これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

高のぞみ

2011年08月28日 17時49分57秒 | エッセイ
 この夏は、受験生の娘と一緒に、高校の見学会に参加した。
 都立校の教員が、自分の子どもを都立校に入れるのは怖い。たいてい、どの学校にも一人や二人、面識のある教員がいるからだ。夫婦で教員の場合、その危険性は2倍に増える。優秀な子ならともかく、見られて困る成績をとる子は、人前にさらしたくない。「笹木さんちの子、結構できないのよね」などと陰口を叩かれるのはイヤだ。
 娘のミキは、全然勉強をしない。このままでは、不安が現実となりそうである。なんとか刺激を与えたくて、偏差値69の名門、A高校の見学会に申し込みをした。合格の可能性がゼロでも、見学は自由だ。
 A高校からは神宮球場が見える。校庭は狭いが、大きな自習室やサンルーフつきのプールがあり、施設の充実した学校である。国公立への進学者も多いことから人気が高く、定員380人の見学会がすでに2回分いっぱいとなっている。どうにか、3回目にすべり込みで間に合った。あとから知ったことだが、その後、5回分すべてが定員に達したため、追加でさらに3回実施したという。
 その日は、受付開始前から参加者が集まり、定刻15分前には全員が着席していた。説明が始まれば、誰もが背筋を伸ばして真剣に聞いている。足元を見れば、持参したスリッパや上履きをはいた者ばかりで、忘れ物はないらしい。
 ちなみに、偏差値40の私の勤務校では、1回の見学会で50人集まればいいほうだ。当日のドタキャンは珍しくないし、30分も40分も遅刻する保護者や生徒がいる。スリッパの貸し出しも多く、最初から持ってくる気がないらしい。説明が始まれば、机に伏したり、よそ見をしたりで、「早く終われ」という顔になる。あまりの格差に驚いた。

 説明が終わると、校内の見学となる。いくつかのグループに分かれて、A高校の生徒が案内してくれるのだが、ここでもサプライズがあった。
「1年の小山です。よろしくお願いします」
 元気よく挨拶した生徒は、昔、近所に住んでいた女の子だったのだ。小学3年生で引っ越して以来、久々の再会となった。小山さんは、私とミキのこともおぼえていて、「ご無沙汰してます」と声をかけてくれた。
「前が詰まっております。こちらで少々お待ち下さい」
「恐れ入りますが、左に寄っていただけますか」
「申し訳ありませんが、スリッパを脱いでお入りください」
 小山さんの案内は素晴らしかった。日常語と敬語のバイリンガルなのではと思うくらい、お客様への言葉づかいが徹底していた。他の保護者も感心し、「しっかりしているわねぇ」とささやいていた。自分の子どもではないけれど、私まで誇らしい気分となったのが不思議だ。
 帰り道、娘の目の色が変わっていた。
「A高校はすごかったね! ミキも、ああいう学校に入りたいっ」
「今の成績じゃ無理だよ。もっと勉強しないと」
「するよ! 今日から頑張る」
 学校だけでなく、小山さんの活躍にも刺激されたのだろう。ミキは珍しくやる気になっていた。
「しめしめ、うまくいった」とほくそ笑んでいたのだが……。
 翌日、8時間机に向かったあと、ミキは体調不良を訴えた。
「頭が痛い! 目も痛いし、手が疲れた~!!」
 急に勉強したから、体がついていかないのだ。やる気だけでは、ダメらしい。
「今日はもういいや。寝る!」
「…………」
 ああ、A高校よ、さようなら……。
 小山さんが、「失礼します」とお辞儀をして、去っていくような気がした。



クリックしてくださるとウレシイです♪

※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
 「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
コメント (10)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

