これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

水と共に去りぬ

2016年01月31日 20時13分47秒 | エッセイ
 お酒を飲むときは、水も交互にとると悪酔いしないらしい。
 先週、日本酒の美味しい店に行った。



 そして、忠実に、酒、水、酒、水と繰り返し飲んできたので、翌朝の目覚めはよかった。しかし、体重が2kgも増えている。
「ああっ、また、むくんでしまったぁ~!」
 すぐに治ると思っていたら、結構頑固だ。余分な水がいつまでも居座り、なかなか出て行かない。排水路が迷路になっているのだろうか。おかげで、肩は凝るし指輪はきついし、靴もきゅうくつで仕方ない。一番困るのが冷えで、足は冷たいのに顔が真っ赤に火照るときがある。
「あれっ、暑いんですか?」
 周りが驚き、声をかけてきた日にはいたたまれない。早く水分を追い出さなくては。
 お風呂の前に靴下を脱ぐと、水玉模様の凹凸がすねにくっきり残っていて、大きなショックを受けた。
「そういえば……」
 ハイキングの話をしたせいか、年末に、体育の先生からふくらはぎのサポーターをいただいたのだっけ。デパートで、長時間歩くときには活躍した。特に外出する用事もない今は、コロッと忘れていた。



 翌日、タンスから引っ張り出して履いてみると、適度な締め付け感が心地よい。上に靴下を重ね、防寒対策もバッチリだ。ただし、私はスポーツマンではないので、これが正しい使い方なのか自信がない。
「まあ、だいたいでいいんじゃない?」
 何事もアバウトなのが私の弱点だが、まずはやってみることが大事。
 履いてしばらくは何も変わらなかった。しかし、一時間後には、トイレに行きたくなった。足にたまった水分が、サポーターでジワジワと押し出され、排出されたようだ。モップを絞るローラーのように、ゆっくりゆっくり絞り出している様子を想像した。
 次は30分後に、また尿意を催した。その次も30分後、そのまた次も30分後となり、わずか2時間で4回もトイレに通った。ここまでくると、だいぶ体が軽い。体重を測ると、1kg減っていた。「排泄は大事だな」としみじみ感じた。
 サポーターをもらったときは、外出用と決めつけていたけれど、家の中でも十分使える。今さらながら、役に立つものをいただいたのだとわかった。
 デサントの公式サイトをググってみると、タイツタイプの「ロングパンツ」なるものもある。これを使えば、もっと効果があるかもしれない。
 そんなつもりで作ったんじゃない、と言われたりして……。


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今日は何の日?

2016年01月28日 21時44分58秒 | エッセイ
 1月27日は、大事なものの発売日であった。忘れて売り切れとならないように、手帳にちゃ~んとメモしてある。
「ルノワール展チケット発売日」
 4月27日から8月22日まで、国立新美術館でルノワール展が開催されることは、去年から知っていた。今回は、オルセーで観た「ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会」が目玉となっている。何が何でも行かなくては。



 展覧会ホームページを見てみると、当日券1600円のところ、前売券は1400円と書いてあった。
「よしっ、前売りを買うぞ~!」
 だが、よく見ると、早割ペア券なるものもあって、こちらは2枚で2200円。どうせ娘と行くのだから、少しでも安いほうがいい。
 仕事帰りにローソンに寄り、ルノワール展を検索すると、難なくチケットが手に入った。
 たぶん、5月上旬に1回、夏休みに1回観るから4枚欲しい。私はペア券を2セット買った。



「やった~!」
 家に帰ると、娘も大喜びだった。大学の試験に備えて頭を使い、疲れ切ってしおれていたが、一気に息を吹き返したらしい。床でゴロゴロ寝転がっていたのに、チケットを見るなり立ち上がり、両手を上げて踊りだした。たしか、昭和に流行した「ゴーゴーダンス」はこんな振りだったような……。
 通常の前売券を4枚ではなく、早割ペア券を2セット買うと、1200円も得をする。当日券と比べたら2000円もの差がつく。こんなに違うのかと驚いた。
 今日は都庁に行った。都庁の隣には、京王プラザホテルがニョキッと生えている。用事をすませたあと、お茶が飲みたくなって、回転ドアに吸い込まれた。
「マロンシャンテリー」なるデザートを頼んだら、かなりのビッグサイズが運ばれてきた。お冷やのグラスと比較すると、大きさがわかるのではないだろうか。



 浮いたお金でおやつ~♪

 中にはバニラアイスが入っていて、いい意味で期待を裏切られた。

 早く4月にならないかなっ!


