これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

リボンの恋人

2009年07月30日 20時21分54秒 | エッセイ
 お気に入りのスカートがあった。
 白のデニム地に、両サイドを細いリボンで編み上げたデザインだった。



 白いボトムは、どんな服にも合わせやすく重宝したのだが、シミがついてしまったため、思い切って捨てることにした。
 このスカートには、こんな思い出がある。

 その日は、たまたま家を出る時間が早くて、いつもより一本早い電車に乗れそうだった。
 そういうときは気分がいい。始業ギリギリにすべり込む毎日と違って、授業の前にアールグレイを飲む余裕がありそうだ。そんなことを考えていたら、電車がホームに入ってきた。
 私が使っている駅は乗降客が多い。電車のドアが開いた瞬間、ゲートが開いて競馬が始まるように、ドドドドッと人が吐き出されてきた。これから乗ろうという人は、降りる人をよけながら、ホームの端でじっと待つ。
 もう降りる人がいないようなので、電車に乗ろうと足を動かしたときだ。誰かが私を後ろから強く引っ張り、引き留めるではないか。

 なになに??

 驚いて振り返ると、そこには焦った顔の女子高生がいた。
 何と、私のスカートのリボンに、女子高生のバッグのファスナーが引っかかってしまったのだ。
「すみません、すみません!!」
 彼女は必死でバッグを引くが、リボンは金具にガッチリと挟まっているようで、まったく取れない。
「あまり引っ張らないほうがいいよ。どれどれ」
 私は彼女の手からファスナーを引き取った。リボンとファスナーは、別れ別れになった恋人同士が再会したかのように、ひしと抱きあい、ちょっとやそっとでは離れない。
 わずか一瞬、すれ違っただけなのに、こんなことがあるのだな……。
 感心している場合ではなかった。そうこうしているうちに、乗客はあらかた車内に吸い込まれ、発車を知らせるチャイムが鳴った。
「1番線から、通勤準急池袋行きが発車します」
 無情な放送が耳に入る。

 やばい、電車が行っちゃうよ~!

 私もあわてたが、身動きがとれないのだからどうしようもない。やがて、ドアが静かに閉まり、準急電車は振り向きもせずに去っていった。
 私と女子高生だけが、ポツンとホームに取り残された。こうなれば、本格的にリボンとファスナーを引き離さなければならない。私は、ホームにバッグを置いて、両手でチャレンジし始めた。
「あっ、取れたっ!」
 ようやく、ファスナーからリボンを奪い返すことができた。これでやっと電車に乗れる。私は安堵して、大きなため息をついた。
「本当にすみませんでした」
 女子高生は、ずっと頭を下げてばかりで、気の毒なくらい萎縮していた。でも、別に彼女が悪いわけではない。
「気にしなくていいのよ。事故だから」
 そう言うと、彼女はホッとしたように再度おじぎをし、小走りに改札へ向かった。

 いい子だなぁ。

 後姿を見送ったあとで私が乗ったのは、結局いつものギリギリ電車だ。
 もちろん、アールグレイは飲めなかった……。

 毎度ご愛読いただき、ありがとうございます!
 今回で150回目の更新となりました。次回は200回を目標に頑張りたいと思います。
 今後とも、応援のほど、よろしくお願いいたします!!



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ララ・クロフトは泥の上

2009年07月26日 20時11分51秒 | エッセイ
 去る7月12日に、本羽田干潟で採集してきたカニを、私と娘はせっせと育てている。
 干潟には満潮と干潮があるので、それと同じように、水槽の水を加減してやらなければならない。
 夜は満潮にする。水槽の下3分の1まで盛った泥の上に水を注ぎ、魚も住めるような水量まで増やす。こうすると、カニのカサカサという物音が気にならないし、カニもまた人の気配に脅えることなくくつろげるようだ。
 朝は干潮にする。水槽を傾けて、バケツの中に水を捨て、泥の上に多少の水たまりができる程度まで減らす。水がなくなったところで餌をやれば、上手い具合に食事タイムとなる。
 しかし、非力な私と娘にとって、水を抜くという作業は難儀である。なにしろ、水槽を持ち上げるだけで一苦労なのだから。
「お、重い~!!」
「お母さん、頑張って!!」
 フラフラしながら水を捨てると、まもなく腕が筋肉痛になった。
「じゃあ、今度はミキがやるよ」
 中1の娘の方が力持ちだ。フンッと気合いを入れて水槽を持ち上げ、ジャジャジャジャーと勢いよく水を流した。
「あれ? 1匹足りないよ」
 何と、ヤマトオサガニのちびっ子までが、バケツの中に入っていた。私とミキは顔を見合わせて笑い、カニを元に戻した。
 水槽は全部で4個あるので、苦労して持ち上げ、カニは流さず水だけ捨てるという芸当を繰り返していたら、二人とも朝からクタクタになった。

