これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

快慶・定慶のみほとけ展

2018年11月18日 21時55分29秒 | エッセイ
 栃木県に住む両親が、上野の東京国立博物館で開催中の「京都 大報恩寺 快慶・定慶のみほとけ」展を見たいと言う。
 大報恩寺は、別名、千本釈迦堂といい、父の親戚にあたる男性が住職を務めているらしい。10月に住職が行った講演会の様子を新聞で報道していたので、コピーを送ったところ、父が「行きたい」と言うようになったそうだ。
「18日なら空いているよ。来る?」
「うん、行く」
 というわけで、今日はジジババにつきあって、トーハクまで出かけることにした。
 どうせ行くなら、連れがいた方が楽しい。姉と妹、姪、娘を呼んで、プチ親族会としゃれこむ。
「遅いなぁ。公園口で待ち合わせって言ったのに」
 両親以外の5人が揃っても、なかなか言い出しっぺの2人が来ない。そのうち、電話がかかってきた。
「あ、お母さん」
「改札に着いたんだけど、どこにいるんだい?」
「公園口って言ったでしょ。どの改札に出たの?」
「改札だよ」
 上野駅には、浅草口、不忍口、入谷口、山下口、広小路口など、たくさんの改札がある。確実に会えるよう、公園口を指定したのだが、趣旨が通じなかったようだ。
「振り返って改札の名前を見てみて」
「えーと、中央改札って書いてある」
「中央口か。今、迎えに行くから、そこで待ってて」
 娘と私はお迎えに、姉たちはカフェの席取りに、それぞれ分かれることにした。
「ごめんね。間違えちゃって」
「いいよ、仕方ない」
 姉は8月に両親と上野の森美術館に行っている。そのときは、無事に公園口まで来られたそうだ。今回は乗る車両を変えたと言っていたから、別の階段を使ってわからなくなったのかもしれない。
 4月に肺炎で入院した父は、もう長い距離を歩けない。上野駅から東京国立博物館の平成館まではかなりの距離があるため、途中のパークサイドカフェで休憩することにした。
「こっちこっち」
 すでに席を確保した姉たちが店内から手を振る。ようやく両親にも笑顔が戻り、ジャケットを脱いでくつろぎはじめた。この店は、コーヒーも紅茶もポットで提供するところが嬉しい。カフェオレを注文した私には、エスプレッソのポットとホットミルクのポットが並べられ、お好みでブレンドしてくださいとの言葉が添えられる。満足度が高く、すっかり気に入った。
「さあ、じゃあ行こうか」
 休憩後は、いよいよトーハクに向かう。大報恩寺展は、通常の特別展の半分のスペースで展示されているので、30~40分で見られるはずだ。歩きながら、母が予期せぬことを言い始めた。
「住職さんも来ているんだろうね」
「え? いないんじゃない」
「いないの?」
「講演会には来たけど、それ以外は来ないでしょ」
「じゃあ、このおみやげ、受付の人に渡しておいてもらおう」
 どうやら、両親は親戚にあたる住職に会えると思って、わざわざ黒磯から上野まで電車に揺られてきたらしい。考えてみたら、美術展には、とんとうとい両親である。寺とは別の組織が開催している展示だから、みやげは持ち帰るように諭した。上京する目的を、もっと詳しく聞いておくべきだったと反省する。



 正直いって、両親のつき合いで見る展示だから、ほとんど期待していなかった。
 しかし、予想を裏切る仏像や観音像の数々に、すっかり魅了された。柔和な表情の多い仏像が、快慶や定慶にかかると、キリリと引き締まりシャープな表情になる。釈迦如来坐像、千手観音菩薩立像、誕生釈迦仏立像の知的で聡明ないでたちに釘付けになった。
 出口付近の六観音菩薩像は圧巻である。如意輪観音菩薩坐像から始まり、准胝観音菩薩立像、十一面観音菩薩立像が輝いてみえた。馬頭観音菩薩立像はあまり目にしたことがなかったので、じっくりご対面する。ちょっと怖いけれど、頭上の馬がなんとも愛らしく印象的だ。千手観音菩薩立像の隣に並んだ聖観音菩薩立像だけは、写真撮影も可能でありがたい。



「へえ~、なかなかいいじゃない」
 妹や姉の意見も同じだった。両親の勘違いで来た展示とはいえ、こんなに素敵な観音様にお会いできるとはラッキーだ。
 芸術鑑賞のあとはランチである。刺身御膳が4人前と



牛すき焼き御膳が3人前。



 おしゃべりしながら食べて、クリスマスの予定などを打ち合わせた。
「ところで、お父さん、仏像好きだったの?」
 何気なく聞いてみると、父はニヤニヤしながらいたずらっ子のような目をして答えた。
「いや、好きじゃねぇな」


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コメント (8)
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