これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

雪の日こそスーパーに

2014年02月13日 20時53分03秒 | エッセイ
 初めてアルバイトをしたのは、高校3年の2月だった。自宅学習ばかりとなり暇だったので、自転車で10分ほどの場所にあるスーパーで、レジの仕事を見つけた。
「明日は雪が降るみたいだから、なるべく早めに来てちょうだいね」
「はい」
 バレンタイン商戦が終わった頃、先週の東京のような大雪が降った。電車やバスを乗り継いで出勤する社員は、開店までに全員が揃わず、歩いてでも来られる私が頼りにされた。
「じゃあ、開店します」
 レジスターに自分の番号を入力し、会計できる状態にしたものの、客がまったく来ない。
 開店休業とはこのことかと、身を持って知った。ときどき、近所の主婦が一人、二人と入ってくるが、スタッフを超える数にはならない。
「笹木さん、レジはいいから、雪かきしてくれる?」
「はーい!」
 やることがないのに、ぼんやり突っ立って待つのはツラい。チーフの指示を幸いとばかりに、店の外へ駆けて行った。スコップは重かったが、やることがあるほうがうれしい。
「じゃあ、お昼にしてください」
 ほとんど売り上げがないのに、時計は正午を回っている。雪は、やむどころか本格的に積もり始め、営業妨害もはなはだしい。
「店長、今日はダメですね……」
「うん。こんな天気じゃな」
 チーフが、店長と投げやりな会話を始めた。「もう、どうにでもなれ」という気持ちになったようだ。
 そのせいではないだろうが、昼休みを終えて売り場に戻ってきたら、急に店内が真っ暗になった。
「停電だ!」
 数少ない来客が、急いで会計をすませようとする。
「ちょっと、レジ動かないよ。どうする?」
「電卓だよ、電卓」
「あと、懐中電灯も」
 POSシステムがなかった時代である。どの商品にも値札がついているから、電卓をピコピコ叩き、手動で代金を計算した。
「ええっと、1445円です」
 幸い、人手だけは十分にある。電卓を叩く人、値段をチェックする人、袋に詰める人、現金の受け渡しをする人を決め、ひとつのレジに何人ものスタッフが集まった。
「笹木さんは、懐中電灯持ってて」
 私にもお仕事が回ってきた。
 上からだと、いい年をした大人が、お店屋さんごっこをしているように見える。お客さんも、クスクス笑いながらお金を払っていた。いつもの事務的な対応と違って、スタッフ総出の人海戦術である。とびきりの、おもてなしになったのかもしれない。
 30分ほどで電気が復旧し、店内が明るくなった。お店屋さんごっこもおしまいだ。
「じゃあ、笹木さん、お客さんも来ないし、もう帰っていいよ」
「え? いいんですか?」
 時計を見ると、まだ2時半だった。6時までだと思っていたので、すごく得した気分である。
 雪に足を取られ、思うように進まなかったが、気持ちは弾んでいた。

 明日も、東京は雪の予報である。
 雪の日のスーパーは、空いている上、楽しいおもてなしが待っているかも……。


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 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
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コメント (12)
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