これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

入院前夜

2011年10月30日 20時57分47秒 | エッセイ
 いよいよ、明日から体外受精のために入院する。
 正直言って、今回は自信がない。私の場合は、注射で卵胞を増やし、成熟させていくのだが、時期が少々遅かったせいか、思ったよりも卵が少ない。前回は6個の卵子が採れたのに、今回は超音波で確認しても、4個ほどしかない。それが全部採卵できるとは限らないし、採れたものが受精しないこともある。採卵は、麻酔から覚めるほど痛いというのに。
 しかし、くよくよ考えても始まらない。余計なストレスをためこまぬよう、「ダメならダメでいいや~」と開き直ることにした。元々、成功率は3割だ。採卵に失敗すればそこで終了だし、採卵できても受精しなければ意味がない。めでたく受精して卵を体内に戻しても、着床しなければ妊娠は成立しないし、着床しても育たなければ流産となる。
 私は前回、着床まで進んだのだが、一度確認できた心拍が途中でなくなってしまい、がっかりした。
 今回は、注射の回数が少ないから、さほど苦労していない。今朝方、最後の注射を終え、家でのんびり過ごして明日を待つ。

 一番インパクトが強かったのは、お腹の皮下注射である。注射は腕かお尻にするものだと思っていたが、早期の排卵を防ぐ薬は、より子宮に近い腹部にするのだという。
「じゃあ、座ったままで結構ですから、お腹を出してください」
 指示に従って服を上げると、看護師さんがおへその左側をアルコール綿で拭いた。こんな場所を刺されるのは初めてだ。もしかしたら、とてつもなく痛いかもしれないと、私はドキドキした。
 看護師さんの手が伸び、消毒した部分の肉をつまんだ。どうやら、針を通す場所を固定するつもりらしいが、力が強すぎる。ギュウギュウ引っ張られ、肉と皮がはがれるかと思うくらい痛かった。
「はい、終わりましたよ」
 その代わり、注射されたことに気づかなかった。つねくられた痛みのほうが、断然勝っていたのだ。
 翌日も、同じ注射をお腹にしたのだが、今度は違う看護師さんだった。彼女は肉をつままず、指を添えただけで針を突き刺した。

 いった~~~~い!!

 針が刺さるだけでも痛いのに、薬が押し込まれるときはもっと苦痛だ。針を抜かれたあとも、お腹がジンジンしている。これだったら、肉をつままれるほうがいいかもしれない。もしかして、前日の看護師さんのほうが、上手だったのだろうか。
 いずれ、注射評論家になれる気がしてきた……。
 何はともあれ、明日は出陣である。
 採卵の痛みや、麻酔の気持ち悪さにも勝ってやる!



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笑っちゃいけないとき

2011年10月27日 21時28分22秒 | エッセイ
 先月受けた健康診断の結果が出た。
 私が真っ先に確認した項目は脂質である。

 HDLコレステロールも、LDLコレステロールも異常なし。よかった!

