これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

電子レンジ依存症

2011年09月29日 21時26分47秒 | エッセイ
 我が家では、夕食のごはんを多めに炊いて、凍らせておく習慣がある。翌朝、電子レンジで解凍し、朝食やお弁当にするのだ。
 おとといも、チンして私のおにぎりや、娘の玉子かけごはんとなった。
 そのあと、夫も朝食をとろうとして、冷凍ごはんを電子レンジに入れた。ターンテーブルが回り、「ピー」という終了音も鳴ったのに、ごはんが温かくならない。
 どうやら、夫の番になったら、故障したらしい。運の悪い男である。
「しょうがないから、熱い味噌汁をかけて食べた……」
 夫は、よほど悲しかったようで、仕事中の私に愚痴メールを送ってきた。修理に来てくれるのは、2~3日後となるという。
 えらいことになったと慌てた。日々の生活で、どれだけ電子レンジに頼っているかを思い知らされる。直るまで、お米は朝炊くようにして、冷めたおかずも火にかけて温めるようにせねば。
 しかし、慣れないうちは、失敗がつきものである。
 朝食のパンを買うため、帰りにコンビニに寄った。「コロッケパンはこの前食べたし、ウインナーロールもちょっとなぁ」などと考えながら、ゴンドラとにらめっこをしていた。
 たまにはサンドイッチがいいかも、と思いついたのが間違いである。サンドイッチを通り越して、つい、好物のチーズバーガーに手が伸びた。
 我に返ったのは、レジで「ハンバーガーは温めますか」と聞かれたときだ。とたんに、電子レンジが使えないことを思い出した。まったく、習慣というのは恐ろしい。「バカだなぁ」としょげながら、私は翌朝用のチーズバーガーを持って家路についた。
 翌朝は寝坊した。ダッシュでお弁当を作ろうとしたら、肉を解凍していなかったことに気づいた。

 なんてこったい!!

 もう、お弁当は諦めようと思ったが、幸い、我が家は二世帯住宅だ。肉をつかんで1階の義母宅に押しかけ、「電子レンジを貸してくださ~い」と頼み込んだ。
 心の広い義母は、笑顔で「いいわよ、好きに使って」と答えた。実にありがたい。
 だが、2階にいると、電子レンジの終了音が聞こえない。肉の解凍は2分半だったが、そろそろかと思って見に行ったら、まだ1分しか経っていなかった。義母と一緒に待っているのも気まずいので、いったん2階に戻る。今度はちゃんと時計を見て、時間になってから階段を下りた。
 お弁当ができたら、次はチーズバーガーだ。こちらは40秒なので、義母と世間話をしながら終わるのを待つ。「ピー」と鳴ったら、礼を言ってまた戻る。
 ただでさえ時間がないというのに、朝っぱらから階段を4往復もしてしまった……。
 くたくたになって出勤すると、昼前に夫からメールが来た。
「やっと電子レンジが直りました! センサーが壊れていたそうです」
 私が大喜びしたのは、いうまでもない。

 なくなったとき、初めてありがたみのわかるものがある。
 電子レンジなどは、その代表格だろう。
 家族なども、いて当たり前だと思ってはいけないのだろうな……。
 テレビの前に陣取っている太った男を見て、ふとそんなことを考えた。



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洗濯こわい

2011年09月25日 20時22分07秒 | エッセイ
 我が家は3人家族だが、毎日8kgの洗濯機がいっぱいになる。潔癖症の夫と娘が、山のように洗濯物を出すからだ。
 いっぽう、私は潔癖症ではないので、いい加減な洗い方をする。夫のパンツも娘の靴下も、台布巾も何もかも、まとめて洗濯機に放り込む。さすがに雑巾は下洗いをするが、洗剤を入れるのだから、ばい菌がいても問題なさそうだ。大腸菌類は乾燥に弱いというから、天日干しすれば完璧だろう。
 ときどき、赤いTシャツが色落ちして、白いワイシャツがピンクになってしまうこともある。また、ポケットにティッシュが入っていて、すべての洗濯物が白のまだら模様と化すこともある。
 家族に苦情を言われても、「文句があるなら自分でやれ」と開き直れば黙る。
 結局、いつも私が洗濯をすることになるのだ。
 洗濯洗剤は液体に限る。今、使っているのは、P&Gのボールドである。特にこだわりはないけれど、一度ボトルを買ってしまうと、環境のためにも詰め替え用に手が伸び、延々と使うはめになる。
 朝の忙しい時間に、洗剤が足りないときは困る。急いで詰め替え用を開けて、ドボドボと補充しなければならないからだ。あわてると、床にこぼしてしまい、かえって時間がかかる。
 昨日は、ボトルがやけに軽かった。おそらく、残りはわずかだろう。となると、今日は洗剤を補充する日だ。仕事のない日であれば、時間を気にせず、ゆとりを持って作業できるからいい。
 洗濯前に詰め替え用を確認すると、1個しか残っていなかった。また、買いにいかねばならない。汚れものを洗濯機に入れたら、まだ余裕がある。ついでに枕カバーも洗おうと思い、寝室を往復したあと、ようやくスイッチオンにした。
 洗濯物を干すのは夫の仕事だ。天気もいいし、カラッと乾くだろう。
 鼻歌まじりで洗面所に行くと、ボールドの詰め替え用が目に入った。
「おや?」と引っかかりを感じる。洗濯が終わったのに、どうして残っているのか。
 記憶を手繰ると、とんでもないことを思い出した。