 水を抜く道具が欲しいなあ。

 最初に私がイメージしたものは、洗濯に使う風呂水ポンプだった。しかし、カニの水には泥が混じっている。すぐに故障してしまうような気がして、他のものを考えた。

 もっと単純で、手軽なものがあるはず……。

 記憶をたどってみると、あるものに行き着いた。冬、実家でよく使っていたこの道具である。



 それは、灯油用給油ポンプであった。
 しかし、夏真っ盛りの今、果たしてこんなものが売られているのだろうか?
 季節はずれの商品に出会える可能性のある店は、100円ショップだ。私は駅前のキャンドゥに行ってみた。半信半疑で家庭用雑貨を探してみると、あった、あった! お目当ての給油ポンプが、いともたやすく見つかった。まるで、私を待っていたかのように、1個だけがポツンと陳列されていた。

 悪いわね、私のために……。

 サッと会計をすませて、機嫌よく家に帰ったあとは、早速娘と試してみた。たしか、赤いポンプの上にあるツマミを操作したような気がする……。
「お母さん、ここにONって書いてあるよ。右にねじればいいんじゃない?」
「そうだね、やってみて」
 水槽ではなく、バケツの水で練習してみると、あっという間に水がなくなった。
「すご~い!!」
 うれしくて、ミキとハイタッチをかわした。これで明日からの作業が楽になる。

 翌朝、灯油用給油ポンプは期待通りの活躍を見せ、私とミキを唸らせた。
 干潮になって露出した泥の上に、アシハラガニのララ・クロフトがスラリとした足で立っていた。このカニはハサミが1個しかないのだが、敵と思われる者には恐れず立ち向かっていく、勇敢で強いメスである。映画『トゥーム・レイダー』で、アンジェリーナ・ジョリーが演じたララのように、美しく妖しくセクシーだ。
「ララちゃ~ん、ゴハンですよぅ」
 ミキが甘ったるい声で話しかけ、メダカの餌をパラパラと撒いた。ヤマトオサガニやクロベンケイガニだとなかなか気づいてくれないのだが、賢いララはすぐに反応し、ひとつしかないハサミを使って器用に食べ始める。落ちている餌をつまみ上げ、口に運び、また拾っては口に入れる。その繰り返しだ。

MVI_1334.AVI


「かわい~♪」
 私もミキも、ララの食事風景に癒される。
 苦労も多いが、カニの飼育は面白い。



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頭痛のタネ

2009年07月23日 20時06分30秒 | エッセイ
 夏休み、それは主婦にとって、ありがた迷惑なものである。
 なぜなら、給食がないので、毎日子供のお昼ご飯を用意しなければならないからだ。
 中1の娘のミキは、毎日吹奏楽部の練習があるため、私は出勤前にお弁当を作っていく。
「お母さん、ミキのお弁当には豆を入れないでよ」
 私はふじっ子の「茶福豆」が好きで、毎日のように自分のお弁当に入れていたのだが、ミキはこれが許せないようで、早々に先制パンチをくらってしまった。仕方ない、豆なしのメニューを考えなくては……。

 え~、何にしよう……。

 私は料理が得意ではない。レパートリーが少ないことに加えて、味も彩りもイマイチだ。スーパーをうろうろし、散々迷った挙句、豚スライスとカボチャ、ゴールデンキウイを買った。豚肉は醤油とみりんに漬けてフライパンで焼いて、カボチャは甘辛煮にすればよい。そうそう、洗うだけでOKのプチトマトも買わなくては。
 しかし、その日のプチトマトは大粒で、ちょっとお弁当向きではなかった。どうしようかと悩んでいたら、近くに小ぶりの黄色いプチトマトがあることに気づいた。

