これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

恋島のハートロック

2015年05月16日 22時11分49秒 | エッセイ
 勤務先の高校で、修学旅行の引率をした。目的地は沖縄だ。
 那覇空港から糸満市に入り、ひめゆりの塔や沖縄県平和祈念資料館を見て、まずは平和学習をする。
 


 天候にも恵まれ、平和公園から臨む海もキレイに見えた。
 翌日は、タクシーを利用しての自由行動となり、生徒は数人のグループで好きな場所を回る。教員は、生徒が立ち寄る場所を手分けして巡回し、負けずに楽しむのだ。
 私は、40代女性が1人と20代男性1人ののん気なチームに入った。午前中はマリンスポーツに付き添い、午後は3人で古宇利島に向かうことにした。
「海川さんは、古宇利島に行ったことあるの?」
「はい、学生のとき、野郎ばかりで行きました」
「私は初めてなの。あそこには、ハートロックっていう岩があるんでしょ。嵐のCMで有名になったんだってね」
 2人の会話を聞き、初めて見どころを知る。何しろ忙しくて、全然調べていなかった。
「古宇利島は昔、恋島という名前だったみたいですね」
「そうそう、カップルの聖地って書いてあったわ」
 なるほど。子持ちのオバさん2人と、若いオトコ1人の即席グループで行くところではなかったか。
 でも、もう着いてしまったから仕方ない。
 タクシーは長~い古宇利大橋を渡り、島に到着したところだった。



「ちょうど、この橋の反対側がハートロックですから、そこで降りてください」
 運転手の指示に従って車を降りると、「ハートロック」と書かれた看板が見えた。少々歩けば、そこには海が広がっている。生徒も何人か来ており、日焼けした顔をほころばせて「先生~」と声をかけてきた。
「笹木さん、あれあれ。岩が2つあるでしょ」
 しっかり予習をしてきた山口さんが、カメラ片手に指を指す。



「左のほうは、ひとつだけでもハート型なんだけど、右の岩と重なると、もっときれいなハート型になるんだって」
「へえ~」
 しかし、砂浜を見て躊躇する。ズブズブと足がめり込み、まるで砂場のようではないか。



 砂浜に生徒はおらず、たくさんの観光客が集まっていたが、足が汚れることを気にしている人は少ないようだ。皆はしゃぎ、くるぶしまで砂に埋まって、歩きまわっている。
 海川さんも学生時代に戻ったかのように、海に向かってまっしぐらだ。山口さんも、歓声を上げてあとに続いた。
「ここですよ! ハートに見える場所は」
「あー、本当だ。ハートだねぇ」
 2人のやりとりを聞き、砂浜まで行かないと、ハートロックは見えないことがわかった。靴に砂が入るのはイヤだったが、写真が撮れないのはもっとイヤだ。息を吸い込み、覚悟を決めて進んだ。
 ズブリ、ズブリ。
 さっそく、足首付近から、砂が無遠慮になだれ込んできた。なるべく大股で歩き、砂の侵入を最小限に抑えようと努力する。
「海川さん、撮ってあげるから、そこに立って」
 先に行った2人は、砂だらけの足を嫌がることもなく、笑って楽しんでいる。とても真似できない。
 四苦八苦の末、ようやく私もフォトスポットにたどり着いた。



 おお~!

 ロマンティックな岩である。海の色も幻想的だ。たしかにここは、恋人たちのためにある場所なのかもしれない。
 うっとりした雰囲気に酔い、夢中でシャッターを切った。
「3人で撮ってもらいませんか」
 すっかり気分が盛り上がった海川さんが、スマホを持って手招きする。彼の足元には、水が押し寄せていた。濡れるのはまっぴらだ。急に現実に戻り、ピシャリと断った。
「えー、アタシはいいです」
 撮るものは撮ったし、これ以上汚れたくない。私は岩に背を向け、無言で来た道を引き返した。海川さんと山口さんが、2人で写真を撮ったかどうかには、まったく興味がなかった。
 タクシーに乗る前に、靴を脱いで逆さにし、砂を追い出す。「えいえい」と、しつこく何度も繰り返した。
 恋の御利益は絶対にないだろう。


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 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
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コメント (12)
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