これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

似てる? 似てない?

2008年11月30日 20時36分24秒 | エッセイ
 今年の文化祭で、私のクラスはホットドックを販売した。飲み物はつかず、本当にホットドックだけ。切れ目の入ったドックパンに、ホットプレートで炒めたソーセージをはさむだけのお手軽さ。担任である私が面倒くさがりのせいか、生徒も似てしまうものらしい。100円という価格もうなずける。
 この高校では、クラスの出し物をPRするための立て看板を作ることになっている。
「今年は、先生の顔描くからね~」
 自称画家の田中はヤル気十分だが、所属しているダンス部のステージに集中したいのか、こちらもお手軽な素材ですませようとしているようだ。
 しかし、当事者としては、どんな顔にされるのか考えただけでも恐ろしい。
「ん~、こんな感じだよ」
 私が絵のイメージを尋ねると、田中は慣れた手つきで、サラサラッとルーズリーフに下絵を描き始めた。髪型も服装も似ているけれども、ニッコリ笑った顔にはほうれい線とカラスの足跡がクッキリと描かれているではないか。早速私はクレームをつけた。
「このシワはダメ! 修正してよ!」
「だって、シワがなかったら似ないじゃん」
 田中の主張ももっともなので、結局シワは薄い色にするということで妥協した。
 自分では頑張っているつもりだったのに、生徒から見ればこんなもんなんだな……。
悩んだところでどうにもならないのだが、私は相当落ち込んだ。こう見えても、美容にはある程度支出をしている。コラーゲン飲料にヒアルロン酸のサプリ、ローヤルゼリーに鉄剤・ビタミン剤で、しめて月3万5千円だ。もちろん、もっと投資している人もいるけれど、これ以上出しても変わらない気がする。
 そんな私の裏事情を知らない田中はベニヤ板2枚に、せっせとシワ入りの私の顔を描きはじめた。
「どう、進んでる?」
 探りを入れに行くと絵を隠してしまい、「まだダメ」と言って見せてくれない。一体どんな顔に描かれていることやら。
 数日後、期限ギリギリに立て看板が完成したと、田中が照れながら報告しに来た。
「やっとできたから、今並べてきたんだよ」
「へぇー、見たい、見たい!」
 私は階段を駆け下り、看板のもとへと急いだ。すでに生徒が集まっており、しゃべったり笑ったりする声が響いていた。
 しかし、絵を見た瞬間、私は彼らのように笑うことはできなかった。

 なにこれ、最初の下絵と全然違うじゃん!

 顔からはみ出すほどの大きな口は、吸血鬼のように立派な犬歯をむき出しにして、商品であるホットドッグにかぶりつこうとしている。口の周りに飛び散っている赤い水滴はケチャップらしいが、血かもしれないと思われることを期待しているようだ。
 眉毛ほどの大きさしかない目もボサボサの髪も、化け物じみた雰囲気を強調していて、非常に気に入らなかった。
 シワだけは約束通り黒を使わず、肌の色よりやや濃い目の色で描いてあったが、それはもうどうでもよくなった。
 さらに不愉快なのが、見た者の反応である。
「これ、先生に似過ぎだよ~!」
 近くにいた生徒が大笑いで話しかけてきたが、私は決して認めなかった。しかし、教員までもが真顔で同じことを言うではないか。
「いやぁ~、ソックリ! よく特徴をとらえてますよ! 誰が描いたんですか?」

 
 何だかアホらしくなって、コラーゲン飲料とヒアルロン酸のサプリを解約した。
 たっぷり睡眠をとるほうが、美容のためにはよさそうだ。



お気に召したら、クリックしてくださいませ♪
※姉妹ブログ 「いとをかし」 へは、こちらからどうぞ^^(11/30更新)
コメント (6)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

うわさの二人

2008年11月27日 20時17分02秒 | エッセイ
 職員室には休暇黒板(白板)というものがある。
 その日に休暇や出張などで不在の教員を書き出すものだ。
 単なる事務連絡の道具ではない。そこではいくつものドラマが生まれている。

