これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

バカップルの話

2011年06月30日 20時41分58秒 | エッセイ
 勤務先の高校には、はねっ返り娘や、ぐうたら男がたくさんいる。
 愛奈もそのうちの一人で、めっぽう我が強く、周りの反対には耳を貸さずに、自分の意見を押し通すところがある。教員から見ても、扱いにくいワガママ娘であることは間違いない。
 しかし、彼氏ができてから、素直でかわいい面も見せるようになった。
 類は友を呼ぶというが、この彼氏も勉強嫌いの怠け者である。ワガママ娘と怠け者の、いわゆるバカップルが誕生した。
 よほど気が合うのか、あるいは別のところの相性がいいのか、この2人は大変仲良しだった。
 朝はわざわざ早目に登校し、廊下でベタベタくっついて話をしている。クラスが違うので、休み時間のたびに、お互いを探してイチャイチャ、昼休みも一緒にお弁当を食べ、放課後も2人セットで行動する。
 よりによって、私の授業は2人揃って選択している。「はあ」とため息が出る。くじ引きで席を決めたら、愛奈の後ろがたまたま彼氏となってしまい、さらにウンザリである。
 だが、新たな発見もあった。同性の友達には、大きな声で話しかける愛奈が、彼氏の前ではやけに静かなのだ。ときどき後ろを振り返り、「ここ、わかんない」などと、ささやくように尋ねている。はにかむような笑顔を見せ、その一角だけハートマークが飛び交う有様だ。口には出さないけれど、誰もが「勝手にしろ」と思ったに違いない。
 ある日、出席を取っていたら、愛奈の姿が見えない。彼氏に「愛奈は休み?」と聞くと、「さあ」という素っ気ない返事が返ってきた。
 授業が終わると、本人がやってきて、「保健室にいたから授業に出られなかったの」と報告するではないか。目が赤くなっているところを見ると、泣いていたらしい。愛奈は、小さな声で続けた。
「先生、席を替えてくれない? 昨日ケンカして、彼氏と別れちゃったから気まずい……」
 私は耳を疑った。はねっ返り娘返上ともいえる言葉が、まさか愛奈の口から飛び出すとは。相当こたえているのだと察し、「いいよ」と了解した。段取りをつけ、座席表まで書き換えたあと、愛奈がうれしそうに駆けつけた。
「先生! 仲直りしたから、やっぱり席替えしなくていい~♪ しちゃヤダからね!!」
 愛奈の身勝手さに、私がムッとしたことは言うまでもない……。

 半月ほどは睦まじかった2人だが、気づいたときには、別行動ばかりになっていた。
「先生、結局、私たち別れたの」
「そっか、残念だったね」
「今ね、つき合っていたとき、買ってもらったもののお金を請求されているんだよ」
「……せこい」
「ホント、せこいよね」
 愛奈は淋しげな様子だったが、その目は赤くなかった。おそらく、2人がよりを戻すことはないだろう。
「でも、席はあのままでいいからね。普通に大丈夫だもん」

 また授業の日がやってきた。本当に大丈夫かしらと心配になった。
 愛奈は、保健室に避難することなく、顔を上げて自分の席に座っている。
 その日はテストだったので、前から順に問題用紙を回して配った。愛奈は、後ろの彼氏に向かって、放り投げるように問題を渡したようだ。机の上を通り越し、床のほうに用紙が飛んでいった。
 舌打ちをして、彼氏が、いや元彼氏が問題を拾いに行く。
 愛奈は澄ました顔で前を向き、振り返りもしない。「してやったり」の表情だ。

