これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

黒い模造紙

2012年11月29日 21時01分35秒 | エッセイ
 私が通った大学では、4時10分に4限が終わる。ほとんどの学生が帰宅となり、校舎からキャンパスの出口を目指して、たくさんの男女が殺到する。
 この流れに逆らうように、校舎に向かう小集団がいる。一見すると普通の学生たちだが、ボロボロの紙袋を提げ、手には何十枚もの黒模造紙が丸まっている。あるものは燕尾服を、またある者は白鳩が入った鳥かごを持ち、とても尋常ではない。彼らが目指すのは、3号館3階の講義室であった。すれ違う学生が、さりげなく道を空け、遠ざかっていく。
 大学時代に所属していた手品サークルでは、毎日このようにして活動が始まった。年に何度か舞台発表があり、それに向けて来る日も来る日も、自分の種目を練習するのだ。練習開始と同時に、丸めた黒模造紙を伸ばし、窓の外に貼る。こうすると、大きな鏡ができて、自分の動きをチェックすることができる。
 私は「ウォンド」と呼ばれる種目を担当していた。これは、ハリー・ポッターが使うような短い杖を、消したり出したり、伸ばしたり縮めたりして、アレッと思わせる現象を起こす種目だ。スライハンドといって、指先の技術で見せる手品だから、相当練習した。



「じゃあ、6時から通します」
 本番が近くなると、舞台を使った通し稽古が行われる。音楽に乗ったリズミカルな演技で、観客を驚かせなければならない。見せ場の一つに、ウォンドのカラーチェンジがある。赤いウォンドが、黄色に変わり、さらに黄色から青へと変わり、最後は赤青黄の3色揃えたところでポーズをとる。ここでは舞台の一番前にいるはずなのに、なぜかイメージ通りに動けなかった。
「砂希ちゃん、もっと前に出ないと。後ろでアピールしても拍手は来ないよ」
 通しを見た先輩や同級生からアドバイスをもらい、あとは家で練習することとなる。
 帰宅すると、すっかり夜になっている。部屋のカーテンを開ければ、模造紙を貼るまでもなく自分の姿が映る。練習で指摘されたところを直そうと、持ち帰った道具を取り出して演技の続きを始める。右手を出したら一歩前、色を変えたら一歩前、左手出したら一歩前、最後に3本揃えて一歩前。
 考えながら動いているようでは、まだまだ練習が足りない。徹底的に動きをおぼえ、何も考えなくても体が勝手に動くくらいにならねば。日付が変わるまで練習し、起きたらまたサークルという繰り返しだ。
 これでもか、というくらい努力したおかげで、発表会当日はさほど緊張しなかった。本番では、遅すぎるくらいゆっくりと動くのがポイントだ。自分を信じ、観客と呼吸を合わせて演技する。持ち時間の5分はあっという間に過ぎ、大きな拍手をもらってフィニッシュを迎えた。「アタシって天才!」と自分に酔い、千鳥足で退場する。
 ちょうど、25年前の今日が、学外発表会の日だった。

 振り返ってみると、住宅地なのにカーテン全開で蛍光灯をつけていたから、外から丸見えだったに違いない。たまたま窓の外を見たら、近所の娘が必死の形相で、何やらイカれたことをしていると思われたかもしれない。
 ステージでは華やかなマジックも、舞台裏は地味で奇妙なものである。
 目隠しとして、黒い模造紙が必要だったような気がする。


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お見尻おきを

2012年11月25日 21時11分30秒 | エッセイ
 スーパーにイチゴが並ぶ季節となった。
 我が家では「あまおう」を買う。甘味が強く、酸味が目立たず食べやすい。形はいろいろだ。横に広がったものや、デコレーションに使えそうなくらい立派なもの、小粒のものなど個性がある。
「おや?」
 その日、私が食べようと思った「あまおう」は、なまめかしい姿をしていた。



 どこから見ても、お尻に見えないだろうか。



 同僚の体育科の男性が、ちょうどこんな形の、むっちりしたお尻をしていた気がする。



 うーん、これは貴重だ。

 加齢とともに、すっかりお尻には自信がなくなっている。これくらい、美尻だったらよかったのに。
 私は写真撮影をしてから、イチゴを胃に収めた。

 今日は、近所のショッピングビルで、開店10周年記念の抽選会をしている。お買い上げ5000円ごとに1回の抽選ができるのだが、数えてみたら、8回分の抽選券があった。

 うっほほーい!!

