これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

しょっぱいマンデリンフレンチ

2023年08月06日 21時37分00秒 | エッセイ
 毎朝、職場に着くとすぐにコーヒーをいれる。
 マンデリンフレンチの豊かな風味が口いっぱいに広がり、幸せな気分になったところで楽しくない仕事に取りかかる。仕事が嫌いなわけではないが、休日に家でのんびり過ごす方がよいに決まっている。特に月曜日は気合いが必要だ。
「ぶつくさ言ってないで、さあ頑張ろうか」
 その日も、エンジンがかかったはずだったが、何やら左の奥歯がジンジン脈を打っていた。
「いたたたた」
 どうやら熱いコーヒーが歯に沁みたようだ。上の奥歯、ちょうど犬歯の隣あたりが痛い。虫歯だったら厄介だが、気をつけて様子を見なくては。
 モチベーションはイマイチ上がらなかったが、その日はそれ以上悪くならなかったからまだよかった。
 問題は次の日だ。お約束のモーニングコーヒーを三口ほど飲んだところで、上の奥歯だけでなく、下の奥歯まで痛くなってきた。
 ズキズキ、ズキズキ。
 痛みと連動して左目から涙がブワッとにじむ。頬を伝って口に入り、しょっぱい味がした。これはただ事ではない。
「ひー」
 涙だけではなかった。左耳付近のリンパも腫れているし、肩も凝っている。これは医師に診てもらわないとダメだろう。私は涙目で電話を掛け、歯科の予約を取った。
「笹木さん、これは知覚過敏ですね」
「あらまあ、またですか」
「磨くとき、どうしても左側に力が入っちゃうんでしょう。何本も削れています」
「ああ……」
 心当たりはある。歯ブラシを替えたせいだ。「やわらかめ」と表示されているものを買ったのだが、なぜか、それまで使っていた「ふつう」表示のものより硬かった。そのときは、疑問を感じながらも「まあいいや」と思ってしまった。力を抜いて磨けば平気だろうと考えていたが、朝の慌ただしい時間だと雑になる。そこで傷ついたのかもしれない。
「薬を塗っておきますから、来月また見せてください」
「はい」
 医師が塗ってくれたものは、白いコーティング剤のようなものだった。完全に沁みなくなったわけではないが、通院前に比べれば9割減といったところか。あとは時間の経過とともに軽くなっていくはず。
「あー、腹立つわぁ。あの歯ブラシは掃除用にしてやる」
 硬い分、さぞかし汚れが落ちるだろう。
「で、新しい歯ブラシはどうしよう」
 もしや、買い置きがあったかもと引き出しを漁ってみる。
「あったあった」



 パッケージには「ふつう」と書かれたものが見つかったが、これは夫に使ってもらおう。
「他のないかな」
 別の引き出しを開けて探してみると、それらしいものが目に入る。
「ややっ」



 ラッキーなことに、以前使っていたものと同じメーカーで「やわらかめ」のものが見つかった。
 買い置きをすっかり忘れ、「ヘッドの小さいやつにしようかなぁ」と安易に買い替えたことが間違いだったわけだ。
「最初から、これを使えば痛い思いをしなくてすんだのに」
 唯一の利点は、痛くて食欲が抑えられ、余計なものを食べずに済んだことかもしれない。
 ようやく涙がとまってきた。
 明日はきっと、熱いマンデリンフレンチが美味しく飲めるはず!

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コメント (4)
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