これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

あて先知らず

2008年09月28日 17時22分58秒 | エッセイ
「ただいま留守にしております。ピーッという音のあとにメッセージをお入れください」
 またか、と三原はウンザリした顔をした。
「××高校の三原と申します。今日、慎一君は欠席でしたが、どうしたのでしょうか。この調子で休むと2年生に進級できません。休まないように気をつけてください。では、失礼いたします」
 担任している生徒に問題があれば、教員は保護者に連絡をしなければならないが、電話をかけてもなかなか繋がらないという家庭も多い。平成ひと桁の年では携帯電話も普及しておらず、家庭連絡は教員の悩みのタネだった。
 ひとまず留守電にメッセージを残し、1学期の成績が出たころ、じっくりと三者面談をしよう。
 三原はそう考えて、その後も慎一が遅刻、欠席を繰り返すたびに、メッセージを吹き込んだ。しかし、家庭から学校に折り返し電話をもらうということはなかった。
 ある日、三原が慎一の家庭にメッセージを入れようとしたときだ。「ハイ」という声がして、珍しく電話が繋がった。三原の心臓は、うれしさのあまり、三段跳びをしそうな勢いで弾んだ。
「××高校の三原ですっ!! 何度か、留守電に録音させていただきましたが、慎一君のことでゆっくりお話ししたいことがありますっ。いつなら学校にお越しいただけますか~?」
 ついつい、声が大きくなってしまった三原だが、受話器から聞こえる声は冷ややかだった。
「ああ、××高校の先生ですか……。いつか言わなきゃと思っていたんですが、間違い電話なんですよね。うちには子供がいませんので……」
 ええっ! 
 ということは、慎一の家には何ひとつ伝わっていないばかりか、何の関係もない家に、せっせと迷惑メッセージを吹き込んでいたのか!
 三原の顔は、みるみるうちに熟れた柿のように真っ赤になった。
「ご迷惑をおかけして、大っ変、申し訳ありませんでしたっっ!」
 受話器に向かって平謝りするしかなかった。
 引っ越しをして電話番号が変わったことを、慎一が報告しなかったせいで起きた喜劇、もとい悲劇であった。自分の名を名乗った上での失敗は、とてつもなく恥ずかしい。三原の落ち込みぶりは激しかった。

 携帯電話の普及にともない、今は保護者との連絡にさほど苦労をしない。生徒ともすぐに連絡がつくし、昔の苦労がウソのようだ。
 しかし、携帯が料金滞納でストップしたり、壊れたりするとどうしようもないというデメリットもある。
 私も先日、携帯が故障して困ってしまった。寝ているときは電源をオフにしておくのだが、起床してパワーオンにしても「wait a moment」のメッセージが出たままで、待受画面にならない。どのボタンを押しても反応せず、電源を切ることさえできなかった。
 ひとまず出勤し、仕事が終わったらショップに寄るしかない。
 しかし、そういうときに限って生徒は悪さをするものだ。
 帰りのホームルームに行ったら、一人生徒がいなくなっていた。春山という男子だ。周りの子に聞くと、具合が悪いから帰ると言っていたらしい。
 たとえ、体調不良で早退するとしても、担任に何のことわりもなく下校した場合は無断早退となる。一年生ならともかく、三年生でこれをされてはかなわない。
 私は春山に連絡を取ろうと思ったが、今日は携帯が使えないことを思い出した。