 特賞ハワイ旅行とあるが、くじ運の悪い私に当たるはずもない。



 4等の「新宿高野レディースバイキング」が本命である。食べることが好きな私にピッタリではないか。
 問題は当たるかどうかだ。
 そういえば、先週マイミクさんから「待ち受けにすると、宝くじに当たるといわれているフォト」をいただいたが、ネットを見ると賛否両論あって何ともいえない。

 だったら、このお尻あまおうにしちゃおうかしら!

 レアな写真は珍しいし、高野は元々果物屋さんだ。何やら、非常にご縁が感じられる気がした。
 そんなわけで単純な私は、1枚目の最も美しいお尻……もといイチゴを待ち受け画面にしてみた。

 抽選会には、長蛇の列ができていた。参加賞はチョコレートなので、何ももらえないということはない。10分待って、ようやく順番が来た。
 頭の中では、昔見たテレビ番組「東京フレンドパーク」の、「パジェロ、パジェロ」というかけ声が、「タカノ、タカノ」に変わってこだましている。
 係りのお姉さんはいたって冷静で、血走った眼をした参加者を上手にかわしていた。
「8回ですね。ではどうぞ」
 レトロなガラガラを回すと、赤い玉が出た。
「おめでとうございます、6等です!」
 えっ、6等!? 何だっけ?
 よくおぼえていないが、高野ではないことだけは確かだ。よし、次の回に移る。またもや「タカノ、タカノ」と念じたが、今度はハズレの白だった。
 結局、白白白白白赤白と続き、チョコレートだらけになって終わった。
 ガクッ。
「6等の賞品は、あちらでお受け取りください」
 指差された方向に向かうと、別のお姉さんが笑顔でお出迎えしてくれた。
「6等はクリアファイルとなっております。どうぞ~」
 店名の入ったクリアファイルを2枚渡されたが、苦笑するばかりだった……。

 まあ、元々くじ運が悪いのだから、こんなものだろう。

 ちなみに、あまおうの待ち受けは変えていない。
 そのうち、私のお尻も、これくらいプリッとなったりして……。


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キャラクターふりかけ

2012年11月23日 09時34分49秒 | エッセイ
 娘のお弁当には、ふりかけが欠かせない。女の子は、友達からのチェックが厳しいので、おかずに相当気をつかう分、ご飯が適当になる。お弁当箱に白飯を詰め、セルフサービスでふりかけをかけるだけだ。
 一度、ふりかけを入れ忘れたことがあったが、おそらく、目を吊り上げて食べたものと思われる。たまには、炊き込みご飯やいなり寿司など、手の込んだものにしてやりたいけれど、いかんせん時間がない。
 先週、頼みのふりかけが、残り少ないことに気づいた。
 あと3袋。



 娘は高校生だが、「おとなのふりかけ」を持っていく。その1とその2があり、種類豊富で味もいいからだ。振り返ってみれば、4月から毎日「おとなのふりかけ」を持たせている。さすがに飽きると思い、別のふりかけを探しにスーパーまで出かけた。
 ふりかけは、乾物コーナーにある。
 最初に見えたのは、「アンパンマンふりかけ」であった。小学生ならいざ知らず、高校生にこのキャラクターはないだろう。
 パス。
 隣に並んでいる「プリキュア」「仮面ライダーウィザード」もパス。
 「のりたま&バラエティー」も悪くはないが、変化に乏しいところがマイナスだ。
 パス。
 結局、「おとなのふりかけ」に戻るしかないじゃん、と諦めかけたときだ。ひとつ上の棚に、こんなふりかけが見つかった。



 リラックマ~!!