 よーし、これでいいや。

 安易に選んだこの組み合わせ、実は失敗だった。カボチャにゴールデンキウイ、黄色いトマトは、どれも同じような色で美味しそうに見えないからだ。
「なんか、今日のおかずは黄色いのばっかりだね……」
 起きてきたばかりのミキが、ひょいとお弁当箱をのぞいてつぶやいた。いや、おかずだけではない。お弁当箱も黄色だった……。

 悔しかったので、翌日は色合い重視のメニューにした。鶏のグリル、トマトオムレツ、小松菜のお浸し、デラウエアだ。オムレツに入れるトマトは、ちゃんと赤い色のものを使った。今度はバッチリ成功だと信じて、私は鼻高々になった。
 しかし、溶き卵に入れる塩が足りなかったらしい。出来上がったオムレツを味見したら、ほとんど味がしないではないか。

 全然美味しくないけど、まあいいや。

 仕事を終えて帰宅すると、ミキが一日の出来事を話してくれた。
「今日はね、加奈とお弁当のおかずを交換したんだよ」
 加奈ちゃんは学童クラブでも一緒だった子で、ご両親とも親しくお付き合いしている。あの家ではどんなメニューのお弁当を作ったのかと興味がわいた。
「へえ、何もらったの?」
「枝豆」
 枝豆か……。ミキは茶福豆を拒否したくせに、よその家の枝豆をもらって食べたらしい。
 ちょっと面白くない……。
「……で、ミキは何をあげたの?」
「オムレツ!」
 ひええ、と叫びたくなった。わざわざ失敗したものを交換しなくたっていいのに!!
 いやいや、母譲りの性格をしているミキのことだから、美味しくないからあげたのかもしれない。
 きっと今頃、加奈ちゃんちでは、「ミキからもらったオムレツが不味かった」と夕食の話題になっているだろう……。

 さて、明日は何にしよう?
 
 ああ、早く、夏休みが終わらないかな……。



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怪奇特集ここ一番!

2009年07月19日 21時44分20秒 | エッセイ
※ このエッセイには、テレビ放映された怖い話のエピソードが含まれていますのでご注意ください。

 私の母は、原付で10分くらいの場所にある眼科で、長年受付事務という仕事をしていた。
 話は、20年ほど前にさかのぼる。
 私たち3人娘がまだ中高生だった頃、夏休みの間だけは、母が12時から1時半までの昼休みに、昼食を作るため家に戻ってきた。
 これはなかなか骨だったようだ。汗びっしょりになって帰ってきて、娘たちには食事をさせたあと、すぐにとんぼ返りをするのだから、母は些細なことでイライラしていた。
 たとえば、家に着いたとき、玄関の鍵が開いていないと怒り出す。
「昼休みが短いんだから、気を利かせて開けておいてよ!!」となるのだ。
 他にも、朝食で使った食器が片づいていないと、かんしゃくを起こす。
「何で洗っておかないのよっ!!」と、ガミガミガミガミ小言を聞かされる羽目になる。

 夏休みの楽しみといえば、某テレビで放映される怖い話だった。正午から始まるワイドショーで、特定の期間のみ、読者から寄せられた恐怖体験などを特集していたのだ。
 娘3人も母も、この手の番組が好きだったので、欠かさず見たおぼえがある。
 怒りっぽい母も、これを見ているときはおとなしくなり、「こんなことがあるんだね~」などと不思議がっていた。
 
 一番印象に残っているのは、オフコースの『YES-YES-YES』にまつわる話である。司会の男性が、神妙な面持ちで重々しく語り始めた。
「この曲には、コンサート会場に行く途中で事故死した、女性ファンの声が入っているというんです」
 ちょうど、その日は母の帰りが遅かった。午前の診察が長引くと、その分昼休みが短くなり、母の機嫌がさらに悪くなるから注意が必要だ。私は時計をチラリと見て、時間を確認した。
 司会者は、さらに声を落としてささやいた。
「そして、この声を聞いた人の多くが、金縛りにあっているのです……」
「ええっ!!」
 テレビに釘付けだった私たちは、仰天して顔を見合わせた。これまで、怖い話はいくつも見たり聞いたりしたが、金縛りにあうというものは初めてだ。

 一体、どんな声なんだろう……。

 ドキドキしながら次を待っていたら、外で「バリバリバリ」という原付のエンジン音がとどろいた。母が帰ってきたのだ。

 何でこんなときに!!