 数字を見て、私は胸をなでおろした。なにしろ、この前読んだ本に、「更年期を迎えると、コレステロール値が上がる」と書いてあったのだ。年齢的にはそろそろだから、数字がはね上がってたら立ち直れないところだった。
 ホッ。
 身長は、毎年「155.0cm」で何の変化もないが、そのうち縮んでくるのだろうか……。あまり考えたくはない。
 今回は、診察医がベテランの女性だった。心音を聞いたり、問診したりするのだが、少々声が大きい。カーテンで仕切られただけの、ちゃちな空間では、会話が筒抜けである。
「腹囲は10cmオーバーです」
 断じて、私のことではない。私の前にいた50代男性、イトウ先生が言われていたのだ。耳をダンボにしていたわけではないけれども、聞こえてしまった。瞬間、「ぷぷぷ」と噴出しそうになったが、後ろに人がいたので、必死で我慢した。
 無理に笑いをこらえると、胸がキュッと締め付けられるように痛くなる。口角が上がるのを悟られまいと、わざとらしく「エヘン、エヘン」と咳払いして、何とか乗り切った。
 男性の腹囲は、90cm以上でメタボといわれるらしい。イトウ先生は、プラス10cmだから、100cmなのだろうか。たしかに、彼は妊婦のような立派なお腹をしている。中には何が入っているのやら。
 健康診断のあと、2年のクラスで試験監督をしていたら、たまたまイトウ先生が通りかかった。廊下で足を止め、なぜかこちらを見ている。何か言いたそうだったが、試験中のためか、そのまま通り過ぎた。あとから、その理由がわかった。
「笹木先生、さっき、2年4組にいたでしょ。あのクラス、教師用のイスが壊れていたんですよ。気づきました?」
「はい、気づきました」
「実はね、昨日、俺があのイスに座ったら、壊れちゃったんですよ。いきなりバラバラになるもんだから、床に尾てい骨を打ち付けて、まだ痛いです」
 頭の中に、「腹囲は10cmオーバーです」という言葉がこだまする。
 とたんに、私は胸を押さえ、「エヘン、エヘン」と咳き込みはじめた。



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カードはいずこ

2011年10月23日 20時21分07秒 | エッセイ
 職場のセキュリティカードをなくした。(詳しくはこちらから)
 定期入れに収納していたので、落としたとすれば駅である。防犯上、重要なものだ。何とか見つけたい。
 まずは、西武池袋線を当たってみた。
「あのう、落し物に、こういうカードがありませんでしたか?」
 私は担当者に代わりのカードを見せて、落とした状況を説明した。
「ちょっとお借りします」
 担当者は私からカードを受け取ると、パソコンの画面とにらめっこし始めた。落し物や忘れ物が登録されているサイトを検索しているらしい。直接、他の駅に行かなくても、ここから西武線全線の拾得物がチェックできるという。デジタル化が進むと便利である。
「うーん、ちょっと見当たらないですね。東京メトロにもアクセスできるので、そちらも確認しましょうか?」
 副都心線や有楽町線にも乗り入れをしているからだろう。守備範囲の広さに感心するが、東京メトロは利用していないので、その可能性はない。私は、礼を言って案内所を出た。
 あまり期待していなかったが、やっぱりダメかと力が抜け、フラフラと家まで歩いた。

 残りはJRである。ここで見つからなかったら、もはやお手上げだ。駅員さんに、落し物の取り扱い場所を聞くと、問い合わせセンターの電話番号を教えてくれた。
「JR東日本全線のお忘れ物、落し物を管理している番号です。6時から24時までご案内しておりますので、こちらにどうぞ」
 翌日、電話をかけようと受話器を取る。「ここにもなかったら、紛失届けを出さないといけないな……」とプレッシャーがかかり、「やっぱりやめた」と受話器を置いた。
 験かつぎで、事務室のサトミさんからもらった、「開運」の文字が入った「高尾山天狗うちわサブレー」を食べる。何もしないで電話すると、また「ありません」と言われそうで怖い。



