これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

番町皿屋敷(居酒屋編)

2013年05月30日 19時50分56秒 | エッセイ
 居酒屋で、職場の宴会があった。50名ほど集まり、2階のフロアを占拠する。
「チキンサラダです」
 かなり年配の男性が料理を運んできた。居酒屋といえば、若者のバイトばかりというイメージだから、ちょっと珍しい。取り皿に手を伸ばしたら、一枚足りないことに気づいた。



「すみませーん、お皿もう1枚くださーい」
「はい、お皿ですね!」
 さきほどの年配男性が、元気よく答えた。だが、なかなか持ってきてくれない。料理や飲み物は持ってくるが、皿は忘れ去られたようだ。再度、声をかけてみる。
「あのう、お皿を1枚ください」
「ああっ、そうでしたね」
 彼は急いで取りに行った。しかし、途中で別の客が飲み物をオーダーしたらしい。奥に引っ込み、戻った彼が手にしていたものは、皿ではなくレモンサワーだった……。
「では、乾杯しましょう」
 宴はお構いなしに進行したが、皿はまだこない。他の店員を目で探していたら、例の年配男性がひょいと顔を出した。

 皿! 皿! 一枚たりな~い!

 目が合った瞬間、テレパシーを送る。今度は通じたようで、彼は取り皿だけでなく、醤油皿に箸まで持ってきてくれた。
 そういえば、このチェーン店の社員から、「うちには定年制がない」と聞いたことがある。外食産業は年中人手不足だから、若い人だけでなく、シルバー世代も頼みの綱となる。その社員は、見た目が50代だったが、実は72歳だと言っていた。他にも、20代だと思っていた人が40代だったり、40代とにらんだら60代だったりで驚いた。日々、お客さんと接していると、若さをキープできるものらしい。
「あさり汁です」
 大きなお盆に、15個ほどのお椀を載せ、先ほどの年配男性が登場した。こぼさずに運べなかったようで、お盆の上にはにわか雨に見舞われたような水たまりができている。見かねて、私は手伝うことにした。
「じゃあ、回しますよ」
「ああ、恐れ入ります……」
 お盆からお椀を取って隣に回す。私のテーブルは5人だ。全員分をもらうと、彼は頭を下げて隣のテーブルに移動していった。
 どう見ても60代の彼が、不慣れな仕事をこなし、いきいきと働くシニアになるかどうかはわからない。
 でも、私にはできそうな気がした。学生時代にウエイトレスをしたこともあるし、接客業は得意だ。「マックで働いていそう」と言われることも多い。教員退職後は、居酒屋で飲み物や料理を運び、小遣い稼ぎとアンチエイジングに努めちゃったりして。
 そうそう、「一枚たりない……」と言われないように、取り皿は多めにセッティングしておかなくてはね!


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初めてのマラーホフ

2013年05月26日 21時27分16秒 | エッセイ
 上野・東京文化会館で、「マラーホフの贈り物 ファイナル!」を観てきた。



 プロのバレエ鑑賞は初めてだ。大ホールは5階席まであり、大きさにびっくりした。
 私が座ったのは、1階席である。チケットをくれた友人は、「一応、オペラグラスを持って行ってね」と教えてくれたのだが、どこにしまったのかわからない。見つかったのは、バードウォッチング用の双眼鏡だけだ。「これではちょっと」と気兼ねして、結局手ぶらで行った。肉眼だけで、十分に見える席でラッキーだった。
 周りを見渡すと、やたらと細くて姿勢のいい人ばかりだ。バレエの経験者なのかもしれない。年配の女性も目立っていた。私の隣にいたのも、お年を召した女性の方だったが、マスクにストール、ひざ掛けが手放せない様子だった。たしかに、空調が効きすぎており、私もジャケットを着たままで席についた。
 まずは、「シンデレラ」からだ。いつも不思議に思うのだが、彼らはどんなに高く跳んでも、着地の音が聞こえない。ステージからは、トゥ・シューズと床のこすれる「キュッ」という音が、かすかに聞こえるのみだ。普通の人だったら、「ドスドス」「ズシン」と騒々しいに違いない。簡単そうに見えて、決して真似できないだろう。きっと、マラーホフは、踏み台昇降をしても、一人だけ「ドンドンドン」と言わなかったと思われる。
 相手役の、ヤーナ・サレンコという女性も印象的だった。ネコ科を思わせる柔軟性と、しなやかな動きが美しい。きっと、400mハードルをやっても、ひらりひらりと優雅に飛び越え、汗ひとつ見せずにゴールするのではないか。
 第一部の最後、「ライト・レイン」もよかった。バレエという種目には、手足の長い人が向いていると聞くが、これに出ていたルシア・ラカッラという女性が、まさにそんなタイプだったのだ。伝統的なチュチュではなく、東南アジアを思わせるエキゾチックなコスチュームが、彼女の手足の長さを引き立てていた。
 たとえるならば、ナナフシといったところだろうか。華奢な手足がクネクネと動き、足など頭の横にペタリとついてしまう。体中から妖しい色香を放ち、すっかり魅了されたところで、第一部が終了した。
 休憩を挟んで、第二部が始まる。ここでは、東京バレエ団が登場し、また違った雰囲気が楽しめる。
 しかし、40分ぶっ続けは長い。初心者の私は、途中で眠くなってしまい、不覚にも意識を失ってしまった。ラストは何とか持ち直し、他の観客と一緒に拍手をすることができた。