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寒波が街にやってくる

2016年01月24日 20時50分15秒 | エッセイ
 非常に強い寒波が日本列島で暴れている。
 坂の街・長崎で16cmの積雪を観測し、記録を塗り替えたとか、鳥取砂丘が雪丘になったとか、奄美大島に115年ぶりに雪が降ったなどのニュースを見た。石垣島の浜に、海水の温度が低すぎて仮死状態になった魚がうち上げられた映像は、特にビックリである。
 東京は晴れていたけれど寒かった。朝はさほどでもなかったけれど、夕方、休日出勤から帰るときは風も強く、マフラーに顔をうずめて歩いた。
 そういえば、前にもこれくらい寒い日があったと思い出す。

 たしか、結婚して2年目あたりではなかったか。1990年代前半は浦和のマンションに住んでいて、娘はまだ生まれていなかった。その日は日曜日で、起きたらやたらと寒かった。夫はまだ寝ていたから、起こさないよう、そっとトイレに立った。
 トイレの水は流れたが、水道の蛇口を開いても水が出てこない。
「あれっ?」
 断水だろうか? 親しいというほどではないけれど、お隣さんはどうかしらと電話をかけてみた。
「おはようございます。笹木ですが、蛇口から水が出ないんです。そちらは出ますか?」
「おはようございます。うちもなんです。1階と2階は何ともないと言っていますけど、3階は受水槽が凍って断水しているみたい」
 水道管は凍っていないから、2階までは水が出る。しかし、受水槽を経由している3階だけは水が出ないというわけだ。何たる不公平。
「えー、どうしようかしら。水が出ないと困りますね」
「ホントホント。特にトイレとか」
 さきほど、タンクに入っていた水を使ってしまったので、夫が起きてきたら流れる水がないはずだ。それはまずいだろうと焦った。
「〇〇さんちで水をもらってきたらどうですか? うちもさっき、バケツを持っていきました」
「あ、その手がありましたか」
 2階の〇〇さんは2人の男児のママで、会えば挨拶を交わす程度のつきあいだ。いきなり、休日の朝に「トイレを貸してください」では厚かましすぎる。急いで着替え、電話で頼んでみたら、「どうぞどうぞ」と言ってくれた。
「水でいいんですか? お湯もありますよ。早く出るようになるといいですね」
「朝っぱらからすみません。どうもありがとうございました」
 隣人に助けられ、外は寒かったけれど、バケツを持つ手は温かかった。1階にも親切な家庭はあるから、頼めば断られなかっただろう。私は恵まれていると、ありがたく思った。
「えっ、断水? ひどいな」
 日が高くなった頃、夫が起きてきた。トイレの前にタンクに水を入れるよう伝え、新聞を開く。落ち着いて休日の朝を過ごせるのも、協力的な隣人たちのおかげである。
 ほどなく、受水槽が稼働する音が聞こえてきた。
「きたーっ」
 予想通り、蛇口を開けば水が出る。やっと断水から解放されたのだ。