 やっぱり、はねっ返り娘はこうでなくちゃね。

 なんだか、少し安心した。
 みんな、ちょっとずつ、大人に近づいていくのだ。



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昔のマンガ

2011年06月26日 20時30分24秒 | エッセイ
 奈良のお友達からメールが来た。
「断捨離に目覚め、いらないものを処分しています。砂希さんの好きな『エロイカより愛をこめて』も捨てようと思っています」
 青池保子さんの『エロイカより愛をこめて』は、絵の美しさといい、スケールの大きなストーリーといい、私が今まで読んだ漫画の中で一番面白い。高校生のときに友達から借り、漫画でここまで描ける技術に驚いた。
 2歳上の姉に見せると、彼女もたちまち夢中になり、さっそく全巻揃えてしまった。私は、何度も姉にこれを借りたものだ。実家を出てからは、姉に会う機会が減り、新刊が出るたび自分で買うようになった。だが、古い本は書店に並んでおらず、今となっては入手困難と思われる。
 私は焦り、大急ぎで返信をしたためた。
「捨てるくらいなら、私にくださーい! お願いします!」

 かくして、お友達から『エロイカより愛をこめて』1巻から22巻をちょうだいした。



 1巻の奥付を見ると、初版の発行が「昭和53年10月10日」となっており、長い伝統のある作品なのだとわかる。ちなみに、現在もときどき新刊が発行されている。
 東西冷戦時代を舞台にした、NATOやKGB、CIAなどの情報争奪戦がコミカルに繰り広げられ、噴き出す危険があるものだから、人前で読むときには白い目で見られる覚悟が必要だ。
 エロイカとは、ベートーベンの英雄を意味し、金髪巻き毛の派手な美術窃盗犯である。
 しかし、大多数の少女は、エロイカよりもNATO情報部のエーベルバッハ少佐を好む。



ストレートの黒髪をなびかせ、「鉄のクラウス」のコードネームの如く、鍛えられた身体でマグナム44を片手で撃ち、数々の多難な任務に立ち向かうのだ。まったく、ほれぼれする、たくましさである。



 もちろん、私も少佐のファンだった。10代の多感な時期に、浮世離れしたキャラクターを好んだ弊害として、制服フェチで筋肉フェチになってしまったが、大きな問題ではない。
 いただいた全巻を並べてみた。



 いつでも、エロイカワールドに入れるのは楽しみだが、現実逃避しないように気をつけよう。
 ありがとうございました♪ 



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見学みやげ

2011年06月23日 21時12分22秒 | エッセイ
 先日、さるスーパーマーケットの店舗見学をした。
 これは、就職希望者を抱える高校の生徒向けに企画されたもので、企業理念や経営戦略、店舗設計、雇用計画などについて、詳細な説明を受けることができる。当然、いろいろな学校からの参加があり、顔見知りの先生も多い。
 ひと通りの説明が終わったあと、実際に店舗まで足を運び、いわゆるバックヤードと呼ばれる、パック詰めなどの加工作業を見学することになった。
 入店前に、企業側の担当者から、注意を受ける。
「お手数ですが、衛生のため、帽子の着用をお願いします」
 万一、頭髪が商品に紛れ込んだら、大きな問題に発展するからだろう。一人ひとりに紙製の、白い帽子が手渡された。



 とたんに、参加者の顔が曇る。
 まず、案内をする担当者が、率先して帽子をかぶった。50歳くらいのオジさんなのだが、頭に紙おむつをしているように見えて変だ……。作業着ならともかく、スーツを姿には似合わない。しかし、彼は慣れているのか、ためらうそぶりも見せずに、妙な帽子をかぶって堂々と胸を張っていた。
 さて、今度は参加者がかぶる番である。他校の、髪の少ない男性が、無言で頭に載せていた。私は心の中で、「アナタは別に問題ないのでは」とつぶやいた。
 以前、同じ学校で働いたことのある男性も、白いカツラをかぶっているような姿に変身していた。厳しい先生だから、生徒からは煙たがられていたけれど、この愛らしい姿を見たら、人気沸騰まちがいなしだ。写メできなかったことが悔やまれてならない。
 そして、私も覚悟を決めてかぶった……。いっそのこと、知り合いが誰もいなければ気が楽なのに。
 担当者についていくと、まずは鮮魚のバックヤードに案内される。パートの女性たちが、元気よく「こんにちは~!」と声をかけてくるから気持ちいい。きっと、社内教育が徹底しているのだろう。精肉コーナーも同じように感じがよく、仕事をしやすい雰囲気が感じられる。
「じゃあ、次はこちらからです」と、担当者は銀色の扉を開けた。しかし、扉の先は売り場になっており、たくさんのお客さんたちでにぎわっている。どうやら、いったん売り場を通らないと、次の場所に行かれないらしい。
 担当者は、自分がヘンテコな帽子を身につけていることを、すっかり忘れているのだろう。笑顔で「いらっしゃいませ」と声をかけながら、どんどん先に進んでいく。仕方がないから、私たちもあとに続いていった。お客さんたちは、服とミスマッチな白い帽子の集団に驚いたようで、おしゃべりをやめてこちらを見ていた。おそらく、夕飯の話題となるに違いない。
「もう、帽子を取っていただいて構いません」と言われたとき、先を争うように、頭からむしり取る人が多かったのもうなずける。
 そのまま、見学会は終了となり、バッグの中に帽子をしまった。
 
