これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

一番風呂にご用心

2011年01月30日 20時18分23秒 | エッセイ
 昨日、夫が外出をした。帰る時間を聞くのは、私ではなく娘である。
「何時に帰ってくるの?」
「9時半くらいかな」
「夕飯はいらないんだね。わかった」
 別に、待ち遠しくて聞いているのではない。夫のいぬ間に、こっそりパソコンを使うため、帰宅時間をチェックしているだけだ。どうも、夫との約束では、一日一時間と決まっているらしい。玄関が閉まり、戻ってくる気配のないことを確かめて、娘が電源をオンにした。
「さあ、今日は使い放題だ~!」
 
 私はその間に夕食の支度をする。平日は、専業主夫の夫が作ってくれるのだが、土日や夫のいない日は、私が用意しなければならない。
「できたよ」と声をかけても、娘はパソコンに夢中だ。大ファンである、菅野美穂のサイトを見ては、関連ページをクリックしている。ようやく食べ始めたと思ったら、パッパと食べ終わり、またパソコンの前に戻る。今日は、ここが定位置らしい。
 時計が8時を回ったとき、娘に声をかけた。
「お風呂は?」
「あとにする。お母さん、先に入っていいよ」
 ネットサーフィンに熱中し、それどころではない。お風呂は、夫が帰ってきてからでいいと思っているようだ。
 一番風呂は久しぶりである。肌にはよくないが、風呂場の床は乾いているし、湯船に髪が浮いていることもない。「たまには悪くないわね~♪」と鼻歌を歌いながら、風呂場に向かった。
 ところが、風呂場がやけに寒い。「おや?」と不審に思い、浴槽をのぞいたら、中はからっぽだった。スイッチを入れ忘れていたのだ。
 力なくガウンを羽織り、すごすごと部屋に引き返してきた。
「あれっ、もう出たの? 早いね」
「違う……。お湯がなかった……」
「うひょひょひょっ! やっちゃったね~!!」
 娘は、ひっくり返って大笑いしている。

 くそー。

「風呂、メシ、寝る」に慣れてしまうと、お風呂のスイッチを入れることすら忘れてしまうのだ。一番風呂には、沸かし忘れのリスクがある。

 一夜明け、今日は家族で近くの神社に行き、ご祈祷を受けてきた。お祓いをしてもらうと、すがすがしい気分になってよい。
 帰る前におみくじを引き、ドキドキしながら開けてみる。
「平(へい)」
 この神社では、去年も平が出た。吉でも凶でもない、微妙なポジションだ。
「これは、事を急にするときは仕遂げがたし。心を柔和にもちてよし」などと書いてある。
 隣からは、「吉だよ!」と喜ぶ娘の声が聞こえた。

 ふん、ノロウイルスにかかったくせに、生意気な。

 さらに読み進むと、「かへすがへすも水なんを注意すべし」とある。



 これはもしや。
 私は娘を肘でつつき、おみくじを見せた。
「ねえねえ、水難だって! 当たってる!! 昨日のお風呂とか」
「はぁ? ちょっと違うんじゃない!?」
 娘の反応は、寒気並みに冷たい。
 いやいや、あると思ったお湯がなかったんだもの。やっぱり水難でしょ。
 かへすがへすも一番風呂を注意すべし。




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オレンジ色の痛いヤツ

2011年01月27日 20時14分08秒 | エッセイ
 仕事で、企業あての郵便物を送ろうと思った。
 封筒に手紙を入れ、切手を貼る。あとは、帰り道、ポストに投函するだけだ。と、軽く考えたのが間違いだった。手提げに入れたはいいが、すっかり忘れて、家まで持ち帰ってしまった。
 部屋着でくつろいでから気づいても、手遅れだ。もうどこにも出かけたくない。一日投函が遅れると、到着も遅くなるけれど、「明日でいいや」と怠けることに決めた。

 駅には、たいていポストがある。私が利用している駅は、構内に通じるエスカレーターの近くに設置されており、非常に便利だ。
 翌朝、私は出勤前に手提げの中を確かめ、「今度こそ、絶対忘れないようにしよう」と誓った。これで忘れたら、目も当てられない。ニワトリ以下だ。
 駅に近づくと、政治家だか、政治家の卵だかわからない者が、自分の名前を連呼する声が聞こえてくる。この駅は乗降客が多いので、毎日入れ替わり立ち代わり、誰かしらがビラを配ったり演説をしたりする。
 その日は、今まで見たこともない若造だった。いや、ハナタレ小僧といっても過言ではないかもしれない。シワひとつない、20代後半とおぼしき童顔よりも、あり得ない服装に目が釘づけになった。

 あのオレンジ色のネクタイは何だ!