 鍵を開けて出迎えないと、またヒステリックにわめき出すと予想がついた。

 しっしかし、テレビが……。

「では、再生、スタート!」
 司会者がお構いなしに進めるので、姉も妹も動く気配ゼロだ。霊の声は聞きたいが、母の怒鳴り声は聞きたくない。こうなったら、さっさと鍵を開けに行き、一刻も早く戻るしかない。
 私はダッシュで玄関に向かい、鍵を開けて母を出迎えたあと、大あわてでリビングに戻った。が、一歩遅かったようだ。
 画面には、ゲストが恐怖に震える様子が映っていた。
 姉と妹は、「こわ~ッ!!」と悲鳴をあげて抱き合っていた。
 やがて画面はコマーシャルに変わり、私は肝心要の場面を見逃したのだと悟った。
 姉と妹が静かになったので、私は説明を求めた。
「……どうだった?」
「すごーく、怖かったよ~」
「『私にも聞かせて』って聞こえたんだよ!!」
 二人は思い出したように、「ひーッ」と叫んでつけ加えた。
「こんなに怖いんだったら、聞かない方がよかった!!」

 その夜からしばらくの間、姉と妹は並んで寝るようになった。
「一人じゃ怖くて眠れない!」のだと言う。
「一人で眠れる」私は、運がよかったのか悪かったのか、いまだにわからない……。



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ウソつき写真

2009年07月16日 20時27分34秒 | エッセイ
「東京都職員カード」というものを、私は持っている。
 それは、氏名と顔写真に加えて、「上記のものは、東京都職員であることを証明します」という文字の入っているプラスティック製のカードだ。
 有効期限は発行から5年間。私のカードは、平成19年10月31日で期限切れとなり、しばらく放置したままだった。
 理由は単純である。

 だって、写真撮るのがイヤなんだもん!!

 自分のイメージはいつまでも若いままなのに、仕上がった写真を目にしたときの衝撃といったらない。「なんじゃ~、こりゃあー!」と叫びたくなるようなほうれい線に、目の下のクマに代表される疲労感、肌の衰えは隠しようがない。しかも、カメラの性能がいいほど衝撃は大きくなる。
 まあ、一種の現実逃避というやつだ。

 しかし、知り合いの日記を読んで気が変わった。彼女は、池袋の某百貨店に入っている写真館で身分証明書写真を撮影したのだが、気になる部分を修整してもらい、お見合い写真にも使えそうな出来栄えになったという。

 これは、私も便乗せねば!!

 彼女から詳細を聞き出し、早速職員カード用の写真を撮りに行った。
「はい、アゴひいてください。右肩少し上げられますか~?」
 カメラマンの男性の指示に従い、何枚か撮影した。そのあと、パソコン画面に写真を取り込み、修整作業に入った。
「はい、じゃあ、ここに座って一緒にご覧になってください」
 画面には、指名手配犯のような私の顔が、4枚並んでこちらを見つめていた。「キャーッ!!」と悲鳴を上げたくなるような人相の悪さだ。思わず目をそらした。
 男性は、私の動揺を知ってか知らずか、やや事務的に話を進めた。
「この中から、どれか一つを選んでください」
 全部イヤですと答えたくなった。おそるおそる画面に視線を戻して、身の毛もよだつ写真の群れから、一番マシかもしれないと思えるものを選んだ。
 次に男性は、選ばれた一枚を、画面いっぱいにデカデカと拡大した。
 大きくなった自分の顔が「ドーン」と現れた瞬間、私は後ろにのけぞった。心臓に悪すぎる!!
 男性は写真をジッと見ると、マウスを巧みに動かし、肌の色を明るくしはじめた。くすんでしおれていた肌が、水気を含んでつややかに生き返ったようだった。
 今度はマウスポインタを口元に移動し、口角をほんの少し上げた。うんと上げることもできるし、下げることもできるらしい。1センチ上げるだけで表情が明るくなり、5歳くらい若く見えるから不思議だ……。
「この髪は消しちゃっていいですか?」
 見ると、頬に髪が一本へばりついている。「はい」と答えるとマウスが消しゴムに変わり、修正液を塗るように消されていった。頭の輪郭からはみ出している髪も、消しゴムでキレイに整えられていった。
 私はひたすら、彼の技術に感心するばかりだった。
「他に直してほしいところはありますか?」
 この調子ならば、目を大きくしたり、シワをなくしたりすることも可能だろう。でも、別人になっても意味がない。まとわりついてくる欲望を振り払いながら、私はキッパリ言った。
「いえ、もうこれで十分です!」