 明日は夫が飲み会なので、久しぶりに夕食係が回ってくる。
「お母さん、この前、ご飯に髪の毛が入っていたよ。気をつけてね」
 娘の言葉が耳に痛い……。
 しかし、私には強い味方があるのだ。バッグの中から、かの帽子を取り出してみる。これをかぶって料理をすれば、髪の毛混入の心配はない。
 会社に関する情報が、見学会のメインだが、私の場合は帽子だったりして。



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ますのおすし

2011年06月19日 20時04分06秒 | エッセイ
「いかのおすし」という防犯標語がある。
 これは、子どもへの犯罪を、少しでも未然に防ごうとして、警視庁が考えたものだという。

「いか」行かない。
「の」乗らない。
「お」大声で叫ぶ。
「す」すぐ逃げる。
「し」知らせる。

 小学校などで、児童に繰り返し言い聞かせることによって、してはいけないこと、しなければいけないことの判断力が期待できそうだ。社会的弱者としての、子どもを守るために、役立ちそうな標語だと思う。

 一方、こちらは富山の友人から、「ますのおすし」をちょうだいした。
 地元でも評判の「さくら」ます寿しと、



 「花ます」である。



 わが家は、全員、ます寿しが好きなので、さっそく夕飯にいただいた。
 イチ押しは「さくら」だというので、まずはこちらから取り出す。



 美味しいものはあとで、という人もいるだろうが、私は逆だ。お腹が空いているときのほうが、より美味に感じられるのだから、何が何でも一番に食べたい。
 フタを開けて笹をめくると、サーモンピンクの色っぽい姿があらわれる。



「おおっ」と、家族からどよめきが上がる。
 八つ切りにすると、スイーツのようだ……。



「待て」ができない犬のように、私たちはます寿しに食らいついた。
 鱒に、ほどよく脂がのっており、身の味も濃い。すし飯との相性もよく、これが嫌いな人などいないだろういう、絶妙の味わいである。
「マジおいし~」と歓声が飛び交う。高齢で食の細い義母も、大喜びで食べていた。
 こうして「さくら」は、またたく間になくなった。
 次は「花ます」だ。



 こちらの鱒は、あっさりしていて大衆的だというが、これはこれで美味しい。
 昔、食べたます寿司を思い出し、懐かしい気持ちになった。

「ま」まあるい
「す」すがた
「の」のどから手が出る
「お」おいしさ
「す」好きなものを食べられる
「し」しあわせ
 
 ごちそうさまでした♪




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スネ夫の誕生日

2011年06月16日 20時57分11秒 | エッセイ
 夫は3年前に定年退職し、我が家の専業主夫となっている。
 汗っかきのせいか、最近、食事の味付けが濃くなってきた。昨日は焼き魚の塩をふり過ぎていたので、つい耳の痛いことを口にした。
「パパ、このお魚、塩辛いよ」
「そう?」
「もっと塩を減らして。それから、この煮物も醤油を入れすぎだよ」
「……」
 いかん、黙ってしまった。
 そういえば、食事の前には、娘に口ごたえされていたようだ。女2人に、よってたかって、いじめられたと思ったのかもしれない。