 しまった、洗剤を入れ忘れた!!

 欲張って、枕カバーを入れたことが、アダになったらしい。私は洗剤を入れぬまま、洗濯機を回してしまったのだ。
「どうしよう」と青ざめ、洗い直そうかと迷う。だが、洗濯物はほぼ乾いており、今さらという気もする。しかも、洗剤なしだったのに、結構汚れが落ちている。秋の日差しでカラカラに乾けば、雑菌も死滅するに違いない。
 安心して、「まあいいや~」となった。
 潔癖症の家族には、口が裂けても言えない。ここだけの話である。
 お向かいの家はもっとすごい。夜、洗濯をして、竿に干すのだが、ときどき夜中に雨がふる。びっしょり濡れて、水が滴る洗濯物を日中、そのまま乾かすのだ。あの神経は理解できない。
「あれに比べればずっとまし」と、私は逃げ道を作った。



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昔の通知票

2011年09月22日 21時03分40秒 | エッセイ
 母に頼み、昔の通知票を送ってもらった。
 小学校から高校まで、すべて保管してくれたことがありがたい。
 とりわけ、私が関心を持ったのは、中学校の通知票である。中を開くと、当時の思い出が心に蘇ってきた。

 1年生の担任は理科の先生で、大学を卒業したばかりの若造である。努力家だが神経質ゆえに、「腹を下しやすい」のだと言っていた。陰では「ゲリセン」というあだ名がついていたらしい。
 中学校は小学校と違い、何をどのくらい勉強すればいいかがわからない。成績がイマイチだったため、ゲリセンは所見欄に「数学と体育に力を入れてください」と書いている。数学は嫌いだったし、体育は苦手なこともあり、適当にやっていたら悲惨なことになってしまった。



 2年生では、育休から復帰したばかりの女性の先生が担任になった。教科はやはり理科で、生物が専門だったようだ。
 私は、この先生が好きだった。おしゃれで美人の面はもちろんのこと、常に冷静で落ち着いているところがいい。基本的に、騒々しい人は嫌いだ。母が感情的な人間で、年がら年中、大声でわめいてばかりいたから、担任の穏やかで知的な雰囲気に憧れたのかもしれない。
 先生にほめられると、「もっと頑張ろう」という気持ちになれる。勉強時間がぐんと増え、成績も大幅にアップした。この頃から、テストで90点以上を取るのが当然と思うようになった。



 3年生でも、またまた理科の先生が担任となった。
 この先生は、30代後半、子持ちのパパで、数学の免許状も持っている。ひ弱そうに見えるのに、実は空手の心得があり、殴りかかってきた男子生徒を、たやすく取り押さえたことがある。
 三者面談で「志望校合格は確実」と言われて以来、手抜きをするようになり成績が落ちた。



 こうして3年間を振り返ってみると、苦手な科目は、音楽と体育だとわかる。音痴で運痴では情けないが、残念ながら事実だ。2つの教科の関連については、まったく気づかなかったけれども、スポーツではリズム感が重要だといわれている。元体育教師の夫は歌が上手いし、ギターも得意だから、どこかでつながっているのかもしれない。

