これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

若い世代も ミートグッバイ

2023年12月10日 21時33分25秒 | エッセイ
 20代後半の娘が出勤の際、電車の中で転びそうになったお婆さんを助けたという。
「電車が止まる前に立つから、ブレーキがかかったときによろけたところを受け止めたんだよ」
「危ないね」
「でもさ、思ったよりも重いお婆さんで、足を踏ん張ったせいか、ふくらはぎが腫れてパンパンになっちゃった」
「あらま」
「整形外科に行ったら、肉離れって言われた」
 シーン。
 人助けはよいことだが、娘は、よもや自分が負傷すると思っていなかったようだ。
「3週間は杖を使って足に負担をかけないようにだってさ」
「はああ~」
 そんなわけで、職場への往復は松葉杖を使うようになった。



「優先席の前に立てば、大抵の人が席を譲ってくれるから、本当に助かる」
 世の中、捨てたもんじゃない。
 だが、外だけでなく、室内で杖を使わないと回復が遅いとわかった。何かないかと考えて、故人となった義母の杖を思い出したらしい。
「あった、あった、おばあちゃんの杖。これ借りようっと」



 子を飛び越えて、孫が使うようになるとはつゆ知らず、義母もあちらでビックリだろう。長さが調節できるようになっていて、腰が曲がっていた義母のサイズより少し伸ばすとちょうどよくなる。部屋の中ではコツコツ、コツコツと木と木のぶつかる音が響いていた。
 おかげで、3週間経過した今ではかなりよくなり、医師から杖なしでオーケーと言われた。
「ああ、やっとミートグッバイから脱出だよ」
 娘の言葉に耳を疑った。ミートグッバイとは、あの長嶋茂雄さんが肉離れを表現した語である。私も含めて、年配者ぐらいしか知らないと思っていたのだが。
「へえ、長嶋さんの言葉だったの? みんな割と使ってるよ。Xにも上がってるし」
「まさか若い子に広まっているとはね」
 巨人軍だけでなく、長嶋語録も永久に不滅なのかもしれない。
 先日、職場の中にも出勤途中に肉離れに見舞われた男性がいた。
「乗り換えようと駅の階段を下りていたら、急にふくらはぎに激痛が走ったんすよ。誰かの荷物が当たったのかと思ったけれど、後ろに人はいないし、階段から落ちて散々でした」
 急激に筋肉が伸ばされたとき、筋肉がケガすることを肉離れといい、人に蹴られたような痛みを感じることがあるらしい。気の毒な彼は、医療機関で全治2カ月と診断された。
 肉離れの正式な傷病名は、挫傷や筋挫傷というそうだ。
 診断書の傷病名欄に「ミートグッバイ」と書かれる日は……残念ながら来ないかな?

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コメント (6)
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