 たまたま、翌日の今日が、夫の誕生日である。
 私は昨夜のやり取りをフォローすべく、出勤前に、夫に声をかけた。
「今日は誕生日だね。ご飯食べに行く?」
 しかし、夫の反応は悪い。か細い声の、つれない返事が返ってきた。
「いい。ミキの試験が終わってからで」
 ちょうど娘の中間考査が始まったところだ。試験中は勉強に専念させるため、週末まで待つ気でいるらしい。
「じゃあ、ケーキだけでも買ってこようか?」
「いらない」
 ……まだスネているのだろう。まったく、手のかかる男である。見た目は間違いなくジャイアンだが、スネ夫という名がピッタリという気がした。

 出勤後、授業の合間に電話をし、豆腐懐石店の予約を入れる。運よく個室が取れた。
 それだけでは、機嫌が直らないかもしれないから、デパートでプレゼントを買って帰ることにした。
 しかし、年配の男性へのプレゼントは難しい。いったい、何を買えばいいのかだろう。ひとまずメンズのフロアに向かい、あるものから選ぶしかない。
 まず、目に入ったのは杖である……。これを選んだら、夏になっても、夫婦仲が氷点下に冷え込むことは間違いないだろう。却下。
 それから、ベルトが並んでいる。XLのサイズの男が、はめられるベルトなんてあるんだろうか。品定めが難しそうだ。これも却下。
 ネクタイ。今でも、いっぱい持っているし、出かける場所はほとんどない。却下。
 財布のコーナーで足が止まった。そういえば、夫は機能的な財布を持っていない。昔ながらの札入れと、小銭入れを併用しているはずだ。
「小銭入れは、取り出しやすいものに限るね」と言っていたことを思い出し、店員を呼んで、札入れにボックス型の小銭入れがついているタイプを出してもらう。
「こちらには、カードがたっぷり収納できます」と説明された財布に決めた。



 ポイントカードが増えるので、主夫の財布は、収納力が命なのだ。気に入ってもらえる自信はある。
 夕食が終わったときを見計らい、娘からプレゼントを渡してもらった。同じものでも、妻から手渡されるより満足度が上がるらしい。少々癪だが、これも作戦である。案の定、夫は朝の不機嫌がウソのように、満面の笑みで答えた。
「ミキ、ありがとう! 大事に使うよ」
 買ってきたのは私なんですけど、という言葉は飲み込んでおく……。
 夫は財布の仕様を確認し、こちらを向いた。ようやく私の番らしい。
 だが、言われたことは、お礼ではなかった。
「ママ、中身が入ってない」

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つうこんのいちげき!

2011年06月12日 17時20分23秒 | エッセイ
 小学5年生の甥と、小学3年生の姪にねだられ、「ドラゴンクエストⅤ」「ドラゴンクエストⅥ」のDSソフトをプレゼントしたことがある。
 かくいう私も、スーパーファミコン時代のドラクエには、どっぷりはまった口だ。すでに結婚していたが、夫をほっぽらかして深夜までコントローラーをピコピコさせていた。さすがに、娘が生まれてからは時間がなく、6作目「幻の大地」を最後にやめている。
 このゲームでは、主人公が「ぬののふく」を着て登場する。ひらがな表記をしているのは、子どもでも読めるようにとの配慮だろう。布だから防御力が弱く、登場するモンスターの攻撃を受けると、たちまち痛手を負う。戦いに勝ってお金を貯め、鎧や盾などの防具や、剣などの武器を買わねばならない。
 モンスターとの戦いでは、こちらが大きなダメージを与えると、「かいしんのいちげき!」となり、早々に退治することができる。だが、モンスターから深手を与えられると、「つうこんのいちげき!」となって、生命を脅かされることもある。
 経験を積んで力をつけ、呪文をおぼえ、武器や防具を充実させ、敵を倒して進んでいくところがゲームの醍醐味だ。ブログを引退したら、またチャレンジしたい気がする。

