これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

運動音痴の体育祭

2015年06月07日 20時06分15秒 | エッセイ
 5月末から6月にかけて、体育祭や運動会を実施する学校が多い。私の勤務先も同様で、先日体育祭が行われた。
「雨は大丈夫みたいですね」
「カンカン照りじゃないから、かえってよかったかも」
 お天気が心配になる時期だが、この日は夕方までは持ちそうな曇り空であった。雨天で順延になると、生徒は授業に身が入らない。一度で終わらせることができればラッキーなのだが、生徒だった頃の私ならば、中止を願うところだろう。
 なにしろ、体育祭も運動会も「大」がつくほど嫌いだったからだ。
「笹木さんて、足が速そう」
「運動神経いいでしょ」
 などと言われることがあったけれど、実は真逆で、私は相当な運動音痴である。50m走では「ビリになりませんように」と祈ってコースに立った。もっと嫌いなのがリレーで、自分のところで他のクラスに抜かれ、順位が落ちたらどうしようとドキドキしながらバトンを受けた。
 しかし、今回担任しているクラスでは、長年のうっぷんを晴らしてくれることが多く、初めて体育祭が楽しみになっている。
 1年生の担任時には、俊足ぞろいのメンバーに恵まれリレーに期待をかけた。予行では、スタートからゴールまで1位をキープ。本番では転んだ生徒がいたから一時は2位に後退したけれど、アンカーの活躍で逆転し、1位でゴールイン。胸のモヤモヤが、すべて吹き飛んでいったことを思い出す。
 2年生では、まとまりのないクラスなのに、大縄跳びで優勝した。大柄の男子2人が跳びやすいように縄を回し、声を出して励まし合った成果である。賞状をもらったときは穴が開くほどじっくり眺め、気がすんだところで淡い色紙に貼り付けて、チャチャッと教室に飾った。
 そして、迎えた3年生。クラス替えはなかったから、リレーに期待はしていなかった。でも、生徒たちは「誰を何番目に走らせるか」を真剣に考え、作戦を練っていたようだ。
「位置について。よーい」
 パン!
 スタートの号砲が鳴り、第一走者が飛び出した。団子状態の集団から真っ先に抜け出したのは、意外なことに、私のクラスの生徒である。スラリと伸びた長身で風を切り、サッカーで鍛えた長い脚を駆使して、先頭を譲らなかった。
「速ッ!」
 私だけでなく、他の生徒も驚いている。続く第二走者もサッカー部。2位以下をぐんぐん引き離し、第三走者にバトンタッチしたが、このあとが問題なのだ。
「抜かれる~!」
 第三、第四走者には、一番足の遅い子があてられている。予想通り、順位が入れ替わり、1位から3位に転落した。何だか、自分を見ているようで悲しくなる。
 しかし、これは計算していたことだから、生徒は冷静だ。後続の生徒が差を縮め、すぐさま2位に浮上した。1位のクラスはなかなか抜けないけれど、差が開かないよう食らいついている。
「あっ」
 トップのクラスがバトンゾーンでトラブった。ラインを越えてしまい、戻ってやり直している。これはチャンス。2位と3位が、隣を猛スピードで駆け抜け、一気に形勢逆転となった。
 運よく、首位奪還に成功できた。足の遅い子はもういないから、あとは逃げ切れるかどうかである。落ち着いてバトンをつなぎ、転ぶこともなくアンカーに渡った。
 アンカーもサッカー部。赤いたすきをはためかせ、筋肉質の体を躍らせながら、肉食動物の追跡をかわすように全力疾走する。自分の前には誰もおらず、視界はこの上なくいいはずだ。カーブを回ると、白いゴールテープが待っている。彼は照準を定めたように加速し、両手を上げてゴールテープに突進した。
「やったー!」
 観客席からも、トラックからも、大きな拍手がとどろいた。
 運動音痴の担任の分まで活躍してくれたから、日頃の服装違反や赤点の山はどうでもよくなる。
 スポーツの爽快感を生徒たちから教わり、教員をしていてよかったとニンマリした。


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コメント (16)
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