 ハナタレ小僧は、紺のスーツに、蛍光オレンジのネクタイを締めているではないか。何と、品のない色を選ぶのだろう。どうも、目立てばよいと勘違いしている節がある。しかも、ネクタイの先がブレザーの裾からはみ出していて、大変みっともない。これが有権者に挨拶する服装かと呆れた。
 TPOもわきまえないヤツに、投票する人がいるのだろうか……。
「朝から変なモン見ちゃった」と、憂鬱になった。
 そのまま電車に乗り、大事なことを思い出す。

 ああっ、郵便!!

 ハナタレ小僧のオレンジネクタイに気を取られ、ポストを素通りした私は、ニワトリ以下に成り下がってしまった……。
 このショックは大きい。当然、怒りの矛先は若造に向かう。

 キーッ、悔しい! 絶対、投票してやるもんか!!

 結局、郵便物は、職場に向かう途中のポストに投函し、ことなきを得た。
 ところが。
 昨日の朝、駅に着いたら、またこの小僧が、オレンジ色のネクタイを締めて立っていたのだ。
「またかよ」と舌打ちしたい気分になったが、慣れとは恐ろしい。第一印象のインパクトはなく、もし郵便物があっても、余裕で投函できそうだった。
 彼はどうして、オレンジ色のネクタイにこだわるのだろう。
 トレードマークのつもりなのかもしれない。
 まさか、それしか持っていないとか……。




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体外受精つき特別室

2011年01月23日 20時35分41秒 | エッセイ
 先日、ついに体外受精を経験してきた。
 今や、4人に1人の赤ちゃんが体外受精で生まれる時代といわれている。怒濤のような一カ月をどのように過ごしたか、ご報告したい。

 まずは、排卵誘発剤の注射から始まった。これは、去年も打ったことがあるが、規定量だと効果がなかった。注射をしたのに、たったの1個しか排卵されなかったのだ。40代になると、反応が鈍くなるらしい。
「今回は2倍使いましょう。卵子は多いほうが成功率も上がりますから」
 主治医の指示に、少々傷ついた。気持ちは若いつもりでいても、体はもはや、若くないのだ。素直に倍量を受け入れるしかない。
 おかげで、超音波の画像には、左右の卵巣に、それぞれ7個ほどの卵子が映っていた。
 次は、この卵子を成熟させるホルモンに切り替えて注射をする。数が多いと、予定よりも早く排卵してしまうことがあるらしい。採卵までは、卵巣内にとどめておかねばならぬので、排卵させない薬も併用して、毎日注射に通った。
 さらに、診察で卵子の成長具合を見ながら、採卵日を決める。採卵には麻酔を使うので、1日入院しなければならない。仕事に穴を開けることを心配していたら、運良く土曜入院、日曜退院という日取りになった。
 病室に案内されて驚いた。特別室だったのだ。



 32.7平米という広さで、ベッド脇にはFAXやデスクまである。



 もちろん、トイレ・バスも完備だ。



 コップ・タオル・シャンプー・リンス・スリッパなどのアメニティグッズも用意されており、ホテルのようだった。
 こんな立派な個室だと、料金はどうなるのかと心配になる。
「大丈夫。自費の場合、特別室でも大部屋でも、料金は同じなんですよ」
 看護師さんの説明に安心し、VIP待遇に気をよくする。体外受精をするというより、体外受精つき特別室に泊まりにきたような、ウキウキ感である。

 3時間ほど点滴したあとは、いよいよ採卵となった。
 体外受精で一番苦痛なのは、卵子を体から取り出す、この作業である。病院によってやり方は違うが、ここの病院では麻酔をかけるというので、痛みを感じないのだろうと軽く考えていた。
「じゃあ、眠くなるお薬が入りまーす」
 点滴の針から麻酔薬が注入されたとき、「歯ぎしりしたらイヤだな」とか、「いびきかいちゃったら恥ずかしい」などと心配したが、どういうわけか、一向に眠くならない。
 麻酔が効いていないのかと訝しんだとき、お腹に激痛が走った。

 痛たたたた~!