 昨夜、テーブルクロスにアイロンをかけた。
 わが家のアイロンは、結婚祝いに高校時代の友達からプレゼントされたものだ。今年で19歳を迎えた製品だが、月に一回くらいしか使わないせいか、一度も壊れたことがなく長持ちしている。



 コンセントを差す前に、水がなくなっていることに気づいた。台所に持っていき、上部の注水口のフタを開ける。コップを探し、蛇口から水をくんだあと、何も考えずに振り返ったのが間違いだった。
 肘が硬くて冷たいものに触れ、「ガチャガチャーン」と盛大な音を立てた。振り返った瞬間、肘がアイロンにぶつかり、床に落としてしまったのだ。
「なに、今の音?」
 家族がビックリして飛んでくる。
 私が真っ先に心配したのはアイロンだった。こんな失敗で壊してしまったら、友達に申し訳ない。ピンクの取っ手を持ち上げてみると、幸い、どこにも欠けたところはないようだ。「ああよかった」と胸をなでおろし、床に視線を落とした瞬間、凍りついた。



 おそらく、先端の尖った部分がぶつかったのだろう。木目に見事な穴が開いていた。

 つうこんのいちげき!!

 家族には「こんなになっちゃって」と嘆かれ、少々居心地が悪くなる。
 穴の近くには水が飛び散り、雑巾を取りに洗面所へ急いだ。そのとき初めて気づいたのだが、左足のスネの下がジンジン痛い。
 いや~な予感がして、靴下を脱いでみた。
 やはり、予想通り、私の足も攻撃を受けていたのだ。



 床に叩きつけられたアイロンが、跳ね返って私の足にぶつかり、傷を負わせたのだろう。ハイソックスにスウェットパンツを重ねていたのに、皮膚が破れて出血し、傷の周りにはアザまでできている。全治10日間といったところか。

「ぬののふく」じゃね……。

 痛みをこらえてコンセントを入れると、「シュゴー」と蒸気を上げてアイロンが働き始める。どうやら、何ともないらしい。
 強ッ!
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おしっこ近い

2011年06月09日 20時09分50秒 | エッセイ
 昨夜、就寝中に尿意を感じて目覚めたが、体が動かず起きられなかった。先月から忙しくなったせいもあり、疲れがピークに達していたのだろう。
 夕方になってから、体調の変化に気づく。
「おしっこしたい」と思ってトイレに行くが、大した量は出ない。しかし、またすぐしたくなる。
 いわゆる貧乳、いや頻尿である。私は青ざめた。

 ヤバッ、膀胱炎だ……。

 初めて膀胱炎に見舞われたときも、夜中のトイレを我慢したことがきっかけだったようだ。
 そのとき、私は教員2年目で、23歳だった。ちょうど汗ばむ陽気となったころ、寝ぼけまなこでトイレに入ると、おしっこの色が赤い。赤ワインほどではないが、ロゼのようなバラ色をしている。
「なんだなんだ」と驚いたが、本当に仰天したのはそのあとだった。

 いったーーーーい!!

 ロゼワインのあと、不意に焼けつくような痛みが襲ってきた。排尿痛と呼ばれるものであることは、あとから知ったが、耐えがたい苦痛に泣きべそをかく。フラフラしながら部屋に戻ると、体が熱い。体温計で測ると、37度5分もあるではないか。とても仕事には行かれないと判断し、受話器を取った。
「あのー、笹木ですが、膀胱炎になってしまいまして、熱もあるものですから、今日はお休みさせてください」
 職場では、休暇を取るのに理由は必要ないのだが、まだ経験の浅かった私は、ありのままを告げてしまった。受話器の向こうの教頭は、セクハラ一歩手前のオジさんである。不埒な想像をめぐらせているとおぼしき間のあと、「ああ、そうですか。じゃあお大事に」という、ニヤけた声が返ってきた。
 40代の今なら、「水虫が悪化しまして」とか、「坐骨神経痛で」などと、色気のない嘘をつけたのだが。
 病院に行くと、「急性出血性膀胱炎」と言われ、薬がどっさり処方された。
 医師は、「番茶かほうじ茶をたくさん飲んで、膀胱内の菌を出してくださいね」と指示を出す。簡単に言ってくれるが、それは悪魔のサイクルの始まりであった。
 お茶→尿意→排尿痛、お茶→尿意→排尿痛の繰り返しで、本当にまいった。結局、排尿痛から開放されたのは、夕方近くだったろうか。「もう二度とごめんだ」と思い知らされた。
 私の母は、時間がないからと受診せず、膀胱炎を放置した結果、血の塊がゴロゴロ出てきたというから怖い。膀胱炎を甘く見てはいけないのだ。

