には疎いので、もっと勉強せねばと反省した。
 11時から有楽町方面に向かってデモをする。





「原発いらない」
「戦争法は廃止せよ」
「保育所増設」





 買い物客でにぎわう銀座界隈。シュプレヒコールを上げながら、ここを通過する日が来るとは思わなかった。歩きながら、ウインドーのバッグやワンピースをチラ見する。
「じゃあ、ここで解散です。お疲れ様でした」
 昼前に、ゴールの鍛冶橋に到着した。あとは、仲間とお昼になだれ込む。冷えたビールの美味しかったこと!
 こんなゴールデンウイークの過ごし方も悪くない。


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コメント (12)
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