これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

叔母の葬儀

2018年11月23日 20時56分33秒 | エッセイ
 叔母が死んだ。75歳だった。
「夜中に起きてトイレに行きたいって言うから、連れて行ったら、戻ったあとに呼吸が止まっちゃったのよ」
 叔母の娘、つまり私の従姉が無念そうにつぶやいた。
 夜には大好きなビールを飲み、美味しい料理も食べて、何も思い残すことはなかったのではないだろうか。
 姉と妹と打合せ、3人で通夜に参列することにした。
 叔母は愛煙家だった。多分、10代の終わりから吸い始め、70代まで続いていたのだろう。愛煙家はえてして短命な気がする。
「来てくれてありがとう。母も喜んでいます」
 従姉が労いの言葉をかけてくれた。思えば、10年前には叔父が亡くなっているから、彼女の両親はすでにない。覚悟していたとはいうものの、葬儀の手配をして、叔母の遺影やアルバムを準備し、なおかつ参列者を迎え入れる作業を淡々とこなす姿勢には頭が下がる。
 焼香後はお清めの席で寿司などをつまみ、叔母の思い出を聞いた後、新宿駅に向かった。
「さあ、夕飯にしょう。お疲れさまぁ~」
 先週は、両親や姪と一緒に上野で展覧会を見たけれど、3姉妹だけで会う機会はさほどない。叔母の通夜がメインとはいえ、終わってからの食事も楽しみにしていた。
 まずは、この店のウリであるロールキャベツを注文する。姉のリクエストでピクルス、チキンも一緒に。



「熱い、熱い!」
 舌を火傷しそうになりつつも、いい塩梅に焦げ目のついたロールキャベツにかぶりつく。さっぱりしている反面、チーズの香ばしさが引き立つ美味しさだった。
「そういえば、腰痛になった人の話を聞いたじゃない?」
 妹がロールキャベツをハフハフしながら話しかける。従姉が、「○○さんは急に腰が痛くなって来られない」と言っていた件だとわかった。
「聞いたね」
「あれって、死んだ人が乗ってくる重みで、腰をやられるんだって」
「えー」
 実際、妹は去年の今頃、腰を痛めている。私の高校時代の担任が亡くなったとき、妹の部屋の電気が何の前触れもなく消えたり、スマホの電源が入らなくなったりと、怪奇現象が起きた直後だ。
「あれって、絶対、姉さんの担任が絡んでいると思うんだけどね」
 そうだった。霊感ゼロの私に替わって、元担任は私の妹の枕元に立った。「お前の姉さんは職場を異動するぞ」とか「お父さん、気をつけろ」などの予言をして去っていったというから、なまじ霊感があると苦労する。実際、父は半年後に肺炎で入院し、退院後も酸素ボンベに頼る生活をする破目になった。
「ねえ、蟹クリームコロッケも頼まない?」
「いいねぇ」
 話題に関係なくお腹は空く。



 叔母は、従姉の夫をたいそう気に入っていた。「うちの娘は、いい人にもらわれてよかったよ」が口癖だったというから、亡くなったあとも「あの人と一緒なら大丈夫」と安心しているのではないだろうか。
 ちょうど、昨日は「いい夫婦の日」であった。何十年も家庭内別居と化している我が家はさておき、従姉の家では、ますます夫婦の絆が強くなったと推測できる。
「ラストオーダーですが、いかがなさいますか」
「じゃあ、キノコのベーコン炒めもお願いします」



 これが絶品だった。厚切りベーコンから肉の旨味がしみ出し、淡白なキノコを同化させている。かといって油ぎっているわけでもなく、さっぱりしているのに、しっかり味がついていて箸が止まらない。家でも、これくらいの料理が出せるといいのだが。
「お腹いっぱい」
「さて、行くか」
 心ゆくまで飲んで食べて、新宿駅をあとにした。
 母は5人姉弟の長子である。最初に亡くなったのは、末子の叔父であった。今回亡くなった叔母は、二番目だったから、今は3人しか残っていない。
「伯母さんは元気だから長生きしそうだね」
 従姉が笑いながら、妹に言ったらしい。タバコを吸わず、ほとんど酒も飲まない母である。ぜひ健康で長生きしてほしい。
「うう~、いてててて」
 妹の言葉が気になり、腰のストレッチをする。
 叔母さん。
 ご冥福をお祈りします。


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 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
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コメント (6)
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