 それ以来、ちょっとの変化にも敏感になっている。尿の出が悪いと、まず膀胱炎を疑う。残尿感、頻尿感があったら、まめに水分を摂る。冷やさぬように体を温め、休養するように努める。
 おかげで、今日は、いつも通りの朝を迎えられた。
 健康であることが、なによりも大事だ。
 皆さんも、膀胱炎にはお気をつけて!

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もしもしカメよ

2011年06月05日 15時15分42秒 | エッセイ
 お友だちブログを見に行ったら、面白い記事が載っていた。
 なんでも、車の運転中に検問に引っかかり、免許証を見せたところ、一年前に有効期限が切れていたことがあったそうだ。(続きはこちらから)
 かれこれ30年前の話らしいが、私も20年ほど前の出来事を思い出してしまった。

 当時、私は学生で、神奈川県川崎市にある某大学に通っていた。
「砂希、今日、免許持っとる?」
 3時間目の講義が終わると、隣にいる彼氏が名古屋弁で尋ねてくる。いつもは家に置きっぱなしだが、その日はたまたま、別のことで身分証明のために使った免許証が、バッグの中に入ったままだった。
 私はバッグの中身を確認し、「あるよ」と答えた。
「よかった、ちょっと手伝ってもらいたいことがあるで~」と、彼が表情を崩したとき、非常にいやな予感がした。
 そのまま私は、校舎裏の駐車場に連れて行かれた。車で通学する学生もいるが、彼はバイク登校である。スズキの400ccが彼の愛車だ。
「シミズにスクーターを貸しとったら、今日戻ってきたで。でも、オレ、これに乗ってきたから、スクーターのほうを砂希が運転してくれん?」
 どうやら、彼は私に原付を運転させて、自分のアパートまで持ち帰るつもりらしい。運動音痴の私は仰天した。
「ええっ、スクーターなんか乗ったことないよ!」
「大丈夫、普通免許があれば簡単だがや」
 彼は私にブレーキとアクセルの操作を教えると、何の不安も抱かずヘルメットを渡した。しかし、私は不安だらけだった。

 本当に運転できるんだろうか?

