これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

VIP

2010年09月30日 20時31分05秒 | エッセイ
 このところ、冬のような天気が続いている。猛暑に悩まされた日々が、何カ月も昔に感じられてくる。
 私は、子どものときから夏が嫌いだった。汗をかくのが何より嫌で、髪が頬や額に貼り付いたり、服が濡れてシミになることが許せない。
 特に、猛暑の今年は苦労した。気温の上昇にともない体がカーッと熱くなってきて、信じられないほどの汗が噴き出す。皮肉なことに、私が住んでいるのは、38度を超す気温で話題に上った練馬区である。まったく、笑えない冗談のようだ。
 だが、生活習慣をほんのちょっと変えるだけで、苦痛な夏を乗り切ることができるとわかった。きっかけは、石原結實『「水分の摂りすぎ」は今すぐやめなさい』という本だ。



 以前から、人より水分をたくさん摂るという自覚があった。冷たい飲み物は、豆乳と薬を飲むための水だけだが、ホットならば一日にコーヒーを3~4杯、プラス紅茶を2杯、緑茶1杯、ハーブティー1杯程度を飲んでしまう。
 だから、夕方になると足がむくんで冷え、ストッキングでは寒くて我慢できない。冷え性だから仕方ないと思っていたのだが、そうではないらしい。
 この本には、「摂りすぎた水が排泄されずに体に溜まり、健康を害している」と書いてある。「土のグラウンドに雨が降ったあと、くぼんだところが水たまりとなってよどみ、ボウフラがわいている」状態なのだと……。
 ああ、おそろしや。
 関東ローム層は水はけがよいと言われているが、生まれも育ちも関東の私は、大変、水はけの悪い体をしているようである。水たまりどころか、沼ができているのかもしれない。ドロリとした藻が生えていそうだ。

 夏は熱中症対策として、水分を摂ることが常識とされているけれども、過ぎたるはなお及ばざるが如しである。過剰な水分を控えるため、飲む回数を減らしてみた。でも、口さみしくて落ち着かない。そこで、カップを小さなものに替えてみた。これなら気分的にも満足するし、絶対量を減らすことができる。すると、気温が30度を超えても不快なほてりがなくなり、しっとりと汗ばむ程度ですむようになった。足の冷えは、そう簡単に治らないが、多少ましになってきた気がする。
 冷房による冷えと日焼けも気になり、原則長袖を着るようにしたのもよかった。あせもに悩まされていたのに、衣類が余分な汗を吸い取るせいか、徐々に改善されてきた。
 夏は、水分を摂りすぎずに長袖を着て過ごすのが、私に合っていたようだ。おかげで、34度を超える室内でも、涼しい顔で過ごせるほどに変身した。夫と娘は「暑い、暑い」を連発し、冷房の利いた1階に逃げ込んでばかりいた。まったく軟弱者だ。

 では、私がクーラーなしで過ごしていたのかといえば、そうではない。さすがに、正午を回ると、リモコンに手が伸びる。私のためではなくて、飼っているメダカのためである。
 他ブログでも書いたが、あまりの暑さに水温が上がり、稚魚がバタバタと死んでしまったのだ。成魚も、弱いものは生き延びることができず、少なくなっていく。だが、クーラーをつければ、水温の上昇が抑えられ、メダカが元気でいられる。
 出かけるときは窓を閉め、メダカのために、それまでつけなかった冷房をオンにする。
 まさに、VIP待遇のメダカであった。

 それにしても、肌寒いこの頃である。
 夏の暑さが恋しくなるのは、わがままか?




