これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

カラオケボロボロBOX

2012年10月21日 20時37分34秒 | エッセイ
 娘のミキは、三度の飯よりカラオケが好きだ。ときどき、友達と歌いに行っている。
 資金が尽きたのか、先月は私にも、「たまには一緒に行こう」と声をかけてきた。
 一方、私は歌が下手っぴいである。
 音を外したり、リズムを間違えたりして、失笑を買う。
 でもまあ、仕事のつき合いもあるし、どこで歌う破目になるかわからない。いざというときのために、練習しておいても悪くないと思い、すぐ近くにあるカラオケボックスまで出かけることにした。
「いらっしゃいませ……」
 近所でも、そのカラオケボックスに入ったのは初めてだ。笑顔も元気もない初老の男性が、カウンター越しに弱々しい声であいさつをしてくる。脱サラをした印象があり、どう見ても接客業には向いていない。
「お二人様ですか……?」
「はい」
「お部屋は……どちらにしましょう」
 料金表を見ると、Aタイプが700円、Bタイプが900円と書いてある。Bタイプのほうが性能のよい機械らしい。
「じゃあ、Bでお願いします」
「何時間ですか」
「2時間で」
「では、ご案内いたします……」
 男性は、フラフラと歩きだし、小さな部屋へと案内した。私とミキは顔を見合わせ、無言であとをついていった。ソファーに座ったところで、また話しかけられた。
「すみません、機械の充電が切れていました。申し訳ありませんが、お隣の部屋へどうぞ……」
 
 ミキが、AKB48の「会いたかった」を歌い始めた。声量は控えめだが、吹奏楽をやっていただけあって、音程はしっかりしている。
 次に、私が槙原敬之の「どんなときも」を歌った。好きな曲なのに、イメージ通りに歌えずもどかしい。すかさず、娘のチェックが入る。
「お母さん、お腹から声出してる?」
「出してない」
「腹筋使って歌うんだよ」
「ふーん」
 たしかに、腹筋を使うと上手くなる気がする。私はこう見えても腹筋が強く、100回くらいは余裕でできる。トレーニングにもなるではないか。すっかり気をよくして、何曲も歌った。だんだんコツをつかんだ感じだ。あっという間に2時間が経ち、「あと30分!」と粘る娘を引っ張って店を出た。
 男性が、暗い顔で見送る。
「ありがとうございました……」

 以来、毎週日曜日は6時までカラオケタイムとなった。



「あのカラオケボックスは、安いけど機械がボロいから、友達はみんな行かないって言ってた」
 娘の口コミ通り、この店は毎回のように機械トラブルがある。
 2回目は、マイクが充電切れで替えてもらった。だが、デュエットしようと両方のマイクをONにすると、「ピーッ」と大きな音がしてできない。3回目は、画面が映らず、またまた部屋をチェンジするなど問題だらけだ。
 しかし、知り合いが来る心配のない店は捨てがたい。気持ちよく歌っている姿は、あまり見られたくないものだし、部屋着のまま出かけられる魅力は大きい。トラブルにもメゲず、練習した結果、AKB48の「フライングゲット」や、いきものがかりの「ありがとう」などが歌えるようになり満足だ。
 ちなみに今日は、部屋の四隅にある照明が、2個切れていた。
 来週は、どんなトラブルが待ち受けているか楽しみだ。


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 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
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コメント (16)
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