 あ、アドレス! 春山のは簡単だったから、あれならわかる。

 たしか、ha-ruだったはずだ。私は学校のパソコンを使って、春山にメールを打ちはじめた。
『笹木です。携帯が故障中なので、このアドレスに返信をください。今日はどうして帰ったのですか? 三年生にもなって無断早退は許されませんよ。明日は細菌検査(検便)の提出があります。忘れないように注意してください』
 うまく送れるか心配だったが、エラーもなくすんなりと送信できた。だが、待てど暮らせど春山は返事をよこさない。大抵の生徒は、自分に都合の悪いメールは無視しようとする。春山、お前もか、と腹立たしくなった。
 仕事が終わりショップに寄ると、まずまずイケメンのお兄さんが、あっという間に私の携帯を元通りにしてくれた。
「フリーズですね。こういうときは電池パックを取り出すと、リセットできるんですよ。他の機能に異常はないので、これで大丈夫だと思います」
 なんだ、そんな簡単な操作で直せたのか。無知とは恐ろしい……。
 私は恐縮してお兄さんに礼を言い家路についた。メールをチェックすると、何と春山から来ているではないか!
『お腹が痛くて我慢できなかったので早退しました。言わなくてスミマセン』
 ウソ! 故障中だって教えたじゃん!! ……まさか。
 私は急いで春山のアドレスを確認した。
 ha-ru-@×××
 ああっ、uのあとにハイフンがついてたんだぁ~!
 どうやら、縁もゆかりもない相手に間違いメールを送ってしまったようだ。焦りながら、何か変なこと書いたかなぁと内容を思い出した。
 ゲッ、検便!!!
 きっと、受信した相手は驚いたことだろう。食事中だったら申し訳ないことである。
 げに恐ろしきかな、三原現象……。



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あったらいいな

2008年09月25日 18時04分55秒 | エッセイ
 娘のミキは、レーサーになってサーキットをぶっ飛ばす夢を見ていた。
 うなるエンジンが声援のように反響し、1着でゴールインを決める。
 やった! 優勝だぁ~!!
 ミキは両手をあげてガッツポーズをし、表彰式に臨んだ。優勝カップを受け取るとき、またエンジン音が鳴り響いてきた。
 レースは終わったのに、どうして?
 しかし、音は鳴り止まず、ますます大きくなって近づいてくる。ゴゴゴゴゴー!!
 ハッ、とミキは目を覚ました。
 エンジン音だと思っていた音は、隣で寝ている私のイビキだった……。

「お母さん、これ買いなよ」
 東北新幹線の車内で、隣のミキが背もたれのポケットに入っている通販カタログ『トレインショップ』を見ながら言った。
『スノア・ストッパー  イビキを感知して作動する、睡眠を妨げないスグレモノ \10,290』
 長年、私のイビキに悩まされてきたミキのリクエストである。提案というより命令に近いものがあった。
 うつぶせ寝枕を使ってみたものの、寝相の悪い私はすぐに仰向けになってしまい、イビキをかき始めるそうだ。ミキに文句を言われないために、早速電話で注文してみた。
 さすがはJR、オペレーターが男性だった。私は通信販売が好きなので、いろいろな会社を利用しているが、男性が応対するところは初めてだ。何か違和感があった。
 1週間ほどして商品が到着した。
 ワクワクしながら開封したが、パッケージの文字を見て一気に不愉快になった。
『スノア・ストッパー  もうこれで彼のイビキに悩まされない』
 まるで、イビキが男性特有のものであるかのような書き方ではないか。女性失格の烙印を押されたようで、気分が悪くなった。この表現は改めたほうがいいと思う。



 腕時計のようにこれをはめて寝ると、3回以上イビキを感知したとき弱い電流が流れる。刺激によって姿勢を変えさせ、イビキを止める仕組みになっているらしい。なるほど!
 刺激の強さは7段階になっており、好みで調節する。
 最も弱いレベル1に合わせ、電流の強さをテストしてみた。腕にピリピリッという刺激が走り、予想以上に痛い。
 そして、この刺激は、微弱電流により目元や頬・口元のたるみを解消する美容商品によく似ている。多少の違いはあるだろうが、基本的な作りは同じなのではないだろうか。
 ちなみに、私は8年前にE-FACEという名前の、目の下と頬に貼り付けて顔の筋肉を鍛える商品を買った。最初は熱心に使用していたが、段々装着するのが面倒になり、1年も経たないうちにお蔵入りになっている。



