これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

芥川の鏡

2012年09月27日 20時09分12秒 | エッセイ
 美容院で、細い鏡がついた携帯ストラップをもらったことがある。職場の引き出しにしまっておけば、おにぎりを食べたあと、口に海苔がついていないかのチェックができるし、鼻がテカっていないかを確かめることもできる。色気もへったくれもない使い道だが、とても便利だった。
 しばらく使うと金具が壊れ、ストラップはゴミ箱行きになった。軽い気持ちで捨ててしまったが、鏡がなくなると如何に困るか、わからなかったのだ。
 ある日、仕事中、目に異物感を覚えた。私のまつ毛は、長くもないのによく抜ける。そして、抜けたまつ毛は、大きくない目によく入る。チクチクゴロゴロしたときは、たいてい白目に短い毛が貼りついていることが多い。
 どれ見てみようと携帯を取り出したものの、そこに鏡はなかった。ゴロ目は待っていてくれない。不快感が押すな押すなと殺到し、とうとう我慢できなくなった。
 ものぐさな私は、動くのがイヤで席を立たない。座ったまま、手の届く場所に、鏡に代わるものはないだろうか。机の上や中を探してみたら、銀色のスプーンが目についた。



 背を顔に向ければ自分が映る。だが、丸くカーブしているため目が上に寄り、鼻は芥川龍之介の小説に登場する僧、禅智内供(ぜんちないぐ)のように長い。とどめは、しもぶくれになった顎のない輪郭だ。ひどく滑稽な姿に悲鳴を上げそうになった。
 ひっくり返し、凹んだ面に映してみると、上下が逆になり逆立ちしている私がいる。まったく、わけがわからない。
 ようやく、私は重い腰を上げ、トイレの鏡に向かった。やはり、白目にまつ毛がへばりついている。慎重に指を触れ、どうにか取り除いた。
 これにて一件落着!
 それにしても、スプーンを通した顔の悲惨だったこと……。
 20年後、鏡に映る私が、『羅生門』のオババみたいにならぬよう、身なりには十分気をつけよう。


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コメント (18)
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