 女子高生にはピッタリのキャラクターではないか。頭上に高く手を上げ、拍手したい気持ちになった。ついでに、ジャンプして、足の裏でも拍手したい衝動に駆られたが、人目があるので我慢した。
「ありがとうございました~」
 自宅で袋を開けてみると、パッケージの愛らしさに感動する。



 たまご・さけ・やさい・おかかの4種類しかないとはいえ、小袋の絵が一つひとつ違っているので、もっと多くの味があるような錯覚をする。
 さらに感動したのは、中にシールが入っていたことだ。



 きゃわゆーい♪

 すっかり夢中になり、一人で盛り上がる。
「明日のお弁当は、このふりかけにしようっと」
 サプライズを狙い、リラックマを隠した。いつものようにお弁当の包みを開け、こんなにラブリーな袋が出てきたら、大喜びするに違いない。娘の様子を想像し、「ふっふっふ」と含み笑いをしながらお弁当を作った。
「ただいま~」
 娘が帰ってきた。バッグから、空の水筒とお弁当箱を出し、一日の出来事を話し始める。
 しかし、リラックマは出てこない。しびれを切らし、自分から聞いてみた。
「リラックマふりかけはどうだった?」
「ああ、あれね。普通~」
 おや? 意外なことに、歓迎モードではない。ウケると思ったのだが……。
 私は、おそるおそる核心に触れる質問をした。
「……もしかして、おとなのふりかけのほうが美味しかった?」
「そりゃそうでしょう。まあ、たまにはリラックマでもいいよ」

 なんと~!!

 女子高生が、キャラクターふりかけを好むなど、私の勝手な思い込みだったらしい。
 これって、オヤジ女子高生!?


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これが噂の「飲む糀」

2012年11月18日 17時36分43秒 | エッセイ
 富山の友人は、懇意にしている味噌屋さんが上京するたび、お知らせメールをくれる。
「渋谷のヒカリエっていうところで、飲む糀を販売するそうです。よかったら行ってあげてください」
 飲む糀は聞いたことがある。ちょうど、その日は昼まで仕事だったので、終わってからブラリと寄り道しようと思った。
「場所は地下二階。彼はイケメンです」
 おお、イケメン!
 ならば、すぐにわかるに違いない。髪を整え、化粧を直し、服装をチェックしてから職場を出た。イケメンに会うのに、変な格好をしていては申し訳ない。初対面の挨拶も、頭の中でちゃっかり練習しておく。抜かりはない。
 2時頃、渋谷に到着した。あいにくの雨であったが、ヒカリエには人があふれている。牛歩状態の人ごみにイライラしながら、あとをついて地下二階へと下った。
「いらっしゃいませ~」
 ここはスイーツの売り場らしい。女性ばかりのスタッフで埋め尽くされ、男性の姿はない。ようやく男性を見つけたが、イケメンではなかった。一体どこにいるのか。
 ぐるっと一周したあと、お目当ての「飲む糀」を見つけた。エスカレーターの近くだった。
 商品の共同開発者と名乗る女性に、ご本人の所在を聞いてみる。
「お昼頃、富山から到着されて、今は休憩中です」

 ガーン!!

 休憩は想定外だった。完璧なつもりでいても、どこかで抜かるものだ。私らしいというか、何というか。
 カウンターの内側から、明るい髪のギャルが、「よろしかったらどうぞ」と試飲用のカップを勧めてくれた。礼を言って受け取ると、あずきバーが溶けたような色の液体が見える。しるこの味を想像したが、その実体は、濃厚な甘酒であった。ギャルは、人工的なまつ毛を上下させ、笑顔で話を続けた。
「私は温めた豆乳に入れて飲んでいます。おつうじがよくなるし、美味しいですよ」
 なぜ豆乳なのか、深追いはしない。これは、なかなかよさそうだ。
「そうですか。じゃあ、1本いただきます」
 480ml入りで、税込892円なり。