 引っ越して20年以上経つが、今朝、あの受水槽は凍らなかっただろうか。
「遠くの親戚より近くの他人」ということわざが正しいことを、証明した寒波だった。


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お目目のためなら

2016年01月21日 21時19分50秒 | エッセイ
 去年から、コンタクトを使うと両目が充血するようになった。眼科に行けば「ドライアイ」と言われるが、治ってもコンタクトを入れればまた充血。レンズが傷ついているのかしらと、眼鏡屋に寄った。
「いえ、レンズは大丈夫。ドライアイも大したことないけど、だいぶ目が疲れているようですね。眼球がむくんでいますよ」
 コンタクトルームの医師は、鋭い視線を向けてこう指摘した。
「血液の循環が悪いようですから、蒸しタオルなどで目を温めて、ツボを押してください。レンズは短時間ならつけてもいいですよ」
 水分をためこむ体質なのか、私はむくみやすい。足や顔が膨らむことは日常茶飯事だけれども、まさか目玉までとは。
「あら、口の中だってむくむのよ。ほら、よく歯で口の中を噛んじゃうことない? むくんでいるときに、やっちゃうんだって」
 友人が顔色ひとつ変えずに言った。そうか、体中がむくむものだと思えばいいのか。
 腰をテーブルにぶつけたときは、腰がむくんでいたのだし、段差につまずいたときは、つま先がむくんでいたってこと?
 んな、バカな……。
 医師の勧めに従って、蒸しタオルを試してみる。まず、フェイスタオルを濡らしてビニール袋に入れる。袋の口は閉じずに電子レンジで50秒。でき立てのホッカホカを目に当てると、まぶたの上から周りから、ジワッと包み込むような熱が伝わってきた。まるでサウナである。目を支える筋肉を優しくほぐし、肩や首のつけ根まで解放感が味わえる。
「うーん、こりゃたまらん」
 ほんの1分ほどのことだが、タオルを取ったあとも、乾燥や疲れが取れて目が軽い。そのあと、さらにツボ押しをすれば、しばらくは快適に過ごせる。これは続けるしかない。
 一週間ほど経ってから、またコンタクトをつけてみた。4時間までは何ともなかったのに、5時間経過するとまた充血した。即効性はないらしい。
「ダメじゃーん」
 まだまだ甘いか。では、疲れ目に効くというブルーベリーはどうだろう。



 サプリとともに、『どんどん目がよくなるマジカル・アイ』なる本も加えて、お目目の血流アップを図る。
「コンタクトを入れる時間も、ちょっとずつ長くして慣らしていかないと」
 1日目は4時間、2日目は4時間5分、3日目は4時間10分というように、5分ずつ長くしていけば、12日後には5時間、48日後には8時間の装着にも耐えられるかもしれない。
「48日後っていつ? ……えーと、3月9日。……はあ?」
 なんちゅう、気の長い話だろう。
 オシャレなメガネを探そうかしら。


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10年日記活用術

2016年01月17日 20時24分21秒 | エッセイ
 10年日記なるものを始めて、今年で3年目になる。
 扱いが雑だったようで、こすって破れたたあとがあり



 毎日引っ張られたブックマークは、やせ細って今にも切れそうだ。



 もし切れてしまったら、使っていない眼帯でも挟んでおけばいいか……。
「あーあ、あと7年使うのに、こんなにしちゃって。もっと大事にしなきゃ」
 大いに反省し、丁寧に扱うことを誓った。
 最初の年は、単なる日記だった。その日に起きた出来事で、うまくいったこと、失敗したこと、楽しかったこと、ムカついたことなどを、思いのままに書きとめた。でも、2年目からは違う。
「へー、去年の今日がミキの入試だったんだ」
 前の年の出来事は、すっかり忘れているから、日記を読み返す楽しみが生まれてきた。
「2014年1月2日 起きたら9時だった」
 2015年も起きたら9時と書いてある。2年続けて寝坊とは情けない。だが、今年は10時20分起床だからもっと遅い。来年は11時だろうか。笑えることを記録に残しておくと、次の年もその次の年もネタになる。
 健康状態もチェックできる。
 喉がガラガラして咳が出るなと思ったら、前の年にも「咳がとまらず病院で薬をもらう」と書いてあり、冷房や暖房が稼働し始める時期になるとアレルギー症状が出ていることがわかった。体に変化があったり、医療機関にかかった場合は必ず記入したほうがいい。
 備忘録にもなる。
「2014年12月31日 換気扇の掃除をした。75度のお湯を使ったら、思いのほか簡単に汚れが落ちてビックリ」
 先月の大掃除のとき、私は前の年のことをすっかり忘れていた。換気扇を洗うのが憂鬱で「はああ~」とため息をついていたのだが、この日記を読んで「そっか、熱いお湯を使うんだった」と思い出し、難なくクリア。記憶が衰えていくこの先は、ますます頼りになりそうだ。
 ちなみに、去年の明日は、那須に住んでいる母あてに、誕生日の冷凍スイーツを発送しているが、今年はケーキの注文に手間取り、間に合いそうにない。昨日、母にメールをした。
「お母さん、ゴメン。週末に送るから誕生日過ぎちゃうね」
「いいよ~、いつでも」
 来年は、母の誕生日までに、プレゼントを用意しなくては。
 2017年の1月4日の欄に「母へのケーキ注文」と書きこんだ。
 10年日記は実に便利である。


