これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

昔の仲間

2017年03月23日 22時26分24秒 | エッセイ
 その日は最高気温が18度まで上がった。とても3月とは思えない暑さだ。
 私は日傘を差して、西新宿のビル街を歩いていた。昼すぎの日差しは強い。



 目指すはカジュアルなイタリアンレストラン。今日は久々に、大学時代の友人たちに会うことになっている。店の入り口が見えてきた。ウインドウの前には、人待ち顔で立っている男が一人。
「おーい、大熊くーん! ひっさしぶりぃ~」
「あっ、砂希ちゃん。ご無沙汰」
 やはり、今回の企画を立ててくれた大熊であった。サークルの同期は10人以上いる。とりあえず、連絡先のわかる8人に声をかけてくれたのだが、仕事があるだの返事がこないだので、4人で小ぢんまりと集まることになった。まずは幹事をねぎらう。
「お店の予約、ありがとね」
「いやいや」
 大熊はまめな男で、8年前にも同窓会を開いてくれた。待っている間、その話を振ってみる。
「んー、俺は途中でサークルやめたから、本当はそういう立場じゃないんだけどね」
「えっ、そうだっけ? 全然おぼえてないよ」
 大熊の告白は衝撃的だった。卒業して27年も経つと、自分のこと以外は忘れるものらしい。
「おーい」
 声のする方を振り返る。今度は、四宮が手を振りながら登場した。四宮とも、8年前の同窓会で会っている。そのあとも、別件で顔を合わせているから、全然久しぶりという気がしない。相変わらず背が高い。
「お待たせ~」
 最後に、美怜がやってきた。今回、集まるきっかけを作ったのは彼女である。岡山に住んでいることは知っていたが、息子くんが東京の大学に通うことになり、引っ越しを手伝うために上京してきた。大熊がそれを見逃すはずはなく、「美怜ちゃんが来るから集まろう」となったのだ。
「卒業以来だね」
「うんうん」
 27年経っても、見た目は変わっていなかった。ごく自然な様子で歳をとっている。
 美怜が言葉を続けた。
「アタシは途中でサークルやめてるから、悪いかなって気もしたんだけど」
「えっ、そうだったっけ?」
 打ち合わせたわけでもないのに、3人揃って同じリアクションをする。やはり、人のことは忘れるものなのだ。いや、もしかして、自分のことも忘れているかもしれない。
 心配になり、四宮に聞いてみた。
「ねえ、アタシも途中でやめてる?」
「ううん。最後までいたと思う」
「よかった」
 逆にいえば、途中でやめてもやめていなくても、分け隔てなくつき合える間柄なのはすごい。一緒にいる時間が長かったせいか、私たちの結びつきは強いようだ。
「じゃあ、中に入ろう」
 飲み放題と料理を注文し、しばし歓談する。仕事、家族、先輩、後輩、子ども、来られなかった仲間の近況報告などなど、話のネタはつきない。
「最初は林も来るはずだったんだよ。でも仕事が入ったからダメだって」
「林くんは、ひとり社長だって言ってたけど」
「そう。全国各地に飛んでいって、イベントで商品売ってるよ」
「自由人だなぁ」
「あいつは自由だよ」
 そこで、隣に座っていた大熊が、ニヤリと笑って話しかけてきた。
「砂希ちゃんだって、気に入らないことがあれば、好き勝手言って自由でしょ」
「え?」
 そこで思い出した。20代の私は、文句たれでケンカばかりしていた。カチンときたら、ガーッと噛みつき、あとさき考えずに言いたい放題。心をえぐるような暴言も、平気で口にした。見かねた先輩から、「怒りたくなったら、まず深呼吸しなさい」とたしなめられたこともある。
「あの頃は、力で押し切るやり方しか知らなかったんだよね。痛い眼も見たし、言われる方の気持ちもわかったから、今は大人になったよ」
「本当に? 信じられないな」
 強行突破するより、協力しながら進んだ方が、よい結果が得られる。そのことに気づいてからは、言葉に気をつけるようになったし、腹も立たなくなった。怒りの感情は、気質からではなく、習慣から生まれるものらしい。今では、怒り方を忘れてしまったくらいだ。
「俺はね、怒りたくなることがあっても、笑いに変えちゃえばいいと思う。怒りと笑いは、結構近いところにあるから」
 大熊は、哲学を好むだけあって、実にいいことを言う。私も、信じられないことが起きたときは、ブログに書いてネタにする。そうすれば、「なぜ私がこんな目にあうのか」などと、マイナス思考に陥らずにすむのだ。この点は一致した。
 美怜は、息子くんの一人暮らしを心配しつつも、成長の機会ととらえている。中には、「淋しくなるから遠くに行かないでほしい」と子どもを手放さない親もいるけれど、美怜は強い。頼もしい。
 四宮は転勤で単身赴任中。家事も仕事も背負って忙しそうだが、決して弱音を吐かないし、いつも前向きに生きている。ちゃっかり趣味の時間も確保する要領のよさは、私も見習いたい。
「じゃあ、そろそろ行こうか」
「本当に楽しかった。ありがとう」
「また集まろう。連絡する」
「元気でね」
 また会えるという前提なら、さらりとお別れできる。仲間に挨拶し、私は都庁前駅に向かった。



 27年は長い。私も仲間も、みんな成長した。
 でも、昔の自分も嫌いじゃないな。


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 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
 「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
コメント (12)
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