これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

修理に向かない男

2010年06月27日 19時30分21秒 | エッセイ
 玄関の外灯が切れた。



 専業主夫の夫に電球の交換を頼んだが、「フタの開け方がわからない」と断られた。仕方ない、私がやるしかなさそうだ。
 まずは、フタを見てみる。
 開け方がわからないフタとは、どんなからくり箱になのだろう。しかし、上下左右4箇所にネジで留めただけの、実に単純なフタであった。これなら、サルでも開けられる。夫は戌年だからダメだったのか。
 プラスのドライバーを用意して、ネジを外す。フタはガラス製のため、意外に重い。落とさないように注意して下に置く。
 中の電球は、予想よりも小さかった。



 電球の近くに、使用する規格が書かれている。

 ミニクリプトン電球 100V用 60形 を使用のこと

 クリプトン電球とは何だろう。
 調べてみたら、「一般白熱電球に使用されているアルゴンガスより原子量の大きいクリプトンガスを封入し、ランプ効率が向上した明るい小型白熱電球」とあった。ほー。
 築13年にして、初めて電球交換をすることを考えると、ずいぶん長持ちするらしい。
 私はスーパーに走り、同じものを買ってきた。



 早速、電球を付け替え、スイッチを押してみた。
 
 ピカッ。



 おおっ、成功だ~!!

 私はすっかり気をよくして、1階に住む義母のところへ報告に行った。
「外灯直りましたよ~! 私でもできました!」
「あらあ、本当? どうもありがとう。助かるわ」
 義母も、外灯が切れて困っていたのだ。ハイタッチは交わさなかったが、和やかに立ち話をして2階に戻った。
 2階では、夫がもじもじしながら話しかけてきた。
「あの、外灯、ありがとう……」
「……」
 夫は、自分の力で問題解決する喜びを知らないのか。いつも人任せで、誰かが何かをしてくれることを期待している。
 いや、待てよ。
 ひとつだけ、自力で解決したものがあった。
 私の留守中に、魚焼きのグリルを洗ってくれたときだった。A型の夫は、油汚れのベッタリついたグリルが許せなかったらしい。すべて取り外し、根こそぎ汚れを落とそうと、ナイロンたわしでゴシゴシこすっていたら、有り余る力が災いし、ガラスのカバーが外れてしまった。

 あああ、壊しちゃった、どうしよう!!

 夫は焦り、必死で元に戻そうとしたらしい。試行錯誤の末、どうにかカバーがはまったと、帰宅した私に延々と語ったことがあった。
 これが、問題のグリルである。



 カバーガラス上部に注目していただきたい。「pair grill」という文字が、ひっくり返っているのがおわかりになるだろうか。
 外れたガラスをはめ込んだのはよいが、彼は向きを間違えたのだ。

 逆さまだってことに気づけよ……。




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ランキングの死角

2010年06月24日 21時47分29秒 | エッセイ
 このブログは「人気ブログランキング」のカテゴリー「エッセイ」に参加している。
 師匠と仰ぐ先輩ブロガーから、「アクセスアップするから、ランキングには絶対登録したほうがいいですよ」と勧められたことがきっかけだ。
 2年前、やり方をこと細かに教わり、とりあえず登録してみた。ブログのタイトル、URLなどはもちろんのこと、どのようなブログかを説明するために紹介文を入力する。この紹介文は2つに分かれており、すべてのブログに表示される20字以内のものと、1位から25位までにかぎって追加で表示される40字以内のものとがある。

 たとえば、最近親しくさせていただいているブロガー、片割れ月さんの紹介文を例にしてみよう。片割れ月さんは20字以内の紹介文が「日常の出来事をおもちゃ箱へ」、40字以内の追加紹介文が「ほんのつまらない事でも面白おかしく書いてみようと思います」となっているようだ。
 彼のブログはモテモテで常に25位までに入っているから、20字プラス40字の紹介文となり、「日常の出来事をおもちゃ箱へ ほんのつまらない事でも面白おかしく書いてみようと思います」と表示される。


