これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

新しい年を、新しい病院で

2012年01月03日 21時38分11秒 | エッセイ
 あけましておめでとうございます☆
 昨年は、ご覧になってくださり、ありがとうございました。
 今年も応援よろしくお願いいたします。

 今年は、あわただしく新年を過ごしている。昨年末に転院したからだ。
 第2子がほしくて不妊治療を続けてきたが、2回体外受精を行ったにもかかわらず、いい結果を出せずにいる。
 どうも、体外受精で行われるホルモン注射が曲者らしい。卵巣への過剰な刺激の連続が、腫れや腹水の原因となり、月経周期を乱し、かえって不妊を重症化するという。絶対、体にいい影響がないとは感じていたが、調べてみると想像以上にひどい。しかも、私は高齢で反応が鈍いため、標準の2倍の量を使っているから心配だ。思い切って、ホルモン注射なしの体外受精ができる病院に替えてみた。
 西新宿にある転院先は、365日診察をしているユニークな不妊専門のクリニックである。年末年始は午前のみの診療となるが、体外受精は通常通りに実施している。
 生理後3日目に受診すれば、その周期に体外受精ができると知り、年末に行ってみた。
 診療は8時からなので、8時15分頃に到着した。しかし、受付番号は253番だ。午前中だけでも、400~500人以上が来院し、大変な混雑となっている。世の中には、こんなに不妊に悩む人がいるのかと驚く一方で、絶大な人気を心強く思う。
「今日はお一人ですか? 次回はぜひご主人といらっしゃってくださいね」
 診察時、医師に体外受精の希望を伝えると、なるべく夫婦で来るようにと言われた。前の病院では、「精子さえ持ってきてくれれば、ダンナはいらん」という感じだったので、少々気が重くなる。
「今日から排卵誘発剤を飲んでください。明日からは鼻スプレーも使います」
 年齢の割にはホルモン値がよかったらしく、妊娠の可能性はあるらしい。注射より弱い刺激を与え、卵を成熟させるための治療が始まった。
 患者が集中しているため、このクリニックは待ち時間がべらぼうに長い。8時15分に受付をして、お会計にたどり着いたのは13時ちょうどだった。まめに通院する必要はないから、呼ばれた日だけは後ろに予定を入れないほうが賢明だろう。

 新年を迎え、元旦に飲み薬が終わった。翌2日が診察である。今度は夫婦で受診せねばならない。
「ミキ、お父さんとお母さんはクリニックに行ってくるから、ちゃんと勉強して待っているんだよ」
「うん、わかった」
 娘に朝食を用意し、夫を連れて家を出る。晴れていたが、風は冷たい。ふと隣に目をやると、夫のズボンがやけに薄手で気になった。
「ねえ、そのズボンだと寒いんじゃない?」
「うん、寒い」
「何で冬物にしないの?」
「持ってない」
 正確には、あるけど太ってはけなくなった、といったところか。
「この本、そのバッグに入る?」
 夫のショルダーバッグは小さくて、待ち時間に読む本が収納できないらしい。持っていってと言わんばかりに、本を差し出した。私は本を受け取り、バッグにしまいながら答えた。
「大きなバッグないの?」
「持ってない」
 さすがにため息が出る。
「あのねぇ、バッグもズボンも、買いに行かなきゃ手に入らないのよ」
 生活力のない男には困ったものだ。

 クリニックの中には男性が目立つ。夫婦で来ている患者が多いからだ。夫も多少は安心したらしく、呼ばれるのまで大人しく待っていた。
 夫は、私が妊娠しているときも、産婦人科には来たがらなかった。どうも、男子禁制のイメージがあるらしい。「一人のほうが気楽でいいや」と思っていたが、夫が隣にいるのも悪くはない。たわいのない話をしていたら、待ち時間が短く感じた。
夫はその日、精液検査をし、私は血液検査と超音波で卵子の発育状況のチェックをする。途中で夫と合流し、診察室にて、ようやく医師とご対面できた。
「1個、大きく育っている卵がありますよ。4日に採卵しましょう。ご主人は来られますか?」
「はい、大丈夫です」
 このクリニックでは、採卵のときも夫婦で来院することになっている。うまくいくか、わからないけれども、やってみないことには始まらない。
「奥様は、このあと採卵の説明がありますから、処置室前でお待ちください。では4日に」
 診察室を出て、時計を見ると、すでに14時を回っていた。年末よりは患者が少ない気がするが、それでも4時間かかっている。
「腹が減って、目が回りそうだ……」
 夫が弱音を吐き始めた。もはや限界だろう。
「あとは、私が説明を受けてお会計するだけだから、先に帰っていいよ」
 私がそう言うと、夫は元気を取り戻した。
「じゃあ、悪いけど、そうさせてもらう」
 彼は帰り支度を始めた。コートを着て、バッグをたすき掛けにし、立ち上がる。
「気をつけて」
 夫を見送るつもりでいたのに、彼は立ち上がったまま動かなかった。
「……やっぱり、待ってるよ」
 思いがけない言葉に、私のほうが驚いた。
「でも、いつ終わるかわからないよ。あと1時間かかるかもしれないし」
「でもいい。待ってる」
 夫は再び座席に腰を下ろし、コートを脱ぎ始めた。
 結局、それから30分ほどかかったが、夫が空腹を訴えることはなかった。
 やはり、不妊治療は夫婦の共同作業なのだ。
 ちょっぴり、大人になったような夫を見て、心が温かくなった。



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 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
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コメント (18)
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