これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

ワタシ向きの仕事

2012年01月12日 21時59分19秒 | エッセイ
 先日、FIFA世界年間表彰式で、澤穂希選手が女子最優秀選手に選ばれた。
 実のところ、私はサッカーが好きではない。なかなか点が入らないからだ。それなのに、まだ大丈夫だろうと高をくくってトイレに立つと、戻ってきたときには得点が入っている。肝心な場面を見逃すことが続くと面白くなくて、だいぶ疎遠になってしまった。
 非国民といわれそうだが、なでしこジャパンの活躍も、ニュースのハイライトで見た程度だ。
 私には、バスケットボールやバレーボールのように、バカスカ点数の増える競技が、性に合っているらしい。

 意外なことに、過去には、サッカースタジアムに足を運んだことがある。
 高校時代の友人・サエコの両親が、サッカー場内で飲食物の販売をしていたからだ。最初は、アルバイトを雇っていたのだが、売上金をくすねられたことから、身元の知れない人に頼むのはやめたという。
 ある日、サエコから電話がかかってきた。
「ねえ、砂希。今度の日曜日、ヒマ?」
 当時、私は浦和に住んでいて、教員3年目だった。すでに結婚していたが、まだ子供はいない。てっきり遊びの誘いだと思い、ワクワクしながら返事をした。
「うん、ヒマだよ。どっか行くの?」
「ううん、ヒマだったら、ウチの店を手伝ってもらえないかと思ってさ。もちろん、バイト代は弾むから」
 しまった! と後悔したがもう遅い。平日はOL、土日は両親の手伝いをしているサエコの頼みを、スパッと断るには勇気がいる。結局、オーケーせざるを得なかった。サエコは受話器を置く前に、再度確認をした。
「じゃあ、エプロン持って、3時に大宮サッカー場ね」

 サエコの母は、肝っ玉母さんで、横に大きな体と、歯に衣着せぬ物言いが特徴だ。
「砂希ちゃん、アンタ、サエコと一緒にドリンクやって。サエコ、しっかり教えてやりな」
 おばさんはそう言うと、パッパとヤキソバを作り始めた。おじさんは、その隣でお好み焼きを焼いている。
 サエコの指導によると、私の仕事はプラカップに氷を入れ、ペットボトルの清涼飲料水を注いだら、250円をもらっておしまいだ。夏だったので、クーラーなしはつらかったけれど、単純作業の繰り返しなら問題ない。
「混む前に、これ食べちゃいな」
 おばさんが、お好み焼きとヤキソバを持ってくる。サエコと2人で、おしゃべりしながら美味しくいただいた。
 日が傾く頃には、お客さんがぼちぼちやってくる。
「えーと、ウーロン茶とコーラ」
 さすがに、最初の客は緊張したが、スムーズに商品を手渡し、500円玉を受け取った。何回か繰り返せば、軌道に乗ってくる。楽勝、楽勝! 私の様子を見守っていたサエコも、ホッとしたようだったが、釘を刺すことは忘れなかった。
「今はいいんだけど、ハーフタイムはすごく混むから覚悟してね」

 試合が始まると、お客さんはほとんど来ない。ポツポツと来ることもあるが、スタジアムがどよめくと、急いで席に戻っていく。私のように、肝心な場面を見逃したのかもしれない。
 その分、ハーフタイムの混雑ぶりはすさまじかった。暑かったこともあり、あちらからも、こちらからも人が押し寄せ、果てしない長さの行列ができた。
「アンバサ」
「はちみつレモンとウーロン茶」
「コーラ」
「アンバサ」
 次から次へと注文をさばいても切りがない。
「ファンタ」
「コーラ」
「コーラとアンバサ」
 誰もが小銭や1000円札を握りしめ、自分の順番をじっと待っている。
「おい、俺が頼んだのはファンタだよ」
 隣を見ると、サエコが注文を間違えたようで、怒られていた。幸いなことに、私は飲み食いするものには、やたらと記憶力がよくなる。注文ミスはなかったし、お客さんと会話を交わしていたら、だんだん楽しくなってきた。

 やばい、この仕事、向いてるかも……!?

 中には、マニュアル通りに行かない客もいる。
「あのう、ウーロン茶をペットボトルごと売ってもらえませんか?」
 つまり、プラカップではなく、2リットルのサイズで買いたいというのだ。どうすりゃいいんだ、と助けを求めて振り返ったら、肝っ玉母さんが吹っ飛んできた。
「ペットボトルごと? 別に構わないけど、うちも商売だからね。4杯分として、1000円になります。砂希ちゃん、カップに氷入れて、一緒に渡して」
 暴利だろうと思ったが、口出しする立場ではない。客は、おばさんの迫力に負けたのか、おとなしく1000円札を払い、カップとともに持っていった。実に頼もしい上司である。
 ハーフタイムが終わる頃には、列の終わりが見え、通勤ラッシュのような戦場もおさまってきた。
 ゲームが再開すれば、また閑古鳥となる。交代で休憩を取った。
 バイト代は8000円と記憶している。ハーフタイム以外、ろくに働かなかったから、申し訳ないような気がした。
 私は、サッカー観戦には向いていないが、サッカー場での販売には適性があるらしい。
 教員に飽きたら、おばさんに雇ってもらおうかな……。



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 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
 「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
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