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テナーサックスがやってきた

2010年09月26日 17時48分20秒 | エッセイ
 娘は、中学校で吹奏楽部に入っている。担当はテナーサックスだ。部に代々伝わる、オンボロ楽器を借りて、活動している。
「ねえ、お母さん。次のコンクールで、ソロを吹くことになったから、自分の楽器が欲しいんだけど……」
 そういえば、前からマイ楽器が欲しいと言っていたが、具体的な話がないので受け流していた。だが、今回は少し違う。
「50万くらいあればいい楽器が買えるって、先生が言ってた」
「ご、ごじゅうまん!?」
 そんなにするのか!
 さらに、娘は、ポケットから小さなメモを手渡した。
「サックスのワタナベ先生の電話番号だよ。買いに行くとき、一緒に来てくれるっていうから、電話して」
 ううう……。
 こちらの中学では、マイ楽器を買う際、プロ活動をしている外部指導員の方が立ち会ってくれる。楽器選びは難しいので、プロからの的確なアドバイスが必要なのだ。しかも、ボランティアというからありがたい。
 ここまでお膳立てされれば、買うしかないだろう。
 早速連絡し、土曜日の夕方に、店で待ち合わせることにした。

 お茶の水には、実にたくさんの楽器屋がある。指定された店は、先生が懇意にしているところで、駅から2分ほどだ。木管楽器売り場に行くと、店員さんが声をかけてきた。
「ワタナベ先生とお待ち合わせですか?」
「あっ、はい」
「先生はもうお見えになっていますから、こちらへどうぞ」
 試奏のできる個室に案内され、ワタナベ先生とご対面し、挨拶を交わす。
「先にいくつか選んでおきました。あとは、本人の好みですね」
 すでに、テーブルの上にサックスが数個並んでいる。サックスならば、セルマー、ヤマハ、ヤナギサワあたりがいいのだとか。先生のイチ押しはセルマーらしい。
「この3つはセルマーで、こっちがヤマハです」
 しかし、セルマーの3つはどれも同じに見える。どこが違うのだろう??
「はい、型は全部同じですよ。でも、吹いてみると全然違うんです。それぞれ、楽器の癖がありますからね」
 なるほど、身長や体重が同じ人間でも、性格や学力、運動能力などが異なるのと同じで、楽器にも個性があるということらしい。
「ネットで安物の中古品などを買うのが一番よくないです。実際に吹いてみないとわかりませんから」
 そういえば、お友達ブロガーが、ディスカウントストアで中古のフルートを格安で手に入れたら、音が出なかったと日記に書いていた。あれは最悪パターンだったのか。なんでも、詐欺まがいの行為に引っ掛かることもあるというから、素人は特に気をつけなければいけない。

 その部屋には、チューバがいくつも置いてあった。大きさに驚いただけでなく、「\1,155,000」という値札にも仰天する。
「うわあ、チューバって高いんですね。テナーサックスがいくつも買えます」
「そうですね。でも、管楽器で一番高いのはフルートなんです。いいものになると、平気で500万、600万します。プラチナ製もありますし」
「……」
「楽器全体では、ヴァイオリンです。こちらは億ですからね」
「……」
 だんだん、口がきけなくなってきた……。
 そんな話を聞いてしまうと、50万のサックスなんぞ、微々たる額である。もっと高いものが欲しくなってくるから不思議だ。
 楽器屋に入ると金銭感覚が狂う。他の楽器は見ないほうがいい。

「これが一番吹きやすいです。軽く音が出るから、これにします」
「やっぱり? 先生もそれが一番だと思う」
 一通り試奏をしたあと、娘と先生の意見が一致した。今回は、飛び抜けて吹きやすい楽器があったので、短時間で決まったが、甲乙つけがたい場合は何時間も迷うという。お気に入りが見つかって何よりだ。
 購入したのはセルマー製である。



 リュック型のケースも一緒に買った。非力な女の子の、強い味方だ。



 ベルの下の彫刻が美しい……。



 そうだ!
 ろくに練習しなかったら、代金は娘の貯金から返してもらおう。




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ランチの怪奇現象

2010年09月23日 19時26分32秒 | エッセイ
 私の仕事は、7月、9月が忙しい。疲れてボロ雑巾と化した体をいたわるため、近場の都会・池袋で栄養補給し、気分転換を図ることにした。
 サンシャイン60にある、某フレンチレストランで夫とランチをする。高層階に行くと、気分が開放的になり、リフレッシュ効果がある。
 シャンパンで乾杯したあとは、真鯛のカルパッチョをいただく。



