これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

飯ごう炊さんはツラいよ

2018年05月27日 21時55分28秒 | エッセイ
 勤務校の1年生が、飯ごう炊さんの校外学習を行った。
 千葉県のある施設で、カレーライスの食材や調理用具一式を貸し出してくれるので手軽なところがいい。
 引率で一緒についていったのだが、予想に反して、アウトドアを楽しむ雰囲気ではなかった。
「ゴホゴホ」
 かまどに火を起こし、薪をくべると煙がすごい。空気が白く濁り、人の顔も判別できないくらいだ。
 雨天でも調理できるように、屋根があるからいけないのかもしれない。加えて、12個のかまどが一か所に集中しているのも一因であろう。火の粉は飛ぶし、目を開けていられないほどの煙害に悩まされる。
「目が痛い~」
 真面目な生徒は、目を赤くしながら飯ごうの番をしたり、カレー鍋をかき混ぜていたりしていた。ズルい生徒は空気の澄んだ場所に逃げ込み、食事だけはいただこうと様子をうかがっている。
「いやあ、ひどいですね。公務災害ですよ」
 生徒と一緒にかまどの前にいた教員は、入道雲のように立ち昇る煙に目をやられ、涙を流していた。公務員は労災、つまり労働災害とはいわず、公務災害というのだ。それくらい、過酷な環境だった。
 その中で、一人だけ文句も言わず、黙々とかまどを移動して火力を調整している教員がいた。この男性は、お寺巡りとキャンプが趣味だという。てきぱきと指示を出しては、カレーライスを完成に導き、生徒たちから「ありがたや」と拝まれていた。
 ちなみに、これが教員用のカレーライスである。



 味は……。自分の家で作った方が美味しいかな……。
「いやあ、先生、さっきはすごかったですね」
 食後、私もキャンプの先生に話しかけてみた。
「いえ、全然大したことないですよ」
 あくまでも謙虚な反応が返ってくる。四国には巡礼で回ったし、登山もされるのだとか。そんな話題から、秩父の札所巡りをする計画があると聞いた。
「えっ、札所ですか、私も行きたいです。納経したいし」
「そうですか、じゃあ仲間と行く日があるんで、ご連絡しますよ」
 ラッキー! 初心者にはハードルの高い巡礼も、経験者と一緒なら安心だ。しめしめ。
 家に帰り、写経ずみの用紙を確認した。
「あ」
 納経できる状態の用紙にまぎれて、部分的に練習した、中途半端のお経も入っていた。そういえば、あとから「お経を書いた紙をゴミ箱に捨ててはいけない」との注意を読み、始末に困り放置していた用紙だった。ゴミ箱はNGだが、燃やすのはOKと書かれていたことを思い出す。
「なんだ、もっと早く気づけば、かまどにくべたのに」
 ああ悔しいと思ったのも一瞬だ。生徒の足元にしゃがみ込み、「ちょっとごめんよ」とか何とか言って、お経がズラズラと書かれた紙を燃やし始めたら、限りなく怪しい人になる。やはり、家でひそかに始末するのが正解だろう。
 秩父はうちから遠くない。
 次回は札所巡りデビューを書きます!


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コメント (10)
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