これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

金環日食を見よう(2)

2012年05月21日 20時10分54秒 | エッセイ
 目覚まし時計が鳴ったのは、午前4時半だった。
 今日は金環日食だ。娘と私のお弁当を作り、観測をしてから出勤する。もたもたしてはいられない。気合いを入れて、布団から出た。
 5時半に娘のミキが起きる。中間テストの最中なので、昨夜は遅くまで勉強していたようだが、日食は待っていてくれない。フラフラしながらも必死で起きる。
「お母さん、何時に出発だっけ」
「6時40分だよ」
「わかった」
 仕度をしていたら、友人である鹿島田の純さんからメールが来た。
「川崎は霧雨が降ってきました。最悪!」
 思わずヒエッと青ざめる。その後、本降りになったというから恐ろしい。
 朝食を終えたら、日食グラスを持って出発だ。電車に乗って、娘の学校の最寄駅に行く。到着したのは、7時20分だった。
「公園はどこだろう」
 私は地図を見ながら公園を探す。川崎と違って、池袋付近は晴れているが、綿のような雲が邪魔だ。見られるのかと心配になった。
「お母さん、公園よりもあっちのほうがいいんじゃないの?」
 娘が指差すほうを見ると、立体交差の道路がある。山手通りだ。線路をまたぐ陸橋には広い歩道があり、観測中の歩行者が30人ほど群がっていた。
「あっ、いいじゃん! 行こう行こう」
 観測は、一人でしてもつまらない。たとえ知らない人であっても、大勢集まれば連帯感も生まれ、気分が高揚する。
「このへんでいいか」
 適当な場所に荷物を置き、日食グラスを取り出す。時計を見ると7時26分、まだ大丈夫だ。
 まぶしくて、とても正視できない太陽だが、グラスを通すと輪郭がはっきりわかる。このときは、まだ金環になっていない。


(画像は日食グラスからのイメージです)

 新聞やテレビでは、大きく映る太陽も、グラスを通してでは、碁石程度の大きさとなる。しかし、生で見ていることが大事なのだ。太陽は、白ではなく黄色かった。
「結構、雲があるのに、ちゃんと見えるんだね! すごい!!」
 娘も興奮気味である。
 そして、まさに7時31分、月が中央に移動する。


(画像は日食グラスからのイメージです)

「来た来た来たーッ!」
 すごい、とてつもなく神秘的だ……!!
 この瞬間のために、4時半起きしたのである。おそらくは、生涯に一度となる光景を目にし、信じがたい想いでいっぱいになった。愛娘と一緒に観測できた幸運は、神様からのプレゼントかもしれない。
 だが、恐れていたことが起きる。2分もしないうちに、雲が金環を隠してしまったのだ。
 視界が真っ暗になり、グラスを外す。
「おねえちゃん、何も見えないでしょ」
 ミキの隣にいた、年配の女性が話しかけてきた。
「はい、見えません」
「雲がなけりゃねぇ」
 彼女のグラスは、私たちのものと同じだった。さらに話題が広がる。
「日食グラスが同じですね」
「これ、東武デパートで買ったのよ~♪」
 女性の反対隣に立っていたサラリーマンも、仲間に入ってきた。
「僕は、曇ると聞いていたので、グラスを買わなかったんですよ。でも、晴れましたね」
「あ、さっきよりも明るくなってきたわ。見えるかな」
 いっせいにグラスをかける。しかし、すでに7時39分。金環のピークは過ぎていたので、左側が欠けていた。


(画像は日食グラスからのイメージです)

「お兄さん、ちょっと見てみる?」
 年配女性が、サラリーマンにグラスを貸していた。
「いいんですか? ありがとうございます」
 観測を通して、知らない人とのやり取りもまた楽しい。しかし、出勤時刻が迫っていたので、日食見物は終わりにした。
 携帯を開くと、また鹿島田の純さんからのメールが来ている。
「金環日食きた~! 雲の間から今ちょうど見えています!」
 ほほう。雨に降られた川崎市も、7時頃には日が照り、無事観測できたようだ。よかった、よかった。
 心残りだったのは、夫のことだ。一人淋しく、テレビで見ていたらしい。まったく興味がないようなので、日食グラスすら買ってあげなかったのだが、こんなに白熱するものなら、無理やりにでも誘えばよかった。大勢で見てこそ、楽しいイベントなのだから。
 早起きして疲れた……。今日は早く寝よう。



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 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
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コメント (14)
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