 やはり、麻酔が効いていないようだ。「左は終わりました」などという、などという、
医師の会話まで耳に入ってくる。その後も、ズキ、ズキ、ズキと、ときおり襲ってくる痛みを我慢しなくてはならなかった。

 排卵誘発剤だけでなく、麻酔も2倍必要だったのかしら……。

「終わりましたよ~!」と声がかかり、ようやく苦痛から解放される。
 看護師さんに、「意識はしっかりしていますね」と声をかけられたので、「麻酔が効いていなかったみたいです」と答えると、不思議そうな顔をされた。
「そうですか? 寝息立てていましたよ」
「……」
 その日、起きているのがつらかったことを考えると、やはり、麻酔は機能していたのだろう。だが、激しい痛みで目が覚めてしまったらしい。それでは、意味がないと思うけれども……。

 平均で5個前後の卵子が取れるそうだが、私の卵子は6個だったという。超音波ではもっとあったのに、卵巣内のものがすべて取れるわけではないし、使えない卵子もあるからと説明された。
 このあと、夫から採取した精子をドッキングさせ、体外受精をする。
 受精卵がいくつかに分裂し、成長したことを見届けて、3日後、子宮内に戻すことになる。この作業を胚移植というらしい。不幸にして、受精しなかった場合は、胚移植ができないと言われ、私はドキドキしながら病院に行った。
「大丈夫ですよ! 受精していましたから、戻す卵がありますよ」
 看護師さんにそう聞いたとき、どれほど安堵したことか。
 6個の卵子のうち、受精していた3個を胚移植した。普通は1個らしいが、これまた年齢を考えての配慮である。
 しかし、受精卵が子宮内に着床し、出産までこぎつける割合は、たったの3割である。
 プロ野球選手が、ヒットを打つ確率と同じでは、喜んでもいられない。
 2月上旬には結果がわかる。空振り三振バッターアウトとなるのか、逆転満塁ホームランとなるのか、見当もつかない。せめてポテンヒットでもいいから、出塁したいものだ。
 もしダメだったら……。
 再度、特別室入りをして、打順が回ってくるのを待とうじゃないか。




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幻のメッセージ

2011年01月20日 20時25分05秒 | エッセイ
 もうすぐ母の誕生日だ。
 東京から那須は遠いので、もっぱらバースデーカードですませている。なるべく、ユニークなものを選んでいるが、今年はフォトフレーム調のカードにした。
 ここに娘の写真を入れれば、母は喜ぶだろう。



 裏面のメッセージスペースに、「お誕生日おめでとう」と書けばできあがりだ。



 もちろん、メッセージ担当は、孫である娘の役割である。部活が忙しいというので、ひと段落してから書かせようと思っていたのだが、肝心なときに体調を崩してしまった。
「気持ち悪い……。吐きそう」
 医師の診察を受けると、「ノロウイルスです」と診断された。熱はさほど高くないが、嘔吐と下痢がひどい。連日寝たきりで、とてもメッセージを書ける状態ではない。
 
 さて、困った。
 母の誕生日は、待っていてくれない。早い分にはいいが、誕生日が過ぎてから届くバースデーカードなど、何の意味もない。
 ここはひとつ、私が書くしかないだろう。
 だが、どうにも面倒くさい。
 意表を突いて、夫が書いたらどうなるかと考えてみた。
 私は歳の差婚をしているので、夫はかなりの年上だ。母とは、何と4歳しか離れていない。母から見ると、父は4歳年上、夫は4歳年下という微妙な関係ができている。
 あまり大きな声では言えないが、母は筋肉質の男性が好きなので、おそらく夫は好みのタイプだ。今までにも、視線や仕草などから、異性として意識していることがわかる場面があった。