 スノア・ストッパーを使い始めた初日、ミキからは「お母さんが静かだったからよく眠れた」と感謝された。頑固なイビキも電気刺激にはかなわなかったようだ。手強い敵を新兵器で撃退し、私は満足だった。
 ところが、一週間もすると腕が刺激に慣れてしまったのか、イビキが形勢逆転を狙って反撃しはじめた。
「ガーガーガー、ぴたっ、ガーガーガー、ぴたって感じで、またうるさかったよ」
 ミキから苦情を申し立てられ、私は心底がっかりした。

 そこで私は思った。
 腕ではなく、顔に装着するスノア・ストッパーを開発してほしい!
 今はコードレス化しているE-FACEに、イビキを感知する機能を付加してはどうだろうか。長時間装着しても肌荒れしないことが前提となるが、イビキを感知したら電気刺激が起きて姿勢を変えさせるだけでなく、肌のたるみにも効くとなれば一石二鳥。たとえイビキが治まらなくても、美容機器として役に立てばオーケーだ。
 でも、イビキが治まったときは、何の役に立つのだろう?



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こんな荷物アリ?

2008年09月21日 20時30分36秒 | エッセイ
 その日の飲み会は、聖二の話で盛り上がった。
「うちのベランダで、伝書鳩がうずくまっていたんだよね。すっかり弱っていて飛べなかったから、このままじゃカラスに食べられると思って家に入れたんだ」
 聖二は、これまでに何度か、カラスが鳩や雀を襲う場面を見たことがある。エサにされては可哀想だと感じた。
 足の輪を抜き取り、連絡先を確認すると、ほんの数キロ先の住所が書いてあるではないか。聖二はすぐさま電話をかけてみた。
「もしもし、お宅の伝書鳩が飛べなくなっているので、うちで保護しているのですが、引き取りに来てもらえますか?」
 先方は慣れた口調で返答した。
「そうですか、ありがとうございます。では、宅配便を手配しますので、お手数ですがこちらまで送っていただけますか」
 聖二は面食らった。
「ええ!? 宅配便ですか? 生き物を送っていいんですか?」
「はい、いつもそうしているんです。鳩は、一週間くらい飲み食いしなくても生きられるから、大丈夫です」
 そういう問題か? と思ったが、聖二はあえて口を挟まなかった。
 やがて、宅配便の業者がやって来て、空気穴のついた箱に鳩を収納し、トラックに積み込むとあっさり去っていった……。

「へえ~、鳩を宅配便で送ることができるなんて知らなかったわ。ビックリね」
 陽子はそう言うと、一気にビールを空けた。他のメンバーも同じ意見だった。世の中には、まだまだ知らないことがあるものだ。
「宅配便は、やっぱり○マトだった?」
 真奈美がワイングラスを片手に尋ねると、聖二は笑って答えた。
「いーや、違ったよ。ネコの会社じゃ、食われそうな気がして頼めなかったんじゃないかぁ?」
 ドッと笑いが起きた。

 知り合いに、○マトのセールスドライバーをしている福田がいたので、早速聞いてみた。
「ああ、鳩ね。送れるよ。鳥かごに入れて、上と下だけ段ボールで覆うんだ。料金は大きさと重さで決まるから、普通の荷物と一緒だよ。ただし、死んでも保障はないけど」
 福田は淡々と説明し、つけ加えるように言った。
「配達ルートにペットショップがあると大変だよ。ウサギや犬、猫なんかも普通に送られてくるから、車内が臭くなっちゃう」
 特に臭うのがハムスターなんだそうな。鳩は臭わないけれども、クックッと鳴いてばかりでうるさいらしい。動物アレルギーのあるドライバーはツラいだろうな。

 もとは運輸会社の末端に過ぎなかった宅配業務が、今やこんなに発展するとは驚きだ。
 将来は、酔いどれ亭主や家出娘を連れ戻すのに、宅配便を使える日が来るかもしれない。
 ……なわけないか。



