これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

逃げるクラウン

2020年06月28日 21時22分35秒 | エッセイ
 里芋の煮物を食べていたら、「ジャリッ」という異物感があった。
「うう、これはこれは」
 思ったとおり、奥歯のクラウンが外れていた。里芋に埋もれて、なかなか見つからなかったが、ようやく金属を確認する。
「大変。歯医者に行かなくちゃ」
 一緒に食卓を囲んでいた夫も話に加わってきた。
「何でか知らないけど、軟らかいものを食べているときに限って取れるんだよな」
「あ、たしかに」
 いずれにせよ、2月から歯医者に行っていない。メンテナンスも兼ねて、久しぶりに予約しなくては。
「なくさないように、クラウンは袋に入れておこうっと」



 以前もクラウンが取れて歯医者に行ったら、肝心のブツを忘れたときがあった。「型を取る手間もかかるし、家にあるなら次に来るときに持ってきてください」と言われ、帰されたことを思い出す。
「忘れないように、バッグに入れておけばいいや」
 用意周到にしたつもりが、なかなか思い通りにはいかないものだ。
 予約日当日となり、歯科の待合室でクラウンを出そうとバッグの中を見たら、どうもそれらしきものが見当たらない。
「マジ? 出かける前にも確認したのに、何で?」
 財布、本、タオルなど、所持品の下に隠れていることもなく、クラウンはついに見つからない。私の認知機能に問題があるのかと心配になった。
「忘れた? じゃあ、白い樹脂で詰めておきましょう。歯が黒くなっていますから、多分、詰め物は割れて使えないと思いますよ」
 帰されたときに比べて、医学が進歩したのだろうか。医師は手際よく樹脂を絞り込み、高さを調整して終わった。
 いつもだったら、ミスタードーナツでお茶して帰るところだが、処置後は食欲がない。真っ直ぐ駅に向かい、スーパーで買い物をして帰宅した。カギを開けようと、玄関に近づいたときだ。
「あれえ、こんなところに」
 ドアの前に、クラウンを入れた袋が落ちていた。
「そうか、一度、バッグの中に日傘も入れて、ここで出したときにくっついてきたってわけね」
 バッグの中から、クラウンは脱出のチャンスをうかがっていたのだろう。取り出された日傘につかまり、隙を見て地面に飛び降りたようだ。そこから移動することはできなかったけれど、私の口の中から逃れて自由の身となった。
 クラウンだったからよかったけれど、大事なものだったら大変だ。軽くて小さなものは、扱いに気をつけないといけない。これを教訓に、今後は気をつけよう。
 クラウンさん、追いかけっこしている場合じゃないんだよ。


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コメント (6)
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