 そんなポジションの夫が、母にバースデーカードを書いたらどうなるだろう。
「あらっ、龍一さんが、お誕生日おめでとうですって! アタシに気があるのかしら?? ウフフ、困ったわねぇ~♪」と、舞い上がってしまうだろう。
 突然、化粧をするようになったり、ジャージのかわりにスカートを履かれたりしたら、面白いけれども混乱するに違いない。やはり、過度な刺激は与えないほうがよい。
 仕方ない。やっぱり私が書くしかないかと、覚悟を決めて帰宅した。
「お母さん、お帰り! ミキ、やっと治ってきたよ」
 ラッキーなことに、娘がノロから復活したらしい。すべり込みセーフで、カードを託した。

 残念ながら、夫から母へのお祝いメッセージは幻に終わった……。
 次の機会があれば、ぜひ試してみたいものだ。




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午前6時の注射

2011年01月16日 20時21分09秒 | エッセイ
 第2子が欲しいが、なかなか授からない。年齢的なリミットも近づいているので、今月はついに体外受精を受けることにした。
 しかし、予想を超える忙しさであった。なにしろ、毎日、注射注射の連続なのだ。排卵誘発剤に卵胞を成熟させる薬、さらには排卵を防ぐ薬など、10日連続で通院し、注射を強いられた。ときには、一度に2種類も打たれ、体中が穴だらけになった気がした。
 一番きつかったのは、採卵手術前日の注射である。
「この日は、朝6時に来て注射となります」
「えっ、朝6時ですか!?」
 早すぎる時間に焦り、私は顔をひきつらせて確認した。
「はい、朝の6時。救急に行ってくださいね」
 聞き間違いではなかったようだ。主治医は顔色ひとつ変えずに、サラリと言ってのけた。
 会計を待つ間、頭の中でシミュレーションをする。
 家から病院まで1時間かかるから、5時に出ないと間に合わない。となると、起きるのは4時か。いや、念のため、3時50分にしよう。
 幸い、病院から職場までは30分ほどだ。おそらく、6時半から7時の間に着くから、途中、コンビニでパンを買い、職場で朝食をとればよい。
 私はいつも、始業の8時半ギリギリにやって来て、ダッシュで出勤カードを通す。7時前に出勤するなど、20年以上の教員生活でも、初めてではないか。考えるだけで、頭がクラクラしてきた。
 
 そして、いよいよ、その日がやってきた。
 寝坊することもなく、予定通りに病院に着くことができた。受付には、疲れた顔で、ヨレヨレになった職員がおり、かすれた声で「奥へどうぞ」と案内してくれた。おそらく、夜間はひっきりなしに急患が押しかけ、対応に追われたのだろう。注射をしてくれた看護師も、目の下にクマを作り、すっかりやつれている。
 仕事を増やして申し訳ないが、医師の指示だから仕方ない。
 会計をすませて外に出ると、さきほどまでの暗闇が、徐々に明るくなっている。路上で日の出を見るのも悪くはない。早朝の寒気も気持ちいい。。
 コンビニで買い物をしていたら、職場到着が6時50分になってしまった。でも、いつもより相当早い。優雅に朝食をすませ、たまっている仕事を片づけているうちに、始業の時間となった。普段は、コンタクトレンズを入れたり、化粧の続きをしたりと、バタバタ動いている時間帯に、席に着いていることがすごい。
 エグゼクティブの仲間入りをした気分になったとき、副校長に声をかけられた。
「笹木先生、今日は何時に来ましたか?」
「今日は珍しく早かったんです。7時前にはいました」
 答えながら、「よくぞ聞いてくれた」という思いと、「どうしてそんなことを聞くのだろう」という気持ちが交錯する。理由はすぐにわかった。
「そうでしたか。カードを通すのを忘れませんでしたか?」
「!!」
 そういえば、カードを通した記憶がない。せっかく早く来たのに、これでは出勤したことにならないではないか。
 私は苦笑いして答えた。
「ああ、忘れたかもしれません」
 副校長は、「通し忘れということで処理します」と言ってくれたが、おバカなミスをしでかしたことにショックを受けた。
 とたんに、ヨレヨレになり、目の下には濃いクマができたような錯覚を起こした。
 変わったことをするとダメだ。