 軽くて、サクサクした食感が好印象のサブレーだった。
 気合いを入れて、再度受話器を取り、お忘れ物センターのダイヤルを押す。
 電話だと、現物が見せられないから、言葉で説明するしかない。落としたと思われる日、場所、カードの色やロゴを伝えたあと、右隅に「笹木」という名前が入っていると付け加えた。
「今、お調べしますので、そのままお待ちください」
 ふう、と息をついて待っていると、1分も経たないうちに答えがあった。
「あのですね、それらしいものがあります。拾得日は10月17日、場所は○○○駅、笹木さんというネームラベルがついています」
 名前が決め手となったらしい。思わず、声が上ずった。
「あっ、それです! たしかに、その日は○○○駅に行きましたので、間違いありません!」
 ビンゴだ。逆転満塁ホームラ~~~ン!
 しかし、続きがあった。
「今、どこにあるかといいますと、上野駅なんです」
 上野!? ちと遠い。持ち主の手を離れて、カードが遠くに移動してしまったのか。だが、引き取りついでに動物園に寄って、パンダを見る手もあるな、と余計なことを考え始めた。話はさらに続く。
「このカードは、クレジットカードと同じように証明書類という区分で扱いますので、一週間経つと警視庁に移管されます。場所は飯田橋になります。明日でちょうど一週間ですから、どちらになるか微妙なところですね」
 飯田橋のほうが近い。あちこちを転々としているカードには悪いが、私にとっては都合がいい。たしか、ここでは、「日本のロングセラー商品展」という催しがあるはずだ。
 主婦の悲しい性で、引き取りそのものよりも、ついでに寄る場所に気を取られる。
「日曜日は、上野の拾得物所が休みなので、明日、電話で確認してもらえますか」
「はい、わかりました。ありがとうございます」
 元気よく挨拶して、私は電話を切った。
 どちらに転ぶかわからないが、ブログのネタになることだけは確実である。
「上野や飯田橋より、まずは高尾山に行ったらどうなんだっ!」と、天狗さんに怒られちゃうかしら……。



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誕生日の悲劇

2011年10月20日 20時34分36秒 | エッセイ
 一昨日は、私の誕生日だった。
 朝から、友人や家族から、お祝いメールをちょうだいする。どれもうれしかったが、とりわけ感動したのが、もうじき70歳を迎える母からのデコメである。なかなか操作がおぼえられず、送信ミスや誤字ばかりだったのに、その日はピンクの背景の、バースデーケーキがお目見えした。思わず、「気合い入ってるじゃん」と口笛を吹きたくなった。
 しかし、出勤すると、あまりの忙しさに閉口する。前日に休暇を取ったツケだ。結局、7時近くまで一人淋しく仕事をする破目になり、「今日は誕生日なんだが」と悲しくなった。
 ようやく解放され、戸締りをして帰ろうとしたときだ。職場は機械警備なので、施錠時にセキュリティカードで警戒を設定しなければならない。私は、定期入れからカードを取り出そうとして、呆然とした。

 やばい、カードがない!!

 セキュリティカードを入れておいたポケットは、少々ゆるくなっていた。どうやら、持ち運ぶ途中で、カードが滑り落ちたらしい。バッグの中をくまなく探したが、それらしいものはない。ひょっとしたら、駅に落としたのかもしれない。
 ひとまず、部屋に警戒をかけないと帰れないので、職員室に助けを求める。他の先生にカードを借りて、ことなきを得たが、まったく厄介なことになった。
 私はもう一度、「今日は誕生日なんだが」と心の中でつぶやいた。

 家では夫が、ビーフシチューを作って待っていた。食後は、甘栗のモンブランが登場した。



 私はすっかり気をよくして、カードの悩みを忘れた。
 娘から、「誕生日おめでとう!」とプレゼントが渡される。



 開けてみたら、ブックカバーが入っていた。これは重宝する。



 それから、夫と娘には内緒だが、今年は素敵な異性から、プリザーブドフラワーのプレゼントをいただいた。



 真紅のバラで、花びらには金箔で「Thank you」と書かれている。



 うふふふふ~♪
「なんだか、とっても幸せ☆」とニヤけていたら、またカードのことを思い出し、暗くなった……。
 一体、どこにいったのだろうか。

 翌日、事務の担当者に、「カードをなくしたかもしれない」と打ち明けた。
「じゃあ、代わりのカードをお貸ししますが、もし見つからないようだったら、紛失届けを書いていただきます。実費も負担していただきますので、がんばって探してください」
「はーい」
 紛失届けは痛い。「私は大事なカードをなくした愚か者です」と証明するようなものだ。帰りに駅に寄って、落し物を確認してもらわねば。
 すっかりしょげていたら、事務の紅一点、サトミさんが話しかけてきた。
「よかったら、これいかがですか? 高尾山のおみやげなんですけど、『開運』って書いてありますよ」
 サトミさんの手には、「天狗うちわサブレー」なるものが握られていた。たしかに、「開運」の文字がある。