 前の職場の話だ。
 歓送迎会が終わり、私は二次会の誘いを断って店を出た。
 同僚の康夫クンと美恵子サンも帰る様子だったので、一緒に駅まで行くことにした。
「お料理はまあまあだったけど、量が少なかったわねぇ」
 二人の間に入って、たわいのない話をしているうちに駅に着いた。
「じゃあ、私、こっちだから。お疲れさま~」
 私が二人に別れを告げると、康夫も美恵子もとびっきりの笑顔になって頭を下げた。
「お疲れさまでしたぁー!!」
 その後気づいたのだが、どうもこの二人、同じ日、同じ時間帯に休暇黒板に名前が並ぶことが多い。もしやもしや……?!
「えっ、知らなかったの? あの二人はとっくの昔からデキてるのよ」
 気の置けない同僚にこう言われ、私は青ざめた。お邪魔虫だったのか!!
 人間観察は好きだけれども、人の幸せには興味がないので気づかなかった……。
 その後、ついに二人はゴールインした。めでたし、めでたし。

 ときどき、娘の通院などで休暇を取ることがある。自分が休んでいるときは休暇黒板を見られないが、そのほうが本人のためになる場合もある。
 休み明けに出勤したら、いきなり気分が悪くなることを言う人がいた。
「昨日は、笹木さんと山村さんの名前が、仲良く並んでいましたよ~」
 山村というのはメタボ体型な上、口臭と加齢臭をプンプンさせて威張り散らす50代の男性である。
 他にも休んだ人がいればともかく、二人の名前だけしかないと、やけに目立つものだ。
「二人で温泉にでも行ってたりして、なーんて話していたんですよ」
 んなわけないだろっ!
 何と屈辱的な……。しかも、続きが待っていた。
 午後から出張する用事があり、申請手続きをした日のことだ。休暇黒板を見て「あっ」と声を上げそうになった。
 出張欄にはすでに、山村氏の名前が書かれていた。
 うわっ、どーしよ、どーしよ、また名前が揃っちゃうよ!!
 私の困惑をよそに、副校長は山村氏の下に「笹木」と書き始めた。やけに名前がくっついている。もっと離してくれればいいのに!!
 そして、案の定、茶化す人が現れた。
「ややっ、今日は二人で出張ですかー。帰りが遅くなりそうですね」

 娘の話によると、小学生でも先生方の色恋沙汰には気づくらしい。
「高橋先生は吉田先生が好きなんだよ。いつもベタベタくっついて話しかけているもん。でも、吉田先生は高橋先生が嫌いみたいで、迷惑そうな顔してるんだよ」
 ちなみに、高橋先生というのは娘の隣のクラスの担任で、推定年齢55歳、細木数子タイプのオバさまである。対する吉田先生というのはそのまた隣のクラスの担任で、30歳そこそこの爽やかなスポーツマンだ。
 追うオバさまに、逃げる若造という図式が目に浮かぶ。
 昨年の今頃、娘の学年は社会科見学で群馬県の自動車工場を訪れた。朝から弁当を作り、おやつと水筒も持たせて送り出した。
 その日の夜、娘に「どうだった?」と感想を聞いてみた。
「楽しかったんだけど、高橋先生はインフルエンザで休みだったの。2組のバスには副校長先生が乗ったんだよ」
 担任不在では児童も心細かったことだろう。さらに娘は話を続けた。
「吉田先生も、ノロウイルスで吐いちゃって休み。3組のバスは用務主事さんが乗ってたよ」
 4クラス中、2クラスの担任が校外学習に不在とは珍事である。滅多にあることではない。
 そして、小学校の休暇黒板にも、二人の名前が寄り添って書かれていたに違いない。
「一生の不覚!!」
 吉田先生の叫びが聞こえるようだ。



お気に召したら、クリックしてくださいませ♪
※姉妹ブログ 「いとをかし」 へは、こちらからどうぞ^^

コメント (10)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

SDカードの実力

2008年11月23日 20時20分36秒 | エッセイ
 親の勧めで免許だけは取ったけれども、私は車の運転が苦手だ。
 父の車を車庫入れでぶつけ、ドアをへこませたこともあるし、ノロノロ運転で後続車に煽られたのに、全然気づかなかったなんてこともある。
 とりわけ、18年前の勤労感謝の日は忘れられない。