亭主にしたくない男

2011年08月25日 19時43分07秒 | エッセイ
 実家は駅から遠い場所にあった。電車に乗るには、バスを利用しなければならない。終バスを逃したら、タクシーに頼るしかない。父は、飲み会で帰りが遅くなったとき、迎えに来てもらえるようにと、母に普通免許を取らせようとした。
 現在、母は70代目前だが、当時は30代の終わりである。教官は、概して若い女性にはやさしい。しかし、『あたしンち』のお母さんに似ているオバさんには、かなり冷たかったらしい。なかなか見きわめをもらえずに、相当な金と時間をかけて、父のお迎えのために何とか免許を取った。
 帰りの心配がなくなると、父は遠慮なく、駅まで母を呼びつけた。ときには、毎日のように迎えに行ったようだ。当たり前のように「○時に来てくれ」という電話がかかってきて、無言で車にエンジンをかけていた母の姿を思い出す。
 そして、事件は起こった。
 若葉マークが取れた頃だろうか。いつものように、父から「11時に着くから駅まで頼む」と連絡があり、子どもたちを残して、母はひとりで車を運転した。駅前のスペースに車を停めると、ちょうど電車が到着している。ほどなく、構内から人がうじゃうじゃと出てきた。母は父を探したが、見当たらない。
 次の電車にも、その次の電車にも、父の姿はなかった。
 駅前は、いつまでも車を停めておける場所ではない。他の車にクラクションを鳴らされ、母はロータリーから離れようと車を発進させた。
 そのとき、前にいたタクシーが、いきなりバックしてきた。ブレーキをかけたが、逃げ場がない。リアガラスが迫ってきて、「ガシャーン」という金属音と同時に、体に軽い衝撃が走った。
 ぶつけられたのだ。
 すぐに、タクシーから運転手が降りてきて、「邪魔じゃないか!」と怒鳴りつけてきた。
 母も、「そっちがぶつけてきたんじゃないですか」と言い返したが、周りはタクシーばかりで分が悪い。早く父に加勢してもらいたかったが、まだ帰ってこない。普段は気丈な母も、このときばかりは心細くてしかたなかったそうだ。
 結局、父が駅に登場したのは、それからさらに20分経ってからだった。
「寝過ごして終点まで行っちゃったから、折り返し運転で帰ってきたよ」などとほざいたというから呆れる。ふくれっ面の母から話を聞き、「こういう男と結婚するのは、絶対にゴメンだ!」と肝に銘じた。

 先日読んだ本に、「女性の扱いに不慣れで恋愛スキルが低く、気が利かない、甘い言葉もささやけない日本男性は、欧米女性にまったくモテない」というくだりがあった。
 まっさきに、私の脳裏に浮かんだ男性が父であったことは、いうまでもない……。



クリックしてくださるとウレシイです♪

※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
 「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
コメント (16)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ガンダム姉妹

2011年08月21日 16時37分39秒 | エッセイ
 昨日、「お台場ガンダムプロジェクト2011」に行ってきた。





 今回は立像ではないが、腕や頭などのパーツが間近に見られるところと、手に触れられるところが目玉である。



 ガンダム好きの、姉と妹を誘って3人で出かけた。



 わずか9日間の展示なので、入場券は日替わりの絵柄となっている。



 まずは頭部を見に行く。



 右側に自転車が2台あり、これを漕ぐと発電し、ガンダムの目が光る仕組みとなっている。



 姉に「漕いできたら?」と声をかけたら、「結構よ」と断られた。若者ならいざ知らず、40代の女には勇気のいる行為だ。
 自転車の近くには、日清カップヌードルのガンダムもいる。



 それから、右手パーツに進むことにした。ここには、すでに長蛇の列ができており、「最後尾」と書かれたプラカードに向かう。白いポロシャツを着た係員が2名いて、交通整理と写真撮影をしてくれるから安心だ。
「1グループ1枚でお願いします」の看板もあり、混雑ぶりが伺える。順番待ちをしていたら、さきほどの自転車に、シャアとアムロのコスプレをした男性2人が座っているのが見えた。
「あっ、あれ見て」
 姉と妹に声をかけると、振り向いた2人も驚いている。
「わあ、すごい」
「自分で作ったのかしらね」
 2人は元気よくペダルを漕いで、ガンダムの目を光らせたようだ。遠目からも、付近の客が拍手をしたり、歓声を上げる様子が伝わってきた。
「盛り上げるねぇ」
 2人は間もなく自転車から降り、ペコリと一礼して去ったようだ。
 15分ほど待つと、撮影の順番が回ってきた。



 私と妹が手に座り、左側に姉が立ち、3人で写った。家族連れや男性1人という単位が多い中で、40代の女3人の組み合わせは異色だ。しかし、ここは同じ趣味を持つ者の集まりだから、何も気にすることはない。
 太陽の熱を吸収し、温かくなった右手に腰掛ける。思ったとおり硬い。しかし、拒否感はなく、力強さと包容力が感じられる。
 カシャッ。
 一瞬の出来事だったが、この写真は大事に取っておきたい。
 あとは、残りのパーツを見学するだけだ。





