これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

パリ観光と消えた100ドル札

2013年08月29日 20時52分52秒 | エッセイ
 ロンドンから、ユーロスターでパリに移動する。



 夕食は、ドレスコードのあるレストランでとった。ミシュランガイド1つ星というから、あまり期待していなかったのだが、これがチョー美味しくて驚いた。
 カニのジュレ、ウイキョウのクリーム。



 ロブスターのグリル。



 仔牛 ヴァージンオリーブオイルとレタスを添えて。



 このマヨネーズソースの下に仔牛のスライスが隠れていて、写真には写っていないレタスと一緒にいただくのだ。味はよかったが、カロリーが高そうだった。
 チョコレートミルフィーユ。



 さらに、テーブル担当にはイケメンのウエイターがついた。彼は私たちが日本人だとわかると、熱心に話しかけてくる。どうやら、彼は『ドラゴンボールZ』の大ファンで、コミックだったら井上雄彦がいいと言っているらしい。私も井上雄彦の漫画は好きだ。話が合ってよかった。
 翌日は、パリ観光である。
 ホテルの近くには、オペラ座がデーンと構えていた。



 少し走ると、コンコルド広場が見えてくる。



 ここで、ルイ16世や、マリー・アントワネットが処刑されたのだ。ブルブル。
 そして凱旋門。



 デカッ!!
 ナポレオンが眠るアンヴァリッドも見えてくる。



 ご存じ、エッフェル塔。



 観光地ならどこでも、目つきの悪い大柄な黒人集団が待ち構えている。エッフェル塔のフィギュアを手に持ち、売りつけようと近づいてきて怖い。彼らは、ロンドンにはいなかった。
 ノートルダム寺院も、繊細な姿をあらわした。



 観光の前に、現地ガイドから治安について話を聞いた。
「地下鉄にもスリが多いですから勧めません。また、スマホは高額で取引されるので、出さないほうが無難です。スマホを使っている日本人を見たら、20分でも30分でも後をつけてくるんですよ。そして、隙が見えたら集団で取り囲み、突き飛ばして力ずくで強奪するという事件が起きています」
 うっへぇ……。
 美しい文化遺産とは裏腹に、油断ならない国というわけだ。
 帰国まで、ずっと気を張っていたから疲れた。飛行機に乗り、成田空港に着くと一気に緊張感がほぐれた。
 それがいけなかったのかもしれない。
 9月に入ると、娘が修学旅行でシンガポールに行く。せっかく成田に来たのだから、ここでシンガポールドルに両替しようと思い、銀行に立ち寄った。1シンガポールドルは81円というレートだったので、2万円は240ドルになった。
 ここまではよかった。
「ただいまぁ」
 空港から家に着き、荷物の整理をしていたときだ。240ドルを袋から取り出すと、なぜか140ドルしかない。

 ????

 100ドル札が1枚なくなっているではないか。バッグの中をよーく探してみたけれど、どこにも見当たらない。ひょっとしたら、落としたのかもしれない。
 ダメ元で、一応成田空港に電話をかけてみた。なくした日と時間、場所、状況を詳しく伝えると、まもなく返事が返ってきた。
「100シンガポールドルですね。はい、拾った方から届けられております」
「ええっ!」
 まさかまさかのヒットである。あきらめかけていただけに、見つかった喜びは大きい。自宅まで送ってもらい、今は手元に戻ってきた。
 これが、もしパリだったら……。
 ああ、日本人でよかった!


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大英帝国の誇り

2013年08月25日 21時06分39秒 | エッセイ
 ロンドン観光といえば、2階建てバス・ダブルデッカーである。



 しかし、この日は朝から強い雨が降っており、せっかく一番前の席をゲットしたのに、この有様……。



 涼しくてよかったけれど、この国では雨が多いと現地のガイドさんが言っていた。
「じゃあ、バスから降りてください。まずは、タワーブリッジを見ましょう」



 ロンドンのパンフレットでは、この写真が印象的だった。空が青ければもっとよかったのに。
「あれがロンドン塔です」



「この丸い建物が、ロンドン市庁舎です」



 卵みたい。
 再びバスに乗り、少々走る。
「ウエストミンスター寺院です」



「奥に見えるのが国会議事堂、ビッグベン」
 何と美しい~! 