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年賀状がつなぐ縁

2016年01月14日 21時09分47秒 | エッセイ
 年賀状を送っても、返事をくれない人がいる。
 喪中だったのかもしれない。だが、「来年からいらないわ」というサインだとしたら、住所録から削除すべきだろう。何人もの年配の方から、「今年こそ年賀状を卒業したい」という話を聞いたことがある。気持ちを察して、余計な負担をかけないようにしたい。
 かつての同僚には、いつまで送るべきなのかを迷う。職場が変わったら、それきりにしていいのだろうか。今まで元旦に到着していた賀状が、遅くなってきたら、やめどきかもしれない。
 今年もそんなこんなで、3人くらいは住所録から抹消した。あまりいい気持ではない。
 特に心配だったのが、高校時代の恩師である。大学受験の際には、夏休み返上で面倒を見てくれたし、教育実習では指導教員であった。結婚式にも招待して、その後も賀状のやり取りを欠かさなかったのだが、昨年の年賀状からおかしな点が見られ、気にはなっていた。
 まず、スケッチがなかった。恩師は旅行が趣味で、出先では必ず風景画を描く。ミラノのドゥオーモ、バルセロナのサグラダ・ファミリア、パリのノートルダム寺院などなど、力強いタッチで美しい建物を写しとるのだ。そこから、気に入った一枚を年賀状に載せるのが恒例となっていたが、去年はそれが見当たらなかった。さらに、「あけましておめでとうございます」の文字に歪みが目立つ。「あれっ、こんな字じゃなかったはずなんだけどな」と思うほどの変化であり、そのあとに続く言葉も意味不明だった。
 父と同い年だから、今年は喜寿を迎えたはずだ。元気でいるのかどうか、確認したい気もするが、ちょっと怖い。
 お世話になった前校長にも賀状を送った。校長クラスになると、退職後は大学などから誘いを受けることも多いが、「ゆっくりしたい」という理由ですべて断ったそうだ。去年は返事をもらったけれど、今年は来なかったので、来年はどうしようかと思案した。
 しかし、後日、寒中お見舞いが送られてきた。どうやら喪中だったらしい。細かい気配りに感心し、来年も安心して送れると思った。なるべく、人とのつながりは大事にしたい。
 思いがけない相手から、年賀状をもらうこともある。
 宮城からの転入生が、手書きの賀状をくれたのだ。目がクリッとしていて、アイドル並みのルックスを持つ女子だから、転入早々クラスの人気者になっていたが、義理堅い面もあるとわかった。うれしくて、すぐさま返事をしたため投函した。
 ちなみに、前から私のクラスにいる生徒は、誰一人として年賀状をくれない……。


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Siri 滅裂?