 後日、更新した職員カードが出来上がった。さすがに、満足のいく仕上がりだったので、周りの同僚にも修整写真の威力を見てもらった。
「大学生みたい~!」
「キレイに撮れていますね」
 どの人も驚き褒めちぎる。「そうでしょ、そうでしょ」と私も天狗になった。修整写真というより、ウソつき写真というか、詐欺写真というか……。
 問題は有効期限だ。平成24年10月31日となっているから、残りわずか3年ではないか。

 先日、同僚の佐藤ゆき子ちゃんが、副校長と話をしていた。
「先生、私の職員カードの有効期限が切れたのですが、なくて困ることってありますか?」
「うーん、このカードは身分証明書にはならないから、郵便局の振込みには使えないんだよね。実は、僕も半年前に切れたままで、更新してないんですよ」
「出勤時のカードリーダは、期限切れでも使えますものね」
「強いて言えば、時間外に都庁に入るときは必要かな。それ以外は免許証があれば問題ないと思います」
 私は耳をダンボにして、二人のやり取りを聞いていた。時間外の都庁なぞ、まずあり得ない。

 東京都職員カードって、診察券レベルなのかしら??
 じゃあ、定年までこのカードを使うか~!



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干潟みやげ

2009年07月12日 21時45分26秒 | エッセイ
 先日、昔の同僚から、「干潟の数万匹のカニのダンスを見ましょう」というイベントのお知らせをメールで受け取った。
「ミキ、カニ見に行きたい?」
「えっ、カニ? 行きたい、行きたい!!」
 この同僚は、理科の先生をしていた方で、年に数回、化石採集やら地層見学やらのイベントを企画し、私とミキにも声をかけてくれる。早速、「参加します」の返信をした。
 カニは自宅でも簡単に飼育できるそうだ。元同僚からは「カニの生態を観察してみては」と勧められたので、乗り気ではなかったが、虫かごを持っていくことにした。
「ミキ、物置から虫かご取ってきて」
「何に使うの?」
「カニを入れて持って帰ってくるんだよ」
「え? あんな小さいのに入らないでしょ?」
 私とミキは、無言でしばし見つめあった。何か勘違いしているようだ。
「ミキ、食べられるカニじゃないよ。海岸にいる小さなカニだよ」
「ええっ、タラバガニとか、毛ガニじゃないの?! みんなで茹でて食べるのかと思ったのに~」

「食べられないカニ」を見るイベントは今日だった。京急線「大鳥居駅」に11時に集合し、本羽田干潟へ向かった。



 本日の干潮は13:56である。すでに水が引き始めていて、干潟には大小さまざまな穴が開いている。



「これはカニの巣穴です。小さなコメツキガニは穴も小さく、縦に延びています。でも、チゴガニは同じように小さくても、巣穴が途中でJやL字型に曲がります」
 ガイドであるカニ博士の吉田さんが、石膏で型を取った巣穴を見せながら比較した。
「次はこちらを見てください。これはカニが脱皮したあとの皮です」