 中3の娘に、私の通知票を見せると、食事もそっちのけで、夢中になって眺めていた。
「4に○や×がついているけど、これは何?」
「5に近い4だと○、3に近い4だと×がつくんだよ」
「へー、昭和だね」
 ひと通り目を通したあとは、自分の成績と比べはじめた。
「何で2なんか取ったの? ミキは一度も取ったことないよ」
「たしか、ペーパーテストが60点台で、ソフトボールの実技テストでも三振したような覚えがある……」
「実技ができないなら、筆記で頑張らなきゃダメじゃん」
「……」
「お母さんは、5教科の成績はいいけど、実技科目を怠けすぎ。もっと真面目にやればよかったのに」
「……」
「でも、これくらいの成績の人でも、学校の先生になれるんだね。知らなかったよ」
「……」
 なにやら、親子関係が逆転したような感じで居心地が悪い。
 しかし、母親が天才ではなかったことで、娘は安心したらしい。
「さて、数学の予習でもしようかな」と机に向かいはじめた。
 私の場合、努力よりも運のよさで、将来の夢をかなえたような気もするのだが。



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敬老の日作戦

2011年09月18日 20時23分34秒 | エッセイ
 受験生がいると、内申点が気になる。少しでも上がるようにと、勉強の仕方をアドバイスするが、果たして自分の成績はどうだったのか。
 中1のときは、大して勉強しなかったから、クラスで10番くらいだったと思う。でも、2年のときは担任と馬が合い、すっかり乗せられてガリ勉になった。成績は急上昇したはずなのだが、証拠の通知表がない。おそらく、那須の両親の家にあるのではと、メールで問い合わせてみた。
 まもなく母から返信があった。
「通知表あったよ。今度会うとき持っていくね」
 一刻も早く見たかったけれども、那須は遠い。さっさと送ってくれと、わがままを言える立場でもない。妹の娘と息子は9月生まれなので、毎年シルバーウイークに誕生会を開く。そのときには会えるから、もうちょっと辛抱せねばと、自分に言い聞かせた。
 ところが。
「家の建て替え中で、誕生会の場所がないわ。悪いけど、今年はなしでお願いします」
 妹から、残念なメールが届いてしまった。ちゃっかり者らしく、プレゼントは宅配便で受け付けるという。まったく抜け目のないヤツだ。
 しかし、誕生会がなければ、次に親族が顔を合わせるのはクリスマスである。12月まではとても待てない。どうしようかと考えていたら、いいアイデアがひらめいた。

 そうだ、敬老の日の贈り物をしよう!

 首都圏と違い、那須は買い物スポットが少ない。たまには、何か美味しいものを食べさせてあげたい。
 私が選んだのは、「ねんりん家」のバームクーヘンである。ここのバームクーヘンは、外側がカリッとしており、内側は弾力性のある生地を重ねた独特の歯ごたえが楽しめる。もちろん味も申し分ない。



 9日間持つという、「マウントバームしっかり芽」の5個入りを選んだ。



 心配なのは、貧乏性の母が「もったいない」としまい込み、カビを生やすことである。「大事にとっておかないで、早めに食べてね」と手紙に書いて、釘を刺した。
 そして、手紙と一緒に、通知表を入れる封筒を用意する。自宅の住所を書き、200円切手を貼って、バームクーヘンと一緒に送るのだ。ゴミの収集すらない僻地だから、郵便局まではさらに遠い。一番近いポストでも、車で行かなくてはならないが、投函するだけだから何とかなるだろう。
 手紙には、「ついでに、通知表を送る封筒を入れておきます。時間があったらお願いね」と書き添えた。ついでどころか、こちらがメインなのだが、身内といえども、ギブアンドテイクが常識である。

 母にとって、敬老の日は、軽労働の日になるかもしれない。
 うまくいけば、次回の更新では、私の通知表が登場する予定だ。
 食い逃げされないかぎり……。



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追いはぎと押し売り

2011年09月15日 20時40分30秒 | エッセイ
 中学の理科には、「塩化銅水溶液の電気分解」という単元がある。
 水溶液に、プラスとマイナスの電極を入れると、陽イオンの銅はマイナス極に移動し、陰イオンの塩素はプラス極に移動する。その結果、マイナス極には銅が付着し、プラス極からは塩素が発生するのだ。
 夕食の話題は、その実験の話だったはずなのだが……。
「お母さん、おいはぎって何?」
「知ってるけど、何でいきなり」
「だって、理科の先生が、プラス極は陰イオンの塩素から電子を奪うから、『おいはぎ』と覚えなさいって言ったんだよ」
 理科の先生は、50代のベテランである。今の生徒に通じる言葉ではないと、わからないのだろうか。
「『おいはぎ』っていうのはね、旅びとや通行人を脅して持ち物や着物を盗む、大昔の人のことをいうんだよ」
「へー、泥棒か」
 本人は、わかりやすく教えているつもりでも、生徒たちにはピンと来ないたとえである。思わず苦笑したが、さらに続きがあった。
「あとね、マイナス極は陽イオンの銅に電子を押し付けるから、『おしうり』と覚えなさいとも言われたんだけど、おしうりって何?」
「……」
 先生、早く気づいてよ~!

