これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

ビデオ通話はご遠慮ください

2022年06月05日 20時11分57秒 | エッセイ
 翌日の体育祭に備えて、私はTシャツとジャージを選んでいた。
「赤、青、黄は避けた方がいいね。白か黒が無難かも」
 特定の団の色にならぬよう、箪笥の中を探していく。日焼け対策もしなくては。黒の薄手のハイネックを出し、全体的なバランスを確認する。
「よし決まり。じゃあ、お風呂に入ろうっと」
 Tシャツを脱ぎ、キャミソールだけになったとき、スマホの着信音が鳴り響いた。ここ数年「アヒル」にしているので、「ガアガアガア、ガアガアガア」とけたたましい。続いて、「○×△さんからです」との音声も聞こえた。この人は私の元上司で、職場が変わってもあれこれ面倒をみてくれる便利な……もとい、親切な人である。
 急いでスマホを手に取り、カバーを開ける。おや? カメラが起動しているのはなぜだろう。細かいことはあとにして、まずは「応答」をスライドした。
「もしもーし、笹木ですっ」
 ちょうど、面倒で手間のかかることを頼んでいたのだ。その件かもしれないから、愛想よくしなくては。よそゆきの声で出たはいいが、電話はすでに切れていた。
「あれれ、何だろう。操作ミスかな」
 履歴を見ると、「FaceTimeビデオ」と書いてあった。なんだこりゃ? すかさず検索してみる。
「うっわぁ、iPhone同士でできる無料のビデオ通話だって。だからカメラが起動してたのか」
 嫌な予感がした。続けて、今度は元上司からメールが届いた。
「先日ご依頼のあった○○が完成しました。明日送りますのでお待ちください」
 やはり操作ミスではなく、私に用事があって先ほどの電話をかけたようだ。
 おそらく、元上司は単なる連絡をするつもりだったのに、ボタンを間違えたのだ。昔から、うっかり者で、小さなミスをいくつもしでかす人だった。「発信」にすればよかったところを「ビデオ通話」にしたものだから、薄着の私が液晶に登場し、仰天してすぐに通話を終了した、といったところではないか。



 スマホのカメラを内向きにしてみた。いったい、どんな映像が送られたのか、確認せずにはいられない。
「なんだ、鎖骨ぐらいまでしか見えないじゃん」
 画面は予想よりも小さいせいか、キャミソール姿は映らなかったようだ。でも、化粧を落とし、くすんだ肌の素顔が大写しになっていた。自分でありながら、怖くてギョッとする。
「これじゃ、速攻で切るよね」
 ひどくガッカリしてスマホを閉じた。
 使いかたによっては、この機能、人間関係にヒビを入れそうな気がするんだけど……。


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 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
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コメント (6)
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