これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

迷子の心得

2013年01月06日 06時36分22秒 | エッセイ
 ショッピングセンターに行ったら、小学校低学年の女の子が、涙で顔をクシャクシャにしながら、店内を駆け回っていた。「ママーッ」と叫んでいるところを見ると、迷子である。近くを歩いていた老女が、近づいて声をかけた。
「どうしたの? 迷子になっちゃったの?」
 ところがこの少女、かなり警戒心が強いらしい。しょぼくれた顔を一瞬にして復元し、厳しい視線で老女をにらみつける。
「いいの!」
 どうやら、口出し無用のようだ。少女は、せっかくの助け船を拒否したが、すぐまた口をへの字に崩し、泣き顔になる。同じ年頃の孫がいるのか、老女はますます放っておけなくなったようで、根気強く話しかけていた。
 幼いころ、私も迷子になったことがある。
 埼玉の実家から、一番近い都会・大宮でのことだった。昭和50年頃は、新幹線も通っていなかったけれど、東口には西武と高島屋がデンと店を構え、欲しいものが何でも手に入った。駅前のにぎわい、渋滞する色とりどりの車……。私は景気のいいこの街が大好きだった。
 その日は、バスに乗って、母と姉、妹と4人で買い物をしに来た。母と手をつなぐのは妹だ。私と姉は、おしゃべりをしながら、自由に歩くことができた。買い物をすませ、高島屋でお子様ランチを食べたところまではよかったが、デパートから移動する途中で、気づくと私は一人になっていた。
 何かに気を取られ、よそ見をしているうちに、3人は先に行ってしまったらしい。前、右、左、後……必死に頭を動かして家族を探したが、それらしい人物はいなかった。
 大声で泣き叫ぶほど幼くはない。よそ見をしていた自分が悪いのだし、迷子になるのは恥ずかしいことだ。ここは何とか、自力で解決せねばならない。
 すぐに名案が浮かんだ。帰りもバスに乗るのだから、バスターミナルで待っていれば、必ず3人はやってくる。何番乗り場なのかはわからない。見逃さないように、しっかり見張っていよう。
 ちょうど、始発バスの停まっている乗り場がある。私はバスに近づき、開いている後部ドアから中をのぞくと、すでに人が乗っていた。小太りの母親らしき女性と、女の子が2人、並んで座席にかけている。
「あら、砂希、遅かったじゃない」
 なんと、母と姉、妹の3人ではないか。
 それは、子供心にも唖然とする光景だった。母は非常に楽観的な人で、物事を都合よく解釈する傾向がある。一人、姿の見えない子供がいるけど、すぐに来るだろう、程度に考えていたようだ。迷子になり慌てているとは、露ほども考えていなかったらしい。
 私が姉の隣に座ると、すぐにバスが発車した。取り残されたことに不満はあったが、3人に会えた喜びのようが大きくて、私は何も言わなかった。

「お店の人に放送してもらおう。ね?」
 老女の説得に、少女は心を開いたようだ。険しい表情がなくなり、態度も落ち着き始めている。きっと、素直にいうことを聞いて、親元に戻れるに違いない。
 若かりし頃の長嶋茂雄氏は、一茂少年を連れて野球観戦に行ったものの、息子を忘れて自分だけ帰ってきたことがあるそうだ。
 どうも、他人事とは思えない。


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コメント (10)
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