 人垣ができているから、近寄らないと見えない。しかし、近くで見ると、どのパーツなのかがわからない。もっと空いていれば、じっくり観察できるのだが……。
 場内には解説もある。





 適当に置かれているのではなく、立像に合わせて配置されているとわかった。
 下のほうには足がある。



 ひと通り楽しんだあとは、グッズ販売のテントに行った。
 クッキーと





 ポストカードを買う。



 妹が、「ダンナに何か買ってやらないと」とつぶやいていた。たまたま、彼もその日は休みだったらしい。たしか、ガンダムは好きだったはずだから、私と姉は口を揃えて言った。
「連れてくればよかったのに」
「そうよ、可哀相じゃない」
 しかし、妹は動じない。
「いいのよ、姉妹だけのほうが。気楽だし」
 たまには、夫抜きで遊びたいのかもしれないが。少々むごいような気がする。
 唖然とする私と姉の前で、妹はさらに続けた。
「なんだ、クッキーとポストカードしかないのね。じゃあ、ウチはいらないや」
 義弟は、誘ってもらえないばかりか、おみやげももらえなかった。

 帰ってから、もう一度、お台場プロジェクトの関連サイトを見ると、記念撮影をした右手の耐荷重量は90kgだったらしい。私は青ざめた。

 妹と2人じゃ、100kg超えちゃうじゃん!!

 係員の制止がなかったので、大丈夫なのだろうが、冷や汗ものだ。
 ガンダムが力持ちでよかったわぁ。



クリックしてくださるとウレシイです♪

※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
 「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
コメント (13)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

人形ごっこ

2011年08月18日 20時10分34秒 | エッセイ
 今日は、都心でも、この夏一番の暑さを記録したらしい。
 暑い日の遊びとして、何を思いつくだろうか。プール、水遊びなどを思い浮かべるのではないか。
 だが、私の場合は人形ごっこである。
 20ウン年前の少女時代、夏休みといえば午前中は宿題をし、午後はクーラーの利いた室内で、姉や妹と人形遊びに興じながら、両親の帰りを待ったものだ。健康的ではないが、熱中症の心配もなく、それなりに楽しかった。
 人形はリカちゃんにモエちゃん、パットちゃんの3体があり、着せ替えや買い物、おしゃれ、料理などをさせて遊んでいた。おそらく、何年も前に廃棄処分となったと思われる。

 そんなことを思い出しながら、今日は部屋の片づけをした。本や雑誌などをジャンジャン捨てたあと、小物入れに取り掛かる。そこには、娘が幼い頃に遊んだ、「ぷちサンプルシリーズ」というおもちゃが入っていた。
 たしか、「スーパー」と「ファミレス」だったはずだ。本物そっくりの、牛乳やハム、チーズなどが見事である。



 食パンに肉、刺身などもよくできており、「ほー」と感心した。



 買い物に使うカゴやカートも用意されている。



 私が使っていた人形ごっこの道具より、ずっとリアルで素晴らしい。ちょっと遊びたくなってきた。しかし、人形がない。

 そうだ、もらいものが……。

 少々前に、友達からいただいた「歳三くん」を思い出し、袋から引っ張りだした。
 買い物するのも、料理するのも、女の子である必要はない。歳三くんに黄色いカゴを持たせ、商品を入れていく。牛乳、ジャガイモ、肉……。
 会計をすませて、スーパーの白い袋に詰めると、なかなか様になっている。



 とても、新撰組・鬼の副長と呼ばれた男とは思えない。可愛いものだ。
 あとは、これを料理して、シェフの歳三くんに早変わりとなる。きっと、包丁の代わりに、日本刀を使うのだろう。



 ああ面白かった。
 私の短い夏休みは、今日で終わりだ。明日からは、また仕事が待っている。
 残暑の厳しい日には、また歳三くんと遊ぼうかな。



クリックしてくださるとウレシイです♪

※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
 「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
コメント (11)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