お礼を言って、ありがたくちょうだいしたが、はたして、カードは見つかるのだろうか?
「誕生日 今日からワタシ 愚か者」
 いかん、不吉な句が浮かんできた……。



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味噌汁事情

2011年10月16日 21時00分08秒 | エッセイ
 最近、高知産の茄子が出回っている。
 栃木や群馬のものと違い、背丈が低くて太い。ずんぐりした姿が愛らしくて、思わず買ってきた。早速、味噌汁に入れてみる。
「なんだ、また茄子?」
 夫が、わざと聞こえるようにつぶやいている。「また」ということは、近い過去にも茄子の味噌汁があったということだ。昨日は、大根だったはずなのだが。
 首をかしげる私に、娘が耳打ちした。
「今朝、お父さんが作ったんだよ」
 我が家の朝食は、和食と洋食に分かれている。夫と娘は、ご飯と味噌汁、海苔、シラス、玉子焼きなどを好むが、私はパンと目玉焼きに決めている。和食党のやつらが、何を食べようと知ったことではない。
 だから、朝、夫と娘がいただいたものを、夜また食卓に並べてしまうということは、往々にしてある。普段は夫と意見が合わないのに、こういうときだけ一致するのが不思議だ……。
「へー、朝食べたの。ほー」
 男性の文句には、適当に相槌を打って、聞き流せばいいと、誰かに教わったことがある。
「オマエだって、4日連続でワカメの味噌汁を作ったことがあるじゃないかッ」と、全面対決の姿勢を見せてもよいが、たかだか味噌汁のことで衝突するのは大人気ない。
 茄子の話題は、それきりになった。

 栃木から新幹線通勤をしている同僚は、帰宅するや否や、夕食の準備にとりかかるそうだ。奥さんよりも帰りが早いので、2人の子どものために、お父さんは頑張っている。
「少しでも時間を節約するために、味噌汁の具は毎日同じなんです」
「へー、何にするんですか?」
「大根と油揚げです。日曜日には、一週間分準備して冷凍しておきます。あとは、お湯が沸いたら入れるだけですから」
「へええ、合理的ですね~」
 さすがに、男性の発想は違う。面白いなと思ったが、子どもの評価はまた違うようだ。
「僕は毎日必死なんですが、子どもたちは、土日に妻の作る食事のほうが美味しいと言います……」
 あらら。

 たかが味噌汁、されど味噌汁、といったところか。
 私が一番好きな具は小松菜だ。長ネギと溶き卵を加え、味噌ととけ合う、まろやかな味わいがいい。
 これぞ、日本人でよかったと思う瞬間である。



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意味のないもの

2011年10月13日 19時54分14秒 | エッセイ
 緑色の黒板には、白のチョークが一番目立つ。
 黄色もなかなかだが、赤は意外に目立たない。私は主に、白と黄色のチョークを使って授業をする。
 よくわからないのが、青のチョークだ。
 緑色の背景に、青で字を書いても、全然目立たない。保護色のように同化してしまい、見づらいことこの上ない。
「これは重要です!」などと言っておいて、青で文字を書いたら、生徒はいやがらせだと思うだろう。
「見えなーい」と苦情が殺到するに違いない。
 あっても意味がないのに、なぜか私の学校では買っている。
 一度、やってみたいような気もするが……。

 先日、調剤薬局に行った。
 薬を待っていたら、薬剤師さんが近づいてきた。
「コレステロールゼロのマヨネーズをお配りしています。よろしかったらどうぞ」
 小さなチューブを想像していたら、ドドーンと300gのマヨネーズが登場した。