 ここまでは普通だった。
 2皿目、フォアグラのポアレが運ばれてきたときだ。シャッターを押しても、フラッシュが光らない。思わぬ異変に、私は「あれ?」「あれ?」を連発した。強制モードにしても、まったく反応しないではないか。
 おかげで、こんな写真になってしまった……。



 いかにも不味そうだが、実は素晴らしい味なのだ。フォアグラの外側はカリッと香ばしく、下にはリンゴが敷いてある。しつこくなりがちなフォアグラも、ほのかな酸味とまろやかな甘味が加わって、品よく仕上がっているのだ。これなら、いくつでもいただけそうな気がする。

 3皿目の魚料理が登場したときも、沈黙のフラッシュであった。もしや、祝日ということに気づき、カメラの中の小人さんが寝てしまったとか……。そんなはずはないが、何とも不思議で仕方ない。
 私は夫に話しかけた。
「ねえ、カメラ、壊れちゃったみたい。フラッシュがたけないよ」
「そりゃ残念だね。もう古いんだろ」
「うん、7年くらい経っているかな。新しいの買わないと」
「今のカメラは、液晶部分が大きいんだよね」
 そうそう。わたしのカメラは、コンパクトで持ち運びには便利なのだが、液晶部分が小さくて見づらい。早いところ買い替えて、ブログ更新に備えなくては。

 メインディッシュは肉料理だ。一応、撮影してみたところ、フラッシュだけでなく、バッテリーにまで不調が拡大している。朝、充電したばかりなのに電池マークが点滅し、残量が残りわずかであると告げていた。
 いよいよ、寿命だろうか。
 支払いをすませ、帰宅するときには、頭の中がデジカメ購入計画でいっぱいになった。まず、ヤマダ電機に行って、操作が単純そうなものを探さなきゃ……。
 珍しく頭を使った弾みか、突然、妹の話を思い出した。
「ヴェルサイユ宮殿に行ったとき、急にカメラのシャッターが下りなくなったんだよね。お姉ちゃんたちのは何ともないのに、アタシだけ写真が撮れなくて参った」
 妹は、心霊スポットに行くと、肩が重くなったり気持ち悪くなったりすることが多く、「きっと、ヴェルサイユにも、たくさん集まっているんだね」などと言っていた。
 そこで気がついた。
 サンシャイン60は、かつて巣鴨監獄、東京拘置所などと呼ばれた施設の跡地である。ここでは、第二次世界大戦後、東条英機をはじめとする、多くの戦犯者たちが収監・処刑されたはずだ。
 怪奇現象が起きても、おかしくない。

「もしや」と疑問がわいた。
 家に着くと、早速カメラを取り出し、部屋の中を撮影する。
 パシャッ、ピカッ。
 先ほどまでは、うんともすんとも言わなかったフラッシュが、息を吹き返した。何事もなかったかのような、活躍ぶりである。

 やっぱりね……。

 カメラが壊れたわけではなくて、場所が悪かったということだろうか。眉間にシワを寄せて考え込んでいると、光に反応した夫が振り返った。
「なんだ、直ったじゃないか」
「そうみたいね」
「新しいの買わないですむな。ああ、よかった!」
「…………」

 しまった、夫の前でやるんじゃなかった……。




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テレビの取材

2010年09月19日 21時11分53秒 | エッセイ
 先日、勤務先の高校に、テレビ局の取材が入った。3時間足らずという短い時間であったが、授業の様子を撮影したり、生徒や教員にインタビューしたりして帰っていった。
 マスコミの仕事をじかに見る機会は滅多にない。なかなか面白い経験だった。