 自宅でのんびり過ごしていたら、夫から電話がかかってきた。
「アキレス腱を切っちゃって車の運転ができないんだ。悪いんだけど、俺の代わりに家まで運転してくれるかな?」
 体育教師だった夫は、その日の部活指導中、左足のアキレス腱断裂というアクシデントに見舞われた。学校まで車で来たのはいいけれど、置き去りにするわけにはいかないから、私を呼んだというわけだ。
 当時夫が乗っていた車は三菱パジェロのロングボディー。しかも、オートマではなくマニュアル車である。
 それまでに、夫の車を運転したことは一度もなかったから不安だったが、やるしかないので引き出しの奥にしまい込んでいた免許を引っ張り出し、彼の学校まで駆けつけた。

 正門にはパジェロと夫と、たまたま来ていたらしい顔見知りの先生たちが集まっていた。
「お待たせしました! じゃあ、連れて帰りますので」
 私がにこやかに挨拶をしたのに、先生方はやけに暗い顔だった。
「奥さん、運転大丈夫なの?」
「ええ多分。見てください、SDカードも持っているんですよ」
 今はデザインが変わったようだが、私はSafe Driver を意味するSDカードを見せた。

 運転していないのだから、事故も違反もなくて当たり前なのだが。
 しかし、彼らの表情は変わらない。義経と静御前が吉野山で離ればなれになるときのような、今生の別れといった面持ちである。
「でも、事故ったらどうしよう~」
 場を和ませようと笑顔で言ったのに、シャレにならなかったようだ。誰一人として笑わないどころか、うつむいたり目をそらしたりする者もいた。

 なによ、なによ、バカにして~!!

 突如、私のファイティングスピリットに火がついた。何が何でも無事に帰宅してやる! と誓った瞬間だった。
 運転席に乗り込んでシートの位置を調整した。助手席に座った夫は、ひたすら無言だ。
 時刻は午後7時過ぎ。とっぷり日が暮れていたが、ライトのつけ方くらいはわかる。ギアをローに入れ、ゆっくりとパジェロを動かした。
「じゃあ、失礼しまーす! お世話になりました~!!」
 運転席の窓から私が挨拶すると、彼らも生気の抜けた表情で、これも義務といわんばかりに手の平を左右に振った。

 目白通りに入ればよいことは知っている。西武池袋線の踏切を越えたところで信号に引っかかった。青に変わったので発進させたが、ギアをセカンドに入れたときに、足元からガリガリガリという奇妙な音が聞こえてきた。
「なに? 変な音がするよ」
 とっさに疑問を口にしたら、夫がため息とともに答えた。
「……ギアがトップに入ったんだよ」
「えっ、マジ?!」
 クラッチを踏み込んで、ギアを入れなおした。今度はセカンドに入ったようだ。耳障りな雑音がなくなった。
 その後も、気を抜くとすぐにガリガリしてしまう。パジェロのヤツ、私をナメて言うことを聞かないのだ!
「なによ~、この車、バカなんじゃないの?!」
 私がふくれると、夫は静かに反論した。
「手に変なクセがついているんだろ。もっと丁寧に扱わないと」
 ふ~んだ。
 言い返す余裕がないので、私は心の中で舌を出した。
「そろそろ右の車線に入って」
 夫の指示が出た。
 ゲッ!! 私は車線変更がキライだ。ウインカーを出すのは簡単だが、右の車線に車があったら面倒である。
「ねー、後ろ、車が来てる?」
「そんなの、自分で確認しなきゃ。ドライバーの責任だよ」
 なによ、ケチ。父も母も見てくれたのに。
 幸い、ミラーにはそれらしきものはなく、目視してもOKである。祝日の夜は空いているからよかった。地獄で仏とはこのことだ。
 今のうちに、と急いでハンドルを切ったら、夫の体がグラリと揺れた。
「うわっ、急ハンドル切らないで!!」
「ああ、ゴメンゴメン」
 ほんのちょっとハンドルを曲げればよかったのか。次はそうしよう。
 谷原交差点を右折し、新大宮バイパスを目指した。
 その間も、ガリガリ、グラリの連続だったが、埼玉県は私のホームグラウンド。ここまでたどり着くと、気持ちにかなり余裕が生まれた。
「ねぇ、もうすぐだね~。思ったより簡単でよかったよ」
 気分よく話しかけたというのに、夫の返事はドライアイスのような冷気を帯びていた。
「まだ着いてないだろ。おしゃべりしないで、集中、集中!!」
 ちぇっ! どんだけ信用してないんだよ。
 
 その後、一回エンストしたものの、どうにかこうにか我が家に帰ることができた。駐車場に車を停めたときの喜びといったらない。私は達成感で歌いだしたい気分だったが、夫は腰が抜けたように、しばらく立ち上がれなかった。

 今、私はゴールド免許を持っている。
 私の運転で、誰か一緒に那須まで行きませんか~?