 立派なレギュラーサイズの試供品である。これはすごい。
 しかし、我が家では、マヨネーズの消費量が少ない。生野菜はトマトくらいしか食べないから、かけるものがないのだ。せいぜい、茹でたブロッコリーにちょびっと使うくらいだろうか。ミニサイズを開ければ、2~3カ月は持つ。コレステロールがゼロでもたっぷりでも、ほとんど影響がない。
 世の中には「マヨラー」と呼ばれる人種がいて、ご飯やおかずなど、あらゆるものにマヨネーズをかけるという。まったく理解ができないが、彼らになら、コレステロールゼロ、カロリー50%オフのありがたみがわかるに違いない。
 これもまた、意味のないものという気がする。
「だったら、もらうな!」とブーイングを受けそうだ。



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揺れる思い

2011年10月09日 17時47分44秒 | エッセイ
 その夜は、中3の娘が、京都・奈良の修学旅行に出かけていなかった。
 夫婦2人きりで狭い家にいると、息が詰まりそうだ。専業主夫の慰労も兼ねて、外食に誘ってみた。
「たまには、フレンチでも食べに行く?」
「いいね! 行こう♪」
 普段は引きこもりの夫も、エサがもらえるとわかれば、二つ返事でオーケーだ。実に現金である。
 場所は池袋東武の15階。仕事の帰りに、直接お店で待ち合わせた。
「一番、料理の多いコースがいい!」
 食いしん坊の夫が、メニューを指差し、力をこめて主張する。
 その店に行くのは3年ぶりだったが、メニューがずいぶんリーズナブルになった。以前は、価格5桁のコースもあったのに、今は路線が変わったのだろうか。
 平日の18時という時間帯のせいか、客もまばらだ。そういえば、私だって、レストランのディナーは半年ぶりではないか。長引く不景気の中、客足を伸ばすために、価格を下げたのかもしれない。
「お待たせいたしました」
 料理が運ばれてくる。まずは前菜からだ。
 夫は、かなりお腹をすかせていて、すでに3個目のパンを頬張っている。家で何も与えていないようで、少々恥ずかしい。
 スープが終わり、次は魚料理というときだ。ウィン、ウィンという、聞き覚えのある警戒音が聞こえてきた。
「緊急地震速報です、緊急地震速報です」
 体が硬直した。ここは15階である。べらぼうに高いわけではないけれど、決して安全でもない。
 戸惑う私たちに、館内放送が追い討ちをかける。
「係員の誘導に従って、落ち着いて行動してください」

 もしや、大変なことになるのでは!?

 私はとっさに、翌日の朝刊の見出しを思い浮かべた。
「修学旅行中、外食中の両親が死亡」
 きっと娘は、「自分たちだけで、美味しいものを食べて死ぬとは、何て親だ」と怒るだろう。
 母なら、「昔から食い意地が張っていたので、いつかはこんなことになると心配していました」などとコメントするかもしれない。いずれにせよ、立場がない。
「誠に申し訳ございません。何かありましたら、ただちにご案内いたしますので、どうぞご安心なさってください」
 ウエイターが各テーブルを回り、静かな声で説明をした。まだ、誰も取り乱していないが、大きな揺れを感じれば、騒ぎになることは必至である。
「全部食べないうちに、避難するのはイヤだな……」
 夫が顔を曇らせる。コース料理は、これからが本番だ。私にとっては、デザートがメインディッシュなので、ここで中断されてはかなわない。
 願いが通じたのか、まもなく、微かに揺れはしたものの、すぐに収まった。再び、ウエイターが登場し、「震源地は福島だったようです」と報告に来た。いったい、いつまで続くのだろうか。
 その後は地震もなく、落ち着いて食事を終えることができた。夫は、結局、パンを5個平らげ、満足気だった。

