これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

怪しい二人

2012年03月01日 20時47分37秒 | エッセイ
 お昼過ぎ、勤務先の高校で、見慣れぬ男性二人がベンチに腰掛け談笑していた。池田小の悲しい事件があって以来、学校では外部からの立ち入りに神経質になっている。私も気になり、近寄って声をかけてみた。
「私どもは制服業者なんですが、荷物を運ぶ車の到着を待っているんですよ。あと10分くらいで来ると思いますので、それまで待たせてください」
「ああ、そうですか。それは失礼しました。どうぞごゆっくり」
 彼らにお詫びをして背中を向けると、二人の会話が再開した。
「不審者だよ、俺たち」
「不審者か、あはは」
 おそらく、苦笑いを浮かべたことだろう。まもなくワンボックスカーが到着し、彼らは荷物とともに去っていった。
 
 昨日は、都立高校の合格発表日であった。
 制服業者は、合格者を対象に、制服の採寸や注文を受け付ける。不合格者は制服までたどり着けず、門前払いとなってしまうのだ。雪の中、交通機関の遅延と戦いながら、発表を見に来たのに、気の毒なことである。
 今年の受検生は、願書提出日が雨、学力検査当日も雨、合格発表日は雪というように、天候に恵まれなかった。この調子でいけば、遠足も雨、修学旅行は台風となるかもしれない。
 恐ろしや……。
 我が家の受検生も、雪の中、合格発表を見に行った。私も休みを取って、一緒についていった。まったく自信がないと言うので、一人では心配だったからだ。試験場に着き、掲示板から娘の番号を探した。
「ない……」
 掲示板には、飛び飛びの番号が表示されており、その中に娘のものはなかった。残念ながら不合格だ。
 覚悟はしていたが、実際に結果を突きつけられると、大きな衝撃がある。しかし、それが現実なのだから、受け入れるしかない。かくなる上は、私立の入学手続きをしなくては。
 娘を連れて校門を出ると、駅に向かって歩き始めた。心はついていかなくて、足だけが進んでいる感じである。3分もたてば、コートは雪で白くなってしまう。不思議と寒さは感じず、頭の中で、言葉だけがグルグル渦巻くように浮かんできた。

 本格的に勉強し始めたのが12月だから、やっぱり無理だったか。
 神だのみの合格祈祷も意味なかった。
 家庭教師も無駄だったのかな……。

 娘も、過去を振り返っていたようだ。勉強せずに、年中昼寝をしていたし、パソコンで遊んでしまったことも多い。携帯やウォークマンもやめられず、怠けてばかりいた。競争相手はその間も、塾で一心不乱に学習していたというのに。
 娘は、自分でも勉強不足を自覚しているせいか、涙を見せることもなく淡々としていた。
「大学は、いいところに入りたいから、私立で頑張るよ」
「……そうだね」
「勉強が好きになったから、校内で一番になりたい」
 ……それはちょっと無理だと思うが、目標を持つのはいいことだ。苦い経験をバネにして、同じ失敗を繰り返さないでほしい。
「修学旅行は韓国と中国だよ」
「へー」
 私立らしく海外に出るのもいいだろう。ただし、天気は期待しないほうがいい。
 今月中旬には新入生説明会があり、年度当初の計画を聞いて書類の提出をする。制服の採寸や注文もあるらしい。
 まさか、今日の怪しい二人ではないと思うが……。



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