「ご一緒に、ガイドブックを入れておきますね」
 Guidebookと書かれた小さな冊子を読むと、甘酒にはビタミンB群、9種類の必須アミノ酸、ブドウ糖、ミネラル、食物繊維、乳酸菌、オリゴ糖など、豊富な成分が含まれているため、「飲む点滴」と呼ばれているらしい。無添加で、ノンシュガー、ノンアルコールとのことだ。
 ふと、体調不良で、料理以外の砂糖摂取を禁じられているブロ友さんが浮かんできた。彼女も、これならOKなのでは?
 フタを開け、器に注いでみる。まずはストレートで。



 凍らせて、甘酒ジェラートにすることもできる。



 冷凍庫に入れて、1時間後に食べたら、シャリシャリした歯ざわりが楽しめた。しかし寒くなったので、残りを再び冷凍庫に戻した。3時間以上経ってから食べてみたら、カッチカチに固まってしまった。
 また抜かったか……。
 あとは、ギャルお勧めの「豆乳割り」である。うちには豆乳がないので、「牛乳割り」にして飲んでみた。
 レンジでチンした牛乳と、同量の甘酒を加えれば、糀オレの出来上がり。



 これはヒット。甘酒がサラッとするし、牛乳本来の甘味とマッチして、とても飲みやすい。

 残りは、全部糀オレにしようかな~♪

 最後は、抜からなくてよかった。


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モンスターペアレント?

2012年11月15日 20時38分39秒 | エッセイ
 娘の高校では、予備校と連携して「進学セミナー」を実施している。毎週、火曜、木曜の放課後に、講師を呼んで大学受験講座を開講するのだ。年間16万円ほどかかるが、塾より手軽だと思い申し込みをした。
 ところが、実態は、期待を裏切るものだった。
「2学期から、セミナーの先生がどうしようもなくてイヤになっちゃう」
 7時過ぎに帰宅するなり、娘はカバンを放り投げ、ブーブー騒ぎはじめた。
「できない男子に、『バカ』とか『死ね』とか、何回も言うんだよ。自分の教え方が悪いくせに」
「マジ? 予備校の先生は授業が上手いと聞いたけど」
「火曜の先生は、すごく熱心で上手。でも、木曜のヤツは、ヘタクソですぐキレて、暴言ばっか。あれじゃ、金の無駄だよ」
 年度はじめに払い込んだ受講料は、一切返還されない。16万が無駄になっては困る。いや、木曜だけなら8万か。いずれにせよ、詐欺のような話だ。
「担任の先生には言ったの?」
「言ったよ。でも、何もしてくれないみたいで、ますますひどくなってる」
「……」
 これは、お金だけの問題ではない。生徒の人権を踏みにじる、あってはならない行為だ。ものおぼえの悪い子を、いかに指導するか教師の腕の見せどころではないか。

 声を荒げるより、自分の力不足を恥じよ!

 底辺校ばかりを経験してきた身としては、怠慢な同業者に腹が立ち、絶対許せないと思った。
「よし、学校に電話をしよう」
「そうしてよ。子どもが言っても、相手にしてくれないからさ」
 しかし、私には時間がない。連日仕事に追われ、体重を減らしながら働いているのだ。チラリと隣を見ると、暇を持て余し、丸々と肥えた夫がいた。
「じゃあ、パパ、お願いね」
「えっ、俺が!?」
 突然、話を振られ、夫はうろたえた。
 だが、彼も元教員である。とんでもない講師から子供を守るため、一肌脱ごうと決心したらしい。
「誰に言えばいいのかな」
「何て言えばいいのかな」
「モンスターペアレントだと思われないかな」
 夫なりに、オドオドと段取りを考え、一発必中の作戦を練っていた。
 翌日、彼は進学セミナー担当者あてに、娘から聞いた現状を報告し、何とかしてほしいと訴えた。手ごたえは、さほど感じなかったという。
「他の保護者は何も言わないみたいだ。うちだけじゃなくて、何人かが同じことを言ってくれれば、真剣に対応してくれるんだけどな」
「ホントだね」
 多数決ではないが、えてして少数意見は黙殺されがちである。はたして、改善されるのか、心配しながら翌週を待った。
 そして、また問題の木曜日がやってきた。
「お母さん、今日はアイツ、バカとか死ねとか、一度も言わなかったよ。よかった!」
「へー、学校は、ちゃんと言ってくれたんだね」
「うん。ちょうど、セミナーの教室の隣が社会科準備室になってて、そこにいた先生も暴言を聞いてたんだって」
 つまり、保護者の訴えを裏付ける形で、教員からも怒りの声が上がったというわけだ。タイムリー・スリーベースヒットをお見舞いしたような、爽快感が込み上げてきた。
 結局、講師は交代することになり、ひと安心である。
 ちなみに、モンスターペアレントは、今風に縮めて「モンペ」というらしい。
 モンペ扱いされなくてよかった~!