2016年01月10日 20時58分09秒 | エッセイ
 大学1年の娘が、スマホに何やら話しかけている。
「ヘイ、Siri、電卓を出して」
 これは私も知っている。秘書機能アプリだ。前に友人が「口で言えば操作をしなくてすむから楽よ」と、地図を起動させる場面を見せてくれた。娘はずっとアンドロイドを使っていたが、最近アイフォンに変えたので、物珍しいのだろう。
「ダメだ、私は電卓がわかりません、だって」
「堀さんは、地図を起動させてと言ってたけど」
「そっか、出してじゃなくて、起動させてって言えばいいんだ」
 再びトライ。
「ヘイ、Siri、電卓を起動させてください」
 すぐに画面が切り替わり、電卓が表示される。
「できたよ~!」
 還暦を過ぎた友人の堀さんは、やや命令口調でSiriに指示を出すが、未成年の娘は「あのう、よかったらやってもらえませんかね?」という雰囲気で、実に対照的だ。
「だって、Siriは年上の声なんだもん」
 なるほど~。
 若い子は、自分で操作したほうが早いから、あまりSiriを使わないらしい。でも、未だにガラケーの私にメールを送るときは、Siriに頼ったほうが早いのだとか。
「ヘイ、Siri、お母さんにメール」
「オ母サンサンノ ドノ アドレスニシマスカ」
 私は複数のアドレスがあるので、携帯をチョイスし、先に進む。
「件名ハ ナニニシマスカ」
 特に用もないので、彼女は行き当たりばったりで答えていた。
「お猿」
 おそらく、干支から思いついたのだろう。
「本文ハ ナニニシマスカ」
「キキーッ」
 安易に、猿の鳴き真似をしている。
「送信シマスカ」
「送信してください」
 数秒後には、私の携帯にメールが来るのだから、かなり感動した。
「すごーい」
「すごいでしょ」
 しかし、メールを開いてみると……。
 件名は「おさる」でいいとして、本文は「キティー」となっていた。
「あっはっは! 聞き取れなかったんじゃない? 滑舌悪ぅ~!」
 2人で、ひとしきり大笑いする。
「キティーちゃんを知っているんだね」
「早口言葉なんかは聞き取れるのかな」
「やってみよう」
 また、娘がスマホに向かって口を開く。
「ヘイ、Siri、東京特許許可局」
「モット ハヤク イッテクダサイ」
「ギャハハハ~!」
 Siri、おそるべし。ちゃんと早口言葉であることを理解している。
「動物の鳴き声がわからないのかなぁ」
「じゃあ、今度はゴリラで。ヘイ、Siri、お母さんにメール~!」
 お次は、私がゴリラの真似をすることになった。
「ウホッ」
 そして、私に届いたメールを見てみると……。
 本文は「右頬」となっている。
「ヒイッヒヒヒヒ~」
 またまた、お腹を抱えて大笑い。下手なコントを見るより、よほど楽しい。
「Siri、面白いね」
「ソウ イッテイタダケルト ウレシイデス」
 何て礼儀正しいんだ!
 ついでに、用事がすんで「Siri、ありがとう」と言ったら、「ソレガ ワタシノ 仕事デスカラ」と返ってきた。謙虚さに好感が持てる。
 翌朝、娘を起こしに行って、しばし話し込む。
「Siriにおはようって言ってみよう」
「会話もできるの?」
「できるよ。ヘイ、Siri、おはよー」
「オハヨウゴザイマス」
 何かいいな、このやり取り。
 スマホデビューの際には、私もアイフォンにしようっと。