 そういえば、前の学校でも似たようなケースがあった。
 病弱ネタを売りにしていた国語の先生は、自己紹介のたびに「私は子供の頃から体が弱かったので、クララと呼ばれていました」と言っていた。20代のときは、生徒も『アルプスの少女ハイジ』を思い浮かべて、うなずきながら聞いていた。しかし、30代になってからは、生徒が怪訝な顔をするようになったという。そして、質問が飛んできた。
「先生、クララって何ですか。薬の名前?」
 彼女は、一定年齢以下には通じないのだと悟り、クララを引退させた。
 ちょっと淋しいことだ。

 先日、定期テストが終わり、娘がしょんぼりして帰ってきた。
「理科は、思ったよりできなかった……」
 追いはぎと押し売りは完璧におぼえたようだが、肝心のところが頭から消えてしまったのだ。
 余計なものをおぼえさせるから……。



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余計な仕事

2011年09月11日 18時39分04秒 | エッセイ
 資格といえば、まず英検や漢検を思い浮かべるのではないだろうか。
 私の学校にも、英検を受けたいという生徒がいる。他の学校に行くのは面倒だけれども、自分の学校で受けられるのなら受験するらしい。今年は人数が多かったので、学校単位で申し込みをしてみた。
「何級受ける?」と生徒に聞くと、ほとんどが「2級」と答える。全員同じ級だと楽なのだが、中には「自信がないから2級はちょっと」と尻込みする者もいて、2人だけ3級で申し込むことになった。
 人数を確定して手続きに入る。結構手間がかかるし、生徒から受験料を徴収したり、問題集を注文したりで厄介だ。でも、検定がモチベーションとなって、彼らの学力が上がることはうれしい。余計な仕事が増えたとは考えず、新鮮な気持ちで取り組んでみた。

 いよいよ、検定当日である。
 3級は9時だから、私は5時に起きた。娘のお弁当を作り、ポニーテールにしてやったあとは、ダッシュで職場に向かった。万一、電車の事故などで遅れたら、大変なことになる。いつもより早く到着できるよう、余裕を持って家を出た。
 幸い、何の問題もなく学校に着いた。あとは、生徒が来るのを待つだけだ。
 しかし、待てど暮らせど、3級の2人は来ない。このために、早起きしたというのに、一体どうしたのだろう。連絡ミスかしらと不安になり、電話をかけてみると、何と、2人とも家で寝ていた……。
「ごめんなさい、今日は休みます」と振られてしまい、悲しい。
 気を取り直して、2級の時間を待つ。
「先生、おはよー!」
 こちらは全員登校してきた。

 よしっ、こうでなくちゃ!

 すっかり気をよくして、一番前のエリカに話しかける。
「勉強してきた?」
「うん、昨日から、問題集やってる」
「……昨日から!?」
 ふた月も前に問題集を渡したのに、直前にならないと活用しないところが残念だ。他の生徒も同様で、やけにピカピカの問題集を開いている。ひょっとしたら、今初めてページをめくっている者がいるかもしれない。
 私は、天を仰いだ。

 ダメだ、全員不合格かも……。

 せっかくの日曜日だというのに、私は何をやっているのだろう。
 やはり、余計な仕事?



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ドラえもん先生

2011年09月08日 20時34分18秒 | エッセイ
 3日前から歯茎が痛い。炎症を起こし、腫れている。虫歯ではないようだが、疲れやストレスなどで、免疫力が落ちているのかもしれない。

