これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

戻ってくるチケット

2015年04月23日 21時30分07秒 | エッセイ
 ちょうど1カ月前、ルーブル美術館展に行った。(関連記事はこちらから)
 3月までは高校生だった娘用に、前売券を買っておいたのだが、実は役に立たなかった。
「ただいま、高校生無料期間となっておりますので、チケットは次回にお使いください」
 入口のお姉さんに優しく言われ、チケットがそのまま戻ってくる。これは計算外だ。娘は10日後から大学生だから、以後は使うわけにいかない。無駄にするのもシャクなので、欲しい人がいたらあげることにした。
「ルーブル美術館展に行きたい人~」
 勤務先の高校で、自分のクラスの生徒に聞いてみた。
「シーン」
 ダメだ、まったく反応がない。テレビの話題ならともかく、美術館には興味がないようだ。ちょうど春休みに入ったこともあり、そのまま忘れてしまった。
 4月に入り、新しいクラスで授業をする。今年はひとつ、イラストの授業を受け持つことになった。
「えっ、俺、絵なんて描けないよ。間違えて取っちゃった」
「アタシは、楽だと思って選んだんだよね」
 気合いの入った私とは逆に、やる気のない生徒が多くてガッカリする。
「さあさあ、課題をやらないと、検印押さないからね」
「えー」
 強制しないと絵を描かない者がいる一方で、目を輝かせて課題に取り組む生徒もいる。マリカもその一人だった。特に上手というわけではないけれど、納得のいくまで描き直し、口も利かずに黙々と筆を走らせている。
 この子は、本当に絵が好きなんだなぁ……。
 その瞬間、チケットの存在を思い出した。
「ねえ、マリカちゃん。ルーブル美術館展には行った?」
 マリカは、話しかけられたことに気づき、ゆっくり顔を上げた。
「……いえ、行ってません」
「もしよかったら、これ、もらってくれない?」



 チケットを差し出すと、のけぞるように彼女は上半身を動かした。
「えっ、いいんですか?」
「1枚しかなくて悪いけど、6月1日までやってるから、どうかなと思って」
「行きます、行きたいです!」
 人選は正しかったようだ。チケットとリーフレットを封筒に入れて渡すと、彼女は両手で大事そうに受け取り、すぐカバンにしまっていた。授業のあとも、わざわざ私のところまで来て「ありがとうございました」と言って帰ったくらいだ。こちらのほうが、得した気分になれてうれしい。
 仕事の帰りに、ファミリーマートに寄った。あれこれ買ったら700円以上になったので、1回くじ引きができると言われた。
「おめでとうございます、ラ王が当たりました!」
 ドーン!



 くじ運が絶望的な私なのに、まさか実用的なものが当たるとは。自分でもビックリした。
 チケットが姿を変えて、またもや戻ってきたような気がするのだが。
 家に着くと、私よりも夫と娘が喜んでいた。
「わーい、ラ王だ、ラ王だ♪」
「明日食べよう☆」
 ……果たして、私の分は残っているのだろうか。


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コメント (16)
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