これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

父の日二重奏

2016年06月19日 21時06分21秒 | エッセイ
 今日は父の日だから、夕飯は、夫の好きな神戸牛にしようと思った。
「夕飯はいらないよ。出かけるから。前に言ったでしょ」
「そうだっけ?」
 興味のないことはすぐ忘れる。主役がいないなら、値の張る神戸牛にする必要はない。スーパーの牛ヒレステーキ用で十分だろう。
「肉……」
 夫は、それでも欲しそうな顔をしていたが、時間になると出かけて行った。
 そんなわけで、わが家の父の日イベントはなし。でも、私の父にはこっそり用意をしていた。
 父は月末に誕生日を迎える。毎年、誕生日に合わせて冷凍菓子を送っていたが、不意にひらめいた。
「別に誕生日まで待たなくたっていいのよね。今年は、父の日に間に合うように送ってみよう」
 那須の父にあてて、コーヒー、好物の冷凍たい焼き2袋、冷凍パフェ、冷凍シュークリーム、冷凍ローストビーフを段ボールに詰める。
「あ、バースデーカードがない。富士山のポストカードでいっか」



 お気に入りの富士山。裏面には「秋晴れコスモス」などというタイトルが書かれており、季節外れということに気づく。まあ、老眼だから読めないだろう。大きな字で「父の日ありがとう、誕生日おめでとう」としたため、菓子類と一緒に送った。
「荷物が着いたよ、ありがとう」
 昼前に、母からメールが来た。「お父さんがたい焼きを喜んでいる」と続いていたので、2袋でちょうどよかったらしい。
 結びは「さっそくいただきます」。
 お恥ずかしい話だが、2人の飲食風景は、とても行儀がいいとは言えない。
 母は唇にしまりがなくて、ものを噛むときに「パカッ」と開くことが多い。そのたびに、「ベシャッ、ベシャッ」と汚らしい音が聞こえてくる。何度注意しても聞く耳を持たず、「年をとるとダメだねぇ」と開き直る始末だ。
 一方、父からは「ピチャッ、ピチャッ」と母より高い音が漏れてくる。口の中は、どういう仕組みになっているのだろう。そこに夫がいれば、「ゾゾゾゾッ」と汁物を吸い込む低音と、ときには「ヘックショイ」という破裂音が加わり、わが家の高齢者たちは実に騒々しい。
 だが、すでに両親を亡くした同僚や友人から見ると、父の日や母の日を祝う相手がいること自体が羨ましいのだという。食事のマナーが悪くても、元気でいてくれることが一番大事。いなくなってしまうと、お祝いごとは何もできなくなる。
 なるほど、たしかにそうだ。二重奏だろうが三重奏だろうが、自分の力で食べられることは生きている証。
 那須の両親が、ベシャッ、ピチャッ、ズルッ、ボボッ、グチャッと食卓で不協和音を立てても、演奏中なのだと広い心で受け止めようと決めた。
 特に、父の日の今日は賑やかかもしれない。
 食欲があって結構なことだ。


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コメント (8)
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