 いかん……。

 せっかくチケットをいただいたのに、寝てしまっては申し訳ない。二度目の休憩では、眠気覚ましにコーヒーを飲むことにした。コーヒーは1杯400円。価格の割には、結構おいしかった。ワインなどのアルコールもあったが、飲んだらさらに眠くなる。遠慮して正解だった。
 第三部が一番よかった。ロマンティックな「ロミオとジュリエット」、元気いっぱいで爽やかな「タランテラ」、「椿姫」と続いている。
 圧巻は、「白鳥の湖」より“黒鳥のパ・ド・ドゥ”である。昔、バレエ漫画で読んだことのある、「グラン・フェッテ」という技を見ることができた。軸足だけを支えに、駒のように何回転もするなんて、まったく驚きである。会場からは、地鳴りのような大きな拍手が起きた。
 ラスト、マラーホフの「ヴォヤージュ」はよくわからなかったが、周りから「ブラボー」などと声が上がっていたので、きっとすごいのだろう。
 と、いい加減な批評をするしかない。
 すごいといえば、観客の去り方も半端ではない。まだ、マラーホフたちが舞台であいさつをしているのに、席を立つ客が何人もいる。「あれあれ、いいの?」と目を丸くしてしまった。シビアというか何というか。
「見るもの見たし、もういいわ」という感じで、振り返りもせず去っていくのだ。
 一方で、フロアに残っている人たちは熱い。拍手だけでなく、一人二人、十人二十人と立ち上がり、両手を上げて出演者に拍手を送っている。
「み、見えない……」
 舞台が人の背中で埋め尽くされた瞬間、私も席を立って出口に向かうことにした。
 いやあ、初のマラーホフ、堪能させていただきました!
 でも、ファイナルってことは、最後なの?


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ダヴィンチ行き新幹線

2013年05月23日 20時19分49秒 | エッセイ
 埼京線の車内広告に、「レオナルド・ダ・ヴィンチ展 天才の肖像」があった。
 美術展が好きなのでジッと見ていたら、下の方に「みどりの窓口・びゅうプラザでチケット販売中」と書かれていた。

 これだ!!

 すでに閉幕した「ミュシャ展」のチケットを、みどりの窓口で購入したブロ友さんがいる。
 JRでも売っているんだと感心していたら、さらに驚くべきことは、そのチケットが新幹線の切符の用紙だったということだ。実にユニークで面白い。機会があれば、私も買ってみたいと思っていたのだが、どうやらそのときが来たようだ。

 よっしゃ!

 その日は、大宮駅に行く用事があった。埼玉では断トツの乗員人数を誇るこの駅の、改札横にあるびゅうプラザに向かう。
「いらっしゃいませ」
 フロアはかなり広いが、客はまばらだ。窓口に並ぶ若手の駅員を見回し、好感度の高い男性を選んで話しかけた。
「すみません、レオナルド・ダ・ヴィンチ展のチケットが欲しいんですが」
「はいっ、ダヴィンチ展ですね」
 どこの駅かはわからないが、ブロ友さんは駅員が不慣れな対応をしたことから、駅で美術展のチケットを購入する客が滅多にいないと察したらしい。
 しかし、大宮駅は偉かった。
「少々お待ちください」と席を外し、彼はすぐさま、ファイルを手にして戻ってきた。
「こちらは、4月23日から6月30日まで、東京都美術館での開催になります。何枚お入り用ですか」
「一般が1枚、高校生が1枚です」
「高校生は、入場の際に学生証が必要となりますので、ご準備をお願いいたします。一般が1500円、高校生が800円ですので、合計2300円となります。お支払いは現金、クレジットカードからお選びいただけますが、いかがなさいますか」
「じゃあ、現金で」
「かしこまりました」
 立て板に水だ……。
 彼は何一つ迷うことなく、笑顔でチケットを出力していた。
「お待たせいたしました」
 差し出しされたものは、まさに新幹線の切符である。



 おおっ!!