お気に召したら、クリックしてくださいませ♪
※姉妹ブログ 「いとをかし」 へは、こちらからどうぞ^^(11/23更新)
コメント (9)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

おいてきぼり

2008年11月20日 20時04分30秒 | エッセイ
 目が覚めたとき、あたりは暗闇だった。時間はまもなく午前0時になるところ……。

 どうしてこんな時間まで、居間の床に寝ていたのだろう?

 まったくわけがわからず、しばし考え込んでしまった。その日は私の誕生日だったので、小6の娘と夫から花をもらったあと、近所のイタリアンレストランで豪華なコース料理をいただいた。久しぶりのワインにはしゃぎ、帰宅してから何通かメールの返信をしたはずだ。だが、そこから先の記憶がない。
 寝室をのぞいてみると、夫と娘が温かい布団の中で、安らかな寝息を立ててぐっすり眠っている。私はかなりのダメージを受けた。

 ひどーい、どうして起こしてくれなかったの! 私の誕生日だっていうのに、二人でさっさと寝ちゃって……。あんまりじゃないの!

 二人の気持ちよさそうな寝顔を横目でにらみ、私はすごすごと洗面所に向かった。

 なんてみじめな誕生日……。

 寝ようとしたら、布団までもが冷たかった。

 翌朝、夫と顔を合わせても、ムカムカしておはようの挨拶しかしなかった。もっとも、普段から会話が弾まない夫婦だから、いつも通りと言えないこともなかったが。
「おはよう」
 娘が起きてくると、それまでの気詰まりな空気が一変する。しかし、その日の娘はやけに機嫌が悪かった。
「お母さん、昨日は何時に寝たの?」
 いきなり尖った声で話しかけてきた。
「うーんと、12時だったかな……」
「ミキは、お母さんのせいで寝不足なんだよ~!」
 どこが寝不足なのだ。あんなにグースカ眠りこけていたくせに。
「お母さんだって寝不足だよ。なによ、二人して先に寝ちゃってさ。どうして起こしてくれないのよ!」
 思わず不満をぶちまけると、娘は心外だと言わんばかりに、声を荒げて反論してきた。
「起こしたよ! 何度も何度も体を揺すって、耳元で話しかけて! でも、お母さんは全然起きなかったの!」
 ワインに酔った私は、9時頃から居間で眠り込んでしまったらしい。娘の声に反応する様子はなく、起きる気配ゼロだったものだから、ついに諦めて放置し二人で床に就いたという。
「でもね、心配になったからミキは何度も起きてお母さんを見に行ったの。11時くらいまで眠れなかったんだから! それなのに、それなのに、何で起こしてくれないのなんてひどいっ! キーッ」
 娘は怒り出し、金切り声を上げて私を罵りはじめた。ムキになっている娘を見て、私はこらえきれずにふき出した。

 そうか、そういうわけだったのか! 見捨てられてなくてよかった!!

 以来、朝寝坊を注意すると、娘にこう言い返されようになってしまった。

「何さ、お母さんだって起きなかったくせに!!」



お気に召したら、クリックしてくださいませ♪
※姉妹ブログ 「いとをかし」 へは、こちらからどうぞ^^(11/16更新)
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

思い込み

2008年11月16日 19時51分23秒 | エッセイ
 結婚して最初に住んだ賃貸住宅は、『アイセイハイツ』という名前だった。
「結婚しました」のハガキに、新住所を書いて方々に連絡したというのに、新年早々届けられた年賀状には違う名前が書かれていた。

『アイヤイハイツ』

 どういう建物だよ……。

 書いていて変だと思わなかったのだろうか? しかも、一人二人の間違いではなく、十人ほどが同じミスをしていた。
 中には、夫の先輩とおぼしき年配の方が、達筆な筆づかいで『アイヤイハイツ』と書いたものもあり、ひときわ滑稽に見えた。