 バッキンガム宮殿は、観光客であふれかえっていた。



 ヨーロッパには何度か来たことがあるが、イギリスは初めてだ。こんなに素晴らしい建造物を前にして、駆け足で通り抜けるのはもったいない。
「次は大英博物館です。写真も撮れますからね」



 すべてを見たら、何日もかかってしまうくらい膨大な展示品が収蔵されているという。それなのに無料。教育熱心な英国人気質に触れた気がした。しかし、私たちに与えられた時間は、ほんの90分である。
 博物館を代表するコレクションを、ガイドに案内してもらった。
 ロゼッタストーン。同じ内容の文が、3つの言語で書かれているという。



 これを見て、同じツアーに参加している男性が「前に見たのとちょっと違う。レプリカですか」とガイドに聞いた。何という質問をするのかと驚いていたら、ガイドの女性はその男性を正面から見据え、毅然として答えた。
「これがオリジナルです。あなたが見たものが複製品なんです」
 決して怒鳴っていないのに、ただならぬ迫力が感じられた。
 彼女は日本で生まれ育ったそうだが、結婚後30年以上イギリスに住んでいるという。英国の誇りを守ろうとする姿勢が伝わってきて、愛国心に感心した。
 ラムセス2世の胸像。



 人面有翼牡牛像。一番大きな展示物で、アッシリアの守護神である。



 側面には謎の文字が……。



 ライオン狩りのレリーフ。



 王の偉大さを示すためとはいえ、殺されたライオンが気の毒になった。



 パルテノン神殿の破風(屋根の一部)彫刻。



 恥じらいのヴィーナス。



「このヴィーナスは入浴中のところを覗かれているんです。お尻もキレイですよ」



 おお、たしかに。
 そして、ミイラゾーン……。



 ミイラは写真には慣れているが、眠りを妨げないようにと釘を刺された。
 X線で内部を撮影したものもある。



 自然にできたミイラ、ジンジャー。



 ここに来ている人は、誰もが生きているから、死への怖れを感じつつ見ている気がした。
 モアイ像。



 これは何だかよくわからないが、ただならぬ妖気を発していた。



 さすがは偉大なる大英帝国、と圧倒されて外に出た。
 よくぞ、これだけの収蔵品を集めたものだ。

 イギリスの偉大さは、料理にも表れている。
「ランチはフィッシュ・アンド・チップスです」



 ドドーン。
 魚の大きいことといったらない。しかも、ポテトもてんこ盛りで、とても食べきれなかった。
「ディナーは、名物のローストビーフと、ヨークシャープディングです」



 ズズーン。
 写真左上に、つけ合わせのマッシュルームが写っている。ここから、ローストビーフの大きさがどのくらいか、見当がつくのではないだろうか。厚さが1センチ近くもあり、1枚でお腹いっぱいというのに、2枚もあるのだ。またまた食べきれない。
 大英帝国の偉大さは十分わかったから、料理はもうちょっと少な目にしてもらえないかな……。


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オルセーとルーブル

2013年08月22日 21時44分16秒 | エッセイ
 昨日まで、イギリス・フランスツアーに行ってきた。
 目的のひとつに、美術鑑賞がある。
「お母さん、ミキはルノワールの『ムーラン・ド・ラ・ギャレット』が観たいの」
 高2の娘にせがまれて、まずはオルセーに行ってみた。
「オルセーは写真撮影禁止です。でも、係員のいないところでは、みんな結構撮っていますよ」
 添乗員さんからはこんなアドバイスをもらったが、娘は真面目だ。
「ダメダメ。撮影禁止だったら我慢でしょ。しっかり目に焼き付けておくからいい」
 ここの入場料は9ユーロだが、夕方4時半からは6.50ユーロになる。主婦の悲しい性で、ついその時間帯を狙ってしまった。



