これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

寒波が街にやってくる

2016年01月24日 20時50分15秒 | エッセイ
 非常に強い寒波が日本列島で暴れている。
 坂の街・長崎で16cmの積雪を観測し、記録を塗り替えたとか、鳥取砂丘が雪丘になったとか、奄美大島に115年ぶりに雪が降ったなどのニュースを見た。石垣島の浜に、海水の温度が低すぎて仮死状態になった魚がうち上げられた映像は、特にビックリである。
 東京は晴れていたけれど寒かった。朝はさほどでもなかったけれど、夕方、休日出勤から帰るときは風も強く、マフラーに顔をうずめて歩いた。
 そういえば、前にもこれくらい寒い日があったと思い出す。

 たしか、結婚して2年目あたりではなかったか。1990年代前半は浦和のマンションに住んでいて、娘はまだ生まれていなかった。その日は日曜日で、起きたらやたらと寒かった。夫はまだ寝ていたから、起こさないよう、そっとトイレに立った。
 トイレの水は流れたが、水道の蛇口を開いても水が出てこない。
「あれっ?」
 断水だろうか? 親しいというほどではないけれど、お隣さんはどうかしらと電話をかけてみた。
「おはようございます。笹木ですが、蛇口から水が出ないんです。そちらは出ますか?」
「おはようございます。うちもなんです。1階と2階は何ともないと言っていますけど、3階は受水槽が凍って断水しているみたい」
 水道管は凍っていないから、2階までは水が出る。しかし、受水槽を経由している3階だけは水が出ないというわけだ。何たる不公平。
「えー、どうしようかしら。水が出ないと困りますね」
「ホントホント。特にトイレとか」
 さきほど、タンクに入っていた水を使ってしまったので、夫が起きてきたら流れる水がないはずだ。それはまずいだろうと焦った。
「〇〇さんちで水をもらってきたらどうですか? うちもさっき、バケツを持っていきました」
「あ、その手がありましたか」
 2階の〇〇さんは2人の男児のママで、会えば挨拶を交わす程度のつきあいだ。いきなり、休日の朝に「トイレを貸してください」では厚かましすぎる。急いで着替え、電話で頼んでみたら、「どうぞどうぞ」と言ってくれた。
「水でいいんですか? お湯もありますよ。早く出るようになるといいですね」
「朝っぱらからすみません。どうもありがとうございました」
 隣人に助けられ、外は寒かったけれど、バケツを持つ手は温かかった。1階にも親切な家庭はあるから、頼めば断られなかっただろう。私は恵まれていると、ありがたく思った。
「えっ、断水? ひどいな」
 日が高くなった頃、夫が起きてきた。トイレの前にタンクに水を入れるよう伝え、新聞を開く。落ち着いて休日の朝を過ごせるのも、協力的な隣人たちのおかげである。
 ほどなく、受水槽が稼働する音が聞こえてきた。
「きたーっ」
 予想通り、蛇口を開けば水が出る。やっと断水から解放されたのだ。

 引っ越して20年以上経つが、今朝、あの受水槽は凍らなかっただろうか。
「遠くの親戚より近くの他人」ということわざが正しいことを、証明した寒波だった。


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