 体外受精のご報告は、また後日~♪




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小松菜こわい

2011年01月13日 21時24分13秒 | エッセイ
 小松菜を洗っていたら、虫食いを発見した。
「もしや」とビクビクしながら中を見ると、案の定、小さな青虫が隠れている。「わぁ~!!」と叫びそうになった。虫のいる野菜は安全というが、何度見ても心臓に悪い。

 あれは、中3のときだったろうか。
 給食の配膳当番だったので、同じ班のクラスメイトと一緒に、料理の盛りつけをしていた。私が担当したのは生野菜だ。小さくカットされた、レタスやキュウリなどをトングで挟み、トレイに載せていく。配る量が多いと足りなくなるし、少ないと余ってしまう。汁物ほど大変ではないが、1本ずつ載せればいいだけのフランクフルトよりは難しい。
 だが、帳尻合わせは、私の得意技のひとつである。頭の中で割り算をしながら、いいペースで配れたので、残ったのは容器の底にへばりついたレタスだけ、と思っていた。
 しかし、このレタス、なぜかモゾモゾと動くではないか。
 次の瞬間、殻を脱ぎ捨てたカタツムリのように、青虫がレタスの下からはい出て、全身をあらわした。

 !!!!!

 体長5cmほどだったろうか。唐突に出没した大きな青虫に仰天し、悲鳴すら出なかった。
 反射的にフタを閉め、私は隣の生徒に声をかけた。
「……ねえ、この中、見てみない?」
「え? なんで?」
 彼女は、いいとも悪いとも答えなかったが、開けたフタにつられて中をのぞいた。
「ヒッ」と息を呑む声が聞こえてくる。人は、本当に驚くと、大きな声が出ないものらしい。2人で顔を見合わせ、オロオロするばかりだった。
 まもなく、「いただきます」の号令がかかり、誰もが笑顔で食べ始める。もはや、手遅れだとわかり、罪悪感が胸に広がっていく。
「一応、先生に言っておく?」
「うん、そうしよう」
 少しでも、罪の意識を軽くしたくて、担任の先生に青虫を見せた。ところが、理系のオトコはまったく動じない。
「ああ、いるね。さあ、笹木たちも早く食べなさい」
「……はい」
 別に虫を食べるわけではないのだが、私も彼女も、野菜には手をつけなかった。でも、チラと担任を見ると、何事もなかったかのように、レタスを口に運んでいる。
 これくらい、図太くなりたいものだと、尊敬するばかりだった。

 小松菜の青虫を流すと、私は体勢を立て直した。
 サッと茹で、小さく切って辛子醤油をかけると、ピリッとしたお浸しができる。
「これ美味しい」と家族からも好評だ。もちろん、青虫がいたことは口にしない。
 私も、迷わず箸を伸ばし、ツンとする辛子と小松菜のコンビネーションを味わう。

 ちょっとは、成長したかな!?




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お詫びの作法

2011年01月09日 20時15分48秒 | エッセイ
 私の仕事始めは4日だったが、娘の部活は6日から始まった。
 久しぶりに友達と会って、話に花が咲いたかと思いきや、どうにも浮かない顔をして帰ってきた。
「どうしたの? お弁当、足りなかった?」
「違うよ。友達に楽器を壊されちゃったの……」
「へ?」
 それはそれは、聞き間違いと信じたい話である。
「萌ちゃんから、自分のサックスの調子が悪いから、ミキのを貸してって言われたの。で、貸してあげたら……」
「貸したの!?」
「首からぶら下げたまま、歩き回るものだから、机にベルをぶつけちゃって、音がおかしくなった……」
「キイーッ、何でそんな子に貸すのよぉ~!!」
「だって~!」
 私は卒倒しそうになった。せっかく、大枚はたいて買ってやったのに、何ということだ!
「……まさか、その子、わざとじゃないでしょうね!?」
「うーん、多分違うと思う。弁償するからゴメンねって泣いてた」
 泣きたいのはこっちなのだから、お前が泣くなと言いたい。
「明日、お父さんと楽器屋さんに行ってくる。コンクールが近いから、早く直さないと」
「そうしてちょうだい」
 カッカしていたら、萌ちゃんのお母さんから電話がかかってきた。
「娘が大事な楽器を壊してしまったそうで、何とお詫びしたらいいか……。修理代はお支払いしますので、のちほどご連絡をちょうだいできればと思います。本当に申し訳ありませんでした」
 私は、答えに迷った。
 このお母さんは、保護者会の中心的人物で、人の嫌がる仕事を進んで引き受けるタイプである。「私でよければ」と言って、連絡係も飲み会の企画も、笑顔でやってくれるのだ。いつもお世話になっている方に、きついことは言えない。
「はい、明日修理に行きますので、費用の件は、後日お知らせします。わざわざ、お電話いただき、ありがとうございました」と伝えて電話を切った。