 裏面にも、JRならではの「取扱規則」が書かれている。



 なんて楽しいチケットなんだ~!

 持ち帰りには、当然、この袋が相応しいだろう。



 このサイズは、スッポリとお財布に収まり、なくす心配がない。
 実は、ダヴィンチ展には、さほど魅力を感じなかったのだが、何が幸いするかわからないものだ。


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イチ推しビール

2013年05月19日 19時52分28秒 | エッセイ
 若杉友子さんの著書『長生きしたけりゃ肉は食べるな』を読み、今月から脱肉食の食事を始めた。
 血行がよくなったせいか、肩こりと腰のだるさがなくなる。体重も減り、かなり調子がいい。
 しかし。
 ひとつ困ったことが起きた。あれだけ好きだった赤ワインが、美味しくなくなったのだ。
 代わりに、ビールが飲みたくなる。ビール通の同僚に、おすすめの銘柄をリサーチしてみた。
「私はラガー」
「僕もラガー」
「俺もラガー」
 えっ、ラガーばっか!?
 何なんだ、このラガー率の高さは……。
 疑問を感じながらも、早速ラガーを買いに行く。



 ほどよい苦みと、スッキリした後味が気に入った。ファンも多いわけだと納得する。
 少数意見もあった。
「僕はスーパードライなんですが、オリオンもいいかな~」
 オリオンがいいという意見はたまに聞く。どうやら、固定ファンがついているようだ。
 じゃあ、今日はオリオンにしようと、駅前のスーパーまで買いに走った。
 スーパーの途中で自然食品の店に寄り、小松菜とキャベツをカゴに入れる。キャベツの近くには、「エチゴビール」という珍しいビールが置いてあった。さらに、その隣には「銀河高原白ビール」なるものもあり、どちらにも魅力を感じた

 よし、これも。

 スーパーでもあれこれ買い求め、持てる限りの種類を詰め込んだ。



 ほほっ♪

 オリオンは、ラガーを水で薄めたような味で、決して不味くはないが、少々物足りない。
 つい、もう一本と手が伸びた。今度はエビスだ。プルトップを開けたとたん、ビールらしい香りが漂ってくる。冷えていなかったのに、「僕はビールなんです」と大声で叫ばれているような、強烈な存在感に圧倒される。さしずめ、阿部寛か北村一輝かという濃さだ。

 私、このビール、好きかも……。

 ラガー推しの多い職場で、私はエビスをひいきにしたい。
 もっとも、残りのビールを吟味してからの話だが。
 さて、あなたのイチ推しビールはなんですか?


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隣の変質者

2013年05月16日 20時50分42秒 | エッセイ
 何年か前に、元同僚の夫が痴漢容疑で逮捕された。通勤電車の中で、20代女性のお尻を触ってしまったらしい。
 痴漢は許しがたい犯罪である。たまたま電車に乗っていたというだけで、突然お尻のあたりに生ぬるい手がまとわりついてきたら、どれほど不快になることか。体をよじっても、その手は執拗に追いかけてくる。手の主を見ると、だらしなく口を半開きにし、変質者丸出しのうつろな目をして、顔を紅潮させた醜悪な男ばかりだ。髪もまばらで、見た瞬間に鳥肌が立つ。
 妻としては、何年も連れ添った自分の夫が性犯罪者になったのだから、被害者以上の衝撃を受けたと察する。本当にやめてほしい。
 問題は、そういう女性の気持ちを正しく理解していない男性が多いことだ。痴漢に遭ったという話をすると、「感じた?」などと質問してくる男とは口も利きたくないし、代わりに殴ってやろうかとさえ思う。おとなしい女子高生などは、怖くて電車に乗れなくなり、学校を退学する破目になったりするのだ。まったく、たちが悪い。
 
 先日、フェイスブックの友人が42歳の誕生日を迎えた。彼には身重の妻がおり、来月が出産予定らしい。
 だが、誕生日の2日後、とんでもないニュースを耳にした。
 友人の職場で、42歳の職員が痴漢行為を働いたという。

 ……まさか!