 
 登録したばかりのとき、約350の参加ブログの中で、私の定位置は75位から100位あたりだった。26位以下はスペースも狭く、20字までの紹介文しか載せてもらえない。たしか、「免疫力アップのお笑いエッセイでーす!」などという説明にしたようなおぼえがある。
 半年ほど経つと、40位から50位が定位置となったが、なかなかそれ以上にはならない。アクセスが多くても順位が下がったり、少なくても上がったり、自信作なのにコケたり、短時間で書いた作品がウケたりと、ランキングの行方はまったく読めなかった。
 登録時に、40字以内の追加紹介文も入力したのだが、一向に出番が回ってこない。
 いつしか、私は追加紹介文の存在を忘れてしまい、20字以内のほうだけをいじるようになった。「一周年を迎えました!」「アハハでイヒヒでウフフなエッセイでーす!」などと変更したことがある。

 ところが、最近になって、急に順位が上がり始めた。
 理由はわからない。特に路線も変えていないから、奇特なファンが増えたのだろうか。30番台に入ると、「ありがたや」と手を合わせたくなった。
 つい先日も、寝る前にランキングをのぞいてみた。すると、ありそうなところに私のブログが見当たらない。「あれれ、どこ??」と探してみたら、なんとギリギリ25位に食い込んでいた。

「ウソー!!」

 もうビックリである。もちろん嬉しかったが、紹介文を目にした瞬間、サーッと顔から血の気が引いた。

「おかげさまで、2周年を迎えました! 日常生活のハプニングを、読みごたえのある楽しい文章にしました。オチに注目!」

 すっかり忘れていた追加紹介文が、ようやく日の目を見たのはよしとして、文が全然つながっていないではないか……。ミスマッチだ。「なんじゃこりゃ」というヘンテコな紹介文となり、実に見苦しい。
 紹介文の修正をするため、私はあわててランキングサイトにログインした。今すぐにでも、この恥ずかしい紹介文を削除したいくらいだが、変更が反映されるまでには時間がかかる。その夜は我慢して床に就き、翌朝、修正できているかを確認した。
 ところが、翌朝には順位が下がり、27位になっていたので、20字までの紹介文しか載っていない……。

 キーッ!

 私の場合、どうやら夜になると順位が上がるようだ。
 さきほど確認したら、24位になっていた。新しい紹介文はこうなっている。
「お笑い系エッセイをお届けします! 毎週日曜・木曜に、規則正しく美しく、絶賛定期更新中~!」



 これからも、よろしくお願いしまーす!!




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アフター5はガンダムカフェで

2010年06月20日 20時04分24秒 | エッセイ
 その日は所用で浅草に行った。
 仕事のあとは、仲良しマダム2人と食事をすることになっている。しかし、まだ早い。待ち合わせまでには、40分ほど時間が余りそうだ。

 よしっ、ガンダムカフェに行こう!

 この4月、秋葉原にガンダムカフェがオープンし、連日長蛇の列ができる大混雑だと聞いた。ファンとしてはぜひ行ってみたいけれども、待つのはイヤだ。



 でも、2カ月経った最近では、ようやく混雑が緩和され、平日ならばほとんど待ち時間がないという話である。土日は相変わらずで、開店前から行列ができるらしいから、行くなら今日しかない。
 浅草から秋葉原までは近い。Webサイトには、秋葉原の電気街口から徒歩1分と書いてあった。降りしきる雨の中、私は傘を片手にお目当ての店を探す。
 どこだ、どこだ……。
 キョロキョロしていると、白い違和感のある建物が目に飛びこんできた。
 あった、あった!



 見つけた喜びは大きかったが、口コミと違って行列ができていることがショックだった。

 うそー!! 並んでるじゃん!