 小学生のときは、よく虫歯になった。近所はヤブ医者ばかりなので、母が評判のいい歯科を探してきた。バスで15分ほどかかるけれども、「むやみ抜かず、いつまでも自分の歯で噛めるように治療をします」という方針らしい。
 院内に足を踏み入れると、明るくきれいな内装に驚く。やさしそうな受付のお姉さんに呼ばれ、診察室のドアを開けた。
「こんにちは。どうしたのかな」
 医師は、思いのほか、若い男性だった。顔も体も丸くて、ドラえもんを連想されたが、四次元ポケットから未来の道具を出したりはしない。他の歯科と同じように、ウイーンと不吉な音を立てる機械を手にして、ガリガリ削るだけだった。
 耐えがたい痛みに、全身をこわばらせると、医師は機械を止めた。
「何だ、このくらいで痛がるなんて、だらしないなぁ。君よりも、もっと小さな子だって我慢できるよ」
 そう言われては面白くない。できるかぎり力を抜いて、苦痛をやり過ごすしかなかった。もっとも、子どもの負けん気を刺激するために、わざと言っているのだろうが。
「うん、そうそう。やればできるじゃないか」
 けなされたり、おだてられたりして、初日の診察を終えた。
 その後も、しばらく通っていたのだが、奥歯を抜いた日のことが忘れられない。
 下から永久歯が顔を出しているのに、乳歯がいつまでも居座っているので、歯茎が化膿したときがある。先生は「抜きましょう」と言い、麻酔をかけた。
 ところが、この乳歯、がっしりと根を張って、かなりしぶとい。先生が、ペンチのような器具で挟んで引っ張っても、びくともしない。最初は上品だった先生も、「この、クソッ」などと口汚くつぶやき、本格的な格闘モードに突入した。
 やがて、つまんでいた歯がポキッと折れた。「まだ抜けない」とウンザリしたのか、先生はてこのような器具に変えて、根元を掘り始めた。まもなく、ズボッという衝撃があって歯が抜けた。
「ああ、やっと抜けた」
 先生は汗びっしょりだ。
 しかし、私は抜けた歯にへばりついた、ピンク色の塊が気になった。

 あれ……歯茎じゃないかしら……。

 鏡を見ると、歯の抜けた跡とは別に、米粒大の穴が開いている。頑固な乳歯は、さんざん抵抗したあげく、歯茎を道連れにして旅立ったのだ。傷跡がふさがるまで、しばらく痛い思いをした。
 虫歯をひと通り治療すると、何年も歯医者に行かなくなる。
 学生のとき、治療跡の詰め物が取れてしまったので、久しぶりにドラえもん先生の予約を取った。
 でも、少々様子がおかしい。受付のお姉さんが、「早い時間は先生がお見えにならないときもあるので、11時くらいでいかがでしょう」などと言うのだ。診療開始は9時だというのに。
 予約時間に歯科に行くと、待合室には誰もいない。以前は、必ず何人かが雑誌を読みながら、順番待ちをしていたのだが……。
 10分経ってから、お姉さんが私を呼んだ。
「笹木さん、先生がお見えにならないので、今日は診察できないと思います。大変申し訳ありません」
 私はあぜんとした。
 あとから聞いたことだが、ドラえもん先生は、すっかり酒びたりになっていたそうだ。アルコール臭をぷんぷんさせて診察したり、朝起きられなくて、予約をすっぽかしたりの繰り返しだったという。
「何だ、だらしないなぁ。他の歯科医は、ちゃんと診察しているよ」と言ってやりたくなった。

 それにしても、この歯茎、早く治らないかな……。
 ストレスもあるけれど、お酒で発散させるのはやめよう。



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いい迷惑

2011年09月04日 07時23分38秒 | エッセイ
 一番好きな服は何かと問われれば、パジャマと答えるかもしれない。
 お風呂あがりにパジャマを着て、ぐっすり眠り、朝は出かける直前まで着替えない。パジャマのままでお弁当を作り、朝食をとる。一日8時間は着ているから、人生の3分の1をパジャマで過ごすことになる。
 ゆったりとしたデザインで、肌触りのいいところが魅力だ。下着をつけないから、開放感は抜群である。仕事のない日は、9時10時まで、パジャマでいることもある。
 しかし、家族には、いい迷惑らしい。夫も娘も、起きたら真っ先に着替えるタイプだから、いつまでもパジャマでウロウロしていることはない。