 しかし、そのまさかではないかという気がした。あの人に限ってというタイプではないし、利用している交通機関も一致している。そのとき、名前は伏せられていたようだが、やがて明るみに出るだろう。
 ショックだった。すっかり疎遠になったとはいえ、友人がイカれた目をした変質者だったとは。すぐさま縁を切らねばならない。
 自分の隣にいるような、身近な相手が犯罪を犯すと、いっそう気味が悪い。
 実名が載っている記事はないかとネットで調べたら、難なく見つかった。
「…………」
 別人だった……。
 よかったと安堵したものの、とても本人には言えないと、苦笑いが浮かんでくる。
 とんだ濡れ衣であった。

 所要で大宮駅に行った。
 駅構内に、京浜東北線「南浦和」行きの列車に入ったクッキーが並んでいた。



 カワイイ!

 ひと目で気に入り、迷わずレジに持っていく。
 こういう電車なら、痴漢もいなくていいわ~♪


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2013 母の日

2013年05月12日 20時22分47秒 | エッセイ
 今年も母の日がやってきた。
「もう、お花はいらないからね」
 プリザーブドフラワーがいくつかあるので、これ以上は必要ないと思い、夫と娘には買わなくていいと宣言した。
「何が欲しいの?」
 娘がプレゼントを買ってくれるらしい。しかし、何も思いつかない。
「じゃあ、美容院の帰りに自分で買ってくるから、お金ちょうだい」
「……」
 娘は歯をむき出し、不満そうだが、まあ仕方あるまい。
「ママ、これどうぞ」



 夫がゴディバの箱を差し出した。母の日用の詰め合わせらしい。
「ありがとう~♪」
 開けてみると、美味しそうなチョコレートがギッシリ詰まっている。



 彼にしては珍しく、気の利いたプレゼントである。一人でニヤけてしまった。
 美容院の帰りに、駅ビルに寄る。欲しいものはすぐに見つかった。



 シャープなフレームの写真立て。なかなかいい感じだ。
 レジに持っていくと、店員のお姉さんが声をかけてくる。
「いらっしゃいませ、母の日用ですか」
「はい」
「……これはブライダル用なんですが、よろしいですか」
「はい」
 そんなことはわかっているが、本人が了承しているから問題ないのだ。
「どちらの包装になさいますか」
「じゃあ、ピンクのほうで」



 自分へのギフトを自分で買うというのも、変な体験である……。
「ただいま」
「おかえり。プレゼントは買ってきた?」
 私が包みを差し出すと、娘は満足そうにうなずいた。代金を請求せねば。
「1575円くれ」
「レシートはもらったんだろうね。ないとやれないよ」
「ある」
「じゃあ、1600円ね。おつりはお駄賃」
「うほほ」
 おかしなやり取りのあと、あらためてプレゼントを受け取る。これはこれで、妙に印象深い出来事となった。
 さて、今日のごちそうは……。
 何と、非常食。



 というのは冗談で、これは先週、私の職場で行われた防災訓練での食事である。
 水を注げば60分でできるアルファ米、クラッカー、乾パンが配られたが、どれも美味しくて驚いた。災害時こそ、口当たりのよいもので、不安な気持ちを和らげることが必要であろう。
 実は昨日、博多・華味鳥の水たきセットなるものをいただいたので、これを夕食にした。



 もしかしたら、母の日に合わせて、贈ってくれたのかもしれない。
 
 こちらは、義母への花のギフトだ。



 90歳の義母に、今年も贈り物ができてよかった。
 来年も、お花を贈れますように。


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小さなプリンセス

2013年05月09日 20時12分22秒 | エッセイ
 去年、妹からアマリリスの鉢植えをもらった。(関連記事はこちらから)
 品種「ピンクパラダイス」という名の通り、サーモンピンクをまとったプリンセスのようである。一年かぎりだと思っていたが、予想に反して、今年もつぼみが膨らんできた。出窓に置いてあるせいか、たっぷりと日差しを浴びて、早々に花びらを広げている。



「うちのアマリリスは咲きそうもないわ」
「うちもよ」
 先日、姉と妹が遊びに来たとき、二人はわが家のプリンセスを見て驚いていた。私に似ず、意外と図太いのかもしれない……。
 2輪咲いたところで次を待つ。この種類は4輪の花をつけるのだ。去年はこんな艶姿を見せてくれた。



