これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

咳やこんこ

2014年02月27日 20時27分25秒 | エッセイ
 風邪をひいているわけでもないのに、咳が出ることがある。のどの奥から、コマーシャルでおなじみの「エヘン虫」が集団で這い上がってきて、とがった体で粘膜を刺激する。
 ほこりっぽい場所や、乾燥した部屋などは危険だ。
 先日は、勤務先の高校で入試が行われたが、よりによって、英語のリスニングが始まるところで、エヘン虫が押し寄せてきた。
「これから、英語のリスニングテストを始めます」
 受験生は、みな耳をダンボにして、ひとつの単語も聞き逃すまいと構えている。
 ここで試験監督が、「ゴホッ、ゴホゴホゴホ」などとやったら、受験妨害の罪で切腹ものだ。遊びを我慢して、受験勉強に励んできた中学生の迷惑になってはならない。
「…………」
 まず、口をへの字にきつく結び、咳の出口を封鎖する。それから、右手をのどにあて、「しずまれ、しずまれ~い!」と念じた。
 しかし、そんなに都合よく引っ込むはずもない。
 外に出たがっているエヘン虫数匹が、口ではなく鼻から飛び出した。「シュシュシュ」と小さな音がする。その瞬間、鼻孔に大きな負荷がかかり、鼻水が垂れてきた。

 く、くるしい~!

 のどの右手に力を入れ、「がんばれ!」とさらに念じる。もはや、悲鳴のようである。じんわりと涙がにじんできた。
「Question 1」
 放送はおかまいなしに進んでいる。受験生は、誰一人として私を見ようともせず、答案に鉛筆を走らせていた。目尻や鼻の下が、キラーンと不自然に光っているところを見られずにすんだのは、幸運だったようだ。
 ほっとして天井を見上げると、呼吸が楽になってきた。咳は、下を向いているときに出やすいらしい。
 目尻と口の上を指先で軽くぬぐい、顔を上げると、まもなくエヘン虫が退散し咳もおさまった。
 どうにか、危機的状況をクリアしたようだ。
「これで、リスニングテストを終わります」
 ちょうど、放送も終わったところである。私は、涼しい顔で椅子に腰かけた。
 赤くなったり青くなったりしていた数分前が、ウソのような静けさであった。


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コメント (12)
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