これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

赤と黄のボタン

2016年09月08日 21時46分17秒 | エッセイ
 このところ、毎週のように台風がやってくる。
 勤務校では、大雨・洪水・雷などの警報が発令されたら休校となる。休校になっても、教員の勤務はなくならない。しかし、授業がなければ、たまっている仕事を片付けたり、打ち合わせをする時間ができるのでありがたい。出勤前に日本気象協会のホームページにアクセスし、警報を示す赤がないかをチェックするのが習慣だ。
 今朝もいそいそと、台風13号の影響で警報が出たかどうかを見てみた。外は曇り。大雨で洪水が起きそうな気配もなく、黄色の注意報が行儀よく、ボタンのように整列しているだけだった。ガッカリする一方で、水害に苦しめられた地域に思いを馳せる。大きな被害がなかったことを、何よりも喜ぶべきであろう。
 イヤイヤ出勤すると、同じような顔をした教員たちが、シブシブ授業の準備をしていた。
「今日は休校だと思ったから、ろくに準備をしていないんですよ。まいったなぁ」
「私も、これから提出物に目を通さなきゃ」
 休校でないことに失望しながらも、彼らはキビキビと動いていた。空はすでに明るくなり、陽が差している。しかし、いきなり灰色の分厚い雲が駆け足でやってきて、ババババと機関銃のように雨粒を打ち込み、足早に去っていった。



 温帯低気圧に変わったとはいえ、元台風は雨雲大臣だ。
「教室に行ったら、生徒が半分しかいませんでしたよ」
「3年ですか? 1年はもうちょっといたかな。欠席は8人でしたから」
 教員がやる気になっても、生徒はまた別だ。自主休校を選んだ者の多かったこと、多かったこと。
 かくして、台風がこちらに向かってくる時点で、翌日の授業がパァになる。
 実のところ、休校になったらなったで、もっと面倒なことが起きる。ネットで警報を確認せず、普通に登校する生徒がいるからだ。
 たとえば、30人のクラスだったら、5人くらいは何の疑いもなく学校に来てしまう。
「えっ、警報が出てるとダメなんですか? 注意報が自宅学習かと思ってました」
「料金滞納で携帯が止められているから、確認できませんでした」
「休校だなんて、誰も教えてくれませんでした」
 理由は人それぞれだが、荒天で警報が出ている間は学校で待機せねばならない。天気が回復した隙に帰宅させ、家に着いたら必ず電話をさせるなど、生徒の安全確保が大事なのだ。
 ところが、フジオという男子生徒はこれに耐えられなかった。ろくに確認もせず登校したくせに、天気が落ち着くまで待ちなさいと言われたことが不服だったらしい。待機場所の図書室を無断で飛び出し、勝手に家に帰ってしまった。慌てたのは担任だ。様子を見に行くとフジオの姿がないものだから、校内を隅から隅まで探し回り、何度も家に電話をかけてやっと安否が確認できた、なんてこともあった。
 やはり、台風は来ないほうがいい。
 警報の赤も、注意報の黄も、出番がありませんように。


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コメント (6)
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