「下から行こう」
 ミレーの落穂拾い、マネの「草上の昼食」、ゴッホの「オーヴェルの教会」・「自画像」などを観る。
「あれ? ゴーギャンの『タヒチの女』がないよ」
「貸し出し中じゃね?」
「かな」
 すべてが揃っているとは限らない。見つからないものは諦め、限られた時間を有効に使う。ドガもたくさんあった。
「じゃあ、いよいよルノワールだね」
 この美術館は2011年に大改装をしたようで、るるぶと少々配置が違っている。印象派は、上の階のようなので、4階のギャラリーを見てみた。
「あっ、ルソーがある!」
 4階には、「蛇使いの女」があった。
 そして、お目当てのルノワールは、5階に集められていた。
「ムーラン・ド・ラ・ギャレット」には、何人もの人が群がりため息をついている。
「すごい!」
 娘も満足したようで、ポストカードを買っていた。



 翌日はルーブルだ。
 こちらは、フラッシュなしでの写真撮影が可能だ。オルセーよりも人が多かった。
「ルーブルはスリの多い場所ですから、荷物には十分気をつけてください」
 添乗員が、一オクターブ低い声で警告する。気を引き締めて、館内に入った。



 マグダラのマリア。



 ミケランジェロの彫刻「奴隷」。



 ラファエロ「美しき女庭師」。



「じゃあ、次はいよいよ『モナ・リザ』です。ルーブルで一番スリの多い場所ですから、パッと撮影して、3秒以内にカバンに手を戻してください」
 さすがに、ここの人出は半端ではなかった。何十人もの観客が小さな絵の前に押し寄せるものだから、落ち着いて見られるはずもない。絵の前は通勤時間帯の山手線車内と化し、押し合いへし合いしながらジリジリと進んだ。どうにか写真を撮り、少ない酸素を奪い合っていたら、すこぶる気分が悪くなった。
「ウエ~」
「気持ち悪ぅ」
 ガラス越しの彼女の姿は、これが精いっぱいである。



 サモトラケのニケ。
 


 こちらも知名度の高い「ミロのヴィーナス」。



 最後は「ハムラビ法典」で締めくくる。



「ここは宮殿でしたからね。内装も素晴らしいですよ」



 なんと豪華な……!

 ひとときの夢に酔ったような世界であった。
 出口ではたと現実に帰り、バッグの中を見る。
 財布も中身も無事だった。
 こんな素敵な美術館で、スリという悪行を働く人の気持ちはわからない。


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スマホ音痴

2013年08月18日 08時56分29秒 | エッセイ
 高校生は、いまやほとんどがスマートホンを使っている。ある保護者は子どもに、「LINEをするから、どうしてもと言われ仕方なく」スマホに替えたそうだ。
 わが娘も、昨年スマホに変更した。「こっちのほうが楽」と言い、チャカチャカ使いこなしているが、私にはどうもハードルが高い。
「写真撮って。このボタンがシャッターだから」
 娘にスマホを渡された。どれどれとアングルを決めていたら、画面が真っ暗になってしまった。
「消えた……」
「もう、遅いんだよ」
 娘がどこかのボタンを押すと、元の状態に戻った。ずいぶん、せっかちなカメラである。
「はい、チーズ」
 言われたボタンを押したが、シャッターが切れない。半押しになったのだと思い、ちょっと力を入れてみたが、それでも「パシャッ」というシャッター音が聞こえない。「あれあれ」と何度も繰り返してみたが、一向にうまくいかなかった。
「できない……」
「もういいよ」
 彼女は私からスマホを取り返し、自撮りしていた。最初からそうすればいいのだ。
 撮影後は、画像の確認をする。娘は、人差し指でタッチパネルを操作していたが、急に大きな声で笑い出した。
「お母さん、さっきの写真、15枚も撮れてるよ」
「へ?」
「しかも、ムービーまで。なにやってるの?」
「…………」
 撮れないと思っていたのに、量産していたとは不思議だ。
 何がなんだかわからず、「私にスマホは向いていないのかもしれない」と落ち込んだ。