 今年はその後、3輪は優雅に咲いた。だが、4輪目がちょっとおかしい。花弁がやけに小さく、これから育つ気配もないのだ。



 栄養が足りなかったのか、奇形なのか。
 開かぬ花弁から顔を出した短いおしべが、精一杯、天に向かって伸びていた。何とも、いじらしい……。
 アマリリスの花は、一週間ほどでしおれてくる。花が終わったら、すぐにハサミでカットすると、エネルギーの消耗を防ぎ、次の花が楽しめると書いてあった。
 去年のアマリリスは、2度咲いている。今年も、うまくいけば、もう一度華やかな姿が拝めるかもしれない。
 ひからびて、カサカサに乾燥した花弁を、チョキンと切り離す。最初に咲いた2輪は、ピンクから薄茶色に変化してしまった。
 次に、遅れて咲いた2輪を切ろうとした。しおれて下を向いた花には、まだ水気が残っていたが、構わず切り離した。手にまとわりつく花弁に、少々罪悪感をおぼえる。
 最後に、成長し損ねた小さな花に触れてみる。少々茶色になりかけていたが、私はこの花を切ることができなかった。
 幼くして、生涯を終えたような儚さに、胸が苦しくなってくる。

 今度は、大きな花に生まれておいで。

 そう願わずにはいられない。
 今日は、久々に暖かかった。
 せっせと水やりをして、次のプリンセスを待ちたい。 


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「ミュシャ展」あと2週間

2013年05月05日 15時55分19秒 | エッセイ
 予備知識は何もなかったけれど、チラシを見て「行きたい」と思ったのがミュシャ展だった。



 包容力を感じさせる美女と、背後には明るい色彩のアラベスク調紋様。確かなデッサン力に基づいた柔らかな画風からは、只者ではないオーラが広がっている。

 他の絵も見てみたい!

 すぐさま、高2の娘と自分の前売り券を申し込んだ。
「明日はミュシャだからね。結構混んでるみたいだから、朝イチで行くよ」
「うん、わかった」
 3月から4月にかけて、2人の都合がなかなか合わず、昭和の日になってしまった。ホームページを見ると、夕方からは空いているようだが、それ以外は待ち時間があるらしい。さっと行って、さっと帰ってこようと思ったのだが……。
「ぐおーーーっ」
 当日、何度起こしても娘が起きない。開館の10時に間に合うはずが、一時間も遅くなってしまった。
 六本木はいい天気だった。蜘蛛のオブジェも、楽しげに見える。



 しかし、森アーツセンターギャラリーの入口で、私たちは凍りついた。



「ミュシャ展50分待ち!?」
 早速、親子ゲンカが始まる。
「だから言ったじゃない。朝イチで行くって」
「なによ、お母さんなんか、今日はたまたま早かっただけで、いつも支度に時間かかるくせに」
「1時間も遅れませーん」
「10分でも、6回遅れれば1時間でしょ」
「何よ、開き直って」
「わあわあ」
「ぎゃあぎゃあ」
 列の最後尾につき、言い争いをしながら進んでいたのは私たちである……。
 幸い、前売り券を持っていたので、チケット売り場に並ぶ必要はなく、実質20分ほど待っただけで入場することができた。
 だが、中の混雑もひどい。人、人、人のすき間から、かろうじて絵がのぞけるような感じだ。ゆっくり見たかったが、取捨選択をしないと体力が持たない。「これは」と思う絵には時間をかけ、「まいっか」の絵はスルーして、人をかき分けかき分け進んでいった。
 不満だったのは、展示物リストがもらえなかったことだ。普通は、紙ベースで配られると思うのだが、なぜないのだろう。それから、展示物の配置が悪い。一筆書きで見られるようになっていない上、会場が狭いから、逆行する人で混乱する場所ができ、何度も人とぶつかった。
 また、高額の保険がかかっているような絵には、簡単に近づけないよう、足元に柵を置いているのに、そうでない絵は床に白線を引いただけ。絵を差別しているように見えた。
 しかし、それらを差し引いても、素晴らしい作品ばかりで満足のいく展示だった。
 ミュシャは、アール・ヌーヴォーと呼ばれるカテゴリーにおいて、代表的な存在である。これは、19世紀末から20世紀初めに、フランスを中心とした欧州でブームになった芸術様式のことで、植物模様や流れるような曲線に特徴がある。
 彼は特に、女性・花・植物を多用したようだが、どれもやさしく明るい色彩で描かれ、豊かな人間性が伝わってきた。とりわけ、私が気に入ったのは、娘・ヤロスラヴァを描いたこの一枚である。ポスターやイラストと違って、チェコの民族衣装を写実的に再現し、家族愛のこもった作品となっている。ポストカードを購入した。