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義母と食べる寿司

2016年01月07日 20時32分06秒 | エッセイ
 久しぶりに、家族で義母と寿司を食べた。
「わあ、いっぱいあるね。どれから食べようかしら」



 義母は、ズラリと並んだにぎりに目を輝かせ、少女のようにはしゃいだ。
 ひとりあたり13貫だから、結構な量になる。こういうときは、端から順番に取っていけばいいのだ。まずは、カニからいこう。
 箸を伸ばして、ひょいとカニをつまむと、それを見ていた義母も手を動かした。つられるように、隣のカニを挟み上げる。
「美味しい」
 義母は2年前に駐車場で転倒し、頭をしたたかに打ちつけて以来、認知症となってしまった。料理が作れなくなり、今では義弟が面倒をみている。洗い物はできるし、一人で風呂にも入れるが、物忘れがひどく日常生活に支障がある。家の戸締りは、もっぱら夫の役割だ。
「恵三はどこに行ったの?」
「今日は仕事だって」
「そう」
 彼女が名前を言えるのはこの義弟だけで、私のことはおろか、孫であるミキのことも、息子である夫のことも忘れてしまったらしい。以前だったら、「砂希さん」「ミキちゃん」「龍一」などと呼んでくれたのに、今では名前が出てこない。特に、ミキは一緒にトランプやかるたで遊んだおばあちゃんが、自分のことをおぼえていなくて、かなりショックを受けている。
 さて、カニのあとはウニ。軍艦巻きをつまみ上げると、義母がまた目で追い、同じように箸で取ろうとする。誰かの真似をするのだろうか。
「おばあちゃん、それ、ウニだよ。食べられるの?」
 夫が見かねて声をかける。彼女はウニが苦手なはずなのに、気づいていなかった。
「えっ、これウニ? あれいやだ。触っちゃったよ」
「いいよ。それは俺が食うから、そこに置いておいて」
「はい」
 代わりに義母が取ったのはカニ。今、食べたことをおぼえていないらしい。
「おばあちゃん、もうカニは食べちゃダメだよ。他の人の分がなくなるからね」
「はい」
 お次はイクラ。これは義母も好物だから安心だ。
 アナゴは口の中でとろける食感が素晴らしい。いつもはスルーする娘まで、絶賛しながら食べていた。義母もあとに続き、「美味しいね」を連発した。会話が途切れると、義母が心配そうな顔で尋ねた。
「恵三は?」
「仕事」
「そう」
 同じネタに偏らないよう、「マグロはまだですよ」とか「ホタテはどうですか」などと、誘導しながら食べていく。だんだん私まで、何を食べて何がまだなのか、わからなくなってきた。高齢者がいるときは、ひとつ盛りは危険である。
「恵三は?」
「仕事」
「そう」
 同じ会話を繰り返しても、特に指摘はしない。94歳になっても、義母一人の力で食べられることを感謝すべきであろう。
 結局、彼女は10貫食べられたようだ。
「お腹いっぱい。もう食べられない」
 そう言って箸を置いた。だが、まもなく、素早く箸を取り上げて、エビをつまみ上げる。11貫目。旺盛な食欲に、「よく食べたね」と夫が声をかけると、うれしそうに歯を見せた。
「食後のお茶をいれよう」
 夫がお茶の準備をしていると、義母が「よっこいしょ」と立ち上がった。
「トイレ、トイレ」
 あらためて彼女を見ると、だいぶ髪が伸びていた。ケガする前は、月に一度、美容院でカットしていたのに、すっかり無頓着になったらしい。化粧を欠かさなかった顔はノーメイクで、ちぐはぐな柄の服を組み合わせている。体を揺すりながらトイレに向かって歩く途中で、お尻のあたりから「プップッ」と小さな音が漏れてきた。
「…………」
「…………」
 私と娘は、口を半開きにしたまま、無言で目を合わせた。お嬢様育ちで上品な義母が、こうも変わってしまうとは。言葉が出てこなくて、しばらく静寂に支配された。
 やがて、義母が戻ってきた。彼女は、こたつの上から何かを取り上げて、娘に手渡した。
「はい、これ、ちょっとだけどお年玉」
「えっ、あ、ありがとう!」
「うふふふ」
 認知症になっても、孫にお年玉をあげることは忘れていなかった。
 愛情の深さが、物忘れに打ち勝ったのかもしれない。
 この先も、ありのままの義母を受け入れていかなくては。


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クリスタルで祝う新年会

2016年01月03日 15時44分06秒 | エッセイ
 新年あけましておめでとうございます。
 今年もよろしくお願いいたします。



 毎年、元日は親族との新年会である。
 料理は、姉や妹、母とダブらないよう事前に相談し、それぞれが作ったり買ったりして持ち寄るが、今年はニューフェイスが加わった。
「ミキも作りたい!」
 大学1年の娘も名乗りを上げ、「玉子豆腐」で参戦することになったのだ。少し手伝ってあげたけれど、ほとんど一人で完成させた。