 旅行先では、娘のスマホが頼りになる。
 パソコンを持っていかなくても、短時間のブログチェック程度ならこれで十分だと思ったのだが……。
「日本語にならない……」
「こうやるんだよ」
「アプリを開けませんだって」
「じゃあ、少し閉じるから貸して」
 やはり、使いこなせない。
 あげくの果てには、入力ミスが待っていた。
「お母さん、『娘にスマホ借りて』が『スマヘ借りて』になってるよ!」
 ああ、クサいかも……。

 グーグルでは、眼鏡型端末を開発しているという記事を読んだ。



 ますます、ハードルが高くなりそうだ。
 10年後は、スマホがなくなって、眼鏡型端末ばかりになっているかもしれない。
 でも、私がかけているのは、単なる老眼鏡だろうな。

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見えない素顔

2013年08月15日 05時57分50秒 | エッセイ
 7月の終わりに、連日、三者面談をした。
 高校は義務教育ではないので、成績が悪いと進級できない。本人や保護者と進級規定を確認し、今は何が不足していて、これから何をしなければならないかを伝えなければならない。
 これが、なかなか厄介である。
 親子といっても、日ごろからコミュニケーションが取れていない場合は、面談の場でケンカに発展する可能性がある。
 最初に担任をしたとき、ある女子生徒は母親の平手打ちをくらった。
 2度目の担任のときは、男子生徒が母親にブチ切れ、「うるせえ、ババア!!!」と怒鳴り出ていってしまった。
「僕のクラスなんて、母娘でつかみ合いが始まりましたよ」とため息をつく同僚もいた。
 今年はどうなることかと思ったら、やはりドラマが待っていたのである。
  
「オレ、親と仲悪いんだ。三者面談なんて、絶対イヤだから」
 今年、担任をしているオサムは、口をへの字に曲げて抵抗した。
 この生徒は、いわゆる多動性障害なのではと思うくらい、静かに座っていられない。授業中は、しゃべるか寝るかのどちらかだから、1の評価が4科目もある。
「進級できなかったら大変でしょ。担任は親御さんに、前もって伝える義務があるのよ」
「何だよ、ムカつくな」
 悪態をつかれても、オサムだけを特別扱いするつもりはない。すぐさま母親に電話をし、面談の約束を取りつけた。当日は、バトル勃発の覚悟で臨む。
「先生、来たよ」
 約束の5分前、オサムが職員室に顔を出す。資料を持って廊下に出ると、オサムの隣にいたのは、肌が真っ白で病弱そうな小柄の女性だった。
「このたびは、ご面倒をおかけして申し訳ありません」
 女性は、細い体を深々と折り曲げ、挨拶をする。
「いえいえ、とんでもないです。お暑い中、ご来校くださいまして、ありがとうございます。こちらにどうぞ」
 オサムは罰の悪い顔をしていたが、左手には母親の荷物がある。足が不自由な母親を、いたわっているようだ。
「学校では、なかなか授業に集中できません」
 オサムの学校での様子を伝えると、彼女はますます小さくなったようだった。
「そうですか。家でも勉強している様子がないんです。困ったものです」
「えー、たまには、やってるじゃん」
 オサムは少々すねていたが、決して親子仲は悪くなさそうだ。母親に反発することもなく、落ち着いて話を聞いていた。最後はオサムが、「これじゃマズいんで、2学期は集中して頑張ります」と宣言し、面談は30分ほどで終了した。
 母親は、去り際に健康状態を簡単に話してくれた。
「実は私、10月に入院することになっておりまして、その間が心配です」
 母親は、オサムを正面から見据えたあと私に視線を戻し、「よろしくお願いします」と頭を下げた。
 そのとき、オサムは母親と目を合わせようとはしなかった。
 2人を見送るため、昇降口に向かう。オサムは母親の一歩前を歩き、下駄箱から彼女の靴を出して並べた。母親が靴を履くと、ひょいと手を伸ばし、スリッパを拾って袋に入れる。
「じゃあ、先生、これで失礼します」
「はい、お気をつけてお帰り下さい」
 母親につられて、オサムもペコリと頭を下げる。母親は、彼が開けたドアを通り、ゆっくりと歩いていった。