 考えてみれば、もう5時を回っているのだ。仕事を終えて、ちょっと一杯という客がいてもおかしくない。どうやら、時間帯をミスったらしい。
 道路を隔てた向かい側には、エクセルシオールカフェが見える。今日はあっちにしようかな……と一瞬弱気になったが、それほど待たずに入れるかもしれない。ひとまず、列の最後尾に並んでみた。
 ガラス越しに店内が見える。10代、20代は少ないようだ。50代以上もまったく見当たらない。30代~40代とおぼしき男女で、店内は埋め尽くされている。男女比はほぼ同じで、OLらしい女性グループが意外に目立つ。しげしげと観察していたら、壁のガンダムフィギュアが照れたような表情を浮かべた。



「雨が冷たいし、今日はもうあきらめようぜ」
 私の前に並んでいた男性4人組は、順番待ちをやめるようだ。一人がこう言い出すと、特に反対意見もなく、そろって駅のほうに体を向けるではないか。セイラの名セリフ「軟弱者! それでも男ですか!!」を叫びたくなった。
 少しずつ順番が近づいてくる。入口で店員のおネエさんが、人数と禁煙席か喫煙席かを尋ねる声が聞こえてきた。もうすぐだと心が高鳴る。喉が渇いたからコーヒーでも飲んで、軽いお茶うけを食べようかと考えた。
 このカフェには、一人で来る客も多いようだ。私の前にはカップルがいたが、カウンターの一人席なら空いているからと、おネエさんが私を先に案内してくれた。

 ラッキー!

 結局、待ち時間は15分程度だ。並んで正解だった。
 入口でもガンダムがお出迎えしてくれる。



 注文カウンターの上にもガンダムが……。



 メニューを見て気が変わった。「セイラのくちびる」というピンクのカクテルがあるではないか。「赤い彗星」というカクテルも捨てがたいが、断然こちらがそそられる。コースター付きと表示されているので、記念に持って帰ろうと決めた。



 一緒に「シャアザクアイス」も注文した。



 この店では、奥の席が当たりだ。スクリーンで映像も見られるし、フィギュアもたくさんある。





 私の席の周りには、せいぜいイラストくらいしかないのが淋しい。



 おっと、のんびり探検している場合ではない。時計を見ると、タイムリミットが近づいている。秋葉原17:54発の山手線に乗りたいのに、時計は17:45である。急がねば!
 アイスもカクテルも、とびきり美味しいということはなく、平均的な味といえる。でも、この店の雰囲気でいただくのが贅沢なのだ。
 グラスとお皿を空にして、私は店から飛び出した。なんと慌ただしい時間つぶしなのだろう。
 自動改札を抜けたところで気がついた。

 しまった、コースターを忘れた……。

 ザクの頭部をイメージしたコースターを、私はきれいさっぱり置き忘れてきた。
 今度は、ランチタイムに行きたい。




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おうちディナー

2010年06月17日 20時24分20秒 | エッセイ
 今月は夫の誕生日がある。
 毎年、外に食べに出掛けていたが、87歳の義母は足腰が弱ってしまい、遠出できない。そこで、今年は家でお祝いすることにした。
 とはいっても、私の手料理をふるまうと失礼にあたる。
 以前、友達の家に遊びに行ったら、「味覚障害か!?」と思うくらい不味い鍋料理が出てきて、大変苦労した。友人の好意に感謝しつつも、硬い鶏肉に味のないタラ、水っぽい椎茸と白菜などを、残さず平らげるのは苦痛だった。
 手編みのセーターをプレゼントするのと同じで、手料理も押しつけになってしまってはいけない。私は未熟な料理人だから、出しゃばって人様に迷惑をかけたくないのだ。
 実のところ、単に面倒なだけともいうが……。
 