 思い込みというものは厄介だ。本人は正しいと信じていても、根本的には間違っているのだから。間違いの種類もさまざまで、『アイヤイハイツ』などは笑ってすませられる部類に入るけれども、勝手な思い込みから犯罪に発展する場合などはシャレにならない。

 生徒の答案にも、これまた思い込みによる珍答が多い。
『為替レート』なのに『為替ルート』。
『アウトソーシング』を『アウトソーイング』。
『石油』の読みが『せきゅう』。
『社債』が『しゃせき』
 etc……。
 
 こんな間違いしちゃって~、おっかしーと笑っていたら、他人事ではなかった。

 実は、私はエッセイを出版したことがある。
 カルチャースクールに通いながら、せっせと書き上げたエッセイをまとめてみたくなったのだ。



 3年以上前のことだが、選んだ出版社がよりによって新風舎だったものだから、倒産・買い取りという悲しい結果が待っていた。
 現在我が家には、この本が300冊ほどある。ご希望のかたには差し上げたいくらいだ。
 その後、新風舎の顧客を文芸社が引き継ぎ、再度の出版計画が進行中である。内容的には変更なしで、製本しなおしてもらえばよいという気持ちでいた。
 先日、文芸社から校正原稿が送られてきたのだが、読んでビックリした。

『間髪を入れず』→『容れず または いれず では?』
『追い打ちをかける』→『追い討ち では?』
『機嫌を伺い』→『窺い または うかがい では?』
『二軒のバイト』→『二件?』
etc……。

 どれもこれも、誤用だったとは!!
 知らなかったとはいえ、もう出版してしまったのだ。これはシャレにならない間違いである。

 新風舎、どうして教えてくれなかったんだよっっ!!

 考えてもどうにもならないことは、開き直るにかぎる。
 私、国語科の教員じゃないからいいんだも~ん、だ!!



お気に召したら、クリックしてくださいませ♪
※姉妹ブログ 「いとをかし」 へは、こちらからどうぞ^^(11/16更新)
コメント (11)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

トンデモ卒業式

2008年11月13日 20時07分06秒 | エッセイ
 卒業式まで、あと4カ月!
 現在、私は高校3年生の担任をしており、そろそろ表彰生徒選出などの準備に取り掛かろうとしている。

「卒業式」という言葉で私の頭を検索すると、真っ先にヒットするのはこの思い出だ。

 それは、教員1年目で臨んだ卒業式だった。当時勤務していた高校は、底辺校とまではいかなかったけれども中退率が高く、タバコや暴力などの問題行動もしばしば見られるところだった。
 数年前に統廃合の対象となり、残念ながら今はなくなっている。

「卒業証書、授与」
 司会の先生が高らかに宣言すると、壇上には下手から校長が登場する。
「1組、浅田太郎、石川啄郎……」
 舞台の前では担任が卒業生を呼名し、生徒は返事とともに座席で起立する。
「……山田由美、以上33名、代表、村上春香」
 クラス全員の呼名が終わると代表生徒が壇上に上がり、校長から卒業証書を受け取る手はずとなっている。
 代表の女子は、まず来賓に一礼、職員に一礼したあと、舞台正面の階段を上がって校長に向き合った。
「礼っ」
 ここで起立しているクラス全員が頭を下げ、顔を上げたところで校長が卒業証書を読み上げるのだ。
 しかし、どういうわけか礼のあと、校長も代表生徒もお見合いをしたまま動こうとしない。

 一体、何が?

 式場の誰もが異変を感じ取ったことだろう。
 まもなく、バタバタバタと大きなサンダルの音が響いてきた。見ると、舞台から出口に向かって、学年主任の先生が走りに走っているではないか。白髪を振り乱し礼服の背広をヒラヒラさせて、心臓麻痺を起こしそうなほど息苦しい表情で扉の向こう側に吸い込まれていった。
 どうやら、何かアクシデントが起きたらしい。
 しかし、何のアナウンスもなく、相変わらず校長と女子生徒は向かい合ったままなので、一同は二人をじっと見守るしかなかった。とてつもなく長い時間に感じられたが、おそらく5分程度のものだったろう。
 息を切らし、肩を上下に振動させて学年主任が戻ってきた。両手に載っている大きな風呂敷包みから、ようやく何が起きたかわかった。

 卒業証書を忘れたんだ~!!