 仲が悪いんじゃなくて、親に心配をかけたくなかったんだな……。

 以来、オサムを見る目が少し変わった。
 口だけだったら、男じゃないぞと言ってやりたい。

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鳥羽水族館と父

2013年08月11日 16時29分32秒 | エッセイ
「お母さん、さっき、おじいちゃんがバイキングで牛乳こぼしてたよ。隣にいた人にかかったみたい」
 朝食が終わり、ホテルから外出しようとしたとき、娘が神妙な顔で話しかけてきた。
 父は、今年で75歳になった。そろそろ、日常生活にも支障が出てくる頃かもしれない。
「そっか。じゃあ、明日はお母さんが面倒みるよ」
「そうした方がいいと思う」
 出かける準備ができたら、両親や妹一家と落ち合い、鳥羽水族館に出かける。
 ここは、「飼育種類数 日本一」が売りの、大きな水族館だ。動物園と違って涼しいし、日焼けする心配もない。子どもから大人、お年寄りまで楽しめる施設である。
「順路はないんだって。最初はトイレに行っておこうか」
「そうだね」
 用を足し手を洗っていると、個室の中から、何と父が出てきた。
「お父さん、ここは女子トイレだよ」
「えっ、女子?」
 どうやら、母や私のあとについて、何の疑いもなく入ってしまったらしい。
「なんだ、気がつかなかったな」
「…………」
「…………」
 娘も私も、あとの言葉が見当たらなかった。
 他に、人がいなかったからよかったが、これは要注意である。

「わあ、キレイだねぇ」



 大きな水槽には、これまた大きなウミガメが気持ちよさそうに泳いでいる。



 ヒトデは、大の字になって寝そべり、リラックスムードだ。



「あれ、おじいちゃんは?」
 娘が、父の不在に気づいた。写真撮影に熱心な義弟や、じっくり楽しむ甥、姪を待てずに、さっさと行ってしまったらしい。
「一人で勝手に進んじゃダメって言っといた」
 妹が父を見つけ、単独行動しないように叱ったらしい。以降は、後を振り返りながら、時間調整をして待つようになった。
 機嫌の悪そうなサメ。



 パイプの中で密着し、落ち着いた表情のマアナゴ。



 人を見つけると動きを止め、とびっきりの愛くるしい笑顔を振りまくスナメリ。


 か~わい~い!!

 一匹テイクアウトしたいイセエビ。



 砂の上の魚を踏みつけ、悠々と移動するタカアシガニ。



 パーティーに出かけられるくらい、オシャレなミノカサゴ。



 水中に5分以上潜っていられるカピバラ。



 だらけるカメ。



 ピーマンみたいな、何とかカエル。



 コンタクトレンズに似ている、ミズクラゲ。



 これは目に入れたら大変だ……!
「いろんな動物がいるねぇ」
「あ、あれ。変な生き物コーナーだって。行ってみようよ」
 妹は、子どもたち以上に楽しんでいるらしい。
 足が56本のタコ。



 他にも変な生き物はいたが、場所が狭い。息苦しくて出口に向かったら、父が疲れた顔で立っていた。
「見たの?」
「うん」
「面白かった?」
「そうだな」
「みんな、まだ動きそうにないよ。出て待ってようか」
「うん」
 出口の近くには椅子とテーブル、反対側には自動販売機もあった。
「何か飲もうか」
「そうだな」
 私は缶コーヒーにした。父も小銭入れを出し、自分で硬貨を投入してボタンを押していた。
 どうやら、買い物はできるらしい。
「うめえな」
 父は、ほっとした顔で飲み始めた。
 椅子に座っていたら、10分ほどして残りのメンバーがぞろぞろ出てきた。
「あっ、何か飲んでる。ずるーい!」