 わけがわからないまま、原付を押して駐車場出口に向かった。
「じゃあ、ゆっくり走るから、ついてきてな」
「わかった」
 大学から彼のアパートまでは、ほんの10分くらいである。ちょっと頑張れば、すぐにゴールできると思いこんでいた。
 右腕を回転させてアクセルをふかすと、スクーターが進む。でも、速いのは怖い。バイクの後ろに乗せてもらったことはあるが、自分で運転するときはまた別なのだ。
 彼のバイクがどんどん小さくなり、やがて路肩に停まるところが見えた。
 私は自転車並みの超スローなスピードで、彼を目指してノロノロと走る。いや、もしかしたら自転車のほうが速かったかもしれない。場合によっては、ジョギング中の中高年にも負ける可能性もある。
 追い越していく車の窓から、「なにこの人、遅ッ」といった冷たい視線を浴びた。ヘルメットで顔が隠れていることを、これほどありがたいと感じたことはない。
 ようやく彼のもとにたどり着き、私もブレーキをかけた。顔から笑みが消え、彼は硬い表情になっている。
「……大丈夫?」
 まさか、こんなにトロいとは思っていなかったのだろう。
「怖いよ~! あとどれくらい?」
「もうちょい。この先、交通量の多い道に出るで。スピード上げられん?」
「ダメだぁ」
「じゃあ、遅くてもええわ。絶対コケんようにな」
「わかった」
 左折すると、幹線道路に合流する。流れに乗れず、ノンビリ走っていると、横を追い越していく車がひときわ速く感じられる。スクーターという名のカメが、すばしっこいウサギの群れに抜かれているのだ。はたから見たら、「免許持ってるのか!?」というレベルだろう。「原付が危険な運転をしています」などと通報されたら大変だ。彼も、走っては停まり、走っては停まりの繰り返しで、実に怪しい。免許を持っていても、親や大学に連絡が行き、こってり油を絞られそうな気がした。
 ようやく幹線道路を抜け、人気のない通りに出ると、心底ホッとする。
 川崎市といっても、多摩区、麻生区はアップダウンが激しい。急な上り坂では、初めてスクーターの威力が発揮でき、自転車よりも速く走れた。
 坂を上りきると、彼のアパートは目と鼻の先にある。わずか10分といえども、極度の緊張とスリルで、30分走ったくらいの疲れだ。無事、到着したときは、全身の力が抜けるような気がした。

 おまわりさんに「その原付、停まりなさい!」と制止されずにすんだのは、神奈川県という場所のせいだろうか。
 この数年後、神奈川県警は、数々の不祥事が明るみに出て、誌面を騒がすことになる。




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アイロン作戦

2011年06月02日 20時33分42秒 | エッセイ
 娘の運動会の前夜、しわくちゃになった白のはちまきが、テーブルに放置されていた。
「あれっ、これ、明日使うんじゃないの?」
「うん、そうだよ」
「アイロンかけないと」
「いいよ、別に。しばれば伸びるから」
「そういうわけにいかないでしょ」
 他の子がパリッとしたはちまきを締めているのに、うちの子だけがシワシワはちまきでは格好悪い。
 翌朝、私は早起きをして、はちまきにアイロンをかけて渡した。
「今年は白組なの?」
 しかし、娘の反応は悪い。
「へ? 何言ってんの。これは、はちまきじゃなくて、2人3脚のひもだよ」

 ガーン!!

 足に巻くものだと知っていれば、一生懸命アイロンをかけなかったのに……。私は気分を害した。
「ひどい、聞いてないよ」
「言った」
「聞いてない」
「言った」
 水掛け論である。
 こういう場合、女の子はまず折れないので、方向性を変えてみる。
「しわくちゃじゃ可哀想だと思って、わざわざ早起きしてアイロンかけたのに、はちまきじゃなかったなんて……。あーあ、悲しいなぁ」
 泣きまねをすれば、娘の態度も軟化する。
「わかった、わかった。ありがとうね。今日は頑張るから見てて」
 ようやく、私も納得である。
 娘のミキは、私に似て、運動が得意なほうではない。短距離やリレーで活躍することはあり得ないから、2人3脚に賭けているようだ。

 運動会は、短距離走から始まることが多い。
 80m走のあと、プログラム2番が2人3脚だった。
 白のひもで足首をしばった女の子たちが、肩を組んで走り出す。「いちに、いちに」とかけ声をかけているようだ。明らかに練習不足と思われるペアは転び、相当練習したとおぼしきペアは、一人で走っているような速度である。ハラハラしながら見ていると、娘の番がやってきた。
「速ッ!」
 私も夫も驚くスピードで、娘のペアが走り出す。危なげない足取りだ。2位のペアの追い上げをかわし、あれよあれよという間にゴールした。
「やったね!」
 夫とともに喜んだ。

「ミキたちは、女子の中で一番速かったんだよ」
 39組中1番の記録だったため、娘のペアは賞状をもらって帰ってきた。
「いつもは、ひもが細くて痛かったけど、今日はアイロンで太くなってたから、すごく走りやすかった」
「へー」
 何が幸いするかわからないものだ。
 2人3脚のひもにも、アイロンをかけましょう~☆



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