 表面のツブツブは、インスタントのだしを使った証拠である。



 母が手抜きなので、それがスタンダードになっているのだと反省した。
「こんばんは~」
 妹の家に着くと、義弟が一生懸命牛肉を焼いていた。今日は休みが取れたようだ。
「あけましておめでとうございます」
「あけましておめでとうございます」
 身内といっても、こういう場での挨拶はきちんとするのが習わしだ。両親や姉夫婦はすでに来ていたので、これで全員集合となる。準備ができたところで、シャンパン係の姉が立ち上がった。
「今年は、クリスタルってシャンパンのロゼにしたわ。ロシア皇帝の愛したシャンパーニュって言われているのよ」
「わあ、すごーい! きれいなラベルねぇ」



 姉がボトルを掲げると、いっせいに歓声があがった。コルクを抜けば、宴会の始まりだ。
 クリスタルは、甘味と酸味のバランスがとれていて、絶妙の口あたりである。ゴクンと飲みこめば、フルーティーな風味が喉から立ち上ってくる。後味スッキリで実に美味しい。ロシア皇帝でなくても虜になりそうだ。
「玉子豆腐いただきまーす」



 73歳の母が、さっそく娘の料理に箸をつけた。
「うん、美味しいよ!」
 様子を見ていた義弟も、玉子豆腐の器を取り上げる。
「ミキちゃん、美味しくできてる」
 口々に褒められて、本人は少々照れているようだった。実は、切り分けたあと、型から取り出すのが大変だったのだ。フライ返しを借りて、四苦八苦した舞台裏をチラリ。



 誰もが絶賛したクリスタルがなくなったあと、私はバッグに忍ばせてきた「ゆずとジンジャーの梅酒」というボトルを開けた。やたらと甘くてドロドロしているところが好きなのだ。
「あっ、この梅酒、南高梅を使っているぞ。もったいないなぁ」
 ラベルを目にした義兄が驚きの声を上げた。彼は、南高梅は梅干しにするのが一番だと思っているようで、妙な梅酒に加工されるのが気に入らないらしい。
「南高梅か、道理で美味しいと思った」
 原材料には無頓着だった私も、まじまじと眺めてみた。そこに妹が、したり顔で割り込んでくる。
「ちょっとちょっと。なんこうばい、じゃなくて、なんこううめ、が正しいんだって」
「えっ、本当?」
「音読みが続いたあとに訓読み? おかしいでしょ」
「あはは、変~」
 いわゆる、重箱読みというヤツか。ひとつ利口になったかも。こんなことでも盛り上がるわが親族……。
 姉はチーズを何種類か持ってきてくれた。
「この白いチーズ、マイルドでいいね!」
「それはパルミジャーノ。粉状にするとパルメザンだよ」
「あれか! 道理で馴染みのある味だと思った」
 義弟の焼いたステーキは、適度に脂がのっていて軟らかく、何度も箸を往復させた。ステーキソースもあったが、粗塩におろしたての山葵を添えていただくのが最高!
 妹は、ペコロスとよばれる小玉ネギを使った料理を用意していた。やわらかく煮たペコロスに、肉みそをかけていただくと、体が温まる。これはかなり好評だった。
「うわあ、この料理、初めて食べた。美味しいね」
「玉ねぎが軟らかいし、肉みそもいい味」
 たぶん、妹が作った唯一の料理と思われるが、これは大ヒット。私も真似しなくては。
「奈津、ご飯は炊いてあるの?」
 母が疑惑のまなざしを妹に向けた。クリスマス会では、おにぎりを作ろうとしたとき、お釜がからっぽだったことを心配しているのだ。奈津は、思い出し笑いをこらえながら答える。
「今日は大丈夫。もう炊いてあるから」
「そう? ならよかった」
 母は、おあずけを食らう破目にならないとわかり、ホッとしたようだ。
「じゃあ、次はグリューワインね。温めるから鍋貸して」
 話題が途切れることなく、新年会は続いていく。23時半を回った頃、ようやくお開きとなった。
「ごちそうさまでした。おやすみ~」
 帰りの車の中で、新年の抱負が浮かんできた。
 今年は、昆布とかつおぶしから、だしがとれるようになるぞ~!


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