 日曜日の朝、インターフォンが鳴り、宅配便が来た。
「ミキ、出てちょうだい。お母さんはパジャマだから」
「ムキーッ! 何で着替えないのよッ!」という具合だ。しかも、私あての荷物ばかりなので、ますますひんしゅくを買う。
 昨日は、こんなことがあった。
 娘が部活に出かけた直後、箸箱を入れ忘れたことに気づいた。お弁当があっても、箸がなければ困るだろう。いつも、100m先の友人宅に寄るので、急げば間に合うかもしれない。
 私は箸箱をつかみ、夫に渡した。
「お願い、これ持っていって!」
「俺が!?」
「だって私、パジャマだもん。さあ、早く早く」
 夫は、わけがわからないという顔をしたが、逆らわずに、のしのしと歩き始めた。本当は走ってほしかったのだが、デブなりに急いでいる様子である。外は、台風12号の影響で、強い風が吹いている。雨がやんでいたのは幸いだった。
 はたして、間に合っただろうか?
 5分後、夫が戻ってきた。手には箸箱が握られたままだ。
「もういなかった……」
「あー、残念!」
「風が強かった……」
「ありがとね。あとは何とかするからいいよ」
「無理やり、運動させられた……」
 夫はかなり不満そうだが、いちいちかまっていられない。受話器を取り上げ、中学校に電話をかける。運よく、顧問の先生が出てくれた。
「すみません、今日はお箸を入れ忘れたので、あとで持っていきたいのですが、何時頃どこに行けばよろしいでしょうか」
「ああ、お箸ですか。もしよろしければ、私の割り箸がありますから、それを渡しましょうか」
「えっ、いいんですか!」
「いいです、いいです」
「助かりました。よろしくお願いしま~す!」
 ニンマリとして受話器を置くと、夫が横目で見ていた。
「ずるい……」
 
 家族に迷惑をかけるのも、だんだん心苦しくなってきた。
 誰か、起きたらすぐに着替えたくなるような、すてきな部屋着を買ってくれないかしら。



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映画館の睡魔くん

2011年09月01日 20時19分01秒 | エッセイ
 メル・ギブソン8年ぶりの新作『復讐捜査線』

 新聞で映画の広告を見たとき、「これは行かねば」と、ファンとしての義務を感じた。
 しかし、作品の評価はイマイチだ。はたして、面白いのだろうか。
 映画館には睡魔がいて、退屈している客を探している。ちょっとでも「つまらないな~」と思えば、すぐに背後から忍び寄り、夢の世界へ案内する。

 2000年に公開された『ミリオンダラー・ホテル』では、メル様がFBI捜査官の役で出ていた。だが、出番が少ないこともあり、開始30分後にはスクリーンがかすんできた。やがて、何も見えなくなり、登場人物の声だけが遠くで聞こえる有様である。わざわざ休暇を取って、日比谷まで出てきたというのに、何をやっているのだろうと自己嫌悪に陥った。

 2007年公開の『シッコ』は、マイケル・ムーア監督の話題作だったので、わざわざ時間を作り、仕事のあとで観に行った。だが、館内が暗くなると、一日の疲れがドッと出てくる。しかも、単調な展開が続いたせいか、たちまち睡魔が肩車をせがんできた。「あっちにいけ、あっちにいけ」と念じたものの、意識がなくなるまでに長い時間はかからない。気がついたら爆睡していて、すでに話がわからなかった。「ついでだから、たっぷり寝てしまえ」と開き直り、体が傾ぐほど熟睡してしまった。
 映画が終わり、スタッフロールが流れると、「またやっちまった」と反省した。私の心はどんよりしていたが、館内は明るくなった。そのとき、私を呼ぶ声が聞こえてきた。
「笹木さん、笹木さん」
 ギョッとして振り返ったら、当時、娘の担任をしていた先生が手を振っている。たまたま、後ろの席に座っていたようだ。つまり、一部始終を見られていたらしい。もはや、逃げ隠れできない状況なので、顔を引きつらせながら挨拶をする。
「あっ、先生! 奇遇ですね」
「まさか、こんなところでお会いするなんて。これは夫です」
 担任が隣の男性を紹介したが、まったく頭に入らなかった。なんちゅう場面を見られたのか。
 もちろん、娘にはさんざん罵られた……。

『ハリー・ポッター 不死鳥の騎士団』でも寝てしまったが、原作を読んでいたので、目が覚めたあとは何とか話についていけた。不幸中の幸いである。
 昔は、映画館で眠ることなどなかったのに、どうしたことだろう。
 老化現象とは認めたくない。引き込まれる映画が少なくなった上に、睡魔の数が増えたのだと思うことにしよう。
 
 そんなこんなでグズグズしていたら、『復讐捜査線』の公開が終わっていた。
 ファンの義務を果たせず、申し訳ないとメル様に詫びる。DVDがレンタルできるようになったら、必ず借りに行かねば。
 映画館とサヨナラする日が、やがて来るのだろうか……。



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