 死骸かと思ったら、皮だったのか! ちゃんと目までついているから不思議だ。

 一通り話を聞いたあとは、カニをつかまえる作業に入った。干潟の入口は砂浜になっていて、比較的小さなカニが多いが、奥に進むにつれ粘り気の強い泥地に変わり、大きなカニがたくさん生息していた。
 ミキも含め、子供たちは夢中になってカニを追いかけていた。
 特にヤマトオサガニが多かったようだ。このカニは、体長25mmとやや大きめであり、目と目の間が狭く、細く長い目をピンと立てているのが特徴という。



 しかし、人が近づくとサッと巣穴に潜ってしまい、なかなかつかまえられない。
「シャベルよりも、手で巣穴に沿って掘るといいんですよ。こんな風に」
 吉田さんが大きな巣穴を掘っていくと、あっという間に逃げたヤマトオサガニがつかまえられた。さすがに、毎日カニを観察しているだけのことはあり、一種の職人芸とも言える。
「わ~、スゴイ!!」
 ミキはもらったカニを虫かごにしまい、私に持たせると、次のターゲットを探し始めた。
 巣穴を掘り逃げられ、巣穴を掘り逃げられを繰り返したあと、ついに自力でカニをゲットした。
「やった! 初めて自分でつかまえられたよ!!」



 吉田さんに見てもらうと、これもまたヤマトオサガニとのことだ。同じ種類のカニはひとつの水槽で飼えるからちょうどいい。

 干潟では、たくさんのカニが拍手をするようにハサミを動かし、楽しそうにダンスをしていた。これが、数万匹のカニのダンスというやつなのだ。何のためにするのかということは、正確にわかっていないらしい。

 昼食後、3匹目のヤマトオサガニを捕まえたので、次は別の種類を探すことにした。
「ねえ、あのカニ、大きくてやたらと足が長いよ。あれどうかな?」
 意外と簡単に捕まえられたのだが、なかなか凶暴なカニだった。軍手の上からミキの指をハサミで攻撃し、何とかして逃げようと頑張っていた。
「いててててて!! お母さん、早く写真撮って~!」



 吉田さんに見てもらうと、体長36mmと大きい「アシハラガニ」とのことだった。
「これはメスですね。もうすぐ産卵しそうです」
 吉田さんはアシハラガニを裏返し、性別を解説した。メスには幅広い腹部があるそうだ。
「ヤマトオサガニは大人しい性質なので、アシハラガニに攻撃されることがあります。一緒に入れないでください」
 えっ、凶暴がカニが増えちゃうの??
 私とミキは顔を見合わせた。

 ミキが狙っていたのは、爪が赤くて可愛らしいアカテガニである。しかし、それらしいものは見つからず、代わりに体長35mmのクロベンケイガニをつかまえた。
 これはオスだったようだ。オスのハサミは大きく攻撃力も高い。ミキはまたもや指をチョキチョキされた。
「痛い痛い痛い!! 早く入れ物ちょうだいっ!」
 クロベンケイガニも隔離して飼育しなければならない。基本的に、違う種類のカニは同じ水槽に入れてはいけない。ということは、少なくとも3個の水槽が必要となる。
「なるべくたくさんの泥を持ち帰ってくださいね。同じ環境で飼育することが大切なんです。巣穴を掘りますから、5cmくらいは必要です」
 
 泥が足りなかったので、今週末、また大鳥居駅まで取りに行くことにした。
 水は水道水でいいと言われたが、人工的に満潮・干潮を作る必要があるらしい。
 水槽でもダンスをするくらい、居心地がよくなるといいのだが。



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出会い系小学校

2009年07月09日 20時04分10秒 | エッセイ
 私が6年間通った小学校を、仮に「新松小学校」と呼ぶことにしよう。
 引越しをしていないから、姉と妹も新松小学校の卒業生である。のみならず、姉の夫である義兄も新松小学校を出ている。さらには、妹の夫である義弟も、新松小学校を卒業しているのだ。
 