 ネットで検索していたら、松花堂弁当を配達してくれるお店を見つけた。手頃な値段の割には本格的で、見た目もいいし美味しそうだ。
「お義母さん、今度のパパの誕生日には、松花堂弁当を取りますからね」
「あら、家まで持ってきてくれるところがあるの? 楽しみねぇ」
 義母は外食をあきらめていたから、とてもうれしかったようだ。
 誕生日当日も、朝からそわそわと話しかけてきた。
「砂希さん、今日はお弁当の日だったわよね。何時に来るの?」
「6時半です」
「ケーキを用意したいんだけど、あたしの代わりに買ってきてくれないかしら」
「いいですよ」
 義母は、あきらかにはしゃいでいる。長年、家事をしてテレビを見る毎日の繰り返しだから、刺激になるのだろう。
 お弁当が届いてからも、そっとフタを開けて中をのぞいていた。
 天つゆとお吸い物を温め、揚げ出し豆腐のあんをかければ準備オーケーとなる。



「パパ、お誕生日おめでとう! いただきまーす!!」
 おうちディナーの開始と同時に、娘がバースデーカードを手渡した。
「はい、お父さん」
 夫は礼を言ってカードを開いたが、渋い顔で目をパチパチさせた。
「字が小さくて見えない……」

 お料理は全体的に合格点だったが、天つゆと焼き魚の味が濃かったところと、天ぷらがカリッとしていないところが平均以下だ。
 しかし、普段から少食の義母が、お料理のほとんどを平らげたのには驚いた。そういえば、義母は濃い味付けのほうが好きなのだ。何度も「美味しい、美味しい」とつぶやき、喜んでいた。

 なんだか、義母の誕生祝いみたい……。

 ますます、私のつたない手料理なんぞ出せそうもない。ああよかった、じゃなくて残念だ。
 お料理のあとは、別腹のケーキが登場する。



 主役の座を奪われそうだと悟ったのか、夫は2個も食べていた。ますます太りそうだ。
「ああ、美味しかった。あたし、あと何回食べられるかしら」
「……」
 高齢の義母には、元気なうちに親孝行をしておきたい。
 でも、次のイベントは10月だ。私の誕生日までこれといったものがない。
 おっと、そういえば、姉の誕生日が8月だった。主役を呼ぶつもりはないが、遠く離れた我が家から、姉の誕生日を祝うという名目で、ごちそうをいただくのも悪くないかもしれない。




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アーリーショー

2010年06月13日 20時44分35秒 | エッセイ
 DVDの返却期限が迫っているのに、出勤日が続き、見る時間がなかった。
 夜は娘が試験勉強をしており、気を散らすわけにいかない。となると、残る手はひとつ。返却日の朝、早起きして、出勤前に見るしかなさそうだ。
 前夜は、一番風呂に入り9時半に寝る。アラームは午前3時にセットした。果たして、そんな時間に起きられるのか!?
 多少の心配はあったが、耳障りな電子音で無事目が覚めた。辺りはまだ暗い。青汁を飲み、紅茶をいれて、早速再生ボタンを押す。自宅ならではの、アーリーショーの始まりだ。

 作品は『ハイスクール・ミュージカル』、なかなか評判のよいディズニー映画である。
 しかし、開始後10分経っても、気持ちが盛り上がらない。寝ている家族に配慮して、音を小さくしているからだろう。ボリュームを抑えたミュージカルは、まったく迫力がない。『シカゴ』や『NINE』といった作品は、劇場の大スクリーンでサウンドを体感しながら観ている。低年齢層を対象としたこの映画を、つまらないと感じても無理はなかった。
 最初は、行儀よくイスに座って観ていた。でも、時間が経つにつれ足が疲れてきて、しまいには座布団に寝転がって観た。