 楽しい時間は、あっという間に過ぎてしまう。
 2泊3日の鳥羽旅行が終わり、名古屋で帰りの新幹線を待っていた。到着時刻の1分前に、父がフラフラと自動販売機の前に歩いて行く。「昨日は一人で買えたから大丈夫だろう」と、私はほとんど注意を払っていなかった。
「お父さん、まだ帰ってこないよ」
 母がうんざりした顔でつぶやいた。
 自販機を見ると、父がまだ硬貨を入れている。ホームでは、新幹線が減速しながら進入してきたところだ。
 私はあわてて、父のもとに走っていった。
「どうしたの?」
「いや、金を入れると下から出てきちゃうんだよ」
 投入した硬貨にキズでもついていたのか、はたまた自販機の故障か。父が入れた100円玉は認識されず、返却口から戻っていた。父にはこれが理解できず、3回も4回も、入れなおしては返却されるということを繰り返していたようだ。
 何か買ってやりたいが、後の人も焦った顔で待っている。もはや時間切れだ。
「でも、もう電車が来ちゃったからね。行こう」
「……そうだな」
 父はおとなしく従い、新幹線に向かって歩き始めた。
 両親と旅行をするのは、実に5年ぶりである。わずか5年で、父は急激に老いてしまった。

 あと何回、父や母と旅行できるのかな……。

 新幹線で、昼食のおにぎりを取り出す。まずは、焼きたらこからだ。
 ひと口齧ると、白いご飯の中に赤い具が見える。
 なぜか、味が感じられなかった。

 ◎鳥羽グルメの記事はこちらから。
 ◎ミキモト真珠島への記事はこちらから。


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鳥羽グルメ

2013年08月08日 18時52分12秒 | エッセイ
 そのホテルは、南仏・コートダジュールをイメージしたデザインだそうな……。



「わっ、キレイ!」
 両親、妹一家と一緒に、総勢9名で鳥羽まで2泊の旅行をした。ホテルの外観に感動したあとは、部屋でまったりし、5時間もの移動時間で疲れた体を休める。
「何かある」
 娘がテーブルに近づいていった。



 木製のパズルである。5つのピースを組み合わせて、十字架を作るものらしい。
「ほお」
 挑戦状を叩きつけられた気になり、つい手にとってしまった。
「あれ」



「むむ」



「これでどうだ」



 娘が呆れた顔で「ダメでしょ」と吐き捨てた。結構難しい……。
 余計なことをしていたら、妹から「プールに行こうよ」と誘いが来る。できないパズルをうっちゃり、「よっしゃ~」と応じた。
 ジジババ夫は来なかったが、比較的若い6人で遊んだ。


 
 遊んだあとは食事だ。初日は和食にした。
 お造りには金箔つきの伊勢海老がある。



 鮑の味噌糀焼も美味しかった。



 満腹、満足で、ぐっすり眠る。
 翌日、お昼はフラリと立ち寄った店で、「焼き貝膳」をいただいた。B級グルメでも、あなどれない。鮮度抜群で、やけに機嫌がよくなる。



 午後はまたプール。曇っていたのに少々焼けた。
 部屋は世帯ごとに分かれているので、妹と顔を合わせるなり打ち合わせだ。
「今日はフレンチだったよね」
「そう」
「じゃあ、シャワーを浴びたら5時半にエレベーターで待ち合わせしよう」
「うん」
 料理はフレンチのほうが豪華だった。
 伊勢海老のソテー。



 黒鮑のステーキ。



 松阪牛ロースの柔らかグリル。



 いやあ、感動~!
 食事が終わっても、お腹がいっぱいで、すぐには温泉に入れない。
 また、パズルが目に入った。
「うーん」
 アイデアは、なんの前触れもなくやってくるものだ。思いつきでパズルを組み合わせたら、今度こそ、キレイな十字架ができ上がった。



「やったぁ~!」
 魚介類に松阪牛を味わい、パズルも無事完成。
 3日目は、思い残すこともなく鳥羽を去ったのであった。
 やはり、一押しは伊勢海老です!

