これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

淑女のたしなみ

2012年07月12日 21時00分30秒 | エッセイ
 2時から始まる会議に出席するため、予定通りに職場を出たが、思いのほか時間がかかった。結局、目的地に着いたのは2時ジャスト。息を切らすほどには急がなかったものの、座ったとたん、汗が噴き出す。
 バッグからタオルを取り出し、湯気の上がりそうな額に当てた。首や背中にも汗が伝い、このままプールに飛び込みたいくらいだ。
 隣から、テノールのささやき声が聞こえてきた。
「よかったら、これ使ってください」
 ふり向くと、顔見知りの他校の先生が、扇子を差し出している。いかにも、年配の男性が好みそうな、白のオーソドックスな扇子だった。
 私は、どう反応すればよいか迷った。淑女たるもの、紳士から扇を借りてあおぐなど、もっての外である。
「ありがとうございます。大丈夫です」
 上気した顔でニッコリ笑い、ひとまずお断りする。しかし、紳士のほうも、あっさり引き下がるわけにはいかなかったようだ。ひょいと手を伸ばし、閉じた扇子を私の席に置いていった。
 うーむ。
 置き去りにされた扇子は、お年寄りに席を譲ろうと立ち上がり、拒絶されて困惑する若者のよう……。
 ここは、多少なりともパタパタして、紳士を立てるのが礼儀かもしれぬと思い直した。
「じゃ、じゃあ、せっかくですからお借りします」
 紳士は満足そうにうなずき、白髪を揺らした。
 扇子を開くと、白地に赤で「必勝」の文字が見える。実に教員らしい。おそらく、入試説明会などでもらったものだろう。3分ほど手首を動かし、「ありがとうございました」と礼を言って返した。
 顔は笑っていたが、何ともいたたまれない気分になる。

 扇子を買わねば!

 いくら着飾っても、汗ダラダラでは見苦しいだけだ。爽やかに夏を乗り切るのも、淑女のたしなみであろう。
 デパートならば種類が豊富なのだろうが、その日は本屋に行きたかった。「扇子はまた今度でいいや」と書店に向かう。だが、通販のカタログや、女性週刊誌が並んでいる一角には、こんなものが陳列されていた。



 扇子だ……。

 想定外の場所で待ち伏せされ、私は大変驚いた。4種類あったが、「白バラリボン」という柄が一番可愛らしい。



 結局、本は何も買わずに、扇子だけをレジに持って行った。
 家で開けてみると、イメージ通りの姿が現れる。



 袋に入れれば、持ち歩きにも便利だ。財布や定期と一緒に、通勤バッグにしのばせる。
 皮肉なもので、買ったとたんに梅雨空が戻ってきた。
 早く活躍させたいな。


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 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
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コメント (12)
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