 いつの間にやら、眠ってしまったらしい。庭でカラスたちが「ギャーッ」「ガー」「アーオゥー」と騒ぐ声でハッと気づいた。一体何羽集まっているのかわからないが、カラスもミュージカルを始めたようだ。おかげで目は覚めたけれども、もはや話の展開についていけない。
「停止して布団に戻ろうかな」と私はリモコンを探した。でも、単純なストーリーが幸いして、話がそれほど進んでいないとわかり、やっぱり続きを観ることにした。
 ハイスクールの卒業を間近に控えたカップルが、卒業後は遠く離れた大学に進むことから、別れの不安を抱く。親の期待や自分の夢を第一に考えつつ、愛する人とも離れたくないと葛藤し、成長していく物語だ。
 一番よかった点は、泣きわめいたり、怒りを爆発させる場面がないところである。登場人物は、最初から最後まで静かに悩み、爽やかに会話を交わし、浮世の汚れを感じさせない。透明感と品のある映画だった。アーリーショーには向かない点だけが残念だ。

 もうちょっと、ボリュームを上げて観たかったな……。

 出勤して、同僚にそんな話をした。
 私のオチに慣れている彼女は、先を想定して釘を刺した。
「先生、観ただけで安心して、返すのを忘れないでくださいね」
「ううっ、だ、大丈夫よっ!」
 あぶない、あぶない。実のところ、DVDは持ってきたが、お店に寄ることは忘れていた。せっかく早起きしたのに、返し忘れては意味がない。
 釘は釘でもぶっとい釘、いやいや杭を打ち込まれたような衝撃を受け、私はしっかりDVDを返却してから家に帰った。
 めでたし、めでたし。




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鮮烈デビュー

2010年06月10日 20時49分21秒 | エッセイ
 高校には、求人のため、企業が来校することもある。
 その日は4時に、某大手輸送会社のアポが入っていた。
「ああ、笹木先生。ちょっと打ち合わせしたいことがあるんだけど、4時頃はどうですか?」
 校長と顔を合わせたとき、こんな言葉をかけられたが、見事に重なっている。
「申し訳ありませんが、ちょうど4時に○○社が来ることになっています。そのあとなら空いていますけれど」
 校長は手の平をあごにあて、数秒考えた。
「○○社が来るの? 聞きたいことがあるから、私も同席させてください。打ち合わせはそのあとにしましょう」
「はい、わかりました」
 澄まして答えたものの、思わぬ展開になったと首をかしげる。私はぼんやり天井を眺めながら、一波乱ありそうな予感を抱いた。

 ○○社は、時間通りにやってきた。
「お忙しいところ、恐れ入ります。○○社の川田と申します」
 おや、昨年と違う人ではないか。
 川田氏は、推定年齢33歳、背が高く、元プロ野球選手の新庄剛志の雰囲気だが、目だけ俳優の上川隆也に似ている。なかなか見栄えのする男性を、普段以上に愛想よく迎えた。
「お待ちいたしておりました。笹木と申します」
 型通りの挨拶を交わしたあとは深々とお辞儀をし、氏の予想を裏切るセリフを吐く。
「実は、本校の校長が、ぜひ同席したいと申しておりますので、校長室へご案内いたします」
 上川隆也っぽい目に、動揺が走る。
「あっ、はあ……」
 氏は曖昧な返事をしたあと、180cmはありそうな長身をそわそわさせた。肩には余分な力が入っているようだ。歩き方もギクシャクしていて、右手と右足が同時に出そうな不自然さである。
「どうぞ」
 ドアを開けて振り返ったが、氏はなかなか入ろうとしない。「はよせい」と後ろから押し込みたくなる衝動を抑え、私はもう一度「お入りください」と微笑んだ。
 ようやく川田氏が、背を丸めた姿勢でこちらに向かってきた。
「わざわざお越しくださいまして、ありがとうございます。校長の多田です」
 川田氏は、校長を目にした瞬間、緊張のピークに達したようだ。
「あっ、はい、あの、その、いいいつもお世話になっております」
 しどろもどろの挨拶をしたあと、ハッと思い出したように持参した紙袋を差し出した。
「あのっ、これ、よかったら召し上がってください」
 それは最後だろう、とツッコミを入れたくなる……。
 氏はすっかり舞い上がってしまったようで、目はキョロキョロと落ち着きなく動き、表情がこわばっている。校長が名刺を用意すると、彼も名刺入れを取り出したのだが、手を滑らせて床にばらまいてしまった。