 ◎ミキモト真珠島への記事はこちらから。
 ◎鳥羽水族館関連記事はこちらから。


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オープンキャンパス2013

2013年08月04日 20時56分31秒 | エッセイ
 8月上旬は、オープンキャンパスが集中している。高2の娘の付き添いで、今年も行ってきた。
 まずは明治大学。
 ここは、御茶ノ水駅から徒歩5分ほどの便利な場所にある。



「おはようございまーす!」
 オープンキャンパスでは、どの大学も学生が誘導や案内を手伝い、活躍している。ここの学生は、よくいえば華やか、悪くいえばチャラい雰囲気であった。
「なんか、化粧が濃いね。友達になりたくない感じ……」
 娘は引いてしまったようだ。
 模擬授業では、教授らしき人物がTシャツ・短パンで登場し、ピントのずれた話を延々と続けている。今度は私が引いてしまった。
 しかし、施設は素晴らしい。私が特に感動したのは、地下1階にある大学博物館だ。



 展示点数も多く、リーフレットもあり、地方公共団体の博物館並みに見えた。



 刑具や拷問具が大きなスペースを占めているので、心臓の弱い人には向いていないかもしれない。
 お昼は、野菜カレーにした。このカフェでは、明治大学の学生が調理をしているそうだ。プロ顔負けの、とても美味しいカレーである。



 アンケートに答えると、大学名入りのタオルがもらえる。



「わーい♪」
 娘は満足したようだ。
 翌日は成蹊大学に行く。



「ねえ、この大学見たことあるよ! 『花より男子』のロケやってたところだ」
 


 ミーハーな娘が目を丸くしていた。なるほど、たしかに大学らしい風格と、クラシックな校舎がドラマの舞台にうってつけである。設備は少々古めかしいが、ガイダンスも模擬授業もしっかり順備された内容である。お手伝いの学生たちは地味な印象で、汗を流しながら一生懸命活動していた。
「お昼はぜひ学食にどうぞ! おススメは油淋鶏(ユーリンチー)です!!」
 マイクを握った女子大生が、学食を勧めるので行ってみた。
 油淋鶏というのはこれだ。醤油味のさっぱり風味に仕上がっており、いくらでも食べられそうだった。



「お母さんは、成蹊ランチっていうのにしてみる」



 私は逆らってみたが、これも油淋鶏と同じ鶏が載っているようで、美味しくいただけた。
 食後は図書館に足を運ぶ。ここの図書館は、かなり有名らしい。



 SFドラマに出てきそうな球状のスペースがあり、視聴覚教材や個別の学習環境も充実している。過去には、グッドデザイン賞を受けているそうだ。



「すごいね、ここがいいかなぁ」
 娘はすっかり心を奪われたようである。
 そして、オープンキャンパスのおみやげは……。
「明治はタオルだったけど、同じじゃ芸がないから、成蹊は消しゴムだったりして」
 私が思いつきで、いい加減なことを言った。
「なにそれ、何で消しゴムなの? クリアファイルとかかもよ」
 しかし、ガイドを見たら、本当に消しゴムだったのだ!!



「マジ~!?」
 もちろん、ゲットしてきた。
 そして、今日は中央大学に行ってきた。



「何だか、大学というより、公共施設みたいだね」



 娘は、機能性を重視した殺風景な建物に、少々戸惑っているようだ。



「おはようございます!」
 こちらの学生は、真面目な優等生という印象である。
「ドリンクを用意してありますので、お取りください」
 水が欲しいと思った。で、手にしたものは、「中央大学」のロゴ入りの水であった。