 卒業証書は担任団が作成し、卒業式まで事務室の金庫で保管することになっていた。その学校では、式場に運び込むのも担任団の役割だったのに、生徒の指導や段取りの打ち合わせなどで失念してしまったのだろう。

「卒業証書、村上春香。昭和47年5月3日生まれ。右は……」
 校長が、やけに落ち着いた声で文面を読み上げ、ことは一件落着した。かのように見えた。
 式が終わり、職員室で打ち合わせがあった。校長はありきたりの挨拶をしたあと、ひときわ大きな声で付け足した。

「この学年は、卒業させるまで本当に苦労しているんだと思いました!!」

 根に持つ校長の痛恨のイヤミに、ドッと笑いが起きた。

 当事者には申し訳ないが、この卒業式は強烈すぎて、20年近く経った今でも忘れられない。
 4カ月後の卒業式では、何はさておき、卒業証書をチェックしよう!



お気に召したら、クリックしてくださいませ♪
※姉妹ブログ 「いとをかし」 へは、こちらからどうぞ^^
コメント (8)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

スカートの中

2008年11月09日 21時10分56秒 | エッセイ
 人に見せないことを前提としている場所に、人間性が表れるような気がする。
 たとえばスカートの中。
 隙のないおしゃれをする人はここにも手を抜かず、誰に見せるわけでもないのにレースで彩られた下着を身に着けていたりする。あっぱれである。
 そして、目的のためには手段を選ばないタイプの私は、寒いときにはこっそり毛糸のパンツを履いたり、腹痛があれば腹巻をしたりする。
 服もまたしかり。
 ブラウスの下にババシャツなんていうのもアリだ。

 どうせ見えないんだからいいじゃん!

 しかし、油断大敵とはよく言ったもので、いつかギャフンと言わされるときが来る。

 ある朝出勤したら、職場にレントゲン車が止まっているのに気づいた。
 そうか、今日は健康診断なんだっけ。
 思い出したとたん、一気に血の気が引いた。

 ガ、ガードル履いてきちゃった……!!

 見られて困るものは、他にもある。
 先日、パソコンが起動しなくなり、修理のためにサービスマンを呼んだ。
「では、ハードディスクから必要なデータを取り出したあと初期化して、直るかどうか試してみましょう」
 バイクでやってきた若いエンジニアが修理の手順を説明した。私と夫は彼に従い、データの取捨選択をすることになった。
「この『運動会』は必要ですか? ずい分容量が大きいですね」
「あ、それはバックアップを取ってあるからいらないです」
 こんな調子で個別にファイルを確認していたら、エンジニアの手が一瞬止まったような気がした。
「……この『砂希ちゃん様』というフォルダはどうしますか?」

 ゲッ!!
 こちらの思考も一時停止した。
 それは私のエッセイを保存してあるフォルダなのだ。まさか、他人に公開する日が来るとは思わなかったから、ふざけた名前をつけたのだった。
「そっそれは消して構いませんっ」
 私はすっかり取り乱して答えた。
「本当に消しても大丈夫ですか? 一応ファイル名を確認してみてください」
 頼んでもいないのに、彼はフォルダをクリックして、わざわざファイルを表示した。

  いいもの見たゾウ      きみはペット以下
  クチニニガシ        すべり込みだよ、人生は
  マッチョなピーマン     横取りセンセイ
  禁断の焼き鳥        男の敵
  猫の倍返し         ズボラー
 
「なに、この変な名前~!」とバカにされそうなファイル名のオンパレードだ。私は部屋からトンズラしたくなった。
 夫も彼も口を半開きにして、無言で画面を眺めたままだった。
 そのとき、前回の更新に必要な下書きファイルがあったことを思い出した。
「あ、『映画でワハハ』だけ残してもらえますか?」
「『映画でワハハ』ですね。わかりました」
 心の中はいざ知らず、エンジニアの彼はまったく気にしていない素振りをした。眉ひとつ動かさず淡々と作業を進めていく。
 こういうときは、相手が無反応のほうがいたたまれない気分となる。
 恥ずかしい思いをした甲斐あって、2時間後、めでたく我が家のパソコンは復活した。

「ああ、パソコンね。俺も赤っ恥をかいたことがあるよ」
 友人の伊東は、昨年、不調のパソコンを電気屋に持ち込み修理を依頼した。
 まもなく、自宅に電話がかかってきた。
「マイドキュメントに保存されている『ナースと乱パー』というデータが消える恐れがありますので、バックアップを取りましょうか?」
 伊東もまた、見えないところで何をしているのかわからない男だったのだ!

