これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

出もの腫れもの

2013年02月24日 20時52分19秒 | エッセイ
 昨日は都立高の入試であった。朝早くからたくさんの中学生が集まり、学力検査を受けるのだ。
 どの子も神妙な面持ちで、「早く終わってくれ!」と訴えている。
 緊張していたのは高校側も同じで、何かミスをして受検生に迷惑をかけぬよう必死である。
 何年も前のことだが、忘れられない監督中の出来事がある。その日は1時間目と2時間目の試験監督が入っていた。1時間目の国語が終わり、やっと休憩になった。連続だと結構忙しくて、トイレに行く暇がない。喉も渇いていたので、お茶を飲んでから2時間目の教室に向かった。
 数学が始まり、20分くらい経ったときだ。にわかに尿意を感じ始めた。我慢できないほどではないが、膀胱が重く感じる。お茶を口にしたことを後悔し、「早く終わらないかな。あと30分か……」と恨めしい目で時計を見た。
 それから間もなく、窓際の席で手を挙げている受検生がいた。
「す、すみません。ちょっとお腹の調子が悪くて、トイレに行かせてもらえませんか……?」
 検査中のトイレは禁止されていない。脂汗は見えなかったが、相当つらそうだ。女子の受検生だったので、女性である私がトイレまで付き添うことになった。
「じゃあ、ここで待っていますからね」
「はい、わかりました」
 個室が見える入口付近で、私は受検生が用を足すのを待った。少々時間がかかりそうだ。気が緩んだそのとき、尿意を思い出した。

 あっ、私もトイレに行きたかったんだ……。

 いくつもの個室がドアを開けて、「ようこそ!」と誘ってきたような気がした。これは思案のしどころだ。こちらは監督中だから、便乗するわけにはいかない。
 でも……でもでもでも。
 主婦の悲しい性で、つい待ち時間の有効活用を考えてしまう。もしや、これは神の助け?
 しかし、彼女が出てくる前に終われば支障はないが、万一、先に出られてしまっては大変だ。受検生が一人で戻ったら、「何しについていったんだ!」と咎められるだろう。

 うーん。

 悩んでいるうちに、水を流す音がして、受検生が個室から出てきた。
 むむむ。
「すみませんでした」
「大丈夫ですよ、じゃあ教室に戻りましょう」
 私は、何事もなかったような笑顔で踵を返し、落としかけた肩を無理に張り、受験会場まで案内したのだった……。
 今でも、あの判断は間違っていないと思うが、ちゃっかりしている先生がいても悪くはないかもしれない。
 結局、あの受検生は合格したかどうか謎である。
 私も、昨日の学力検査では、お茶を飲みすぎぬように気をつけたのだった。


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コメント (12)
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