 何という偶然……。

 学校数の少ない地方ならばいざ知らず、首都圏でこうなる確率はかなり低い。
 姉と義兄は低学年のときの同級生で、そのときは愛が芽生えなかったようだが、30代後半になってからのクラス会で再会し、結婚にこぎつけた。
 妹と義弟は、地元の企業で知り合った。義弟が勤めている会社で妹がアルバイトを始め、意気投合して今にいたっている。たまたま同じ小学校だっただけなのだが、経歴を聞くかぎりでは、小学校からの知り合いと思われても不思議はない。
 ちなみに、妹の息子と娘も、新松小学校に通っている。
 ちょっとくどい……。

 私の夫は、生まれも育ちも練馬なので、さいたま市にある新松小学校とは縁もゆかりもない。
 義弟と義兄が新松小学校出身だと知ったとき、私は非常に悔しい思いをした。
 もし、私も新松小学校卒の相手を選んでいたら、3姉妹とその夫が、揃って同じ小学校を卒業しているという珍記録が生まれたのに!!
 ふと、5年生のとき同級生だった、イケメンでスポーツマンの浩君のことを思い出した。
 
 甥が習いたての「新松小学校 校歌」を歌い始めると、妹夫婦だけでなく、姉夫婦や私までもが口出しをする。
「し~んまつ、の音が外れてる」
「あはは、ホントだ~」
「そこ、伸ばしすぎ!」
「もういっぺん歌ってみなさい」
 大人が、甥を囲んでにぎやかに歌唱指導していると、話題についてこられない夫と娘が「仲間外れだ……」と静かになる。

 新松小学校では、最近、こんな出会いも生まれている。
 先日、妹から送られてきたメールを読み、私は仰天した。
「とうとう新松小の児童が2人、新型インフルエンザに感染したわ~! 他に陽性反応が5人、高熱による欠席者が5人だって。放課後に連絡網が回ってきて、明日から一週間休校だよ!!」

 つ、ついに、こんな身近なところまで来てしまったか!!

 いくらなんでも、新型インフルエンザウイルスとは出会いたくないものだ。
 私はそそくさと返信をした。
「あら、大変ね。しばらく遊びに来なくていいわよ」



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おかきと煎餅の違いを言えますか?

2009年07月05日 20時18分43秒 | エッセイ
 先日、大阪に本社がある、某米菓製造販売業の社員さんと話をする機会があった。
「我が社の主力商品は、進物用のおかきなのですけれども、東京の方は煎餅を好まれるようですね」
 え? おかきと煎餅って同じじゃないの? と疑問に感じたので、率直に聞いてみた。
「あの、おかきと煎餅はどこが違うんでしょうか?」
「はい。まず原料ですね。おかきにはもち米を使いますが、煎餅にはうるち米を使います。ですから、おかきは煎餅よりも硬く仕上がります。工程にも差があり、おかきは2週間ほどかかりますが、煎餅は1週間くらいです。したがって、おかきはやや高価になり、煎餅は低価格で販売できるというわけです」
 目からウロコであった。やけに硬い煎餅を食べたことがあったが、それはきっとおかきだったのだろう。
 彼は、持参したパンフレットを広げ、自社商品の一覧を見せてくれた。
 その中で、一目惚れした商品があった。緑の皮にピンクの実、豆の種を散りばめたスイカのような、色鮮やかなおかきである。

「うわあ、これカワイイ!!」
「ああ、それは夏季限定のスイカおかきです。皮の緑は青のりを使い、実のピンクにはエビを使用しております」
 これは、遊び心満点のアイデア商品だ。私はすっかり感心してしまい、早速池袋まで買いに行くことにした。
 売り場に着き、スイカおかきのパッケージを探すと、すぐ見つかった。

 
 これこれっ!!

 だが、パッケージの近くのサンプルを見て、私は伸ばした手を引っ込めた。パンフレットのような半円ではなく、まん丸のスイカだったからだ。

「あのー、このスイカおかきなんですけれど、丸いものしかないんですか?」
「はい。この一種類だけとなっておりますが」
「パンフレットで見たら、半月型になっていたんですけれど……」
 私の質問に、売り場のお姉さんも困惑気味になった。
「いえ、こちらの形しかございませんが……」
 古いパンフレットだったのだろうか? なんかスッキリしないけれども、丸くてもスイカはスイカだ。ここはひとつ、妥協したほうがいいと思った。
「じゃあ、これ、2つください」
「ありがとうございます。1260円になります」

 家に持ち帰ると、思った通り、娘や夫に大ウケだった。
 お味の方は……。
 上品な塩味が利いていて、パリッとした歯応えに、もち米そのものの美味しさが伝わってくる逸品だった。
「美味しい~♪」
 家族みんなでワイワイと楽しめた。これに慣れたら、素材の味が薄い煎餅は食べられないかもしれない。

 しかし、やはり形は半円のほうがいいと思う。
 だって、スイカを輪切りで食べるなんて、あり得ないじゃない!!