 保証期間中だったので、結局、修理は無料だった。萌ちゃんのお母さんには、2人分の電車代1580円を負担してほしいと手紙を書き、娘に持たせた。
 てっきり、萌ちゃんが封筒にお金を入れて持ってくると思ったのだが、そうではなかった。お母さんが自ら、わが家まで足を運んできたのだ。
「本当に、ご迷惑をおかけしました。これは、ほんの気持ち程度のものですが、よかったら召し上がってください。お金も、こちらにお入れしました。今回は申し訳ないことをしてしまいましたが、これからも、仲良くしていただけるとありがたいです」
 何度も頭を下げられ、こちらのほうが困惑したくらいだ。
 萌ちゃんのお母さんが帰ったあと、包みを開けてみると、高そうなお菓子が顔を出した。



 さらに、封筒の中には5000円札が入っている。
「ゲッ、もらいすぎだね。しかも新券……。どうしよう」
「どうしよう」
 夫も私も、予想外の展開に、おろおろするばかりである。お詫びというのは、ここまでするものなのか。
 娘が、思い出したように口を開く。
「そういえば、萌ちゃんは、学校のサックスもぶつけて壊しちゃったんだよ。あと、シホちゃんのマウスピースを、床に落としてた……」
 気配りママと注意力散漫娘とは、どうにも不思議な組み合わせである。
 さては、お詫び慣れしてしまったのだろうか??




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危険な窓ぎわ

2011年01月06日 21時44分23秒 | エッセイ
 勤務先の高校で、年明け早々、窓清掃が行われた。
「業者さんが入りますので、窓ぎわの荷物は片づけておいてください」
 担当者からの指示を受け、窓に目をやると、結構いろいろなものが置かれている。
 書類や備品が入った、腰までの高さのスチール棚は動かせない。だが、その上の扇風機やレターケース、クリアーファイル、本棚などは別の場所に移さねばなるまい。
 あいにく、部屋には私一人しかおらず、ほこりだらけの荷物をせっせと運ぶ作業が、今年の初仕事となった。ちと虚しい……。
 前任者の忘れ物やゴミを捨てると、かなりスッキリしたが、どうにも始末に困るものもあった。
 華道部顧問の持ち物、剣山だ。



 窓ぎわには、生け花を突き刺して固定する、この針の山が3個もある。クラブで使用したあと洗い、日当たりのよい場所に干しておいたのだろう。ところどころ黒ずみ、かなり年季が入っているのに、指名手配中の殺人犯のような凄みがある。
「触りたくない」と私は思った。
 だからといって、こんな危険なものを放置するわけにはいかない。気が進まなかったけれども、端の平らな部分を目指し、こわごわ手を伸ばした。金属特有の、ひんやりとした感触が伝わってくる。そのまま持ち上げようとしたが、想像以上の重みがあり、スルリと手から抜け落ちた。
 弾みで、触れたくなかった先端を、指先がかすめる。「ヒッ」と小さな悲鳴を上げて手を見ると、血こそ出なかったが、皮がちょっぴり剥けていた。

 さすがは凶悪犯だ……。

 今度は軍手をはめ、慎重に移動を試みる。うっかり手を滑らせ、足の上に落とした日には、目も当てられない。1個、2個、3個と無事運搬を終え、私は安堵のため息をついた。

「失礼しま~す、窓清掃に来ました」
 ようやく業者がやって来て、作業に取りかかる。この部屋の担当は、20代とおぼしき若い女性と、アラカン世代の初老男性のペアである。華奢で小柄な女性に、窓清掃という仕事は不向きなのではないだろうか。気になって見ていたら、決してそんなことはなかった。
 アームの長い道具を使う上、脚立もあるから、高い場所にも楽々届くし、キビキビとよく働く。おかげで、たまりにたまった汚れがキレイに落ちた。
 スチール棚の上の窓は、脚立を置くスペースがないため、靴下で棚の上に上がっている。もし、剣山を置いたままだったら、えらいことになっていたと、胸をなでおろした。
 わずか10分ほどで、2人は全ての窓を磨き上げ、「失礼しました」と挨拶して出ていった。