 去年行った法政大学でも、「法政水」なる水が配られていたことを思い出す。
「アンケートに答えていただきますと、マフラータオルをプレゼントいたします!」
 おや、こちらも明治と同様、タオルがおみやげだ。
 ちなみに、売店でクッキーが売られていたが、法政大学と文字が違うだけだった。もうちょっと、オリジナリティが欲しいと思うのは私だけだろうか。
 と文句を言いつつ、中大まんじゅうを買う。



 学部ガイダンスは30分、模擬授業は50分と、みっちり指導をするイメージにぴったりの内容だった。公務員、教員、司法試験、公認会計士などの合格率では、他大学を圧倒する実績があるそうだ。就職内定率も高く、安心して通わせることのできる大学だと思ったのだが……。
「お母さん、疲れた……」
 多摩キャンパスは遠い。入試も難しそうだし、ちとハードルが高いかもしれない。
 ここの食堂は、和洋中軽食などバラエティに富んでおり、かなり充実していた。座席数も国内最大だという。どこに入るか迷ったが、和食のお店に入った。
 さんまの蒲焼丼。



 これもいい味だ。
 あとは、アンケートに答えてタオルをもらい、真っ直ぐ帰った。



 あと2校は回るつもりだ。
 授業やガイダンスを比較し、学食で締めくくる。
 タオルは、当分買わずにすんだりして。


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左目ゴロゴロ

2013年08月01日 18時53分33秒 | エッセイ
 何日か前から、左目の異物感を感じていた。ゴロゴロした感じが、どうにも不快である。

 どうしようかな……。

 その日は土曜日だった。用事があり、昼過ぎには出かけなければならない。でも、午前中なら空いている。
今、眼科に行かなければ、月曜まで治らないのだ。重い腰を無理やり引っ張り上げ、私は駅前に向かった。
「あのう、初めてなんですけれど」
「じゃあ、問診票の記入をお願いします」
 痛みはない。視界も悪くない。異物感と少々の充血があるだけだ。
 ただ、徐々に耐え難いレベルに近づいているから、何とかしてほしい。
 
 また、あれかな……。

 思い当たる節はあった。私は結膜結石ができやすい体質らしい。あかんべえをすると、白くて小さなできものがあり、これが悪さをするのだという。



 子どものときから、ときどき眼科で除去してもらっていたが、ここ何年かは放置している。
 おそらく、また復活したのだろう。
「笹木さん」
 ようやく順番が来たようで、名前が呼ばれた。
 医師は若い女医であった。問診票を片手に、予習をしている。
「今日は、目がゴロゴロするんですね」
「はい。結膜結石ができやすいと言われたことがあるので、それかもしれません」
「では拝見しましょう」
 まずは、下まぶたからだ。
「ああ……。いっぱいありますね」
「でも、ゴロゴロするのは上なんです」
「上?」
 医師は、下まぶたから手を離し、上まぶたをひっくり返した。
「……こりゃ、ゴロゴロするはずだわ」
 自分では、上まぶたの奥が見えない。どのくらいの結石ができているのかわからないが、相当な数に上るようだ。
「全部は取り切れませんけど、やってみましょう」
 彼女は点眼麻酔を私の目に注すと、メスを持って結石を取り始めた。
「これが気になるなぁ」
「もうちょっとなのに……」
 診察は孤独な仕事なのだろうか。彼女は独り言を連発し、結石と格闘している。
 5分後、ようやく結石退治にめどがついたらしい。医師は疲れた顔をして、椅子に座り込んだ。
「これでゴロゴロしなくなると思いますが、まだいくつも残っていますから、気になったら来てください」
「はい」
「右目はどうかしら」
 医師は、右目のまぶたを裏返し、結石ができているかを確認した。
「こっちは何もないです」
「へ?」
 なぜか、私の結膜結石は、左だけと決まっているらしい。
 実に不思議だ……。
 子どものとき、和田慎二さんの『左の眼の悪霊』という漫画を読んだことがある。
 私の場合は、「左の眼の治療」だなと、つまらないことを考え、あやうく滑りそうになった。



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コメント (12)
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