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ここだけの話

2009年07月02日 19時45分57秒 | エッセイ
 ここだけの話だが、私は制服フェチである。
 警察官や鉄道員が帽子をかぶり、キリッとした制服姿になると、全部が全部イイ男に見えてしまう。
 とりわけ好みなのが自衛官だ。筋肉質の、まるで彫刻のような肉体に、あの制服はこの上なくマッチする。緑がベースの陸自はシブく、白詰襟の夏服がまぶしい海自は爽やかで、濃紺で攻める空自には大人の色気を感じる。

 もう、どれでもいいっ!!

 ひと昔前に、家庭科の同僚が結婚した。「お相手は同業者?」と私が聞くと、彼女は「いいえ」と首を振り、続けて答えた。
「夫は、じえい……」
 そこまで聞いたところで、私の頭が予測ワード機能を働かせた。

 えっ、自衛官?!

「夫は、自営業なんです」

 ……それくらい、私は自衛官に反応するタチなのだと理解していただきたい。

 4月末、勤務先の高校に、自衛隊からの電話があった。卒業後の進路先のひとつとして、入隊について説明しに来たいとのことだった。
「午前中、ご挨拶にいらっしゃるそうです。どなたか対応できますか?」
 電話を受けた同僚の報告に、私はすばやく右手を上げて叫んだ。
「ハイハイハイ!! 私がやりまーすっ!!」
 異様な熱意に、周りの教員はいっせいに引いた。予想通り、ライバルはいなかった。
「じゃ、じゃあ、笹木さん、お願いします……」
 思わずニヤけてしまう表情を引き締め、化粧や髪型もチェックして、制服の、もとい自衛隊の到着を今か今かと待っていたが、一向に現れる気配がない。席を外すたびに、「すぐ戻りますから」と周りに断って待機していたのに、とうとうその日はやって来なかった。

 どういうこと!?

 何か手違いがあったのかもしれないけれど、待ちぼうけにカチンと来た。

 しばらくして、また自衛隊から電話があった。
「先日は失礼いたしました。今日こそは伺えると思いますが、ご都合よろしいでしょうか?」
 受話器の向こうから、やや高めの、透明感のある声が聞こえてきた。現金な私は、この間すっぽかされたことなどどうでもよくなり、元気いっぱいに返事をした。
「ハイッ、大丈夫です!!」
「じゃあ、3時半でいかがでしょうか」
「結構ですよ。お待ちしております」
 またもや私は崩れそうになる顔を整え、お色直しをしてそのときを待った。
 今度は予定通りに来てくれたが、服装で期待を裏切られた。制服ではなく普通のスーツを着ていたからだ。

 ひどいっ!! 何で制服じゃないの?!

 明るく好印象な男性だったから、制服を着ていれば、さらに魅力が倍増したのに……。生徒も、関心を持つと思うのだけれども、残念である。
 そんな私にピッタリの、『制服軍服ブログ』というサイトを見つけた。これは面白い!! すっかりファンになってしまった。

 東京・渋谷に『自衛館』という施設があるらしい。
 ここは、2008年7月にオープンした自衛隊のオフィシャルPRスペースで、自衛官の募集資料・自衛隊関連のDVDソフト・自衛隊情報誌などの閲覧ができる。
 私のお目当ては、制服コーナーである。陸・海・空すべての制服と制帽が用意されており、実際に自衛官が着用している制服を試着することが可能という。

 開館は11:00~19:00で、水曜定休日と書いてある。
 誰か、一緒に行きませんか~?



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コメント (18)
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