「えっ、3人だけなの?」
 取材は、記者が1人とカメラマン1人、それに助手が1人というコンパクトな人数だったから、校長は拍子抜けしたようだ。もっとも、関東地方限定の番組に数分登場するだけだから、記者やカメラがわんさと押しかける様子を想定するほうがおかしい。
 私は、撮影機材の小ささに驚いた。肩にひょいと担ぎ上げる、みかん箱ほどのカメラが1台と、スタンドつきのマイクや照明があるだけだ。自分にカメラを向けられても、「本当に撮影できているの?」と疑ってしまうくらい現実感がない。もっとも、これくらいの身軽さであれば、取材を受ける側も構えずにすむから、ちょうどいいのかもしれない。
 記者の女性は、ときどき携帯電話で、栃木や神奈川の記者と連絡を取っている。
「あとから編集して、ひとつの番組に組み立てますから、内容がかぶらないように調整しているんです」と彼女は説明した。

 授業の撮影では、位置を決めたカメラマンが、生徒に声をかける。
「テレビに映りたくない人は、こちらに移動してください。ここなら映りませんから」
 何人かの生徒が、カメラの死角となる場所に荷物を持って移動した。なるほど、恥ずかしいと思う生徒には、映らない権利もあるわけだ。不自然に下や横を向く者がいては、いい映像にならないから、一石二鳥だろう。
 しばらく撮影したら部屋を出て、別の場所に向かっていった。勝手に校内をうろつかれるのではと心配する声もあったが、あらかじめ取り決めた撮影場所以外、立ち入らないという約束も守られ、トラブルなしで取材は終了した。
「本日はどうもありがとうございました。これから徹夜で編集しますので、なるべくたくさん流せるように頑張ります」と記者の女性が挨拶し、取材班は帰っていった。まさに、体力勝負の仕事である。現場に出向き、何時間もかけて撮影したあとは、寝る暇もなく「ああでもない、こうでもない」と映像を組み立てるのだろう。とても私には務まらない。

 放映日、中2の娘が録画してくれたものを、帰宅してから見た。
「お母さんが出てる~♪」と娘は大喜びだが、画面の中の自分は、えらくブサイクに見える。思わず苦笑した。
 前日、娘に「お母さん、映る前に油取り紙でテカらないようにしなよ」と忠告されたことを思い出す。一応やってみたのだが、大した違いはなかった。
「これを使ったのか」「あれは使わなかったんだ」などと映像を分析する。こちらで選んだ生徒よりも、たまたま居合わせた生徒のほうが味のある意見を述べたら、そちらを優先する。当然だろう。見ていて、引き込まれる番組にしなければ意味がない。カメラ映えする生徒も、出番が多いと感じた。
 数分後、放映が終わった。あれだけ長い時間をかけて撮影したのに、氷山の一角しか流れていない。撮影した9割以上の、おびただしい数の映像をボツにしたとわかった。
 まるで、書初めの宿題のようだ。たった1枚を提出するために、会心の作ができるまで、50枚でも100枚でも書く者がいる。傍から見れば十分上手なのに、「まだ納得いかない」と半紙を買い足し、根気よく書き続ける。それくらいの気持ちがないと、テレビの仕事はできないのではないか。

 私だったら、せいぜい5枚ほど書き、その中から一番マシなものを選ぶだろう。
 友人の息子はもっとひどい。練習用の半紙を3枚持ち帰っても、はなから1枚しか書く気がない。ちゃちゃっと書いて提出用にし、「はい、宿題終わり」となるんだそうな。
 もし、彼が番組を作るとしたら、どんな内容になるのか見てみたい。




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考えなし

2010年09月16日 21時05分13秒 | エッセイ
 高校生ともなれば、オートバイの免許を取る生徒もいる。
 勤務先の学校では、プライベートで乗るのは自由だが、制服を着て運転したり、学校に乗ってきたりするのは禁止である。中には、こっそりバイクで登校し、近隣の団地などに停める生徒もいるが、たいていは住民からの苦情で発覚し、謹慎となる。
 先日は、もっとお粗末な生徒がいた。
 あたりが暗くなった頃、帰ろうとした教員が、校門を出てすぐのところに停まっているバイクを見つけた。彼の嗅覚が「怪しい」と告げ、引き返してみると、昇降口には乱雑に脱ぎ捨てられた靴がある。他の生徒は、とっくに下校している時間だ。靴の持ち主を追及すると、渋々、自分のバイクであることを認めたのだった。
 ヤツの言い分はこうだ。
「今まで休んでばかりいたから、担任に呼ばれたんですよ。時間が遅いから、今日は大丈夫だと思って隠さなかったんです……」
 教員たちのこめかみが、ピクピクと小刻みに震えたことは間違いない。