「あら、剣山出しっぱなしで、すみませんでしたね」
 翌日、華道部の先生からお詫びの言葉があった。
「いえいえ、このまま窓ぎわに置いておくと、防犯になっていいかもしれませんね」
 私が剣山の威力を褒め称えると、彼女も大いにうなずいた。
「刺さったら痛いですよ~! でも、足は靴を履いているから、手を狙わないと。よじ登るとき、手をかけるところに仕掛けておけば、撃退できますね、きっと」
「あはははは」

 剣山は、1個1000円前後で買えるらしい。
 空き巣対策に、いかが?




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新春ガンダム詣

2011年01月02日 22時37分35秒 | エッセイ
 父の入院で新年会が取りやめとなり、暇だったので、元旦は静岡までガンダムを見に行った。ガンダムは、一昨年、お台場でも見たが、また見たくなったのだ。
 
 RG(リアルグレード)1/1 GUNDAM PROJECT

 会場のあちこちに、こんな文字が見られる。
「お母さん、1月1日って書いてあるよ。何で?」
「1月1日じゃなくて1分の1。つまり、等身大ってことだよ」
 娘・ミキの素朴な疑問に答え、会場に進むと、演出タイムが始まった。
 どうやら、足元まで近づいて触れることのできるタッチ&ウォークタイムと、ミストや発光などの演出タイムに分かれているようだ。



 なかなか面白い。
 演出を見たあとは、タッチ&ウォークの列に並び、ガンダムに触れた。
 時計を見ると、まだ3時台である。ライトアップはだいたい4時半から始まるというので、それまで時間をつぶし、昼とは違う夜の演出を見たい。
 まずは、ガンダムカフェでガンプラ焼きを食べる。



 カリカリしていて美味しい。
「お母さん、1/144って書いてあるよ。ガンダムはこの144倍の大きさなんだね」
「そうそう」
「あっ、見て見て! 裏の絵が違うよ」
「ホントだ。ちゃんと背中になってる!」



 意外に芸が細かいと、私は感心した。
 次に、オフィシャルショップの列に並ぶ。お台場のときは50分待ちだったので諦めたが、ここは20分待ちで入れるらしい。お菓子に、ガンダムとシャアザクのプラモデルを買った。
 まだまだ時間があるので、ミュージアムにも入る。ここの目玉は、1/1コアファイターと、



 1/1シャアザク頭部だろう。



 冬至を過ぎ、晴れていたこともあって、4時になってもかなり明るい。もっと時間をつぶさなくてはいけない。
「次は登呂遺跡に行くわよ!」
 車で15分ほどの場所に、弥生時代の歴史的遺産、登呂遺跡があるとはなんと素晴らしい。



 頭の中は多少混乱したが、農耕が始まった時代の暮らしを、じっくり観察することができた。
 ようやく暗くなってきて、夜の部が始まった。
 ビームサーベルに、ウサギや桜の花びらの映像が映し出されたり、「A HAPPY NEW YEAR」の文字が浮かんだりと、凝った仕組みになっている。



 頭部が動くと、「オオーッ」と一斉に歓声が上がる。
 右に、



 左に、



 上も向くのだ。



「スゴいね~!」と、ストーリーを全く知らない夫と娘も、夢中でシャッターを切っている。無理矢理連れてきた甲斐があった。
 満足、満足。

 翌日は、静岡駅から徒歩10分ほどの場所にある、駿府(すんぷ)公園に行った。ここは、徳川家康公が晩年を過ごした駿府城の跡地で、今は公園となっている。




 
 中心付近には、家康公手植えのミカンが健在だ。



 だが、私が一番興味を持ったのは、家康公のこの銅像である。



 私は隣にいる娘に、にんまり笑って話しかける。
「ミキ、見てごらん。リアルグレード1/1家康公って書いてあるよ!!」
 ウソで~す♪



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 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
 「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
コメント (18)
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