これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

安さのからくり

2017年02月23日 20時30分38秒 | エッセイ
 友人の凛が、よく予約サイトの一休を使って、ホテルやレストランを利用している。
「安くてお得よ。定価で払うのがバカバカしくなっちゃう」
 それは知らなかった。
 ちょうど銀座方面に行く用事がある。オシャレなホテルの贅沢ランチを、割引価格でいただきたいとスケベ心が働いた。そうだ! 一休を試してみよう。
「どこがいいかな」
 たまには帝国ホテル以外にしたい。たとえば、ペ〇ンシュラはどうだろう。検索すると、いくつかのプランがヒットした。
「なになに、ダブルメイン豪華4品コースランチのドリンク付7245円が5700円? よし、これでいこう」
 たしかに凛の言う通り、お得な料金だ。どうやったら、1500円の値引きができるのか気になった。
 からくりは、行けばわかる。
「いらっしゃいませ」
 キラキラした笑顔のベルガールに迎えられ、気分よく豪華な館内に足を踏み入れた。席に案内され、娘と2人でメニューの説明を受ける。おしゃべりしていたら、グラスにスパークリングワインが注がれて、素敵なランチの始まりだ。店内はそこそこ混んでいるが、前菜がすぐに運ばれてくる。



 ピアノとヴァイオリンの演奏も始まった。繊細な旋律が心に響く。絵画の修復のように、ハートにへばりついた汚れが、はがれ落ちていく気がする。
「あの高いところで弾いているんだね。やっぱり生演奏は違うわぁ」
「うんうん。メロディーの中に聴かせたいって想いがこもった感じ」
すべり出しは上々だった。
 突然、背後でガチャガチャというカトラリーのぶつかる音が響く。驚いて振り返ると、私の背中から1mほどの場所に食器棚らしきものがあった。これでは、やかましいはずだ。
「なんかうるさいと思ったら……。設計ミスじゃないの?」
「こっちもうるさい。耳元にスピーカーがあるよ」
 ピンときた。ここはハズレの席だから安いのだ。そういうわけか。
 2皿目はアイナメを使った魚料理。



 見た目が美しく、ソースもなめらか、まろやかで、実に美味しかった。ソースをパンですくい取ると、バターをつけるよりイケる。娘が先に食べ終わり、フォークとナイフを4時の方向に揃えて置いたせいか、ウエイトレスが皿を下げに来た。
「おすみですか?」
「えっ、まだです」
 私はカトラリーをハの字に置いているのに、何を考えているのか。まだに決まっておろう。
「失礼しました」と彼女は手を引っ込めたが、どうにも納得いかない。
 そのあとは、もっといけない。待っても待っても、メインの肉料理が来ないのだ。隣のテーブルも、そのまた隣のテーブルも、食事を終えて空になったのに、こちらは「おあずけ!」と言いつけられた犬のようにじっと待つ。相変わらず、背中ではガチャガチャ、スピーカーはブーブー騒いでいた。
 ピアノとヴァイオリンの演奏がまた始まった。待ち時間が長くて、2クール目に入ったらしい。2曲、3曲と流れても、肉料理は来ない。25分経過後に、ようやくウエイトレスが「お待たせしました」と近づいてきた。



 バイトか派遣か知らないが、安さの理由その2は、教育されていないスタッフが担当するところにあるらしい。待ちくたびれて、食欲がうせた。
 値段が安ければ気にしない、という人にはいいだろう。多少安いくらいで、悪い席に座らされ、4流のサービスを受けるなら、私はお断りだな……。
 ピアノの旋律が、ビリー・ジョエルの名曲を奏でる。「オネスティ」だ。
 うーん、このタイミングでオネスティ(誠実)か……。
 皮肉な偶然に苦笑いをした。


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 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
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コメント (8)
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