 さて、あなたのスカートの中やパソコンには、何の問題もありませんか?




お気に召したら、クリックしてくださいませ♪
※姉妹ブログ 「いとをかし」 へは、こちらからどうぞ^^(11/9更新)
コメント (14)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

映画でワハハ

2008年11月06日 20時23分09秒 | エッセイ
お断り:この作品は、映画『ホームレス中学生』の内容についての記述を一部含んでいますのでご注意ください。

 笑うポイントが、若干ズレていると感じたことがある。
 あれは、高校生のときだった。友達何人かと、香港の人気俳優ユン・ピョウ主演の映画『チャンピオン鷹(1984年公開)』を観に行った。
 ユン・ピョウはサッカー選手を志す青年で、オジさんと呼ばれる病気の老人と貧しい暮らしをしている。映画の冒頭で、ユン・ピョウが帰宅すると、オジさんが杖をつきながらフラフラと歩いて出迎えるシーンがあった。「おお、おかえり」と言ったとたんに都合よく咳き込むと、うまい具合にポキリと杖が折れてオジさんは体のバランスを崩す。ちょうど階段となっている場所だったものだから、オジさんはゴロゴロと転がり落ちるのだ。
 なんと、陳腐な演出!
 いかにも惨めさを表したい! というわざとらしさに思わず「アハハ」と笑ってしまった。が、友達は誰も笑っていない。
 アレ? ここって笑うところじゃないの??
 友達だけでなく、劇場内のどこからも笑い声が聞こえない。それどころか、可哀想な場面なのに何と不謹慎な! と言わんばかりの冷ややかな視線が集まった。
 どうして面白いと思わないんだろう、と私は首をひねった。

 そして先日、小池徹平主演の映画『ホームレス中学生』を観に行った。
 ショックだった。美少年・徹平くんは、一体何回「ウ○コ」と叫んだことだろうか……。自動販売機の下に落ちている硬貨を必死の形相で探ったり、コンビニ弁当を野良犬並みにガツガツとむさぼり食ったり、果てはふたについたマヨネーズまで舐めていた。

 よく、こんな役を引き受けたなぁ……。

 館内には笑い声が上がっていたが、痛々しくて、私は顔を引きつらせるばかりだった。
 しかも、入浴シーンのおまけつきだ。徹平くんは仲良しの友達に偶然道で会い、誰にも話せなかったホームレス状態を打ち明ける。友達はいたく同情し、家に連れ帰って食事を食べさせようとする。ついでにお風呂にも入れてもらえるのだ。

 由美かおるの入浴シーンなど比較にならない露出度であった。お尻まで見せちゃっていいの?! と、こちらがドキドキハラハラする始末。相当心臓によろしくない。
 そして、このときから徹平くんの生活は上向きになっていく。友達の両親がとても面倒見のいい人たちで、何かと力になってくれたおかげだ。
 友達の母親役は田中裕子が演じていた。父親役は……どこかで見たことがあるのだけれど、すぐには思い出せない。やけに貫禄があり、怖そうでいて温かみがあるような人だった。

 あ、宇崎竜童だ!!

 一世を風靡した、あのダウン・タウン・ブギウギ・バンドのヴォーカリストではないか。道理でスクリーンでも存在感があるわけだ。年をとっても、元祖ロックンローラーはカッコいい。
 物語は進み、徹平くんたち兄弟のために借りた部屋をみんなで掃除する場面となる。田中裕子が、当たり前のようにぬれ雑巾を宇崎竜童に手渡した。すると、彼はやおら窓を拭き始めたのであった。

 ええっ、宇崎竜童が雑巾がけ?!

 おかしくて、私は「クックックッ」と鳩のような笑い声を立てた。しかし、周りは誰も笑っていない。
 アレ? 面白くないの??
 笑うどころか、ハンカチを片手に目頭を押さえる人が目立った。無理もない。赤の他人の優しい気持ちが、スクリーンいっぱいにあふれているのだ。もちろん私だってジーンときたが、それとこれとは別! 