 私が高校生のときに比べると、考えなしの生徒が増えた気がする。
 ある男子は、冬場、禁止されているジャンパーを堂々と着て登場し、校舎入口で取り上げられた。通常であれば、反省文を書き説教を受けて返却となるのだが、彼の場合はそうならなかった。
「○○のジャンパー、内ポケットにタバコが入っていたんですけど……」
「バカじゃないのか!? 何やってんだよ!」
 生活指導部も、予期せぬおまけに顔をしかめる。
 特にタバコに関しては、無頓着な者が多い。私も出勤途中、前を歩いていた生徒が自販機に駆け寄り、セブンスターを買ったところをつかまえたことがある。「通学路で買うヤツがあるかよ!」と誰もが呆れた。
 同僚は、授業中、机の上に何も出していない生徒に「筆記用具を出しなさい」と声をかけた。その子は、素直にカバンから筆箱を出したが、弾みでタバコも飛び出し御用となった。

 カンニングの手口も、信じられないくらい稚拙だったりする。
 昔、担任をしたことのある男子が、「このテストが赤点だったら、評定は1だぞ」と教員に警告された。いよいよテストとなったのに、答案に何を書けばいいか見当もつかない。そこで、試験監督の先生が目をはなした隙に、後ろの生徒の答案をひったくった。そのまま、自分の答案を並べて、せっせと書き写しているところを見つかった。こうなると、もはや笑い話である。

 しかし、今までの教員生活で一番ウケたのは、2校目にいた男子生徒だ。
 3年生の1学期、彼は卒業が危ぶまれるほどひどい成績を取った。担任は保護者を交えて、三者面談をすることにした。
 面談の当日、約束の時間の少し前に、正門から一台の車が入ってきた。たまたま、駐車場付近を巡回している教員がいて、ゆっくりと車に目をやった。フロントガラスから運転席が見える。だが、どう見ても、制服に身を包んだ生徒がハンドルを握っているではないか……!
 仰天して車に突進すると、運転席から「しまった!」という顔の生徒が降りてきた。彼は、仮免許を取ったのをいいことに、母親を助手席に乗せ、練習がてら自分で運転してきたのだ。教員は「話は中で聞きましょう」と、生徒の腕をむんずとつかんだ。
 シュンとする生徒と対照的に、母親は大声で喚きだした。
「だから言ったじゃないの! あの信号で、アタシが運転代わるって!!」
 もちろん、面談どころではない……。

 浅はかな生徒はたくさんいるが、ここまでやる子はそうそういない。
「考えなし大賞」は、仮免君にあげたいと思う。




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シモの話

2010年09月12日 20時38分43秒 | エッセイ
※ このエッセイには、食事場面に相応しくない話題が含まれておりますので、ご注意ください。

 明日は、職場の健康診断だ。
 日頃、不摂生をしている同僚も、この日に合わせて調整し、二次検診にならないよう努力する。
「私は人間ドックに行ったから、受けなくていいの」と涼しい顔の同僚もいる。
 食事抜きでひもじい思いをしながら、授業の合間を縫って、あわただしく採尿や採血に走るのは確かにツラい。だが、何だかんだ言いながら健康診断は、ひとつのイベントとして盛り上がってしまうものである。
 私が嫌いな検査は、服の着脱が面倒な心電図とレントゲンだ。しかも、バリウムは飲んだ後が苦しい。
 大腸検査には、さらにウンザリさせられる。なにしろ、2日間に渡って、事前に採便しなければならないのだから。
 子供の頃、検便といえば、軟膏を入れるような丸くて平たい容器だった。しかし、今では、こんなにカッコよくなっている。



 ただし、容器が進歩しても、採便という行為が憂うつなことに変わりはない。
 裏返すと、氏名と日付を記入する欄がある。早速、今日と明日の日付を書き込んだ。
 だが、説明書をよく読むと、「赤いラベルは1日目、青いラベルは2日目にお使いください」と書いてあるではないか。私は見事に逆の日付を記入してしまった。「どっちでもいいじゃん!」と反発を覚えながらも、指示通りに書き直した。
 
 大きなお世話かもしれないが、「便秘症の人は困るだろうな」と気の毒になる。私は、快食快眠快便体質なので、難なく検体を採集し、容器に収めることができた。
 さらに説明書を読む。
「採便後は冷暗所に保存してください」
 冷暗所?
 猛暑の練馬では、ひとつしか思い当たらないのだが……。
 私は戸惑った。検体を冷蔵庫に入れるべきか否か。
 むき出しではなく、きちんと密閉してあるから、衛生面での問題はない。しかし、気分的に抵抗がある。
 さて、どうしよう。

 もし、家族が冷蔵庫の検体を見つけたら、「こんなものを入れて!」と責められるに違いない。
 でも、冷蔵庫でなくても、目につく場所に置いてあれば、「こんなところに置いて!」と文句を言われるだろう。どちらにしても、怒られるのだ。
 クーラーをつけていても、この暑さである。室内に放置すれば、正しい検査結果が得られないかもしれない。
「よし」と私は決めた。
 色つきの袋に入れ、グルグル巻きにして冷蔵庫に入れよう。見つからなければ、何もなかったことになるのだ。明日の朝、何食わぬ顔で容器を出し、バッグに入れて持っていけば何一つ問題は起こらない。
 一抹の不安はある。
 ひょっとして、夫が余計なことをするかもしれない。何しろ、食い意地が張っているから、見覚えのない袋に気づいたとき、「何か美味しいものが入っているのでは」と思うのだ。
 心躍らせ、ガサガサと音を立てて袋を開けてみると……。
 ちょっと、見てみたい。

 さてさて、明日の健康診断が、無事に終わることを祈ろう。




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コアラ抱っこ

2010年09月09日 21時06分07秒 | エッセイ
 交流のあるブロガーさんが、鹿児島県の平川動物園に行き、気持ちよさそうに眠っているコアラの写真をアップしていた。
 コアラは実に愛らしい。家に連れて帰りたいくらいだ。
 8年前、オーストラリアを訪れたときは、コアラを抱っこして記念写真の撮れるテーマパークに行った。ゴールドコーストのドリームワールドである。
 日本では真冬のシーズンだったが、南半球のオーストラリアは盛夏で、非常に暑かった。私たち3人家族は、汗をかきかき、コアラの列に並んでいた。待つこと30分、ようやく順番が来たときのうれしさといったらない。
 ぬいぐるみのような可愛いコアラを手渡され、私は大感激で受け取る。毛がフサフサしていて、体温が高い。コアラは抱っこに慣れているようで、おとなしく私の胸に収まった。
「お母さん、いいな……」
 当時6歳だった娘が、恨めしそうにボソリとつぶやく。うう、耳が痛い。コアラの安全のためなのだろう、小さな子どもは抱っこさせてもらえないのだ。
 まずは、私とコアラのツーショットを撮り、次に娘を入れて撮影した。



「Good」
 英語は得意ではないが、観光地では何を言われているのかわかる。
 次は夫の番だ。夫はでかい図体をしている上、人相が悪いのだが、見かけによらず、この日を楽しみにしていたらしい。パアッと花が咲いたような笑顔で両手を伸ばし、コアラを受け取った。
 カメラマンがファインダーをのぞきこみ、いざ撮影というときだ。不思議なことに、先ほどまで静かだったコアラが急に暴れ出した。前足をバタつかせ、どう見ても「イヤイヤ」をしているようだ。
「Oh」
 係員の、大柄なお姉さんが両手を差し出し、コアラを戻すよう促した。夫はコアラを返したが、置きみやげがあった。手の平に、黒い碁石のようなフンがついていたのだ。
「うわぁ~~!!」
 夫が叫び声を上げ、地面にフンを叩きつけると、行列から小さな笑い声が漏れる。
 コアラは、お姉さんの腕の中で安心したのか、すぐに落ち着きを取り戻した。彼女は夫に近寄り、再度コアラを引き渡す。夫はおそるおそる受け取り、写真の準備をしようとした。
 ところが、このコアラ、後ろ足で夫の突き出た腹を蹴り、またもや激しく抵抗し始めた。夫が気に入らないのか、はたまた身の危険を感じたのか、必死で逃げようと頑張っている。
 お姉さんは「ダメだ、こりゃ」という表情を浮かべ、コアラを回収した。夫は悲しそうな顔をしていたが、手の中を見て、もう一度叫んだ。
「うわぁ~~!!」
 またもや、お約束のように、置きみやげが残されていたのだ。夫がフンを放り投げると、行列からは遠慮のない笑い声がとどろいた。私も娘も涙が出るほど笑ったが、係員のお姉さんまでもが口端を上げていた。
 結局、別のコアラが連れてこられ、ようやく夫はコアラ抱っこで記念写真にこぎつけた。



 だが、このコアラ、何やらおじいさんのようだ……。
 
 お土産に、コアラの絵本を買ってきた。人形のように、動く目がついている。寝かせると閉じ、立たせるとパッチリ開くのだ。



 うーん、超個性的……。
 こんなコアラだったら、抱っこしたくないかも。




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お年寄りになったら

2010年09月05日 20時20分39秒 | エッセイ
 留守中、15年ぶりくらいに、高校時代の恩師から電話があった。
「帰ったら電話してほしいって。これが番号だよ」
 夫にメモを手渡され、番号をプッシュする。恩師は父と同じ歳だから、今年で72歳になる。とうの昔に定年退職し、悠々自適の毎日だと聞いている。
「ああ、久しぶり。実は頼みがあって電話したんです」
 この恩師は、通称ミキオ先生といい、暇さえあれば旅行に出かけるアウトドアな社会科教師である。
「お姉さんは、たしか税理士だったね。相談したいことがあるから、連絡先を教えてほしいと思って」
 ……なんだ。私ではなく、姉が目的だったのか。
 ちょっと気が抜けた。
「自宅に連絡先のFAXをもらえれば、こちらから電話しますと伝えてください。番号は……」
 先生が言うFAX番号は、電話番号と同じだった。
「わかりました。姉は今、時間がないという話なので、連絡可能な時間帯も書いてもらったほうがいいですね」
「ああそうなの。こちらも留守がちなので、FAXがいいですね。番号は……」
 また同じことを言い始めたので、途中でピシャリと遮る。
「先生、さっき聞きましたから大丈夫です。じゃあ、姉に伝えておきますので、少々お待ちください」
 そこで電話を切った。

 翌日は土曜日だった。仕事がないので家にいると、珍しく電話が鳴るではないか。我が家の着メロは「森のくまさん」である。
「ハイ、もしもし」
「……」
 応答がない。いたずら電話か??
「もしもし、もしもし?」
 受話器を置こうと思ったとき、ようやく相手のモグモグした声が聞こえてきた。
「あの、ワタクシ、実は……」
 どこかで聞いたような男性の声である。誰だったかなと記憶の糸を手繰り、答えにたどり着いた。
「……失礼ですが、ミキオ先生ですか」
「ああ、そうそう。よくわかりましたね。ちょっと教えてもらいたいことがあって、電話しました」
 昨日のことだろうか。
 それにしては何か変だ。
「声が妹さんにソックリですね」
 そこでピンと来た。先生は姉に電話している気になっている。
「先生、だって私、妹ですから」
 私は名乗り、再度、姉からの連絡を待つよう説明をして電話を切った。
 大丈夫だろうか……?