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オペラ座のカルロッタ

2012年11月11日 20時01分13秒 | エッセイ
 劇団四季の「オペラ座の怪人」を観てきた。
 初めてこの作品を観たのは、高校生のときだ。ミュージカルではなく、映画がテレビで公開されたものを録画した。おそらく、1985年前後のことだろう。張りのある歌声やベルバラ調の衣装に感動し、画面に釘付けとなったことを覚えている。
 特に印象深いのが、プリマ・ドンナのカルロッタである。オペラ座を陰で支配している怪人は、愛弟子であるクリスティーヌに主役を与えるよう指示するが、気位の高いカルロッタは承知しない。主役を横取りし、舞台の中央で自慢の美声を披露するのだが……。なぜか突然、意味不明の行動に出る。顔をゆがめ、両手を上げて髪をかきむしり、歌いながらカツラをズボッと外すのだ。カツラの下に髪は見えず、白い布が坊主頭のように巻かれている。一転して、濃い化粧、華やかなドレスに不釣り合いな姿と化し、観客はゲラゲラと大笑いする。実は、怪人がカルロッタに罰を与えようと、カツラにノミを入れたのだった。
 私も、ここで腸ねん転になりそうなくらい笑った。録画テープを巻き戻し、何度も繰り返し見た。楽しいキャラに好感を持ったくらいだ。
 しかし、この映画は、怪人が横たわったラストで、いきなり中断される。野球中継が長引き、2時間の録画テープに収まり切れなかったのだ。いいところで、「ブツッ」と終わり、結局最後はどうなるのか、見届けることができなかった。
 だから、今回の劇団四季には期待をしていた。
 劇場内を入ってすぐのところで記念撮影をすると、公演への期待が高まってくる。



 S席なのに、座席は2階だ。「うえーん」と泣きたくなったが、シャンデリアが冒頭で昇ってくる場面や、怪人が天井付近から登場する場面を考えると、2階席のほうがよく見えていいのかもしれない。ちょうど正面ということもあり、あとから考えてみると悪くない席だった。
 オペラ座の大道具は見事な出来栄えだ。柱や梁に女性美を称える彫刻を施し、落ち着きのある金色で塗られている。衣装も色鮮やかで、豪華絢爛なパリを華麗に演出していた。
 作品の代名詞ともいえる名曲「オーヴァチュア」をはじめとして、オーケストラの演奏と、出演者の歌声が素晴らしい。耳から頭に忍び込み、脳内をビリビリと刺激してくる。音楽にはさほど詳しくないが、心地よくて何度も聞きたくなった。20分の休憩で、CDを購入する。ついでに、クリアファイルも欲しくなった。



 あっという間の2時間半で、終わってからもすぐには席を立ちたくない気分であった。非常に臨場感のある作品だ。時間があれば、また観たいと思う。
 もの足りないのはカルロッタであった。カツラのノミはなく、歌声をカエルの「ゲコゲコ」に変えられただけで、存在感が薄い。もっと、高飛車なふるまいをして、笑いを取ってもらわなくては。
 本場、ブロードウェイでは、さらに心を揺さぶられる出来なのだろうか。
 いつか、行ってみたい。