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親バカな日々

2008年09月18日 20時53分14秒 | エッセイ
 4月にブログを開設して以来、ミキに次ぐ第2子を授かったような毎日を送っている。
 朝目を覚ますと、まずはパソコンに向かう。前日のアクセス数やコメントを一刻も早くチェックしたいからだ。気が済んだら電源を落とし、ようやく出勤前の家事や身支度に取り掛かる。
 日中は仕事だから離ればなれだが、つい「次はこのネタでいこう」「書き出しはこうして、オチはああして」と考えてしまい、頭の中では文字がグルグル回っている。仕事でうっかりミスをすることはあるけれども、マイベイビーを片時も忘れることはない。
 帰宅すると夕食の仕度が待っている。それさえ終われば自由時間だ。再びパソコンに電源を投入し、更新の準備にとりかかる。Wordでエッセイを完成し、ブログ作成画面にコピーすると新規投稿完了となる。
 記事数がひとつ増えることは、わが子が「ママ」「パパ」「ねんね」などの新しい言葉をおぼえていく様子によく似ている。子供の成長を実感すると、この上なく幸せな気持ちになれる。
 ブログ作りも子育ても、睡眠時間を削ったり外出を減らしたりと、自分を犠牲にしなければできない。私の平均睡眠時間は5時間だ。家と職場の往復ばかりで、しばらく飲みに行っていないし、映画館やデパートからも足が遠のいている。
 でも、それが子育ての醍醐味だと思う。やりたいことを我慢する不自由な生活と引き換えに、無限の愛情を注ぐかけがえのない相手が得られるのだ。子育てを面倒で厄介だと感じる人もいるようだが、自分よりも大切なものがあってこそ、人生は豊かになると私は信じる。

 不幸にして、二度ほどブログにエロコメントを書かれたことがある。わが子が痴漢にあったような気分となり、「なにコレッ!」と激怒した。書くほうは軽い気持ちなのかもしれないが、大切なものを踏みにじられたような、切ない親心もわかってほしい。

 先月、『ブログ通信簿』なるものをもらった。
 うわっ、低ッ!



 「主張度 1」「気楽度 3」「マメ度 3」「影響度 2」で、評定平均はたったの2.3である。大学全入時代とはいえ、これではどうしようもない。
 たちまち、成績不振で三者面談に呼び出されたような気分になったから、考え方を変えてみた。

 きっと、3段階評価なのよ~!

 ちょっぴり元気が取り戻せた。やはり、ものは考えようだ。
 先週、またひとつ新ブログを開設した。第3子である。こちらは最初から、不定期更新・思いつくまま気の向くままのショートエッセイと決めているから楽チンだ。
 ふと、気づいたことがある。
 
