これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

キアゲハと蚕

2014年09月25日 20時43分25秒 | エッセイ
 職場の生物教師が、大事そうにトマトの段ボールを抱えていた。
「何? トマト?」
「いえいえ、蚕なんです」
 彼女はニコニコ笑ってそう言うと、箱の中を見せてくれた。



「すご~い、たくさんいるんだね」
「朝、新聞紙を交換したのに、もうフンがこんなに」
「桑の葉は?」
「人工飼料があるんですよ」
「へー」
 娘が小学生のとき、クラスで蚕を飼っていたので、毎日必死に桑の葉を集めていた。私も一緒に手伝ったものだ。あれから10年、時代の移り変わりを感じる。
 毛虫は嫌いだが、芋虫系は可愛い。
 小学生のときは、庭に植えていたパセリにキアゲハの幼虫がいて、飼ったこともある。


(画像は岡山のKusatomoさんからいただきました♪)
 幼虫のために、わざわざスーパーでパセリを買ってきた。農家にとってキアゲハは害虫というから、「何やっとんじゃい」と笑われそうだ。
 虫かごの代わりに、イチゴのパックを2つ合わせて家を作った。一度、脱走されたことがあり、「ひええ~」と青ざめて探したおぼえがある。畳の上を徘徊しているところだった。
「見いつけた~」と無造作につまみ上げたら、背中から黄色のツノがニョキッと生えてきてビビッた。直後に、咳き込むほどの悪臭が漂い、気安く触ってはいけないとわかった。
 何日後かにパックを見たら、サナギになっていた。買い置きのパセリは必要なくなり、その夜の食卓に上った。私たちは、キアゲハの残り物を食べたのだ。
 サナギから出てくると、蝶の姿に変わっているのが不思議である。誰に教わったわけでもないのに、シワシワの羽を広げて乾かしていた。パックを開けると、辺りの様子をうかがいながら、静かに去って行った。
 子どもが家を出て行くときは、こんな心境なのかもしれない。
 しかし、この蚕ちゃんたちは、羽ばたくことがなさそうだ。
「もうすぐ繭になるので、動きが鈍くなっています」
 生物の先生が、熱のこもった話し方になった。
「繭になったら、茹でて糸を取る実習をします。来月くらいですかね」
「…………」
 羽化させてやれよ~と思うのは私だけだろうか。
 生物の先生は、ときどき怖いことを言う。


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 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
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コメント (12)
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