これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

おバカ屋敷

2013年10月24日 21時15分25秒 | エッセイ
 もうじき文化祭だ。
 私のクラスではお化け屋敷をやるので、幽霊役の特殊メイクを考えたり、暗幕を借りたりと、準備に忙しい。昨日から授業も短縮となり、本格的に活動しはじめた。
「どう、進んでる?」
 教室の様子を見に行くと、汚れ防止シートの上で生徒が数人、黒のペンキで段ボールを塗っている。
「やばい、間に合わないかもしれない」
 必死にハケを動かし、おしゃべりする余裕もなさそうだ。
「あっ、床にペンキがついてる!」
 恐れていた通り、シートからペンキがはみ出していた。残念ながら、我がクラスの生徒は几帳面とはいいがたく、慎重に行動できない。
「すぐにふかないと、落ちにくくなるよ」
「でも、それどころじゃなーい!」
 目先のことに気をとられ、生徒は掃除まで手が回らないようだ。仕方ない、終わったらまとめて片づけようと、その場を立ち去った。
 しばらくして、他の教員から耳打ちされた。
「笹木先生のクラス、黒いペンキを手や顔に塗りっこして、走り回っている生徒がいますよ」
「ええっ!」
 仰天して教室に走ると、とんでもない状態になっていた。
 塗りっこしていた子たちはすでに顔を洗ったあとで、教室からトイレまでの通路に、黒い水滴が点々と落ちている。洗面台は黒ずみ、床にも色がついていた。
 そして、教室のほうには、ペンキを塗り過ぎた段ボールが立てかけてある。塗料が床に流れ、黒い水たまりができていた。運悪く、それを踏んだ生徒の足あとが、あちらこちらに広がっている。クラスの中だけでなく、教室前の通路、隣のクラス、そのまた隣のクラスの廊下あたりまで、床に模様を描いていた。
「うーん」
 そのまま気絶できたら、どんなに楽だったことか……。
 残っている生徒は数人のみ。日を改めて、全員で掃除するしかないと決めた。だが、やり方を考えないと、生徒は思うように動かない。特に男子はダメだ。子ども可愛さに、母親が何もかもやってあげると、日常生活に支障が出る。作戦を考えなければ。
 帰る道々、どうにも腹が立ってきた。考えなしにもほどがある。お化け屋敷ではなく、おバカ屋敷でもやれ、と罵りながら夕食をかき込んだ。
 翌日。
 ホームルームに、雑巾とナイロンたわしを大量に持っていった。
「この教室見てどう思う? とても許される状態じゃないってわかるよね」
 生徒は気まずい表情だ。
「2人1組になって掃除をしよう。1人がナイロンたわしで汚れをこすって、もう1人が雑巾でふき取るんだよ。キレイになるまで終わらないからね」
 女子は短時間で終わってほしい教室を、男子は時間がかかっても構わない廊下を割り当てる。2人組みになった生徒が、次々と雑巾やたわしを取りにきて、せっせと床を磨き始めた。
 戦力外と思っていた男子も、イヤイヤ作業を開始した。液体クレンザーでこすると、頑固な汚れも落ちてくる。その過程が楽しいのか、予想よりも真剣に取り組み始めた。
「先生、モップないですか?」
「職員室前に行けば貸してくれるよ」
「行こうぜ」
 3人で連れ立って取りに行く。戻ってきた彼らは、モップだけでなく、デッキブラシまで手にしていた。
「これでこすったほうが落ちるんじゃね?」
「かも」
 せっせと作業したかいあって、教室も廊下も、30分後にはほぼ元通りに戻っていた。ペンキのカスは多少残っているが、前の日に比べれば雲泥の差だ。男子が、いい意味で裏切ってくれた。
「前よりキレイになったんじゃね?」
 ……いや、それはないと思う。
 お化け屋敷って、大変なのよ。


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 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
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コメント (18)
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