 義母は10月で88歳になるが、こちらも高齢のため、ときどき対応に困ってしまう。
 我が家は二世帯住宅なので、イベントのケーキなどは義母の分も買ってきて、おすそ分けするのが常だ。
 出勤前で忙しい朝、出かける前に一階の義母に声をかけ、「いってきます」と挨拶することにしている。だが、あるとき、「ちょっと待って」と引き止められた。
 早く行きたいのにと思いつつ、イライラしながら待つと、ようやく義母が戻ってきた。
 それからノンビリと、「昨日はごちそうさま。美味しかったわ」と言って、ケーキの載っていた皿を返そうとした。

 今、返されても!!!

 仕方がないので、ひとまず受け取って階段の隅に置き、家を飛び出したということもある。
 
 歳をとるのは喜ばしいことだが、年齢を重ねるにつれ、善し悪しの基準を測る物差しが狂ってしまうようだ。その結果、本人がよかれと思ってした行為が、茶飲み話になるのだから恐ろしい。

 だが、私の物差しは、元々狂っているらしい。子どものときから、何度も「ズレている」と言われて育った。
 歳をとったら、さらにズレていくのではないか。
 たとえば、ケーキをいただいたら、空の皿を持って「美味しいからもっとちょうだい」とたかるかもしれない。蟻並みだ……。
 食べた皿を洗いもせず、汚れたまま返そうとする可能性もある。口に合わなかったときは、「不味かったわよ」と正直に言ってしまいそうだ。
 今なら、「そんなことをしてはいけない」という理性が働くけれど、お年寄りになってもそう思えるか、自信がない。
 嫌われ者の砂希バアさんにならぬよう、丈夫な物差しを持たなければ。




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バック・トゥ・ザ・低血圧

2010年09月02日 21時13分00秒 | エッセイ
 昨日の朝は辛かった。
 目覚まし時計が鳴り、体を起こそうとしたが、重くて持ち上がらない。這うようにして手を伸ばし、どうにかアラームを止めた。
 まるで、ゴキブリホイホイにかかってしまったかのように、身動きが取れない。
 いや、たとえが悪い。
 磁石のN極とS極のごとく、布団に吸い寄せられたことにしよう。実のところ、運命の人は夫ではなく、布団だったのかもしれない。離れたくても離れられない心地よさに、時間だけが過ぎていく。
 このままでは、仕事に遅刻してしまうではないか。私は気力をふりしぼり、どうにか起きあがろうとした。重力が何倍にも感じられ、体の自由が利かない。動け動けと念じ、フラフラしながら床に這い出した。
 体がすさまじくダルい。座っているのが苦痛で、座布団に寝転がって天気予報を見ていたら、つい二度寝してしまった。

 低血圧だ……。

 3年前にも、同じ症状に見舞われたことがある。健康診断記録を見ると、当時の血圧は、上が102、下が62となっている。朝はなかなかエンジンがかからず、テンションが上がらない。無理矢理体を動かしても、頭がボンヤリしていて労働生産性が低い。低血圧は厳しいものなのだ。

 かつての同僚には、私以上に血圧の低い男性がいた。
「僕はね、上が100ないんだよ。92とか95だから。朝は、ほとんど死人だね」
 会議では、やたらと元気に発言するオジさんだったが、朝は口数が少ない。もし、職員会議が夕方ではなく早朝だったら、彼はおとなしかったことだろう。

 15年前、出産間際の妊婦検診で血圧を測ったら、上が159、下が99となってしまい、妊娠中毒症と診断されたことがある。自覚症状は何もないのに、「すぐ入院してください」と病棟に連れて行かれ、3日間帰れなかった。
 退院してからも、「毎日血圧を測るように」と言い渡され、血圧計を買ってチェックした。
 その血圧計がまだあるはずだ。

 今の血圧はどのくらいなんだろう??

 興味がわいてきたので、久々に引っ張り出し測定してみると、上が96、下が74だった。
 いかん、最低記録だ……。
 3年前に逆戻りしたのではなく、さらに悪化しているようではないか。

 私もゾンビだわ……。

 明日の朝、ゴキブリホイホイの中で目覚めることは必至である。
 ああ、血圧が上がる方法はないものかな。




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 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
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コメント (12)
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