 それから、チケットやチラシの顔となっている「夢想」も素晴らしい。こちらは、カードミラーを買い求めた。



 もし、手紙を書く機会があれば、記念切手をお勧めしたい。これは、左半分が80円切手、右半分が切手と同じ絵のシールとなっている。作品名や制作年も入っているので、大変気に入った。





「すごくキレイだった!」
「行ってよかったね~!」
 美しいものは、親子ゲンカの仲裁までしてくれる。あとは仲よくお昼を食べ、和やかに帰路についた。
 翌日、カードミラーを化粧ポーチにしのばせた。コンタクトレンズにほこりがついたようで、ゴロゴロ感がある。早速取り出し、使ってみた。
 使用後、鏡を付属の袋に入れようとしたら、丸いシミができていることに気づいた。
「ギャッ!」
 どうやら、リキッドルージュが漏れたようだ。
 洗っても落ちなかったが、背景の色彩に近い色だから、「まいっか~」とスルーすることにした。



 ミュシャ展、あと2週間で閉幕です!
 お早めにどうぞ~☆


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食べるが勝ち

2013年05月02日 20時20分06秒 | エッセイ
 学校の昼休みは短い。会社と違って40分しかないから、外で食べることはできないし、生徒や保護者の対応に追われることもある。
 弁当は必需品だ。家から持ってくる者もいるし、コンビニで買ったり、職場で仕出し弁当を頼んだりする人もいる。短時間だが、疲れた体を休め、からっぽの胃袋を満たし、ほっと一息つける貴重なひとときである。
 しかし、私の職場では、そのオアシスで何回もトラブルが起きている。
「あっ、俺の弁当がない!」
 ヒトシさんは、仕出し弁当の入っている発泡スチロールの中を見て、呆然とした。朝、注文用紙に○をつけて、たしかに頼んだはずなのに、いざ食べようと思ったら一個も残っていない。
 その日のメニューはチキンカツ。サクサクの鶏肉を楽しみにしていたのだが。



 すぐに、近くにいたヤスシさんが、青ざめた顔で謝ってきた。
「申し訳ない! 私が食べちゃいました。○をつけたつもりでしたが、書き忘れていたんです。」
「何だ、ヤスシさんだったのか。勘弁してよ」
 わざとではないということがわかり、その場は丸く収まったようだ。だが、そういう事件は、その後もしばしば起きていた。犯人が申し出てくるのはいいほうで、場合によっては、誰が食い逃げをしたのかわからないこともある。
 私は、そんな低レベルの争いに巻き込まれたくないから、自分で弁当を作っている。仕出し弁当は一度も利用したことがない。
「あれは揚げ物ばかりだし、味が濃くて胃がもたれるのよね」
 レイコさんは、仕出し弁当に見切りをつけ、配達してくれる別のヘルシー弁当を開拓した。肉は全然入っておらず、十穀米のご飯に、魚や大豆類が中心の薄味メニューである。単価は500円と、仕出し弁当より80円高いが、健康には代えられない。
「いいですね、それ。僕も頼んでいいですか」
 腹が出てきたと悩むヒロシさんも、興味を示してきた。しかし、男性には量が少ないかもしれない。
「ええ。構いませんが、ライスは大盛りにしたほうがいいですよ。料金は同じだし」
 かくして、わが職場では、仕出し弁当派とヘルシー弁当派に分かれたようだ。ヘルシー弁当だったら、私も食べたい気がする。
 ところが、こちらでも事件が起きた。
「あらっ、この弁当、やけにご飯が多いわね」
 昼休みになると、手の空いた者から順に弁当を取りにくる。この日は、レイコさんが最後だった。残った一個をしげしげと見て、すぐさまヒロシさんの元へと走った。
「ねえ、ヒロシさん。間違えて普通盛りのお弁当を食べませんでした? 大盛りが残っているんだけど」
「えっ、そうでしたか? ……でも、もう食べてしまったので、たまには大盛りを召し上がってください。すみませんでした」
「はあ。……それしかないですね」
 レイコさんは、どうにかお弁当を平らげ、苦しそうに立ち上がった。
 ……やはり、自分で作ったほうがよさそうだ。
 オアシスは、蜃気楼のときもある。


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