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ポイント3倍の罠

2012年11月08日 20時52分44秒 | エッセイ
 久しぶりに早く帰れた。
 勤務時間は5時までだが、最近は仕事が終わらず、7時過ぎまで職場にいることもある。遅くなったときは、どこにも寄らず、真っ直ぐ家に帰って食事をする。翌日のお弁当の準備もせねばならないし、結構忙しい。
 だから、6時に家の近くにいることが奇跡のようだ。うれしくて、いつもはできないことをしようと思った。
 まずは、ミスタードーナツ。カフェオレが飲みたい。



 それから、ドラッグストアに行った。数日前から、あぶらとり紙を切らしている。わら半紙でもテカリは抑えられるけれど、印刷されている面を肌につけたら、「平均点」などの文字が反転して鼻の頭に写るかもしれない。やはり、ちゃんとした商品を買うべきだろう。コンタクトの目薬と、アイボンもそろそろなくなりそうだから、ちょうどいい。
 店に着くと、入り口に大きなのぼりが立てられていた。
「本日ポイント3倍デー」

 おおっ!

 この店では、一定のポイントがたまると、代金から500円引きになる。主婦は、こういう制度に弱い。
 まずは、当初の目的であるあぶらとり紙、アイボン、目薬をカゴに入れた。すぐなくなるからと、アイボンは2個にした。結膜炎になりがちなので、抗菌目薬も必要だ。
 それから、洗濯洗剤に毛穴すっきりパックを選ぶ。
 まだ何かあるかと考え、昼食のスープが残り少ないことを思い出す。春雨スープを見つけ、2種類あったので両方欲しくなった。スープの近くには、好物のブラックサンダーが置いてある。こちらにも手を伸ばした。
 すっかり重くなったカゴを持ってレジに行く。
「4518円になります」
 最初は、3個だけのはずだったのに、結局こんなに買っていた。



 おそるべし、ポイント3倍商法!

 つい、余計なものまで買ってしまった。
 無駄づかいしないためには、遅くまで働いていたほうがいいかも……。


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メトロポリタン美術館展

2012年11月04日 20時31分51秒 | エッセイ
 芸術の秋。
 思いつきで、フラッと上野まで出かけた。
 お目当ては、東京都美術館。ちょうど、メトロポリタン美術館展を開催しているのだ。
 


 フィンセント・ファン・ゴッホの「糸杉」がお出迎えをしてくれる。
 この展示は、「自然」をテーマに、農民や動物、鳥、草花、大地、空、水、海など7つの章に分けて、作品がラインアップされている。絵画だけでなく、彫刻やグラス、大皿、タペストリーなどもあり、生命の鼓動が感じられた。
 会場は、異常に暗い。私は「これ」といった作品のメモを取る習慣があるのだが、暗くて手元が見えない。仕方なく、展示物を照らす明かりを頼りに鉛筆を走らせる。もっと明るくしてほしいと思う。
 チェックした作品をいくつか紹介したい。
 まず、フランチェスコ・クサント・アヴェッリ・ダ・ロヴィーゴの「メタブスとカミラを描いた皿」で立ち止まる。


(クリアファイルより)

 メスブタ??

 いや、メタブスだった……。
 調べてみると、ギリシャ神話に登場する王の一人だそうで、別名「メタボス」というそうだ。カミラはその娘である。ちょっと心臓に悪い。

 ジャン・フランソワ・ミレーの「麦穂の山:秋」。


(ポストカードより)
 
 自然の前では、人間がいかにちっぽけな存在かがわかる一枚である。上部の真っ黒な雲が、大雨を降らしても、なすすべがない。

 ちょうど、100とナンバリングされた作品はアルバート・ピアスタットの「マーセド川、ヨセミテ渓谷」である。


(ポストカードより)
 靄でかすむ中央の崖に、日が反射し陰と陽に分かれる様が、神話の世界のようだ。時間を忘れて、見入ってしまう美しさである。

 ジョン・フレデリック・ケンセットの「海上の日没」も大変素晴らしかった。
 明るく彩られた空のグラデーションが幻想的で、沈みゆく太陽が見えるかのようなタッチに見惚れた。だが、ポストカードはおろか、ファイルもストラップも、グッズは何もない。これは悲しい。