 やっぱり、ズレているかもなぁ……。

 家に帰り、早速夫に「宇崎竜童が……」と報告すると、彼はとても驚き下を向いてつぶやいた。
「宇崎竜童の雑巾がけなんて、想像もできないよ」
 ……夫は笑えずに、痛々しく感じるほうかもしれない。




お気に召したら、クリックしてくださいませ♪
※姉妹ブログ 「いとをかし」 へは、こちらからどうぞ^^
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

和風ハロウィン

2008年11月02日 18時15分05秒 | エッセイ
 今年は娘の小学校で、PTAの委員を引き受けた。仕事のひとつに、地区内で行う子ども会行事というものがある。
「ハロウィンがいいよ。他の6年生もやりたいって言ってるもん」
 娘の意見を聞き入れ、見よう見まねで実施してみた。

 ハロウィンと言えばお菓子と仮装……。この行事のために、小学校から1人あたり200円が支給される。わが地区の児童数は23名なので、4600円を預かった。
 ハロウィンのお菓子といえば、クッキーなどの焼き菓子が思い浮かぶ。
 が、娘はそうではなかった。
「やっぱり、ベビースターラーメンだよね。うまい棒もいいなぁ。かっぱえびせんも美味しいよね」
 ……まあよい、ここは日本だ。どうせなら、子供が喜ぶお菓子を調達しよう。

 これは一種の買い物ゲームだ。ベビースターラーメンは1個31円だから23個で713円、かっぱえびせんは4個で105円だから6個買って630円……。欲しいものをリストアップし、単価を調べて購入計画を立てるのだ。いかに予算ギリギリまで使い切るかがポイントなので、パソコンを立ち上げExcelを駆使して、このゲームに挑んだ。
 ほどなく、4600円を完璧に使い切るプランが完成し、一人あたりのお菓子は、このようになった。


 このほかに、チロルチョコとマーブルガムをゲームの景品用に買った。かっぱえびせんやキットカットなどの大袋入りの菓子はいくつか余るから、すべて景品に回せばよい。

 そして迎えたハロウィン、私と娘は魔女の仮装をした。あいにくと、ハロウィン用の仮装グッズはすでに品薄状態となっており、何でもいいからそれらしいもので誤魔化すしかなかった。


 
 何か違うような……。まあよい、ここは日本だ。
 待ち合わせの場所には、続々と仮装をした児童が集まってきた。かぼちゃだったり、黒いマントを羽織っていたり……。もちろん、普段着でもOKだ。

「僕、忍者になったんだよぅ~!!」

 目だけを出した黒い頭巾に、黒子の衣装、背中には刀をくくりつけて登場した1年生には笑った。これぞ、我が国ならではの仮装!! 素晴らしい。
 訪問先をピンポンしたら、「トリック・オア・トリート!」と言うことになっている。さすがに高学年は元気いっぱいに声を揃えて叫ぶ。が、低学年は消え入りそうな声で、「ト、トリック……オア……トリート……」と下を向いてボソボソつぶやくだけだ。
 お菓子をくれなきゃイタズラするぞという意味なのに、お菓子をもらってあげるからイジメないでと言っているみたい!

 家庭を訪問し終わったあとは、景品をかけて漢字合わせゲームを行った。漢字が完成した子から、順番に好きな菓子を選び、持ち帰ることができるのだ。
 景品は貧富の差が激しい。かっぱえびせんとキノコの山、チョイス、おかきもちは1個だけしかないし、キットカットも7個しかない。あとは数合わせで買ったチロルチョコとわずか10円のマーブルガムとなる。
 一番にもらえる子は、当然かっぱえびせんを選ぶものかと思っていたが、そうではなかった。
「やった~、ガムがあるぅ!!」
 意外なことに、その女の子は一番ショボいマーブルガムに手を伸ばした。次の子もその次の子も、争うようにガムを取っていく。
 あっという間にガムはなくなってしまった。最も軽視していたお菓子が一番人気だったとは! 子供の好みはわからない。

 来年のハロウィンでは、赤鬼の仮装をして、駄菓子を振舞うなんていうのも一興かもしれない。




お気に召したら、クリックしてくださいませ♪
※姉妹ブログ 「いとをかし」 へは、こちらからどうぞ^^ (11/1更新)
コメント (6)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする