これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

見送る花は

2021年08月08日 22時10分59秒 | エッセイ
 職員のお母さんが亡くなった。
「香典はいらないので花を贈ってもらえませんか。母は華やかなものが好きだったので」
 職員は力なく話した。職場には親睦会という組織があり、毎月少しずつ積み立てた資金から、弔事には香典2万円を、慶事には祝い金1万円を支払っている。この職員は、香典ではなく花にして欲しいとのことだった。
「わかりました。担当の方には私から話しておきますね」
 安請け合いしたが、思ったよりも簡単ではなかった。なにしろ、親睦会の担当者と母を亡くした職員は、2週間前に口論をし、不仲なのだから。
「えっ、お花ですか。どこで頼めばいいのかしら」
「私もわからないんだけど、去年、〇〇さんが頼んでいたから聞いてみたら?」
「じゃあ、そうします」
 しかし、彼女が聞いた相手は親身になってくれなかったようだ。
「〇〇さんは、2万じゃ大した花が買えないから、香典を渡して、自分で買ってもらったらと言っていました」
「うわ~、ありえない」
 葬儀前の喪主に、金はやるから自分で買えと言えるはずがない。しょうがないから、私が注文するしかないかと思っていたら、その職員からメールが来た。
「葬儀日程が決まりました。地元の××寺で6日の17時から通夜、7日の11時から告別式ですが、内輪ですませます」
 ほおお。コロナ禍では、ほぼ身内だけの葬儀が主流なのだろう。だが、この連絡よりも、追加情報の方がありがたかった。
「花ですが、△△葬儀社で頼んでもらえますか」
 なるほど、これなら誰でも簡単に注文できて助かるぞ。
 葬儀社のホームページを見ると、花といってもひと種類ではないことがわかる。
 私のイメージはこの花輪。



 洋花もオシャレでよいが、小さくないだろうか。



「果物」というものもある。



 私だったら、趣味と実益を兼ねて、これにするな!
「缶詰」はさらに合理的だ。



 保存性が高いし、それなりに見栄えもするから、喜ばれるかも……。
 なんだか楽しくなってきた。
 サイトの商品をプリントアウトし、担当者に持っていく。
「見て見て~! 2万以内で果物とか缶詰なんかもあったよ」
「わ~、ホントだ。知らなかった!」
「でもさ、あの人は昭和のオトコだから、花輪をイメージしてるんじゃない」
「そうですか?」
「申込書も印刷して、だいたいのところは記入したから、支払方法とかを書いてもらっていい?」
「はい、わかりました」
 担当者は商品一覧をじっと見て、しばし考えていた。
「身内だけの葬儀なのに、花輪でいいんでしょうか」
「うーん、どうなんだろ」
「ワタシ、葬儀社に相談してみます」
 担当者のやる気スイッチも入ったらしい。他の親族が、ほぼ洋花ばかりを注文している事実を確認し、「揃えた方が無難ですね」との結論を出した。
 もし、私がやっていたら悪目立ち?
 いや、考えるのはやめておこう。
「注文しておきました。無事に終わるといいですね」
「はいっ、ありがとうございました」
 人は誰でもいつかは死ぬ。
 旅立ちのときに、少しでも役に立てればと願うばかりだ。
 これを機に、不仲の二人が元通りになってくれるといいのだけれど。


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コメント (4)
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