 下の子ほど、子育てが手抜きになるって本当だな……。

 さらなる成績不良が予測されるが、バカな子ほど可愛いとも言うではないか。
 まずは、よろしくお願いいたします。



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プラチナ騒動

2008年09月14日 21時16分59秒 | エッセイ
 昨日9/13は任天堂DSソフト『ポケットモンスタープラチナ』の発売日だった。

 妹の子供は2人とも9月生まれだ。今年も誕生日会に招待されたので、妹に尋ねてみた。
「プレゼントは何がいい?」
「あ、ポケモンのプラチナがいいんだって。2人とも」
「DSの? 同じの2つでいいの?」
「そうそう。よろしくね」
 あとから、安請け合いしたことを後悔した。
 ポケモンに詳しい娘に聞くと、人気商品だから予約しないと買えないだろうと言われてしまった。ときは8月末……。インターネットで検索してみると、すでにプラチナは予約終了となっている店が多かった。○トーヨーカドーではまだ予約可能なので、サイトにアクセスしてみた。
『ポケットモンスタープラチナ(特典なし)¥4,280 お一人様1点限り』
 もっと早ければ、特典としてギラティナのフィギュアが付いた商品を買えたらしい。ぜいたくを言っている場合ではないので、ひとまず1個注文した。
 しかし、2個目はどうなるのか? 夫の名前で予約すれば買えると思ったのだが、そう甘くはなかった。
『カートに商品がありません』
 無常にも、パソコンにはこんなメッセージが表示された。
 どうやら、ネット上のお一人様とは1ユーザーのことらしい。「成人が2人いるのに!」と憤ってもどうにもならないのが悔しかった。
 仕方がないので他のサイトを確認してみる。○マゾンでも予約受付中と書いてあったので、のぞいてみてビックリした。
『ポケットモンスタープラチナ(オリジナルフィギュア付き)¥5,750』
 ちなみに、これは一番安い価格だ。実に25人もの人間が、特典付きプラチナを売りに出していた。価格の安い順にハンドルネームが連なり、最高値としては¥8,160もの価格がつけられている。他のサイトでは、特典付きでも¥4,680で販売されていた。ということは……。

 定価で予約したフィギュア付きを、高い値段で売ろうとしているのだ!!!

 これは許せない。はじめから転売目的で予約をし、欲しくもない子供の遊び道具を確保して儲けようとは! その人のせいで、欲しくても手に入らない子供がいたとしても、自分が手にするはした金のほうが大事なのだろう。
 この人たちは、良心をわずか2000円前後で売ったのだ。絶対に買うものか!!
 と息巻いてみたものの、あと1個はどこで注文すればよいやら……。
 私の場合、怒りのパワーで頭の回転がよくなるようだ。すぐに代案が浮かんできた。
 そうだ、携帯で注文すればいいんだっ!
 予測は見事的中した。○トーヨーカドーは携帯からもアクセスできるので、今度は夫の名前で予約を申し込んだ。これで一安心だ。甥と姪が喜ぶ様子を思い浮かべ、私は心から安堵した。
 あとから知ったことだが、9月初旬でも特典付きを予約できた店がごく一部にあったらしい。また、予約なしの店頭販売で手に入れた人もいるようだ。○マゾンでは特典なしのプラチナも¥5,800~¥6,300で売っていたのだが、一体誰が買うというのだろう?
 不届き者の売り手に、ギラティナの強力技シャドーダイブ(*)を繰り出し、懲らしめてやりたい。

 昨日13日の昼前、予約したプラチナが宅配便で届いた。苦労した分喜びもひとしおだ。私は妹に『大変だったけれど、プレゼントが用意できたよ』というメールを送り、鼻高々だった。
 間もなく妹から『面倒かけたみたいだね、ありがとう』という返信が届いたとき、遅ればせながら気がついた。
 もしや……妹はこの争奪戦に巻き込まれたくなくて、私に頼んだのではないだろうか。
 行間からは、手の平を口に当てホッホッホッと高笑いしている妹の姿が見えるようだった。
 やられた!!!

*シャドーダイブ……1ターン目に姿を消し2ターン目に攻撃する技



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神社効果? ◇ええじゃないか◇

2008年09月11日 20時22分33秒 | エッセイ
 ドドンパ → フジヤマ → ええじゃないか の順で乗ったのは失敗だった。
『ここから1時間45分待ち』
 10時30分にようやくたどり着いたアトラクション、ええじゃないかは一番待ち時間が長かった。果たして、小6の娘、ミキは根気強く待てるだろうか?
「大丈夫だよ、お母さん。早く並んで乗ろう!」
 そういえばディズニーランドでも、3時間待ちのビッグサンダーマウンテンでじっと我慢できたのだっけ。
 イカ焼きに目を奪われている夫を残し、私とミキは列の最後尾についた。