 もし、地震から逃れられないとしたら……。
 せめて、デザートをいただいたあとにしてほしい。
 お支払いせずに、避難しちゃったりして。



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眠りの味方

2011年10月06日 20時23分14秒 | エッセイ
 以前にも書いたことがあるが、私は子どもの頃から寝相が悪い。
 小学3年生のとき、通っていた日曜学校で宿泊行事があった。夏休みに、涼しい軽井沢でサイクリングをしたり、温泉に入ったりと、親兄弟から離れて楽しく過ごした。
 夜は、大広間に30組ほどの布団を並べて寝た。こんなに大人数で寝るのは、生まれて初めてである。すっかり興奮して、消灯後も、隣のケイコちゃんと小声でおしゃべりをした。
 朝になって驚いた。昨夜はケイコちゃんの頭が隣にあったのに、今朝は足に変わっている。おかしいな、と思って体を起こすと、みんながケイコちゃんと同じ方角を向いていて、私ひとりが逆向きになっている。
 どうやら、寝ている間に、180度回転してしまったらしい。
「昨日、砂希ちゃんに蹴られて痛かったよ」
 目を覚ましたケイコちゃんが、口を尖らせ言った。
「あっ、あたしも~。砂希ちゃんの手が飛んできて、叩かれた」
 反対隣の女の子からも、苦情が寄せられる。狭い布団でグルッと回ったのだから、ぶつからないわけがない。私は「ごめんね」と、ひたすら頭を下げた。

 何十年経っても、寝相はよくならない。相変わらず、手も足も活発に動く。
 家族も警戒し、私の布団の半径1メートル以内には、誰も立ち入らない。
 最近はめっきり寒くなり、布団を蹴飛ばすと、冷え切って目が覚める。むくみ対策で用意した足用の枕も、遠くに転がっている。乾燥対策でつけたマスクも、起きたときにはアイマスクになっており、のどが痛い。夏の疲れが出る季節なのに、熟睡できず、どうにも体調が悪い。

 これじゃあ、いけないな……。

 寝相は、もはやどうにもならないので、よさそうな寝具を探す。何年か前に、敷布団と掛け布団が、ファスナーで一体化している商品を見た。あれなら、布団からはみ出すこともないだろう。
 しかし、今は売られていなかった。カタログには、それらしい寝具が見当たらない。世の中、そんなに寝相のいい人ばかりなのかと疑問である。
 先日、生協のカタログを見ていたら、「これだ!」と思う商品を見つけた。
 寝袋……。



 これなら、掛け布団を蹴飛ばすこともなくなり、私の睡眠を助けてくれそうだ。早速注文した。
 たまには廊下で寝てみようかな。



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ヘンな茄子

2011年10月02日 17時36分41秒 | エッセイ
 茄子を使った料理を作ろうと思った。
 スーパーに行くと、見たことのない茄子が並んでいる。ためしに買ってみた。
 茄子はヘタで鮮度がわかるという。



 なかなか元気そうだ、合格!

 実は、この茄子、大変個性的な姿をしているのだ。
 ものすご~く長い。



 メジャーで測ってみると、37.5cmもあった。ボールペンの、約2倍もの長さである。
 バスケットボールの選手というか、ガリバーというか。かなり衝撃的であった。
 熊本県産で、「大長茄子」という商品名がつけられている。そのまんまの名前に、少々苦笑した。お値段は、199円である。
 
 家に帰って茄子を洗う。
 ほどよい弾力性と、すべすべした手触りに、子どもの腕に触れているような気持ちになった。
 料理を始めるさい、「これは茄子だ、茄子だ」と自分に言い聞かせたが、切ったときの後味が悪い。
 標準サイズの4個分もあるので、3個分を使って1個分を残した。
 茄子料理で好きなのは、そぼろ煮である。
 砂糖醤油の煮汁で10分ほど煮たあと、挽き肉を入れればできあがりだ。あっという間に、一品増える。



 お味のほうは。
 皮は硬めだが、中身は軟らかく、トロッとしている。しかし、大きいせいか、茄子そのものの味は薄い。
 娘は気に入ったようで、「これ美味しい。また作って」と評価した。
 しかし、夫は、歯ごたえのなさが物足りなかったようだ。「いまいちだな。もう買わないで」と渋い顔をした。

 うーん、どっちにすればいいんだろう??
 長いものには巻かれなさい!



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