これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

寿司屋の出前

2012年05月06日 17時54分02秒 | エッセイ
 娘の誕生日会に、親族が来ることになった。夕食は寿司がいい。最近は、宅配寿司ばかりになり、昔ながらの寿司屋が消えていく。実に嘆かわしいことだ。
「笹木と申しますが、6時に特上を10人前お願いします」
「かしこまりました。本日、大変混み合っておりますので、前後1時間ほどいただきます」
 6時ジャストは難しいようで、5時から7時までの到着となることを了解する。その日は朝から激しい雨が降っており、どの家庭も、家から出ずに美味しいものを食べたいと思っていたのだろう。
 客が来る前に、ポテトのマスタード和え、チーズ、うずら卵のベーコン巻き、豚汁、フルーツ盛り合わせなどを用意する。あとは、親族と寿司の到着を待つばかりだ。
 インターフォンが鳴り、妹一家がやってきた。すぐに、両親も駆けつける。その日は、姉夫婦が来られなかったので、これで全員揃ったことになる。あとは寿司が来ればよい。
「ミキは何歳になったの?」
「16歳だよ」
「そう、高校はどう?」
「面白いよ。こないだ、こんなことがあってね……」
 前回会ったのはひな祭りだから、久しぶりで会話も弾む。時計を見たら、まもなく7時になるところだった。
「寿司はまだ?」
 料理の載った皿を見ながら、夫が催促する。前後1時間といっても、もうリミットを迎えているのだから、電話したほうがよさそうだ。
「蕎麦屋の出前だと、もう出ましたって言うんだよね」
「寿司屋でもそうかな」
 妹や義弟と冗談を言い合いながら、番号をプッシュする。
「はい、笹木様ですか? えーと、明日の6時にご予約となっておりますが……」
 予想外の言葉に、私は目をむいた。
「えっ、明日じゃなくて今日なんですけど。急いで持ってきてください」
 どうも、注文を受けた者がミスをしたらしい。味は悪くないのだが、前にも、さび抜きで頼んだにぎりにワサビがついていたり、頼んだ品と違うものが来たりしたことがある。これだから、バイトばかりの宅配寿司はイヤなのだ。親族には事情を説明して謝り、ひたすら到着を待つしかない。
「腹減った。まだ来ないの?」
 約1名、待てない男がいた。食欲旺盛な夫である。小学生の姪と甥は、遊びながら空腹を我慢しているのに、夫は寿司が気になって、何も手につかないらしい。
「まだ。もうちょっとだよ」
 なだめて座らせたが、10分もすれば立ち上がり、「まだかな」と聞きに来る。まったく、ウンザリする。進捗状況を確認しようと電話すれば、ツーツーという話し中の音が虚しく流れるばかり。日にちを間違えられた不満と、辛抱できない夫への苛立ちで、頭の中が破裂しそうだった。

 もう絶対、頼まないからっ!!

 8時10分ほどだったろうか。ようやく、インターホンが鳴った。
「大変お待たせいたしました。○○寿司でございます」
 財布を持って玄関までダッシュすると、運の悪いバイトのお兄ちゃんが、顔を引きつらせて立っていた。前もって、怒られるとわかる家には、じゃんけんで負けた者が届けるのかもしれない。
 しかし、このお兄ちゃん、それなりに場数を踏んでいるようである。
「遅くなりまして、大変申し訳ございません。お品物のご確認をお願いいたします。こちら、サービス品の真鯛のにぎりでございます。それから、こちらが特上10人前です」
 注文以外に、遅れたお詫びの品がついてきた。主婦はプレゼントに弱い。
「それと、お代金のほう、値引きさせていただきます。今回はご迷惑をおかけしましたが、また今後ともよろしくお願いいたします」
 主婦は値引きにも弱い。加えて、真面目な顔で、深々と頭を下げられると、「悪いのは注文を聞いたヤツだから、この人はまあいいか」などと考えてしまう。気勢をそがれ、私は文句を言うこともなく、お兄ちゃんの後姿を見送った。
「やっと来た~!」
 食事が始まると、急に室内が和やかになる。
 もちろん、サービス品は夫に与えた。



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 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
 「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
コメント (14)
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