 並びながらレールを見ていると、青い車両がスタートし、坂を上昇していった。ほとんどの乗客が履物を脱ぎ、靴下や裸足で乗っている。床や囲いがない手足ブラブラ型のアトラクションなので、落下を防ぐためだろう。
「サンダル脱ぐのはわかるけど、靴も脱いだほうがいいのかなぁ?」
 私は素朴な疑問を感じた。
「絶対脱いだほうがいいよ。ホームページに、足が頭よりも上にくる回数が14回でギネス記録って書いてあったもん。なくなったら大変だよ」
 夫に似て心配性のミキに説得されてしまった。たしかに、コースターの動きは相当激しい。用心するに越したことはなさそうだ。
 そのとき、ミキが思い出し笑いをしながら言った。
「お母さん、今日は靴下、大丈夫?」

 話は正月にさかのぼる。
 毎年、私はミキを連れて、新年のご祈祷を受けに近場の神社に行く。特に神道を信仰しているわけではないけれど、あのタイムスリップしたような衣装は魅力的だ。気が向けば正月以外にもお祓いに行くので、神社からは祭典の案内状が定期的に届けられる。一応、お得意様らしい。
 ちなみに、ミキは5年間仏教保育を受けているし、私はキリスト教会の日曜学校に通っていた。我が家は宗教に公平で、かつ一貫性がない。
 畳張りのご神前で正座をしていると、なぜか足の裏がスースーする。振り返って足元を確認してみたら、靴下が今すぐにでも破れそうなくらい薄くなっているではないか。足の裏の真ん中あたりが擦り減って網のようになり、そこから皮膚が透けて見えた。

 やだぁー、こんなの履いてきちゃった!

 幸い、私たちの後ろには誰もいなかったから、恥ずかしい思いはしなかった。
 ちょうど、神主がご祈祷を受ける人たちの住所、氏名、生年月日を読み上げている頃だったろうか。
 隣のミキに軽く触れると、ミキは黙ってこちらを見た。私も無言でミキに目配せし、視線を背後に移動させて言いたいことを伝えた。

 お母さんの足、ちょっと見てごらん。

 ミキは私の視線をなぞり、足の裏にたどり着いた。刹那、目尻が急激に下がり、慌てて右手で口を抑えた。そのまま下を向き、肩を小刻みに揺らして、必死でこみ上げてくる笑いと戦っていた。
 子供ながらに、厳かな雰囲気の中では静かにしなければいけないと理解していたのだろう。
 ご祈祷が終わると、ミキの肘鉄が飛んできた。
「何で、そんな靴下履いてくるのよ~!! おかしくっておかしくって、鼻水出そうになっちゃったじゃないか!」

 たしか、今日はおろして間もない靴下だったはずだ。一応靴を脱いで確認してみた。
「うん、今日のは大丈夫だね」
 ニヤニヤしながらミキが覗き込んできた。私はむしろ、普通の靴下を履いてきたことを残念に思った。
「もし破けてたら、絶対ウケたのになぁ」
 
 富士急ハイランドの待ち時間は、さほど正確ではない。私たちの順番が回ってきたのは、実に2時間半後のことだ。シートに身を沈めたときの喜びといったらない。
「ええじゃないか、ええじゃないか♪」
 係員の、やや事務的な歌と手拍子が始まるとスタートだ。後ろ向きに動き出し、早速足が上になり体が回転する。坂を上りきったところまではよかったが、ファーストドロップ以降は上下左右に体を振り回され、自分がどんな格好をしているのかすらわからない。平衡感覚を徹底的に破壊するという触れ込みは本当だった。
 これでもかこれでもかという揺さぶりに、Tシャツの裾がめくれた。ついでにジーンズの裾も折り返された。決してスカートでは乗れないアトラクションである。
 視界を遮られた直後、逆さまで落下したので、頭上に地面が迫ってきた。
「ワァッ!!」
 ここ何年も絶叫マシーンでヒヤリしたことはなかったが、久しぶりに懐かしい感覚を味わった。
 なんと、不思議なコースター。周りが見えないのに、見えたらとんでもない状況になっているところが斬新だ。私はきっと、この四次元コースターのとりこになるだろう。

「なんか、フラフラするけど、楽しかったねぇ~」
 ミキは並び疲れも見せず、スキップしながら言った。
 ええじゃないかの入口には大きな鳥居がそびえ立っている。和と神社をテーマにしているんだそうな。
 しばらくお祓いに行かなくてもいいかな、と私は思った。
 あれだけブンブン振り回されれば、厄だって落ちるわな。



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アンタはエライ ▲フジヤマ▲

2008年09月07日 20時49分40秒 | エッセイ
 富士急ハイランドでは、キング・オブ・コースター・フジヤマが一番好きだ。
「フジヤマは最高傑作のコースターだから、一度くらいは乗ってみなよ~」
 絶叫マシーンが嫌いな夫を誘ってみたが、やはりフラれてしまったので、娘のミキと二人で並んだ。
 待ち時間は30分くらいだったろうか。回転がよいので、午後になっても長時間待つことはない。
「すご~い、ミキたちが乗るのは金太郎だよ!」
 2002年に誕生したという、金箔3kgを使用したピッカピカの車両『フジヤマ金太郎』の先頭に、私とミキは乗ることになった。
 最高到達地点79mまで上昇している途中で、初乗車のミキがビビりはじめた。
「もういいよ……。これ以上高くならなくても……」
 無理もない。頂上に近づくにつれ、人は米粒のように小さく見え、はるか遠くの景色まで見渡せるのだ。万一、ここで車両事故でも起きたら死ぬな~、と不安がよぎる。

 絶叫マシーンを楽しめるか否かは、事故に対する捉えかたで決まるのかもしれない。
 不幸な事故が、たびたびニュースで取り上げられる。ほんのわずかでもその可能性があるならば、心配性の夫は断固として乗ることを拒否する。しかし、お気楽者の私は、事故の確率が非常に低いことに安心し、「大丈夫じゃ~ん!?」とばかりに乗りまくる。
 実際のところ人体はもろい。テーブルの上から落下した生卵のように、高いところから人が落ちれば大変な惨事となる。安全装置の故障もまた然り。
 誰もがわかっているけれど、不安をかき消すほどの娯楽性があるから、絶叫マシーンには長蛇の列ができるのだろう。

「フジヤマのファーストドロップは長いから、力を入れないほうがいいよ。バーにしがみついてるほうが怖いんだよ」
 私は真顔のミキにアドバイスをする。
「力、入れちゃダメなの? 逆かと思った」
「手は上げたほうが怖くないんだよ。手を離すと、風になったみたいで気持ちいいから、やってごらん」
 金太郎はついに頂上に到着した。先頭に乗るとコースがよく見える。レールはいったん右に曲がり、ちょっとじらしたあと左に曲がって落ちていく。
 この瞬間がたまらない。
 ゴオオオオオッ、と音とともに、金太郎は猛スピードで地面めがけて走り出す。
 体が浮き、髪が後ろに引っ張られる。風を体全体で受け止めると、自分が大気の一部になったかのような気がする。抵抗せず、風と共存することを楽しんで、気分はまるで鳥人だ。
 フジヤマのすごいところは、3分36秒に渡って乗客を飽きさせない点だろうか。急落下はその後何度も続き、鳥人気分が持続する。後半は速度を上げ、首が痛くなるくらい荒っぽく疾走する。
 発着所に着いたときは、係員の拍手につられて、思わずこちらも手を叩いてしまうくらいハイになる。
「すっご~い! 楽しかったねぇ!!」
 上昇中の弱気発言はどこへやら、ミキは目をランランと輝かせて興奮冷めやらぬ様子だった。この子もまた、私と同様に、楽観的な絶叫マシーンフリークになるだろう。

 結局、夫が乗ったのは観覧車だけだった。
 フリーパスを買ってあげたのになぁ……。



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いらぬ心配 ☆ドドンパ☆

2008年09月04日 20時00分04秒 | エッセイ
 8月27日、富士急ハイランドに行った。お目当てはもちろん、絶叫マシーンだ。
 営業時間は8時からだったが、私たち一家が到着したのは9時近くだった。
『待ち時間 ドドンパ40分 フジヤマ20分 ええじゃないか40分』
 園内の表示を見て、出遅れたことを悔やんだ。雨の日が続いたあとだったので、そこそこ人出があるようだ。
「じゃあ、まずはドドンパから行こう!」
 フジヤマは10年前に乗ったことがあるけれども、ドドンパもええじゃないかも初めてだ。もちろん、娘のミキも。
 ホームページによると、『発射後わずか1.8秒で時速172kmの圧倒的な加速力』とある。2001年誕生当時はギネス認定された速さだ。最大加速度は4.25Gとあるが、どの程度なのか見当もつかない。ちなみに、素人は瞬間で6Gまでしか耐えられないそうだ。それ以上になると失神するというから、かなりのものなのだろう。
「じゃあ、オレ、この辺にいるよ」
 絶叫マシーンがキライな夫は完璧に乗る気がなく、出口付近で待つと言う。まったく、つき合いの悪いヤツだ。
 待ち時間は、実際には30分ほどだったろうか。2台で稼動しているとはいえ、1台の定員がわずか8名では効率が悪い。
『メガネ、マフラー、帽子、携帯電話は身につけないでください』
『荷物はロッカーへ』
 同じ注意書きをいくつも目にして、「そんな大げさな~」と苦笑した。このときはまだ、時速172kmの風圧がいかなるものか、予測できなかったのだ。
 ようやく順番がきて、係員に誘導される。
「すご~い、一番前だよ!」
 ミキは乗る前から興奮しており、呼吸が荒くなっている。散歩を心待ちにしている犬のように、ハッハッと舌を出しそうな勢いだ。
 シートベルトを締め安全バーを下ろすと、コースターは発射地点まで移動する。
 そして、カウントダウンのアナウンスが流れた。
「スリー、ツー、ワーン、ドドンパァー!」
 動くとすぐに、ヘッドレストに頭がめり込みそうな衝撃があった。頭だけではない、体全体が押しつぶされるような爆発的なパワーを浴びた。時速172kmの世界は、心臓が引っ張り出されるような迫力である。
 すっげー! はえー!!
 絶叫マシーンに乗ると、言葉遣いが悪くなるのはなぜだろう。
 ドドンパの威力は本当にすさまじい。水平走行をしているのに、あまりに速すぎて、落下よりも大きなスリルを味わった。『ザ・ワールド・ブッチギリ・コースター』とは、実に的確なネーミングである。
 たしかに、メガネや帽子は飛ばされるわな……。
 最高部52mの垂直タワーはおまけみたいなもので、化け物じみた加速力ばかりが印象に残る。年齢制限 10歳~54歳という基準に思わず納得した。
 瞬く間に所要時間の60秒が終わり、コースターから降りた。ミキも度肝を抜かれたようだが、「また乗りたい~」とまとわりついてきた。満足、満足。

 出口に向かう途中、ミキが素朴な疑問をぶつけてきた。
「ねぇ、どうしてカツラはダメって書いてないのかな?」
 たしかに、シートに体を押し付けられるほどの風圧である。カツラも間違いなく飛ばされるだろう。状況を想像したらおかしくなり、私は笑って答えた。
「でもさぁ、書いたところでその場で帽子みたいに、スポッと取る人はいないでしょ」
「アハハ、そうだね。意味ないね」
 多分、カツラ着用者=カツラーは、絶叫マシーンには乗らないだろう。私の知っているカツラーは実に用心深い。風の強い日などは、十分警戒したうえで、細心の注意を払って行動する。
 私も髪は少ないほうなので他人事ではない。
 もし、私がカツラーになっても、遊園地で遊ぶために一日くらいはカツラを諦めるだろう。
 このコースターにはそれだけの価値がある。



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