野口屋さんの日

2011年08月14日 21時08分38秒 | エッセイ
 以前に豆乳の話を書いたら、マイミクさんから「野口屋さんの豆乳がとても美味しい」というコメントをいただいた。
 野口屋さんについて調べてみると、店舗販売ではなく、リヤカーで移動しながら引き売り販売をしているらしい。昔ながらの行商をイメージしてもらえばよいだろう。都内を中心に、埼玉、神奈川などでも営業しているそうだ。しかし、一向に見たためしがない。縁がないのかしらと諦めていた。
 ところが、そうでもなかった。
「お母さん、家の前に誰かが来ているよ」
 ふた月ほど前のことだ。ラッパの音に気づいた娘が、私を呼びに来た。たまたま、日曜日の夕方だったので、家族は皆そろっていた。
「なんだろう」と思って窓の外を見ると、「築地野口屋」と書かれたのぼりが目に入った。
「ああっ、野口屋さんだぁ~!!」
 のぼりの下にはリヤカーがあって、若いお兄ちゃんが客待ちをしている。これは行くしかない!
 あわてて財布をつかみ、ドタドタと階段を下りていく私を見て、娘は義母にも声をかけた。
「お母さんが大騒ぎして出て行ったから、おばあちゃんも行ったほうがいいと思うよ」
 
 私がリヤカーにたどり着くと、すでに先客がいた。近所の奥さんだ。
「ありがとうございましたぁ」
 20代前半とおぼしきお兄ちゃんが、愛想よくお礼を言ったあと、私のほうに顔を向けた。目がパッチリと大きく、鼻筋の通った優しい顔の美男子である。
「こんにちは、豆乳ありますか?」
 気をよくして尋ねると、彼は端整な顔を曇らせて答えた。
「ああっ、ごめんなさい。豆乳は売り切れちゃったんですよ」
 ガーン!
 しかし、ここからが腕の見せ所なのだろう。お兄ちゃんは笑顔で、発泡スチロール内の商品を説明しはじめた。
「今あるのは、小粒納豆と、ところてん、絹ごし豆腐、それから……」
 そういえば、納豆の残りが少ないことを思い出した。
「じゃあ、小粒納豆と絹ごし豆腐をお願いします」
 そんなやり取りをしていたら、後ろから義母が登場した。
「何を売っているの? アタシにも見せて」
 義母は、ところてんと絹ごし豆腐を買っていた。豆腐は彼女の大好物である。
 夕飯に、早速、小粒納豆と絹ごし豆腐を食べてみたら、これがメチャメチャ美味しい。



「また来週来ます」と言った通り、日曜日になると、お兄ちゃんは家の前までやってくる。
「今日は豆乳取ってありますよ!」
「えっ、ホント!?」
 かくして、ようやく私は噂の豆乳にありつけた。「飲む豆腐」という商品名の通り、実にコクのある豆乳である。「やっと飲めた」と、ひたすら感激する。



 それから、「ざる豆腐」というものもいい味だ。何もつけなくても、十分いける。



 買い物前には、必ず義母に「野口屋さんが来ましたよ」と声をかけるようにしている。
 義母も、あとから駆けつけて、おしゃべりしながら買い物をする。とても楽しそうだ。実のところ、豆腐よりもお兄ちゃんが気に入っているのではないかと睨んでいる。
 義母はかなりの面食いで、芸能人を見る目が厳しい。
 福山雅治は好みらしく、「この人、いいわねぇ」などと言っては、ウットリ画面を眺めている。野口屋さんのお兄ちゃんも、目元が福山雅治に似ているような気がする。米寿を迎えた年齢でも、異性の好みは若いときと変わらないのではないか。
 そんな話をしていたら、娘が口を出してきた。
「え~、でも、おばあちゃん、本命はキムタクだって言ってたよ」
 キムタク……。
 お見それしました。
 
 今日も野口屋さんがやってきた。お兄ちゃんが、福山雅治風の目をきらめかせて声をかけてくる。
「豆乳ありますよ!」



クリックしてくださるとウレシイです♪

※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
 「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
コメント (15)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最後のメダカ

2011年08月11日 20時38分36秒 | エッセイ
 昨年3月に、メダカを17匹買ってきた。オレンジ色のヒメダカに加えて、シロメダカ、アオメダカを取り混ぜ、水槽の中が賑やかだった。
 しかし、今ではアオメダカ1匹しか残っていない。皆、死んでしまったのだ。
 昨夏には産卵し、稚魚も孵ったというのに、記録的な猛暑で水温が上がり、気がついたら全滅していた。あの稚魚が成魚になっていたらと思うと、残念でならない。
 広い水槽にただ一匹、気ままに泳ぐアオメダカは、心なしか淋しそうだ。

 仕事の帰りに、突如、「メダカを買って帰ろう」と思い立つ。
 私は明日から一週間ほど夏休みなので、今日は仕事着を持ち帰ってきた。ハードカバーの本も入っているから、荷物が重い。しかし、休みの日に、わざわざ池袋まで出るのは面倒だ。「メダカくらい、どうってことないさ」とデパートに立ち寄った。
 今日は、ヒメダカ10匹を買った。特に根拠はないが、生命力や繁殖力が強いような気がしたからだ。
「お待たせいたしました」
 たっぷり、水の入った袋を見て、私は「やられた!」と思った。メダカだけなら軽いが、水とセットになることをすっかり忘れていた。



 ズッシリとしたお買い物袋を腕にかけると、取っ手がメリメリと食い込む感じがする。
「うーむ、重い……」
 しかし、これから、明日のパンも買わねばならない。一瞬、「やめようかな」と怠け心が胸をよぎったが、結局は食い意地が勝った。もし、食料でなかったら、怠け心が勝利を収めていたに違いない。

「ほーら、新しい家族ですよ~」
 水槽に、買ったばかりのメダカを移す。アオメダカの半分ほどの大きさしかない、チビっ子ヒメダカ軍団が、ドボドボとタイブしていく。狭いビニール袋から解放され、快適だったのだろう。ヒメダカたちは、てんで勝手に泳ぎ始めた。
 袋の始末をして、もう一度水槽に戻ると、アオメダカが見当たらない。目をこらすと、ヒメダカたちに取り囲まれて、見えないだけだった。大きなものに惹かれる習性があるのか、単に珍しいだけなのか、落ち着きを取り戻したヒメダカは、アオメダカのそばに集まっていく。
 今まで、気楽なひとり暮らしをしていたアオメダカは、少々居心地が悪いようだ。集団を振り切っては、単独になり、また追いつかれては囲まれる。一気に、10匹の子どもができたようなものかもしれない。
 いや、もう寿命は過ぎているから、アオメダカにとっては孫だろうか。
 おじいちゃんか、おばあちゃんかわからないが、ヒメダカから元気をもらって、長生きしてほしい。




クリックしてくださるとウレシイです♪

※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
 「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
コメント (14)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

気弱なカラス

2011年08月07日 19時54分13秒 | エッセイ
 その日は、燃えるゴミの収集日だった。緑のネットの下には、たくさんのビニール袋が山積みにされ、回収を待っている。そこへ、1羽のカラスが舞い降りて、ウロウロと歩き回りながら、ゴミを狙い始めた。
 だが、なかなか、袋に近寄らない。どうしたのかと、不思議に思ったときだった。
「シャーッ!」
 鋭い声が聞こえてきた。なんと、性格の悪そうな猫が、ゴミ袋の間に座り込み、カラスを威嚇している。コイツがいるから、カラスはモタモタしていたのだ。
 猫対カラスの対決は、どちらに分があるのだろうか。
 全身から戦意をみなぎらせた猫は、憎たらしい顔をしており、かなり凶暴そうだ。カラスは、あえて猫を見ないようにして、ピョンピョンと跳ねるようにアスファルトを移動している。意識はゴミに集中しているくせに、無関心を装っているところが面白い。まるで、大声で管を巻く、たちの悪い酔っ払いから目をそらす人間のようだ。「邪魔だな」「あっちに行ってくれないかな」と思っているに違いない。
 そんな弱気な態度では、猫には勝てないだろう。勝負を見届けるまでもなく、私はその場を通り過ぎた。

 そして、昨日、近所の神社にお参りした。
 朝から気温が高かったが、境内には緑が多く、比較的涼しい。手水場までは、木のトンネルができていて、ほとんど日がささない。
 石畳のない地面の上に、大きな鳥が2羽、涼みに来ている。だが、鳩にしてはやけに大きい。近くまで行くと、茶色に緑の混じった羽が見えた。

 鴨!?

 アヒルのような平べったい口といい、長くてクネクネした首といい、鴨に間違いない。落ち葉の上を、水かきのついた足で歩き回り、「グエグエ」「グエグエ」と賑やかに会話している。
 私はキツネにつままれた気分だった。800メートル先には川があり、鴨も住んでいるけれど、こんなところまで飛んでくるのだろうか?
 思わず足を止め、2羽を眺めた。人馴れしているのか、鴨たちは警戒もせずに、幅広のくちばしで木の実をつまんでいる。「バリバリバリ」と威勢のいい音がした。すっかり常連の顔をして、かなり態度がでかい。
 私は首をかしげながら、本殿に向かった。何だかよくわからないが、ここも鴨のテリトリーらしい。結構飛べるのだな、と感心したときだ。目の端に、1羽のカラスが映った。
 ヤツは、遠巻きに鴨を見ては、キョロキョロ、そわそわと落ち着かない様子である。「何だよアイツら、こんなところまで来て」「今度こそ、ひとこと言ってやろうかな。でも、あっちは2羽だし」といった迷いが感じられる。

 もしや、あのときの弱気なカラスなのでは……。

 カラスはたくさんいるし、まったく見分けがつかない。
 だが、あの気弱さ、おとなしさは珍しいのではないか。
 今度見かけたら、加勢してやろうかな。



クリックしてくださるとウレシイです♪

※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
 「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
コメント (8)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

家族の悪口

2011年08月04日 16時16分24秒 | エッセイ
 暑い夏の夜だった。
 当時、まだ独身だった私は、アイスを求めて家の近くのコンビニまで買い出しに行った。
「砂希」
 自動ドアの手前で、私を呼ぶ声がした。後ろを振り返ると、幼なじみの奈保子が手を振っている。彼女は、小学校から高校までずっと一緒で、毎日仲良く登校した親友である。高校卒業後、私は大学に進んだが、奈保子は大手都市銀行に入行し、すっかり疎遠になっていた。
「奈保子、久しぶりだね!」
「元気だった!?」
 買い物そっちのけで、おしゃべりが始まる。今は、高卒で都銀に就職するなど考えられないけれども、25年前では可能だったのだ。当時は、第一勧業銀行と呼ばれていた企業が、奈保子の就職先である。お金を扱う仕事は苦労が多く、不足を出すと、課長がポケットマネーで穴埋めするから申し訳ないとこぼしていた。
 店の外で立ち話をしていると、蚊が寄ってくる。私も奈保子もO型のせいか、刺されやすい。足をちょこちょこと動かし、なおも会話を続けていたら、30歳前後の怪しげな男が、ぶしつけな視線を向けてきた。
 まだ若そうだが、頭はハゲかかっており、痴漢のような目をしている。自転車にまたがったまま、スピードを落として、私と奈保子を交互にジロジロ見ていた。やがて、飽きたように視線を外し、無言で立ち去った。気味が悪い。蚊のほうがずっとマシだ。
 私は迷わず、率直な感想を口にした。
「なに、あの男、キモ~い!」
 奈保子が何も言わないので、調子に乗って続けた。
「なんかさぁ、変質者っぽいよね。頭おかしいんじゃない!?」
「……ゴメン、あれ、お兄ちゃんなの……」
 奈保子は目をそらし、小さな声でつぶやいた。
「ゲッ」という驚きの声を、かみ殺すのに苦労した。そういえば、たしかに奈保子には3歳上の兄がいたが、中学生のときは普通だったはずだ。まるで別人の姿に仰天しつつも、私は「世紀の失言」をどう挽回するかで、頭がいっぱいだった。
「そっ、そうだったの、あれがお兄ちゃん」
「…………」
「いやぁ、久しぶりすぎてわかんなかったわぁ~」
「…………」
 どう考えても、フォローできるはずがない。こうなったら、「三十六計逃げるに如かず」だろう。
「あっ、もう私、買い物して帰らなくちゃ!」

 家族の欠点を他人に指摘されると、大変腹が立つということは、あとから知った。
 たとえば、私の母は、ときどき、「カッカッカッカ~」という下卑た笑い声を上げる。これが非常にいやで、「友達の前では静かに笑って」と注文をつけたことがある。
 初めて彼氏が遊びに来たとき、母は気をつけて「フフッ」とおしとやかに笑っていた。ところが、若い男の子を前にして、気分がよかったのだろう。時間が経つにつれ、化けの皮がはがれてきた。「カカッ」と聞こえたときは、「ヤバい」と焦ったが、もはや手遅れだ。たちまち全開となって、「カッカッカッカッカ~~~~!!」の楽しそうな声が響き渡った。
 笑顔の母とは対照的に、私は目を剥き、倒れそうであった……。
 とどめは、彼氏の「すごい笑い方するお母さんだね」という言葉である。自分では、十分にわかっていることなのに、このときばかりは、なぜかムカッとした。
 家族の悪口は、わがことと同様に、気分を害するものらしい。

 さいわい、奈保子とは、まだ年賀状のやり取りが続いている。
 でも、「お兄ちゃんはどうなりましたか」なんて書けないし……。



クリックしてくださるとウレシイです♪

※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
 「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
コメント (14)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする