これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

番町皿屋敷(居酒屋編)

2013年05月30日 19時50分56秒 | エッセイ
 居酒屋で、職場の宴会があった。50名ほど集まり、2階のフロアを占拠する。
「チキンサラダです」
 かなり年配の男性が料理を運んできた。居酒屋といえば、若者のバイトばかりというイメージだから、ちょっと珍しい。取り皿に手を伸ばしたら、一枚足りないことに気づいた。



「すみませーん、お皿もう1枚くださーい」
「はい、お皿ですね!」
 さきほどの年配男性が、元気よく答えた。だが、なかなか持ってきてくれない。料理や飲み物は持ってくるが、皿は忘れ去られたようだ。再度、声をかけてみる。
「あのう、お皿を1枚ください」
「ああっ、そうでしたね」
 彼は急いで取りに行った。しかし、途中で別の客が飲み物をオーダーしたらしい。奥に引っ込み、戻った彼が手にしていたものは、皿ではなくレモンサワーだった……。
「では、乾杯しましょう」
 宴はお構いなしに進行したが、皿はまだこない。他の店員を目で探していたら、例の年配男性がひょいと顔を出した。

 皿! 皿! 一枚たりな~い!

 目が合った瞬間、テレパシーを送る。今度は通じたようで、彼は取り皿だけでなく、醤油皿に箸まで持ってきてくれた。
 そういえば、このチェーン店の社員から、「うちには定年制がない」と聞いたことがある。外食産業は年中人手不足だから、若い人だけでなく、シルバー世代も頼みの綱となる。その社員は、見た目が50代だったが、実は72歳だと言っていた。他にも、20代だと思っていた人が40代だったり、40代とにらんだら60代だったりで驚いた。日々、お客さんと接していると、若さをキープできるものらしい。
「あさり汁です」
 大きなお盆に、15個ほどのお椀を載せ、先ほどの年配男性が登場した。こぼさずに運べなかったようで、お盆の上にはにわか雨に見舞われたような水たまりができている。見かねて、私は手伝うことにした。
「じゃあ、回しますよ」
「ああ、恐れ入ります……」
 お盆からお椀を取って隣に回す。私のテーブルは5人だ。全員分をもらうと、彼は頭を下げて隣のテーブルに移動していった。
 どう見ても60代の彼が、不慣れな仕事をこなし、いきいきと働くシニアになるかどうかはわからない。
 でも、私にはできそうな気がした。学生時代にウエイトレスをしたこともあるし、接客業は得意だ。「マックで働いていそう」と言われることも多い。教員退職後は、居酒屋で飲み物や料理を運び、小遣い稼ぎとアンチエイジングに努めちゃったりして。
 そうそう、「一枚たりない……」と言われないように、取り皿は多めにセッティングしておかなくてはね!


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 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
 「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
コメント (12)
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