 最終章「水の世界」で、ピピッとくる展示品に出会えた。
 ベルナール・バリッシー派「水の生物の大皿」である。
 しかし、こちらもポストカードがない。何かないかと、ショップで必死に大皿グッズを探してみたら……。あった、あった。ダブルクリアファイルの一角に、かろうじて載っている。



 拡大してみよう。



 水の中の生態系といえばいいのだろうか。ヘビ、カエル、魚、貝、藻などが、小さな世界にひしめき合っている。エサにされるものがいる一方で、新しい命も芽生えていく。生命の連鎖を感じる、見事な作品であった。

 でも、この皿でお料理を食べるのはちょっと……。

 メトロポリタン美術館展は、1月4日まで。
 お時間があれば、ぜひどうぞ。


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観てよかった☆「ツナグ」

2012年11月01日 20時48分59秒 | エッセイ
※ 一部ネタバレが含まれていることをご了承ください。

 映画「ツナグ」を観てきた。
 きっかけは口コミだ。「すごく感動した」と言う人が多かったので、どんなものかと劇場へ足を運んでみたのだ。


※ 写真はパンフレットから

 その日は、土曜日なのに仕事があり、どうにか19時からの回にすべり込んだ。
「ツナグ」とは、たった一度だけ、死んだ人と会わせてくれる案内人である。予備知識はなかったけれど、主役の松坂桃李くんがわかりやすく説明してくれた。
 依頼人の希望を受けたら、ツナグが死者を呼び出し、面談の打診をする。死者に会えるのは、生涯に一度、一人だけ。死者が面談を拒否しても、1回とカウントされる。死者が面談を承諾したら、月の出る夜の夜明けまで、再会することができる。
 松坂くんは、まだツナグ見習いという立場だ。本物のツナグは、樹木希林演じる祖母なのだが、高齢のため、ツナグの役割を彼にバトンタッチしたがっている。松坂くんは、仕事を通して、ツナグを受け継ぐかどうか考えるという設定であった。いわば、体験中といったところか。
 依頼人は、死んだ母親と会いたい中年男・畠田、事故死した親友と再会したい女子高生・嵐、失踪した婚約者が忘れられないサラリーマン・土谷の3名である。死者への思いは三人三様で、それぞれの人生ドラマがある。
 やたらと腹が立ったのは、佐藤隆太演じる土谷だ。面会の段取りが整ったというのに、こともあろうに肝心の土谷が来ない。いざとなって尻込みし、逃げ出したのだ。
 私は、現実逃避するやつが大嫌いである。逃げて何が解決できるのか。自分が傷つくことを恐れていては、何も解決できない。土谷が雨の中をフラフラとさまようシーンでは、苛立ちMAXとなり、「かーっ!!」と一喝したくなった。人生は、ガチでぶつかっていかねばならぬ。
 イライラする場面はあったが、まったく退屈しない映画だった。すっかり引き込まれ、上映時間の129分が瞬く間に過ぎていく。ラストもスッキリしていたし、終わったあとは得した気分になれる。夢中になって観ていたら、同じ姿勢を続けたせいか、次の日の肩こりが半端なかった。それでも、ぜひ観てほしい映画である。
 ふと、私には、ツナグを介して会いたい人がいるだろうかと考えた。
 よーく考えた。頭の引き出しを、何度もひっくり返して探してみた。
 でも、いない。
 きっと、身近な家族との別れを経験していないからだ。
 子供のとき、母とケンカすると、その夜は必ず母が死ぬ夢を見た。葬式で、「まだ謝っていないのに、どうしたらいいんだ」と深く深く後悔して目が覚める。私は、夢であったことに感謝し、生きているうちにと素直に謝ることができた。

 死者との再会もドラマティックだけど、相手が生きているうちにできることをしなくては。

 そんなことを考えさせてくれる映画だった。


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