 ああ、見ていられない……。

 どうなることかと心配したが、話しているうちに、氏はだんだん自分のペースを取り戻してきた。表情が柔らかくなり、体の無駄な動きがなくなった。ようやく、世間話ができそうだ。
「昨年は、たしか××さんがお見えになりましたよね」
 私の問いに川田氏がうなずいた。
「はい、4月に人事異動がありまして、私が後任となったんです。まだ3カ月目で、高校訪問もこちらが初めてなものですから、不慣れな点が多く申し訳ございません」
「……」
 つまり、川田氏にとっては、今日がデビュー戦だったわけだ。
 ただでさえ緊張していただろうに、まさか校長室に連れていかれるとは、思ってもみなかったに違いない。

 悪いことをしたな……。

 でも、大きな試練から立ち直り、調子を上げた川田氏は明るい顔で帰っていった。
 これでもう、怖いものなし!?




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DVDを借りに

2010年06月06日 20時26分02秒 | エッセイ
 映画が見たくなった。
 でも、公開中の作品に魅力を感じるものはない。だったら、以前、見損ねた映画のDVDをレンタルしたほうがいい。
 劇場まで出かけることが好きな私にしては、珍しい選択である。娘に付き合うことはあっても、自分のためにレンタルするのは何年ぶりだろう。

 昨日の夕方、日が傾いてから、散歩がてらお店に出掛けることにした。
 時計は17時を回っていたが、薄日が差している。これから夏至に向かい、ますます日が長くなっていく。
 歩道を歩いていたら、向かい側から初老の男性2人が、大きな声でどうでもいいことを話している。騒々しさに顔をしかめてすれ違ったとき、頬に水滴が飛んできた。

 まさか、今のオヤジの唾!?

 私は卒倒しそうになりながら振り返った。しかし、オヤジたちが遠ざかってからも、新たな水滴が落ちてくるではないか。

 雨だ……。

 空を見上げると、晴れているのに細かい雨粒が、次から次へと糸のように降っている。男性2人に着せた濡れ衣を、心の中で詫びながら、私はレンタル店へと急いだ。夕方でなければ日傘を持っていたのに、なんと間の悪いことよ。まさか、ネズミの嫁入り、いや、キツネの嫁入りと言われる天気雨に見舞われるとは思わなかった。珍しいことをするものではない。

 店に着いてホッとした。天気雨なら、DVDを選ぶ間にやむだろう。私は棚の作品とにらめっこし、「どれにしようかな」と作品選びを始めた。
 好みは洋画だ。ちょっと疲れ気味なので、重い話はパスしたい。頭を使わない、軽~いものがいい。
 レストランでオーダーに迷う人は、ここでも即決できないに違いないが、私はほとんど悩まない。直感で決める。以前、マイミクさんが勧めていた『ハイスクールミュージカル・ザ・ムービー』を見つけ、パッと手に取った。これにしよう。
 しかし、あまりにあっけなく決めたので、まだ雨が降っていそうだ。「もう1本」と心の声が聞こえる。香港映画、戦争もの、アクションなどを物色しても、ピンとくるものがない。奥へ奥へと進み、ようやく惹かれるものを見つけた。
『グラン・トリノ』
 クリント・イーストウッド主演・監督のこの作品は、なかなか評判がいい。イーストウッドは俳優としても好きだったし、監督としても才能豊かである。「これだ!」と自信を持って選んだ。
 会計したあと、重い作品はパスしようと考えていたことを思い出した。だが、もう手遅れだ。外へ出ると、ちょうど雨も上がっていた。

 家でDVDを見るときは、何かと邪魔が入っていけない。「お母さん、お母さん」とあれこれ話しかける娘の相手をして、夕飯の支度、風呂、片付けものなどに追われていたら、昨日は結局見られなかった。やはり、日曜日の朝しかない。
 眠かったけれども、今日は6時半に起き、家族が寝静まっている間に、ひとりDVDを見た。
『ハイスクール・ミュージカル』と『グラン・トリノ』のどちらでもよかったのだが、上に載っていた『グラン・トリノ』をプレーヤーに入れた。
 途中、弱い地震に邪魔されたものの、いい映画だった。「憎まれジイさん」がアジア系の隣人に心を開いていく様子は、「遠くの親戚より近くの他人」という感じで温かい。グラン・トリノとは、車の名前で、ジイさんの自慢である。イーストウッド扮するウォルトジイさんは、この車と犬を何よりも大事にしているのだ。
 相手に悪態をつく強烈な会話に笑い、自由に生きることの難しさに考えさせられた117分だった。
 ただ、予想通り、ハッピーエンドではないところが悲しい……。

 たまには、こんな週末の過ごし方もいいけれど、『ハイスクール・ミュージカル』を見る時間が取れなかった。
 疲れた頭を空っぽにできる、楽しい映画だそうだ。
 こちらも早く見たいものである。
 もっとも、私の頭は、いつでも空っぽかもしれないな……。
 



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衣替えの心理

2010年06月03日 20時43分03秒 | エッセイ
 6月といえば、衣替えである。
 ウン十年前、中学、高校に通っていたころは制服があったので、5月の終わりになると先生がこう言った。
「明日から6月です。夏服で登校しましょう」
 5月も中旬を過ぎると、半袖でも過ごせるくらい暑い日がある。冬服では大汗をかき、「早く夏服にしてくれ~」と悲鳴をあげる。だが、肝心の衣替えを迎えると、雨雲がしゃしゃり出てきて太陽を隠し、打って変わって寒くなることがあった。
 それでも、私は半袖のワイシャツを用意した。
「今日は寒いわよ。長袖でいいんじゃない」
 母は、臨機応変な服装を勧めるが、聞いたためしがない。
「やだ。みんな半袖で来るもん。ちょっとぐらい寒くたって大丈夫」
 鳥肌を立てながら腕を出し、肩をすぼめて登校する。教室に入ると、予想通り、クラスメイトの大部分が半袖だ。私の判断は間違っていなかったと胸をなでおろす。
 決して、「先生が夏服と言ったから」という理由ではない。少し寒いからといって長袖に頼るのは、自分に負けるような気がしたからだ。「こんな寒さがなんぼのものじゃ」と強がり、半袖を着て気骨のあるところを見せるのが、私の世代では普通だった。
 裏を返せば、融通が利かないともいえるだろう。
 一方、堂々と長袖を着てくる生徒もいた。「この寒いのに半袖なんか着ちゃって、バカじゃないの!?」と言わんばかりの態度である。彼らは合理的で柔軟性があるけれども、根性なしと見なされ、いざというとき頼りにされなかった。
 もっとも、やせがまんするのは登下校だけで、教室の中は生徒の体温で温かい。「まるで牛小屋の原理だな」と私は思った。

 やがて時代は変わった。
 今の中学・高校では制服の移行期間というものがあって、「5月×日から6月×日までは、冬服でも夏服でも、どちらでも構いません」と決めている学校が多い。もはや、精神論などの出番はないようだ。
 さぞかし過ごしやすいだろうと思いきや、衣替えという線引きがなくなったことにより、いつまでも冬の格好をしたままの生徒があらわれるようになった。彼らは、7月の暑いときでも、長袖のワイシャツにセーターを重ねた服装で授業を受ける。下手すれば、ブレザーを着ていることもある。
「暑くないの?」と聞けば、「暑いです」と返ってくる。だったら、軽装にすればいいのだが、不思議なものだ。
 半袖を着て寒さを我慢するよりも、セーターを羽織って暑さを我慢するほうが、根性がいるかもしれない。
 単なる不精者だったりして……。




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